酒寄進一のレビュー一覧

  • 罪悪

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    前作以上に短編のバラエティが豊かになり、シーラッハの才能を存分に味わえる1冊。
    あまり感情を挟まない描写から、被害者や加害者の人生、言葉にできないような複雑な心の動きが、苦しいほど伝わってくる。

    特に名作だと思うのは、冒頭の『ふるさと祭り』『遺伝子』『イルミナティ』。全て重量級の衝撃が胸に残る。
    ショートショートの『解剖学』『アタッシェケース』も好き。世にも奇妙な物語みたい(もっと残酷だけど)。

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    2023年09月05日
  • 珈琲と煙草

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    ネタバレ

    エッセイなのか小説のアイデアメモなのかショートショートなのか、弁護士であり小説家のシーラッハが書いた文章臭といった体の1冊。

    「法律なんだから守らなければいけない」法治国家で生きる以上それはそうなんだが、法律は本当に正しいのか?そのことは常に疑問に感じていたいと思う。

    戦争当時のドイツも日本も法に基づいてかの戦争をしていたわけだし、戦後ついこの間までのアメリカの黒人は法に基づいて差別されていたし、今のロシアは法に基づいてウクライナに侵攻している。

    万能でない人間が決めたものなんて、そんなものである。社会生活を営む以上順法姿勢は取っていても、あからさまに怪しそうな取り決めは疑ってかかるのが

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    2023年06月24日
  • デーミアン

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    これは自己実現の過程を赤裸々に語った貴重な物語。ユングの心理学について知っていればかなり面白いと思う。
    全て物語としても読めるけど、無意識の領域やアニマ、グレートマザー、影とかそういうものと登場人物を読み替えていく楽しさ…村上春樹も凄いと思ったけど、こんな風に無意識そのものをテーマに自己との対決から逃れず書き切ったのはすごすぎる。
    ヘッセ自身の名前で最初は出さなかったのも頷ける、相当恥ずかしかったと思う…内容がどうあれ、自分の内面世界をここまでさらけ出すのは身を削ってると思う。ほんとにすごい。

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    2023年06月16日
  • 犯罪

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    「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」
    序章の一文が象徴するように、この短編集は、いろいろな出来事が積み重なっていき、後戻りできない犯罪を犯す人々を描いている。
    犯罪を犯す刹那は、今まで踊っていた薄氷が不意に割れて、冷たい氷の下に落ちてしまう瞬間のようだ。誰だってそうなる可能性はある。
    作者も言う。「幸運に恵まれれば、なにも起こらないでしょう。幸運に恵まれさえすれば」。

    あくまで淡々と事実を積み重ねるクールな筆致ながら、行間に溢れ出すようなやるせなさや、切なさや、時には幸福感などの叙情を感じざるを得ない文体、ものすごく好みだった。
    例えば最初の『フェーナー氏』、フェー

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    2023年06月02日
  • 終戦日記一九四五

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    ネタバレ

    描写が鮮やかで、「偽物映画を撮っている滑稽な絵面」も含め、全体が映画のように頭に浮かんだ。
    ツィラータール鉄道の終着駅、マイヤーホーフェンはいつかTVで見たように思う。
    金色の草原に立ち、眉をひそめてこちらを見送るケストナーを、列車の窓から見ているような読後感である。

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    2023年04月30日
  • 珈琲と煙草

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    シーラッハ「珈琲と煙草」tsogen.co.jp/sp/isbn/978448…
    あー海外作家で今たぶん一番好き。短編とも言い難い断片的な約50の作品集で、たとえば4行だけの作品もあり、全体に犯罪と死と孤独が漂ってる。話はどれも陰鬱で思索的なのに描写が瑞々しくて映像的で、そのギャップがシーラッハだよなー好きだなー

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    2023年04月14日
  • カールの降誕祭

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    罪とは何か。これがシーラッハ文学の中心テーマだ。
    …「罪」という漢字を分解すると「目に非ず」と読める。「現実」を把握するのに「百聞は一見にしかず」というが、こと「罪」に関してはこれが通用しない。なぜなら「罪」に見入る者は心の闇を覗くことになるからだ。
    ー訳者あとがきより

    ブラック・クリスマス、タダジュンさんのおどろおどろしいながらも目が離せない絵に惹かれて読んだ。
    たった三遍が載った100ページにも満たないお話。
    けれど読みやすい比較的短い文章で綴られた罪に満ちた三つの物語は、その主人公たちの末路はどれもじわじわと衝撃的で、けれど、ああ、これは私たちの物語だ。と思わされた。
    主人公たちはカオ

