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第二次大戦下のイギリスで現地調査をするため、過去へとタイムトラベルしたオックスフォード大学の史学生三人――マイク、ポリー、メロピーは、未来に帰還するための降下点が使えないことを知り、べつの降下点を探そうとしていた。だが、新たな問題も発覚した。ポリーがすでに過去に来ていたため、その時点までに未来に帰還できないとたいへんなことになる。史学生が危機に陥ったときには救出しにくるはずのダンワージー教授、万一のときは助けにいくとポリーに約束したコリンは、はたしてやってくるのか……前作『ブラックアウト』とともにヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞した二部作、ついに完結。
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Posted by ブクログ
このオックスフォード大学史学部シリーズ、タイム・パラドックスを起こす可能性がある時点には時間旅行できないという設定で、面倒くさいパラドックスは回避されている。それゆえ、過去から帰れなくなってしまったというほかは延々と戦時の生活が描かれるのだが、物語も最終局面に向かって、時間旅行の問題が前景化してくる。
1940年に閉じ込められた(本巻では41年に年が開ける)、マイク、アイリーンことメロピー、ポリーの3人は、2060年のオックスフォードにメッセージを送ろうと偽装した広告記事を新聞にのせたり、様々な努力をするのだが、そうした帰還のための努力が効を奏しているなら、すでに回収チームが来ているはずだというパラドックスに気づいて、不安に苛まれる。
もうひとつの問題は、同じ時代に2回いることはできない(同一人物が2人になってしまうから)というルールで、すでに1943年から終戦までロンドンに来ているポリーは、そのデッドラインまでに帰らないと命が危ない。
そんななか、マイクが戦火にまかれて死んでしまう。ここまで引っ張ってきてそれはないでしょう、と思う。これもウィリスの仕掛けたプロットの罠なのだが、様々な仕込みがここにきて炸裂する。
マイクの死にうちひしがれる2人の前に現れたのは、彼らを助けに来たのにやはり戻れなくなってしまったダンワージー先生。うちひしがれたダンワージー先生は絶望的な結論に達している。
体験的な時間は過去・現在・未来と連なっているものである。過去は既になく、未来はまだない。ところが、ここにタイムマシンを導入した途端、現在は時間軸の外(つまりタイムマシン内)に移動し、過去も未来も既にそこにあるという、事後性のモードにはいってしまう。過去も未来ももう決まっていて、歴史は変えられない。徹底的な運命論になってしまうのだ。それでは時間旅行そのものも不可能になってしまうので、時間旅行者の行動の結果は時空連続体に吸収されて後に影響を残さないといった妥協策をとられることが多く、本書もその路線。
他方、歴史変え放題で、歴史を変えるたびに新たな平行世界が生ずるという、多元宇宙的設定を取るSFもある。あるいは過去・現在・未来という時間軸のさらに上にメタ時間があって、メタ時間の経過とともに、過去・現在・未来も変化していくとか。
ダンワージー先生の現状分析は、時間旅行者の影響は最初のうちは時空連続体に吸収されていたが、ある閾値を超えるともはや修復不能となり、その時間線には「降下点」も開かなくなって、隔離されてしまうという、部分的平行世界解釈である。彼らに帰るすべはない。
先生も助けにならないとすると、あとは『ブラックアウト』の冒頭に登場するコリン・テンプラーに望みを託すしかない。コリンは前作で12歳にして時間旅行に密航して大活躍したらしい(何しろ評者はまだ読んでない)。それがいまや高校生となって、オックスフォード大学史学部をめざしつつ、ラボのあたりをうろうろしてダンワージー先生に閉め出されていたのだ。彼はポリーに恋していて、何かあったら絶対助けにいくと言っていたのだ。
戦争は歓迎されるものではないが、敵はヒトラーなので、勝つまで耐え忍ぶしかない。ここには反戦も厭戦もなく、むしろ降りかかってくるものを耐えながら、自分の分を果たしていくという、むしろ災害下に近い状況が描かれている。マイクは戦時の英雄的な行為を調べるために渡航したのだが、市井の人々の自分の分を果たすという英雄的な行為、ポリーやアイリーンの英雄的な行為を見る。自分も英雄であることには気づかないまま。
