酒寄進一のレビュー一覧
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主人公の少年がデミアンという不思議な少年との出会いを通じて精神的な成長を遂げるまでを描いた物語。
子ども時代の両親に守られた『明るい世界』から自分の世界へと繰り出そうともがいたり、理想の自分とのギャップに苛まれる主人公に過去の自分を重ねてしんみりとしてしまった。
ラストのデミアンの言葉には号泣した。
自分を見つめ直したいときにまた読みたい本である。
この本は作者のヘッセがユング系のセラピーを受けた後に書いた話らしく、
読んでいると登場人物や主人公の心の動きがユングの理論を下敷きにしていることがわかる。
またキリスト教的価値観をわかっているとなお深い考察ができると思う。
(知らなくても十分楽しめるが) -
Posted by ブクログ
ネタバレ<(前略)私には参審裁判所で裁判長を勤めたおじがいました。故殺や謀殺などの殺人事件を扱っていました。おじは私たち子どもにもわかる事件の話をしてくれました。でも、いつもこういってはじめたものです。「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」
おじのいうとおりでした。私たちはさまざまな物事を追いかけています。ところが物事の方が速すぎて、どうしても追いつけないものです。私の話に出てくるのは、人殺しや麻薬密売人や銀行強盗や娼婦です。それぞれにそれぞれがたどってきた物語があります。しかしそれは私たちの物語と大した違いはありません。私たちは生涯、薄氷の上で踊っているのです。氷の下は冷たく、ひとたび落ちれば、すぐに死んでしまいます。氷は多くの人を持ちこたえられず、割れてしまいます。私が関心を持っているのはその瞬間です。幸運に恵まれれば、なにも起こらないでしょう。幸運に恵まれさえすれば。(後略)>
まさに本書「序」のとおりだ。たまたまそれが可能な状況や環境が訪れた/いつの間にかそのような事態に陥ってしまった彼ら“犯罪者”と、まだ罪を犯してない私たちとの差など紙一重なのだろう。作者が描く数々の罪はどれも異様で不可解なものばかりだが、それは私たち人間そのものを描かんという意図の表れではないだろうか。 -
Posted by ブクログ
(2013/5/27)
「ドイツの法律を変えた!」という書評に興味を持って読んだ。デイキャッチで豊崎さんが絶賛してた。
結末を読んで思ったのは、この事件、記憶にある、ということだった。
結末のどんでん返しがこの小説のすべてなので、ネタバレは避けたほうがいいのだろうが、、、
どの書評も結末は書いてない。
どう描いていいかわからないから、まずはDBから。
内容(「BOOK」データベースより)
2001年5月、ベルリン。67歳のイタリア人、コリーニが殺人容疑で逮捕された。
被害者は大金持ちの実業家で、新米弁護士のライネンは気軽に国選弁護人を買ってでてしまう。
だが、コリーニはどうしても殺害動機を話そうとしない。さらにライネンは被害者が少年時代の親友の祖父であることを知り…。
公職と私情の狭間で苦悩するライネンと、被害者遺族の依頼で公訴参加代理人になり裁判に臨む辣腕弁護士マッティンガーが、
法廷で繰り広げる緊迫の攻防戦。
コリーニを凶行に駆りたてた秘めた想い。そして、ドイツで本当にあった驚くべき“法律の落とし穴”とは。
刑事事件専門の著名な弁護士が研ぎ澄まされた筆で描く、圧巻の法廷劇。
最後ライネンは殺人動機を突き止める。
ドイツの悲しい歴史。
しかしそれでもなぜ今なのかはわからない。
最後コリーニがつぶやく。
ドイツの歴史と、家族への思いが複雑に、残酷に絡まった結末、といっておきましょう。
戦争が人間を狂気に追い込むのか。
理性の中でそれが出来たのか。
日本が「空気」の中で、負けるとわかっている戦争に突入したのと同列にできるのかどうか。
東条英機はA級戦犯にさせられたが、天皇の信頼を得て、なんとか戦争を停めようとしていたとも聞く。
いわゆる南京大虐殺、従軍慰安婦。戦後のアメリカの日本洗脳で、戦前の日本がすべて否定された。
侵略戦争は欧米も同罪。橋下の言うことは正しい。公人が公式の場でいっていいことかどうかは別だが。
我々は江戸時代、戦前の日本の良いところは取り戻さなければいけない。
話がそれたが、ドイツはドイツで過去の清算をしている、ということだ。 -
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自殺を考えたことがある人間としては安楽死が制度化されることは反対という立場で本作を読んでいた。
問題を提起したおじいさんの弁護士の言葉には一理あると思いつつもとてもイライラさせられた。
というのも、私は手段も場所も選んで実行しようとしたことがある。ただし、実行することはできなかった。自殺を考えるまでとそこからでは必要な精神力がまるで違った。死にたいけれども、実際に死んでしまった際に悲しむだろう人たちの顔が浮かんでくるものだ。だからこそ、実際に死ぬ部分のハードルを他人に託すことはとても恐ろしいことに思える。それに、人を殺すという業の深いことを他人にやらせるというのも罪深いことに思える。
