あらすじ
黒いダイバースーツに身を包み、浴室で首をくくっていた男。赤ん坊を死なせた夫の罪を肩代わりし、3年後に出所の日を迎えた母親。静寂の中で余生を暮らし、夏の終わりに小銃に弾を込めた湖畔の住人。犯罪組織のボスとして人身売買の罪で起訴された男と、彼を弁護することになった新人弁護士。──唐突に訪れる犯罪の瞬間には、彼ら彼女らの人生が異様な迫力をもってあふれだす。刑事専門の弁護士として法廷に立つ傍ら、デビュー作『犯罪』で本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた当代随一の短篇の名手が、罪と罰の在り方を鮮烈に問う12の物語。/【目次】参審員/逆さ/青く晴れた日/リュディア/隣人/小男/ダイバー/臭い魚/湖畔邸/奉仕活動(スボートニク)/テニス/友人/訳者あとがき/解説=千街晶之
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Posted by ブクログ
『犯罪』『罪悪』に続く短編集。当初は本書を含めた三部作として構想されていたらしい。
前作および前々作と同様、描写は簡潔で、登場人物の心情はほとんど語られないため、読者の脳内で埋める余白部分が非常に多いのが著者の特徴。
幸せが一瞬のうちに奈落の底に突き落とされるような急転直下の展開が多いが、読んでいて驚くと同時にどこか納得してしまうのは、余白部分を埋めるパズルのピースの取捨選択が恐らく完璧だからで、率直に凄いと思う。
バッドエンドが多いので読後感の良さを求めるのであれば本書は向かないが、緊張感のある読み心地を体験したいのであればおススメの一冊である。
やはりシーラッハは現代を代表する短編作家だと、本書を読んで再認識した次第です。
いずれ翻訳モノではない、日本語ベースで書かれたこういうタイプの作品を読んでみたい。
Posted by ブクログ
初のフェルディナン・フォン・シーラッハ。
短編集。巻末の解説から、実は「犯罪」「罪悪」との三部作で完結作とのこと。失敗しました。
作品全体にだが、余計な文章が全くない。
登場人物の感情がほとんど描かれておらず、その辺りは読み手が推察することになる。
ここまで徹底するのは凄い。
犯した罪と、その罰のバランスが取れているのか、ということが主題だったと思う。
おすすめは、参審員、逆さ、小男、友人。
Posted by ブクログ
止むに止まれぬ心情から繰り出された犯罪の瞬間を描いた傑作短編集。
短い文章で、ことの顛末を描き出す見事な描写に毎回唸るしかない。その犯罪に対して、司法がどのように対峙したのかも描かれる。ドイツの司法制度ではあるが、法の解釈、考え方を学ぶ場にもなっている。
夢中になって一気に読み切った。今のところ翻訳されているシーラッハ作品は全て読んでいる。どの作品も好きだ。
次回作も首を長くして待つことにする。
Posted by ブクログ
フェルディナント・フォン・シーラッハ『刑罰』創元推理文庫。
読者に媚びを売らず、時に読者を突き放すような乾いた文体で、極めて淡々と描かれる物語は長岡弘樹の一連の短編と似ている。人生の機微と不思議な魅力を感じる捻りの効いた犯罪ミステリー短編12編を収録。
『参審員』。世の中には時折、皮肉な出来事が起きる。それは必然であり、偶然ではないという人生の機微。冒頭から一人の女性カタリーナの孤独な人生が綴られる。幸せなひと時から、人生に起きる様々な波乱。幾つもの波乱を乗り越え、新たな職を得ても自ら孤独な人生を選ぶカタリーナは参審員に選ばれる。裁判を通じて夫からDVを受けていた証人に自分の人生を重ね合わせ、痛く同情したカタリーナに裁判所の下した判断は。★★★★★
『逆さ』。この短編集の中では一番のミステリーであろう。やるせない結果となった事件を弁護したことが切っ掛けで、ギャンブルと酒に溺れた弁護士のシュレジンガー。妻とも離婚し、他愛のない弁護依頼を引き受けながら、自堕落な日々を過ごすうちに殺人容疑者の弁護を引き受けるとになる。全く勝ち目の無さそうな事件だったが、過去に弁護した男から謎に満ちたヒントをもらう。★★★★★
『青く晴れた日』。自らの過ちに気付くことの大切だが、気付いてからでは遅いこともある。何とも言えぬ含蓄を含んだ短い話。赤ん坊を死なせた夫の罪を肩代わりし、3年後に出所の日を迎えた母親が取った行動は。★★★★★
『リュディア』。人間以外への愛をどう受け取るのか。人には様々な考え方があり、様々な生き方はある。妻に裏切られ、妻と離婚したマイヤーベックはひっそりと孤独に生きていた。ある日、テレビのルポルタージュでラブドールの存在を知った彼はお気に入りのラブドールを購入し、リュディアと名付けた。★★★★
『隣人』。24年間、一緒に過ごした最愛の妻エミリーを失ったブリンクマン。ある日、無為な日々を過ごす彼の家の隣に夫婦が越して来る。夫の姿はたまに見掛けるだけで、ブリンクマンは妻のアントーニアと少しずつ距離を縮めていく。★★★★