ポリーは時空連続体のふるまいについて、ダンワージー先生とは違った解釈に到達するが、それはやはり運命論的時間解釈である。人は運命から逃れることはできないのに、自分の愛する者のために何かすることは、運命に強いられた犠牲や代償ではなくなるのだ。そしてそれこそが英雄的な行為と呼ぶにふさわしい。そんなとき、人は幸せな顔をしている。マイクも、アイリーンも、コリンも、そしてポリーも。歴史という時間の捕囚である人間に自由はないのに、人間は運命を自分のものとすることができる。
コニー・ウィリスの言いたいのはそういうことだ。それをこの紙幅を費やして、細部を積み重ねて呈示することで、読者はまるで実体験からその考えに到達したかのように感ずることになる。
『ブラックアウト』を読んでいても、何でこれが3大SF賞総なめの作品なんだと疑問に思うのだが、まさにその感動に賞が与えられていることに納得することになる。
Posted by ブクログ
空襲警報は解除され(オールクリア)、全ての謎が明らかになる。
第二次世界大戦下のロンドンで、それぞれの学問的課題を研究するために2060年のオックスフォードからやってきた3人の史学生。ポリー、アイリーン(メロピー)、マイク。
過去へのタイムトラベル。それは絶対に安全なはずであり、もしも危険なことが起こりそうになったら、または歴史を改ざんしてしまいそうになったら、すぐに2060年の世界へ戻されるはずだった。
だがしかし、何度も命を失いかねない危険な目に遭い、本当なら死んでいたのかもしれない人々の命を多数救ってしまう彼ら。
だからなのか?
2060年へ繋がるはずの降下点はどこもここも使用不可能であり、不具合があったときに現れる回収チームもやってこない。
誰かが歴史を変えてしまったのか?
20世紀の時代人としての生活を送りながら、なんとしても2060年の世界に戻るべく必死で手掛かりを求める3人。
ところが…!!!
というところで前作の「オールクリア1」は終わる。
そして、えええ~!!!
というところから「オールクリア2」は始まる。
1941年と1944年と1995年。
時間を変え、場所を変え、人を変えて入り乱れる数々の出来事の意味が、徐々にわかってくる。
そうするともう、読むことを止められない。
長い長い物語の中に張り巡らされていた伏線が次々に回収され、あるべき形に向かって収斂していく。
9.11をきっかけに、この物語を書くことにした作者。
どんなに絶望的な状況でも希望を失わないこと。
自分にできることの精一杯を尽くすこと。
本当に大切なもののためには自己犠牲を惜しまないこと。
別な長編作品「航路」の中で、何度も繰り返されるタイタニックの沈没を描くことにより、この覚悟のほどを書いた作者。
今回は、どうやっても脱出できない戦時下のロンドンという舞台を与えることで、登場人物たちの、極限状態の中でも失われることのない善き人間性というものを書いた。
イギリスの最終兵器といわれる、極悪なホドビン姉弟ですら、善き人間性を発揮するのだから。
何かひとつの出来事で、戦争に勝ったわけではない。
誰か一人の英雄の力で、戦争に勝ったわけではない。
歴史に名前の出てこない、一人一人の人たちの、毎日の精一杯の積み重ねが、歴史を作っていくのである。
ただ、そういった意味では、歴史の意味(?)、歴史の意志(?)、そこら辺の書き方に、ちょっと納得はいかなかったのだけど。
歴史が作られるのは時代と同時進行でも、歴史に意味を持たせるのはあとから人間がやっていることだと思うのね。
歴史自体はあくまで中立なんじゃないかと。私はそう思っているんです、ダンワージー先生。
イシカワ教授がタイムトラベルについて、どんな問題点を見つけ、どう解釈していたのか。それをもう少し書いてほしいと思った。
あまりに話が長くなりすぎて削った部分なのかもしれないけれど、今ひとつ、ずれの解釈がよくわからなかったので。
要所要所に出てくる、シェイクスピア劇の中の台詞。お芝居の台詞でありながら、生きた言葉として登場人物たちを支え、励まし、慰める。
そして何度も繰り返し出てくるアガサ・クリスティのミステリ。
彼女の作品の謎を解くのは容易なことではない。答えは最初から提示してあるのに、逆に解釈するように仕向けられる。答えはわかっているはずなのに、決して最後まで気づくことができない。
ポリーにとって、コリンは希望だった。コリンが希望だった。最初から。
う~わ~!!!
