酒寄進一のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
『犯罪』『罪悪』に続く短編集。当初は本書を含めた三部作として構想されていたらしい。
前作および前々作と同様、描写は簡潔で、登場人物の心情はほとんど語られないため、読者の脳内で埋める余白部分が非常に多いのが著者の特徴。
幸せが一瞬のうちに奈落の底に突き落とされるような急転直下の展開が多いが、読んでいて驚くと同時にどこか納得してしまうのは、余白部分を埋めるパズルのピースの取捨選択が恐らく完璧だからで、率直に凄いと思う。
バッドエンドが多いので読後感の良さを求めるのであれば本書は向かないが、緊張感のある読み心地を体験したいのであればおススメの一冊である。
やはりシーラッハは現代を代表する短編作家だと -
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みんな大好きシーラッハさんの社会「観察記録(訳者あとがきより)」です。
48の章に別れたエッセイと創作が区別無く(視点の違いがヒントかも)並べられていて、それぞれが短文だからかシーラッハ独特の世界の切り取り方、視点、省略が「犯罪」「罪悪」以上に鋭く感じられ、予想以上に楽しめました。
幾つか「何この話」という物もあれば法律や権利を題材にした重い話もあったり、虚無感を抱えながらも人間をやっていくには他人を信頼していくしかないね、みたいな価値観に共感しながら読んでいました。
また頻繁に挿入される引用も魅力的でした。シーラッハファンは必読かと。是非是非。 -
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真の自分になるために己の道を歩く
試行錯誤して己の道を行くことが人生
でも真の自分になれた人はいない
人類皆兄弟だから分かち合うことはできる、でも自分を解き明かせるのは自分しかいない
序章のこの考えが面白くて何度も読み返したくなる
アブラクサスやカインとアベルの話で宗教を学ぶことの面白さを見出した
うまく言語化できないけど、この本で苦境を乗り越えるヒントのようなものを掴んだ気がした
ニーチェやユングの心理学も併せて読んでみようと思う
世界を卵に例えて雛が殻を突き破ると言う表現が少女革命ウテナにもあったような気がしてこのアニメももう一回見直したいなと思いました -
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ネタバレエッセイなのか小説のアイデアメモなのかショートショートなのか、弁護士であり小説家のシーラッハが書いた文章臭といった体の1冊。
「法律なんだから守らなければいけない」法治国家で生きる以上それはそうなんだが、法律は本当に正しいのか?そのことは常に疑問に感じていたいと思う。
戦争当時のドイツも日本も法に基づいてかの戦争をしていたわけだし、戦後ついこの間までのアメリカの黒人は法に基づいて差別されていたし、今のロシアは法に基づいてウクライナに侵攻している。
万能でない人間が決めたものなんて、そんなものである。社会生活を営む以上順法姿勢は取っていても、あからさまに怪しそうな取り決めは疑ってかかるのが -
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「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」
序章の一文が象徴するように、この短編集は、いろいろな出来事が積み重なっていき、後戻りできない犯罪を犯す人々を描いている。
犯罪を犯す刹那は、今まで踊っていた薄氷が不意に割れて、冷たい氷の下に落ちてしまう瞬間のようだ。誰だってそうなる可能性はある。
作者も言う。「幸運に恵まれれば、なにも起こらないでしょう。幸運に恵まれさえすれば」。
あくまで淡々と事実を積み重ねるクールな筆致ながら、行間に溢れ出すようなやるせなさや、切なさや、時には幸福感などの叙情を感じざるを得ない文体、ものすごく好みだった。
例えば最初の『フェーナー氏』、フェー -
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罪とは何か。これがシーラッハ文学の中心テーマだ。
…「罪」という漢字を分解すると「目に非ず」と読める。「現実」を把握するのに「百聞は一見にしかず」というが、こと「罪」に関してはこれが通用しない。なぜなら「罪」に見入る者は心の闇を覗くことになるからだ。
ー訳者あとがきより
ブラック・クリスマス、タダジュンさんのおどろおどろしいながらも目が離せない絵に惹かれて読んだ。
たった三遍が載った100ページにも満たないお話。
けれど読みやすい比較的短い文章で綴られた罪に満ちた三つの物語は、その主人公たちの末路はどれもじわじわと衝撃的で、けれど、ああ、これは私たちの物語だ。と思わされた。
主人公たちはカオ -
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『「それから?」 夫はきつい口調でたずねた。「白熊がなにをするか知ってるくせに。首を左右に振るのよ。いつまでも右に左に」「きみみたいにな」「わたしみたいに?」女はおどろいてそうたずね、闇の中でいまいわれたとおり首を左右に振った。「きみはだれかを待っていた」夫がいった』―『白熊』
初めて読む作家、マリー・ルイーゼ・カシュニッツの短篇集。最初の幾つかの短篇を読むかぎり、これまで読んだ欧州の怪奇譚の雰囲気と似ている語り口で、初めてのような気がしない。例えば最近読んだものだとアラン・ノエル・ラティマ・マンビーの「アラバスターの手」とか、シルヴィア・プラスの「メアリ・ヴェントゥーラと第九王国」などが思 -
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カシュニッツは今回初めて読んだけど、面白かった!