『小男』。運が良かったのか、悪かったのか、何とも皮肉な結末。43歳で未婚のシュトーレッツは小柄な男で、リビングに小男の伝記をコレクションしていた。ふとしたことで大量の麻薬を手に入れた彼は密売を決意するが、飲酒の揚げ句に交通事故を起こし、麻薬所持の容疑で逮捕される。拘置所では小男と馬鹿にされることはなく、大物犯罪者として一目置かれた彼だったが。★★★★★
『ダイバー』。異常な性癖の果てに招いた悲劇。事実は小説よりも奇なり。妻の出産に立ち会ったのを切っ掛けに異常なまでの潔癖症になった夫。ある日、妻は浴室で黒いダイバースーツに身を包み、首をくくって亡くなっていた夫を発見する。しかし、妻は殺人容疑で逮捕される。★★★★
『臭い魚』。少年は時に残酷であり、何をするか分からない。様々な悪い噂が付きまとう臭い魚と呼ばれる男に少年たちの取った行動は。★★★
『湖畔邸』。大きな痣という肉体的な十字架を背負った男が平穏な暮らしを壊されたことに怒る。世の中は常に移ろいゆくもので、それに抗うことは時に愚かさとなる。仕事を辞めて、まるで引きこもるかのように祖父との思い出のある湖畔邸で平穏に暮らすアッシャー。しかし、平穏な暮らしも長くは続かなかった。★★★★
『奉仕活動』。人生の勝利は時として思わぬ形でもたらされる。僅かな望みも捨ててはいけないのだ。トルコ人の厳格な父親に育てられたセイマは大学に進み、弁護士になる。初めて弁護を担当した人身売買事件の被告はどこから見ても容疑は明らかだった。勝ち目のない裁判。★★★★
『テニス』。人生はいつどこで、どちらに傾くか解らない。テニスの腕が無いと夫に忠告される妻。夫の浮気相手の真珠のネックレスを見付けた妻は、これ見よがしにネックレスを家の階段に置いて、出張へと旅立つ。★★★★
『友人』。財産があり、美しい妻が居ても満たされないのが、人生。かつての友人も今も変わらぬ姿でいるとは限らない。ドラッグに溺れ、変わり果てた姿になった友人。そうなったのには、ある理由があった。★★★★★
本体価格720円
★★★★★
Posted by ブクログ
久しぶりのシーラッハ。
いつも通り、感情の起伏がない、淡々とした空気感。なのに、内容はやはり衝撃的でした。
でも今回は、なぜかとても文学的な雰囲気を感じて、ちょっと感動してしまった。
私のなかでは、ミステリーではなく、文学だな。
Posted by ブクログ
・感想
シーラッハはコリーニ事件しか読んでないけど淡々とした平易な文章は変わらず。
様々な事件のその罪の在り処と与えられる罰の話。
善と悪とかではなく罪と罰の話ではその「罪」は法治国家である以上は法律によって裁かれ、与えられる罰の量も法律によって決まる。
Posted by ブクログ
刑事事件弁護士として活躍する著者が、罪と罰の在り方を問う12編。
デビュー作『犯罪』、第二短編集『罪悪』に続く短編集3作目。翻訳者さんによるあとがきによると、作者さんは当初から三部作を構想していたそうです。
作中でどんな犯罪を描こうとも、書き方は常に淡々としていて心情描写も薄い。それなのに、何故か心がざらつく読後感。
犯罪と、罪と向かい合う仕事についている筆者さんにしか書けないものがある気がします。
解説でも似たようなことが書かれていますが、釣り合わない罪と罰、理想をもってなったはずの弁護士という仕事の理想と現実、現実のような虚構と虚構のような現実。そんなすべてをひっくるめた現実のやるせなさや心の傷を、文学として昇華し再構成しているような、そんな印象を受けます。
個人的に好きだった話は、『リュディア』。
Posted by ブクログ
持ち歩いて出先で少しずつ読む用に買ったのに、読み始めたらとまらず一気に読んでしまった。
救いのない話ばかりで、どこが面白いのか訊かれても答えられないのに。
シーラッハの事実だけを淡々と描写する文章が好きなんだと思う。
解説を読んで三部作の二作目『罪悪』を飛ばしていたことに気づいたので読まなければ…。
Posted by ブクログ
やや星新一のようなブラックな読後感の短編集です。
こちらはSFではなく、ミステリですが。
人を殺した、という「罪」を抱く人々が裁判を通して「罰」を受けるというのが法治国家の当たり前の姿ですが、証拠として揃ったものから論理的に判断しているようにみえても、巧妙に真相が隠されていたり、罪を被った人が実は騙されていたりと、複雑な人間模様が濃縮された作品集です。
荒唐無稽な設定はなく、淡々と描かれる登場人物の描写にはリアリティがある一方で、やや「盛り上がり」に賭ける部分があるかもしれません。
イメージでいうと、どの作品も「どんよりした雲り空」のような雰囲気で、不快ではないし雨が降ったようなしんみりとした気持ちにもならないが、かといって楽しいわけでも心地よいわけでもない、というような感じでした。