なんてスケールの大きな物語!
たくさんの、数え切れないほどたくさんの人たちの、抱えきれない思いの上に、今、私は生きているんだと思うと、世の中に無駄な行いというものは、何ひとつないと思うわ。
「ブラックアウト」「オールクリア1」「オールクリア2」
この、3冊合わせて1745ページの一連の作品の中で、特に気に入っているのが「ブラックアウト」に出てくる、空襲でショーウィンドウが粉々になてしまったデパートの貼り紙。
『散らかっていますが、遠慮なくどうぞ』
大人の国だよねえ。
それから作品とは関係ないんだけど、びっくりしたので覚書。
ポリーってメアリーの愛称なんですって。
ちなみにペギーはマーガレットの愛称とか。
どうしてMがPになるの?英語ってわからない。orz
Posted by ブクログ
3冊合わせて1745ページ。ポケット判で750ページ以上もある「ブラックアウト」を読んだ時には、「これ、普通の作家なら200ページぐらいで書き終えるのでは」などと思ったが、全部読み終えてしまったら、タイムトラベルものの常でまたすぐに最初から読み直したくなる。
実際に読み返さなくても、あれはどうだったか、ここはどうなっていたかとページをめくって確認してしまうこと必定だ。それほど登場人物たちに魅せられ、この長い物語から離れたくなくなってしまう。大空襲下のロンドンに閉じ込められるポリー、アイリーン、マイクの史学生3人をはじめ、いたずらが過ぎて手に負えないビニーとアルフのホドビン姉弟、勝利を信じて懸命に生きる人々をコニー・ウィリスは生き生きと描き出す。
SFだなんだという前に、この小説には物語の魅力が詰まっている。
Posted by ブクログ
「ブラックアウト」「オール・クリア1」「オール・クリア2」通しての感想。
厚い!紙で読んだのだが、1冊目を手にしたとき、あまりの厚さに読む前から心が折れそうに…。3冊で、400字換算3,500枚。当初もっと長かったものを、必死でこの長さに収めたらしい。どれだけ長いの、コニー・ウィリス。まさにこういった本こそ電子書籍向けではあるのだけれど、「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」の装丁も格調高く捨てがたい。
読み始めると、この分厚いページがみるみる減って楽しくなる。特に「ブラックアウト」終盤1/4はものすごい疾走感。物語に完全に入り込んでいるため、単語を見た瞬間に状況が理解できてしまう。プロットだけを考えるともっとコンパクトにできるはず、と冗長に感じるけれど、物語ピークでの加速感は、飽きるほどひたすら描き込まれた助走期間があればこそ。
舞台は、第二次世界大戦中のロンドン。タイムトラベルしてきた学生がトラブルに巻き込まれ…という物語。歴史や地理などの背景知識が全くなくても十二分に楽しめたが、知識があればもっと楽しめたのでは、と感じてしまったのは残念。
タイムトラベルSFでは「パラドックス」の処理が肝心。本書では、流行りの量子力学的に煙に巻くでもなく、「感覚的に理解できる」パラドックス解決法が提示されている。しかし登場人物はこの解決法に疑問を抱き、実は…。このテーマが、物語を構成する単なる「ギミック」にとどまらず、登場人物の心の動き、そこから紡ぎ出されるストーリーの根幹に影響を与えていく。この処理がお見事。
章構成も、短い章構成で時間・場所をシャッフルする中に、「叙述トリック」を紛れ込ませていく巧妙な構成。二転三転する登場人物の名前がトリックの要。一見誤植かと見逃しそうな中にヒントが埋め込まれており、本当は再読して解き明かしたいところ。ただこの長さでは…。
今だからこそ3冊連続して読むことができ、久々の濃い読書体験ができたのは幸せだった。
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