人間心理の闇、奇妙な味、といったような短編集。
日常が少しずつずれていく感じや、夢と混ざり合っていくような感じの塩梅がちょうど良かった。
あまりにも突飛だったり、幻想的すぎる話だと個人的には楽しめないことがあるので…。
迷信かと思いきや否定もしきれない『精霊トゥンシュ』。
間違った船に乗ってしまい、奇妙なことが起き続けていることを知らせる手紙が届く『船の話』。
隠れて生きたユダヤ人女性の人生を描いた『ルピナス』。
若い夫婦に追いやられていく老女の『いいですよ、わたしの天使』。
そして、SFホラーぽさもある表題作の『その昔、N市では』。
どれ -
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ドイツ人の名前に馴染みがないので、登場人物の名前は覚えにくいし、間柄や話題によって呼び方が変わるので、ちょっと前のページに戻って確認したりしながら読みました。
元貴族の名前には、フルネームの中にそれと分かる呼称が入っているとか、ドイツ社会の中の警官の立ち位置がちょっと分からない(例えば、取り調べにきた刑事に侮蔑、見下すような眼差しを向けるといった表現があるけれど、日本では警官に対してそういった感情は起きにくいと考える)といったこともあるけど、物欲や見栄や嫉妬というたぶん全世界共通の、ドロドロな人間模様の中でおこる殺人。
面白かったです。 -
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カシュニッツは1901年に生まれて1974年に亡くなった作家で、これまでも何冊か翻訳が出ていたらしいが、全く知らなかった。
読んでみると、暗くて不安に満ちていて、うっすらとした恐怖を感じるという全体のトーンは共通しているが、内容はバラエティーに富んでいて、こんな面白い作家、どうして今まで話題にならなかったのだろうかと思った。
「いいですよ、わたしの天使」「船の話」なんかは岸本佐知子の「居心地の悪い部屋」に入っていてもおかしくない。
「白熊」「幽霊」「精霊トゥンシュ」は、古典的な幽霊小説の風格があるし、「長距離電話」「ルピナス」は構成の巧みさが際立つ。
「ジェニファーの夢」「ロック鳥」「人間とい -
Posted by ブクログ
ネタバレ「物事は込み入ってることが多い。罪もそういうもののひとつだ」。当事者でない人たちがいくら物語を作ろうともそれは真実ではない。。
それでも、作者は現役の刑事事件弁護士なので(こういうこともあるかも…)のリアルさがあります。冷静だけど冷徹ではなくて、情緒もあるけど大仰ではない文章、好きです。
お話は特に「ハリネズミ」「緑」「エチオピアの男」が好き。
怖いのは「正当防衛」「愛情」。「愛情」には佐川一政の名前が出てきてタイムリーでした。世界的にも有名なんだな。
「棘」も、一人の人が壊れていく過程が描かれててゾッとしました。職務怠慢だ。。
“弁護人が証人に尋問する場合にもっとも重要なのは、自分が答えを知