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    2023年03月28日
  • 刑罰

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    ネタバレ

    初のフェルディナン・フォン・シーラッハ。
    短編集。巻末の解説から、実は「犯罪」「罪悪」との三部作で完結作とのこと。失敗しました。

    作品全体にだが、余計な文章が全くない。
    登場人物の感情がほとんど描かれておらず、その辺りは読み手が推察することになる。
    ここまで徹底するのは凄い。

    犯した罪と、その罰のバランスが取れているのか、ということが主題だったと思う。
    おすすめは、参審員、逆さ、小男、友人。

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    2023年01月22日
  • その昔、N市では

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    『「それから?」 夫はきつい口調でたずねた。「白熊がなにをするか知ってるくせに。首を左右に振るのよ。いつまでも右に左に」「きみみたいにな」「わたしみたいに?」女はおどろいてそうたずね、闇の中でいまいわれたとおり首を左右に振った。「きみはだれかを待っていた」夫がいった』―『白熊』

    初めて読む作家、マリー・ルイーゼ・カシュニッツの短篇集。最初の幾つかの短篇を読むかぎり、これまで読んだ欧州の怪奇譚の雰囲気と似ている語り口で、初めてのような気がしない。例えば最近読んだものだとアラン・ノエル・ラティマ・マンビーの「アラバスターの手」とか、シルヴィア・プラスの「メアリ・ヴェントゥーラと第九王国」などが思

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    2023年01月11日
  • その昔、N市では

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    カシュニッツは今回初めて読んだけど、面白かった!
    人間心理の闇、奇妙な味、といったような短編集。
    日常が少しずつずれていく感じや、夢と混ざり合っていくような感じの塩梅がちょうど良かった。
    あまりにも突飛だったり、幻想的すぎる話だと個人的には楽しめないことがあるので…。

    迷信かと思いきや否定もしきれない『精霊トゥンシュ』。
    間違った船に乗ってしまい、奇妙なことが起き続けていることを知らせる手紙が届く『船の話』。
    隠れて生きたユダヤ人女性の人生を描いた『ルピナス』。
    若い夫婦に追いやられていく老女の『いいですよ、わたしの天使』。
    そして、SFホラーぽさもある表題作の『その昔、N市では』。

    どれ

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    2023年01月08日
  • 悪女は自殺しない

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    ドイツ人の名前に馴染みがないので、登場人物の名前は覚えにくいし、間柄や話題によって呼び方が変わるので、ちょっと前のページに戻って確認したりしながら読みました。

    元貴族の名前には、フルネームの中にそれと分かる呼称が入っているとか、ドイツ社会の中の警官の立ち位置がちょっと分からない(例えば、取り調べにきた刑事に侮蔑、見下すような眼差しを向けるといった表現があるけれど、日本では警官に対してそういった感情は起きにくいと考える)といったこともあるけど、物欲や見栄や嫉妬というたぶん全世界共通の、ドロドロな人間模様の中でおこる殺人。
    面白かったです。

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    2023年01月07日
  • その昔、N市では

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    カシュニッツは1901年に生まれて1974年に亡くなった作家で、これまでも何冊か翻訳が出ていたらしいが、全く知らなかった。
    読んでみると、暗くて不安に満ちていて、うっすらとした恐怖を感じるという全体のトーンは共通しているが、内容はバラエティーに富んでいて、こんな面白い作家、どうして今まで話題にならなかったのだろうかと思った。
    「いいですよ、わたしの天使」「船の話」なんかは岸本佐知子の「居心地の悪い部屋」に入っていてもおかしくない。
    「白熊」「幽霊」「精霊トゥンシュ」は、古典的な幽霊小説の風格があるし、「長距離電話」「ルピナス」は構成の巧みさが際立つ。
    「ジェニファーの夢」「ロック鳥」「人間とい

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    2023年01月04日
  • 深い疵

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    日本語訳にされたのは、これが一冊めのようですが、シリーズとしては三作目。

    基本的に読み切りなので、これ一作だけでも十分楽しめますが、ちょこちょこ過去の話題が出てくるので、やっぱり一作目も読んでみよう!と思うほど、面白かった。

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    2022年12月16日
  • 犯罪

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    ネタバレ

    「物事は込み入ってることが多い。罪もそういうもののひとつだ」。当事者でない人たちがいくら物語を作ろうともそれは真実ではない。。
    それでも、作者は現役の刑事事件弁護士なので(こういうこともあるかも…)のリアルさがあります。冷静だけど冷徹ではなくて、情緒もあるけど大仰ではない文章、好きです。
    お話は特に「ハリネズミ」「緑」「エチオピアの男」が好き。
    怖いのは「正当防衛」「愛情」。「愛情」には佐川一政の名前が出てきてタイムリーでした。世界的にも有名なんだな。
    「棘」も、一人の人が壊れていく過程が描かれててゾッとしました。職務怠慢だ。。
    “弁護人が証人に尋問する場合にもっとも重要なのは、自分が答えを知

