大森望のレビュー一覧
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「銀河の壺なおし」…なんだかあまりおもしろそうなタイトルではないなぁと思いつつ手に取りましたが、これがどうした、意外と楽しめました。
そもそも壺なおしってなんだよ、というところから入りますが、主人公ファーンライトは陶器修理の職人家。しかしながら、陶器がプラスチックにとってかわられた昨今、陶器を修理するひとはどこにもいない。そんな彼のもとに待望の仕事が舞い込む。シリウス星系のグリマングからの巨額オファーは、海底に沈む大聖堂ヘルズカラを引き揚げるというもので…
相変わらずな設定ですが、展開も明後日な方向に進みます。ただ、どこか象徴的な場面が多く、頭に映像として強く焼き付くシーンもちらほらと。個人的には、プラウマンズ・プラネットの海中での出来事とその後のグリマングの死闘あたりは特に印象深い。また、ぐいぐいと引き込まれるテンポのよい展開はなにかのアトラクションに乗っているよう。最後もたぶん前向き(?)な終わり方でしたし、総じて楽しめた作品でした。 -
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後半、話のテンポは上がっていく。
しかし、これにSF的な派手な展開を期待すると全く外れる。
あくまでSF的な設定ではあっても、中世と現代とで疾病と戦かう物語として割り切って読めば実に緻密な描写で引き込まれるが、通常のSF(タイムワープ物)的な展開を期待すると全く外れる。
誰も見たことも無い中世の世界を緻密に描きこみ、多彩な人物をリアルに配置し、二つの時代をまたがって物語を展開する手法は見事だし、後半のシビアな展開には驚く。
しかしそれであっても、(全くストーリーに関係のない)不要な描写は読み疲れて、正直読むのに努力が必要だった。続編はどうしよう・・? -
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映画「アジャストメント」「クローン」の原作短篇を収録した短篇傑作選。現実と虚構の狭間をスリリングに描くディックらしい筆致は短篇でも変わらず。いささかシュールだったり、ブラックユーモア的な、ラストがスッキリしない作品も多かったが、そこは好みの問題で、どれも設定が秀逸で引き込まれるのはさすが。映画化された「アジャストメント」と「にせもの」のサスペンス感が面白く、映像化したくなるのもわかる。個人的にはやはり後半の「父祖の信仰」「電気蟻」「凍った旅」がお気に入り。とくに「凍った旅」。主人公の、すべてをネガティブな解釈に捻じ曲げてしまう神経症的な陰キャっぷりには(どこか共感しつつ)笑ってしまった。夢を繰り返す長い月日の間に現実がつかめなくなっていく感覚には何か深いものを感じて、記憶と人生について考え込んでしまう。
最後に収録されているエッセイはディックを知る上でかなり重要なものだと思うが、難解なため今回は流し読みした。 -
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マンガ的な雰囲気のB級SF。
トランスで新型兵器のアイディアを手に入れる兵器ファッション・デザイナーが、究極兵器“ザップ・ガン”の開発を目指すというぶっとんだ設定。SFアイディアのてんこ盛り+ディックおなじみのドラッグや社会描写などがあるが、前半部分が読みにくく、全体的にまとまりがない印象。
とはいえ、後半以降はテンポよくストーリーが展開し、美少女ヒロイン&メカもの的な面白さがあってかなり楽しめた。映画化よりもアニメ化してほしい、そんなノリの作品。世界観的にゲーム化もいけそう。シリアスな本編に直接絡まない、明らかにお笑い担当でしかないキャラもいて新鮮。読後感が良い! -
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750ページ二段の、まるで辞書のような
新⭐︎ハヤカワ・SF・シリーズ『ブラックアウト』!
永らく積読状態でしたが『オールクリア 1、2』が揃ったところで、意を決してシリーズ年内読破を決意!
2060年のオックスフォード大史学生3人がタイムトラベル先の1940年第二次大戦時のイギリスで巻き込まれる騒動は、戦っている者ではなく一般市民の生活を描いており、どこかコミカルで、まるで恋愛ドラマにある「すれ違い」。それだけに、ときおり現れるシリアスな場面がより戦争の恐怖を煽り立てる。
のめり込んで読みすすめると、本を持つ左手が重みに耐えているうちに、750ページが終わる。
でも物語はまだ終わらない。
『オールクリア 1』へ突入します!