解説に書かれていた日本と西洋での安楽死への考え方という部分で個人の権利に対する考え方が違うという話をされていたが、こちらには作中で書かれていたキリスト教としての考え方よりすんなりと受け入れられた。 -
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ネタバレ・あらすじ
78歳のゲルトナーは3年前に妻を亡くした。
身体的にも精神的にも健康な状況であるが、妻を亡くし人生に意味を見出せなくなったため医師による自死の介助を求めた。
ドイツの倫理委員会主催の公開討論会で様々な専門家が医学、神学、法学的に議論する。
・感想
ここ数年よく考える事柄が題材だったのでとても興味深く読んだ。
自己決定権、自由意志、一般的人権、尊厳とは。
生と死についての定義づけと線引きすることがいかに不可能かということ。
印象に残ったのはドイツの憲法では神について言及されているということ。個人的にはそんな「神」なんて存在するかどうかもわからないものを憲法に挟むなんてあり得ないという感覚。
司教に対して弁護士が論理的に矛盾点を指摘するシーンで司教が「信仰は理性的とは言えず論理的ではない」と返答してた場面。
そして「理性でも論理でも解決できない問題」について導き手となる信仰を持っているのはやっぱり精神的な主柱になり強くなれるなと思った。
あとは「法的に生きることは義務ではない」という一文。
全編とても考えさせられるやりとりばかりだったけど上記の3点が特に印象的だったかも。
人間は自己のみによって生きているのではなく、社会・共同体の中でお互いに義務と責任をもって生きている。
「社会が連帯し、面倒を見て尊厳を守ればいい」しそうできたらそれが理想なんだけどなかなか難しいし、人間にそれができるとも思えなかったり。
今作は舞台がドイツだったけど北九州市立大学の「死ぬ権利はあるかー安楽死における自己決定の諸相ー」という論説は日本の医療制度の問題なども絡めて日本人として日本人社会での安楽死、尊厳死の在り方について書かれていて、こちらもとても興味深い。
※※※※
そしてここから先は安楽死というより「尊厳死」について日々思っていること。
日本人の死生観の幼稚さと未熟さ、人間は必ず死ぬということすら理解できない、したくない人が一定数いるように感じている。死をドラマチックに演出し、感動ものとして消費する社会だし。
日本ほど医療が安価(9割税金だけどなー)に簡単に高水準の医療が受けられる国なんてない。
高水準な清潔さと安全な社会に生きてるからこそ「死」が遠くなり、忌避するものとなっている様に思われる。
そしてその死への不安な「お気持ちを」解消するために、日本では医療が宗教的役割を担わされている(自分たちの税金を使って)。
生命至上主義といえば聞こえはいいけど、じゃあ果たして「生きること」「生きているとは」を考えたことある日本人がどれだけいるだろうか?
根治不能な老化の身体に穴をあけ、針を刺し、管を通し、それら処置を嫌がって苦しがる人に「安全」「訴訟対策」のために体幹、手足を拘束する。
こういう処置も本人の意思じゃなく「家族の希望」でされることが多い。
そしてその処置を希望した家族は病院に預けっぱなし…。
人はいずれ死ぬという事を受け入れられず、病院にあずければどんな状態の人間でも回復すると思ってる。
無責任でストレス耐性が低いから、できることをなんでもしておかないと自分が見捨てた様に感じてしまうんだろうけど。
それって「命を大事にしている」と言えるのかな。
まさしく「人間の尊厳とは」をよくよく考えなければならない事態が日本の医療現場ではよく見られる。
解説にあった文章ですごく納得したのが「日本は「死ぬ権利」はおろか自己決定そのものが難しい社会だ」という部分。
まさに家族の意思が最優先される社会。
心臓さえうごいていたら生きているという事なの?これは「尊厳ある生」といえる状況なのか?と苦悩している医療従事者は多数いると思うよ。(そしてそこに疑問を持ってる人たちが活動してるのが反サロだし)
病院にいると「人権とは…」「尊厳とは…」と考えずにはいられない。
そして繊細な人は耐えられないからすぐ辞める、心を殺してただ指示されたことに対して無心で働くか、ある意味無神経で鈍感な人間しか生き残れないのが現代の日本の病院だと思ってる。
日本では「生命」と「尊厳」のバランスがとても難しい。
そして私は前線から撤退した側の人間。
まぁこのままいくとご自慢の皆保険制度の持続可能性すら危ぶまれる事態になっているわけだけど…。
(青天井の社会保障費、人、金、薬不足…)
安楽死について日本では議論すら始められない(数年前に安楽死導入についての議論を政策にあげてた議員立候補者が国民民主党から出馬してたけど案の定落選してたし)状況だし、幼稚で未熟な死生観と全体主義傾向の強い本邦では難しいだろうなと思ってる。