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    2022年12月10日
  • 刑罰

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    止むに止まれぬ心情から繰り出された犯罪の瞬間を描いた傑作短編集。
    短い文章で、ことの顛末を描き出す見事な描写に毎回唸るしかない。その犯罪に対して、司法がどのように対峙したのかも描かれる。ドイツの司法制度ではあるが、法の解釈、考え方を学ぶ場にもなっている。
    夢中になって一気に読み切った。今のところ翻訳されているシーラッハ作品は全て読んでいる。どの作品も好きだ。
    次回作も首を長くして待つことにする。

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    2022年11月12日
  • 刑罰

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    フェルディナント・フォン・シーラッハ『刑罰』創元推理文庫。

    読者に媚びを売らず、時に読者を突き放すような乾いた文体で、極めて淡々と描かれる物語は長岡弘樹の一連の短編と似ている。人生の機微と不思議な魅力を感じる捻りの効いた犯罪ミステリー短編12編を収録。

    『参審員』。世の中には時折、皮肉な出来事が起きる。それは必然であり、偶然ではないという人生の機微。冒頭から一人の女性カタリーナの孤独な人生が綴られる。幸せなひと時から、人生に起きる様々な波乱。幾つもの波乱を乗り越え、新たな職を得ても自ら孤独な人生を選ぶカタリーナは参審員に選ばれる。裁判を通じて夫からDVを受けていた証人に自分の人生を重ね合わ

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    2022年10月21日
  • その昔、N市では

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    これは面白かった!というか、実に好み。ホラー寄りの奇妙な味、というのかな。柔らかいのだけれど。

    読んでいて、なんか読んだことあるなーと思い、カシュニッツはいくつか読んでるんだと思うんだけど、もっと読みたくなった。でも家を探したが河出の『ドイツ怪談集』しか見当たらなかった。特に『いいですよ、わたしの天使』は絶対読んだことあるーと思うんだが、なんのアンソロジーに収められいるのか。訳者あとがきでは既役について素っ気なく、なんのアンソロジーに入っているのかわからない。

    特によかったのは『白熊』『ジェニファーの夢』『船の話』『幽霊』『ルピナス』『長距離電話』『四月』『いいですよ、わたしの天使』…あれ

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    2022年10月13日
  • その昔、N市では

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    カシュニッツ

    カシュニッツが描くのは、市井の人間の平凡な生活にどこからともなくひっそりと忍び込む魔の顕現である。だがそれは外部から不意に訪れたように見えて、実は我々と同居していたことに後になって気付かされるのである。

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    2022年10月02日
  • 母の日に死んだ

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    刑事オリヴァー&ピアのシリーズ、9作目。
    ドイツの警察小説です。

    前作でオリヴァーの子供時代からの人間関係に絡む事件が起き、疲れ果てたオリヴァーは制度にある長期休暇を取りました。
    オリヴァーは警察ではリーダーで人柄も見た目もなかなかいい男だが、やや女運が悪く振り回されがち。
    とはいえ、ここへ来て落ち着いたよう(笑)
    ピアは(何年も前になりますが)元夫と別居してこの地で農場を買い、警察の仕事に復帰、今では資格も先輩のオリヴァーと同等の主席警部に。お似合いの相手クリストフと再婚もしています。

    さて、オリヴァーが復帰しての新たな事件。
    とある邸宅の主人が亡くなっているのが見つかった。
    さらに、犬

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    2022年09月16日
  • コリーニ事件

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    ネタバレ

    中編ほどのページ数で、わずかな登場人物。それでいて、ちょっと何かを触れるとネタバレになりそうなくらいの緊張感を含んだ良質のミステリー。

    これは素晴らしい!しかもこの本が売れたことで、本国ドイツでは現実が動かされ始めているという。

    こんな本、日本では絶対出ないだろうなぁ。書ける作家は要ると思うが、大手出版社は絶対躊躇する(統一教会がらみですらもあの朝日が汚れるんやで)やろし、まして現実が動くなんて根性座った政治家も法律家もちょっと見当たらへんなぁ。

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    2022年08月25日