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中国の軍事兵器により出生率が下がり、タイタンからやってきた異星生物ヴァグとの戦争に敗れた人類は、ヴァグによる緩やかな支配の下、地球上の土地を賭けたゲームに明け暮れていた。カリフォルニア州に住むピート・ガーデンは、ある晩のゲームに負け、居住地でもあったバークレーを奪い取られてしまう。失意に暮れるガーデンに悪いニュースが追い討ちをかける。東海岸を支配する強力なゲーム・プレイヤーのラックマンが西海岸をも支配下に置くべく、ガーデンらのゲームに参加するというのだ…
序盤から予想を裏切る展開が続き、ダレることがありません。いきあったりばったりかなと思いつつも、物語に破綻感は感じない。なんだかディックらしくない気もするのですが、薬漬けで自殺願望のある主人公であったり、テレパス、プレコグといった超能力はディックらしさ満開。そして、ラシュモア効果。人工知能が搭載された機械のようなもので、車やエレベーターなどの機械(ケトルまで!)が自由自在に喋ります。これが作品に愉快さを与えてくれます。当然ながら話のなかでその詳細は説明されないのですが、物語の本筋と関係ないところでのこういったガジェットの存在はディックの魅力の一つです。
さて、サスペンスでエンターテイメント色の強い物語で存分に楽しむことができました。ディックは「この本については言いたいことは何もない」とコメントを残したようですが、その言葉の真意はともかく私は楽しめましたよ。 -
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ブラックアウト、オールクリア1から続き、とうとう完結編!著者は本書の執筆に8年を費やしたとのことですが、さすがの物量と、それに負けない構成力。最終巻でどんどん伏線が回収され、物語が収れんしていく様子は圧巻でした。
正直、戦時中のロンドンの状況については全く知識がなかったですが、人々の生活の様子が活き活きと描かれており、タイムトラベル的な要素を横に置いても充分に楽しめる作品でした。そこに未来からやって来た史学生たちの人間ドラマが加わり、最後まで一気に読まずにはいられず、ラストは感動して何度も読み返してしまいました。
さすがに大作すぎて、ストーリーを追うのに必死で細かい描写をキャッチできていないので、ブラックアウトから読み直して、「あー、こんなところにこんな伏線が!!」って発見していきたい。けど、再読するのにもものすごく時間がかかるんだろうな(笑) -
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西暦2114年。世界は道徳再生運動(通称、モレク)の広がりにより、あるゆる反モレク的言動を取り締まる監視社会へと変貌していた。そこではハサミムシ型のスパイ・ロボット”ジュブナイル”が人々の生活を監視し、少しでも道徳に反する行動を犯したものはブロック集会にて匿名のパッシングを浴び、居住権を奪われてしまう。そんな中、大事件が起きる。モレクの創始者ストレイター大佐の銅像に誰かが赤ペンキをぶっかけ、その首を切り落としてしまったのだ…
ディックお好きのディストピアSFですが、現代社会に重なる部分が多く、その先見性には驚きを隠せません。特に、匿名性を帯びた住民が不道徳な者たちに対して執拗に口撃を仕掛ける様は、現代の匿名掲示板における炎上そのもの。50年以上前の作品だよなぁ、と感嘆の思いです。
主人公アレク・パーセルはモレクにふさわしいテレビ作品を世に送りだす、新進気鋭のリサーチ・エージェンシー(いわゆる広告代理店)の創業社長。その功績を認められ、政府からテレメディア局長の座を推薦されるアレクですが、銅像へのいたずらの犯人が彼自身かもしれない(アレクには記憶がない)ということで、物語は不安定な方向へ進んでしまいます。
アレクのようなリサーチ・エージェンシーが作るテレビ作品により道徳的教訓は世の中に発信されていきますが、子供たちはその教訓をしっかりと理解していない模様。そう思うと、このモレクという活動は初期の思想はどうであれ、いまでは現行の支配体制を維持するための方便でしかないようにも思えます。正義をかざして、悪に目を向けさせる。そのための監視社会。確かに間違いではないのでしょうが、肝心の正義に卑しさがないとは断言できません。
「汚染されることへの恐怖。猥褻な行為をはたらくことへの恐怖。こうした構造すべてが、巨大な拷問室みたいなもの。だれもかれもがおだかいを監視して、あらをさがし、他人をひきずりおろそうとしている」
うーん、ディストピア。
さて、このアレク、とっても前向き。そして現実的。ディック初期の作品だからでしょうか、綺麗にまとまっていて、展開もスムーズ。アレクは奥さんとの仲も良いし、ディックの作品でいつも登場する謎の美少女(本作でももちろん登場)にもなびかない。ディックのプライベートも順調だったのか?と勘ぐりたくなるほど。また、物語は終盤、アレクが窮屈なモレク社会に残るか、開放的な反モレク社会に逃げるか選択を迫られた結果、モレク社会に残って抵抗することを決断する様には、苦難にも立ち向かうディックの前向きな姿勢を感じます。この姿勢は「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」にも感じたことですね。
いずれにせよ、結末も意外と?清々しい終わり方で後味も悪くない。ディックらしからぬといえば正しくないのでしょうが、そんな印象の強い作品でした。おもしろかったので、満足です。 -
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22世紀の人類は、極めて高い知能を有する<新人>と超能力を操ることのできる<異人>、そして一般的な<旧人>の3つに分類され、世界は僅かな<新人>と<異人>が60億以上の<旧人>を支配していた。そんななか、窮屈な支配をうける<旧人>の期待を背負って深宇宙へと旅立ったプロヴォーニは状況を打開できる知的生命体の”友人”とともに帰還の途にあった…
遠くの世界から救世主(というより状況を変化させる存在か)が現れるという展開は「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」を思い出します。主人公でちょっと冴えないタイヤの溝堀り職人ニックが不思議な黒髪少女チャーリーと出会って厄介ごとに巻き込まれる展開や、悪役サイドだけど変に人間味のある<異人>グラムもなんだか既視感がある。そんな(個人的には)模範的ディック作品といった感じの作品でしたが、以前読んだ「ヴァリス」が意味不明過ぎた反動なのか、むしろそのお陰でおもしろく読み進めることができました。
しかし、未知の知的生命体に世界を救わせるというのはなんだかディックの、あるいは当時の社会の願望を表しているように思えるのは無知な考えでしょう。ただ、誰にでも外の世界に救いを求めることはあると思いますが、その結果、本書のように心が晴れない終わり方であったり、そもそも本当に世界が救われたのかよく解らないといったところが本書の良さであるように思えます。