そして制度の適切な運用なんて到底無理だろう。
せめてリビングウィルという概念がもう少し浸透し、どんなに家族の希望があっても本人の意思に反した処置はされないようになってほしいなぁ。
まぁそのリビングウィルを決めた時点から状況が変化すれば決断もまた変わるんだけどね。
「人間は矛盾を抱えた存在だということです。良いこともすれば悪いこともする。社会は決して均質なものではなく、亀裂が走り、対立が存在し、多面的で、不統一です。(中略)しかし啓蒙された社会では、最終的に何が正しくて何が間違っているかということや、世界のあり方の最終判断など存在しないという点で一致できるはずです」 -
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弁護士アイゼンベルクシリーズの作者による別シリーズ、クロイトナー上級巡査とヴァルナー警部シリーズ。
シリーズ2作目ですが、シリーズ最高かも。例によって、引っ掻き回すクロイトナーと、私事に悩み事を抱えつつ慎重に事件を解決に導くヴァルナー。ドイツに警察制度では、クロイトナーとヴァルナーは別の警察に属しているのかと思っていましたが、同じ警察に属しているんですね。
いやぁ、それにしても、シリーズ最高というのは、入り組んだ謎もそうなのですが、その真犯人が意外な人物であること。それも、無理やりではなく「あー、そーなんだ」と納得できる描き方。いや、良かったです。 -
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ネタバレ戦後ドイツの作家、マリー・ルイーゼ・カシュニッツの日本オリジナル短編集。
一編一編が高級チョコのように味わえる作品集。幻想的でありつつも、どこか人間の普遍的な不安感が漂う。その暗い感じがクセになる作家。
以下、作品毎の感想。
◯白熊 ★おすすめ
帰ってきたのに何故か電気を付けたがらない夫と妻の会話。出会った動物園で、妻は本当は誰を待っていたのか。会話しているのは本当に夫なのか。不安がピークになるころ意外な展開に。
◯ジェニファーの夢
夢を見たという娘のジェニファー。日を追うごとに夢が日常を侵食しているようで、得体の知れない娘への不気味さが描かれた作品。
◯精霊トゥンシュ ★おすすめ
大学から派遣された番人と現地民たち。相容れないためか、現地民たちは番人に作ってはいけない人形を作らせる。やがて番人は無惨な死体となって発見される。ミステリタッチの作品。
◯船の話 ★おすすめ
予定した船に乗れなかった妹からの頼りが来る。妹が乗った船はなんだったのか。じわじわと恐ろしい作品。
◯ロック鳥
自分にしか見えない鳥。鳥とはなんだったのか。
◯幽霊
ゴシックなゴーストストーリー。非常にテンプレートな話。
◯ 六月半ばの真昼時 ★おすすめ
カシュニッツ夫人が旅先から帰ると、アパート中に夫人が死んだと触れ回っていた女がいたことを知る。カシュニッツ夫人には娘がいたことを知るとすぐに立ち去ったようだが。。。
これもよくよく考えると非常に不穏な作品。
◯ルピナス
姉を置いて列車から脱出した妹。姉の夫と暮らすが思い描いた風にはならず。。。可哀想な小話。
◯長い影
バカンスに来た思春期の女の子のひねくれた気持ちを描いた作品。家族と一緒にいるのが嫌、自分だけの世界を思い描くが、ふとしたことから不安に囚われる。
◯長距離電話 ★おすすめ
電話での会話だけで構成される作品。身分違いの恋人たちを別れさせようと家族たちが頑張るが。。。意外な結末。
◯その昔、N市では
表題作。タイトルからは意外だったが、ゾンビのような、フランケンシュタインのような、死者をリサイクルして使用人とした近未来を舞台とした作品。結構絶望的な話。
◯四月 ★おすすめ
決して美しいとは言えない女性の机の上に置かれた花束。同僚たちは、支配人からあなたへの贈り物だと言うが。。。
意外な着地点で、幻想味が強い作品。
◯見知らぬ土地
知らないと言うことがいかに人を不安にさせるか、いかに少しの衝撃で壊れてしまうかを描いた作品。
◯いいですよ、わたしの天使 ★おすすめ
部屋を借りた娘に、ゆっくりじわじわと家や人生を乗っ取られる話。それでも娘のことを許せるお婆さんが切ない。
◯人間という謎
バスで隣り合った女性から、女性自身の妄想を聞かされる話。霧に囲まれるようなぼんやりとした読み心地の作品。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ登場人物が多い上に人間会計が複雑、更にそれぞれがあだ名で呼びあったり、作中作小説は仮名処理されてて、誰が誰だかわからなくなる。
しかも、みんな嘘ついてて、ルービックキューブかってくらい事件の構図が目まぐるしく入れ替わり、その度に容疑者候補順位が次々シャッフルされる。
これを最後に収束させられる技量半端ない。
ピアがため息混じりに「これは最低の事件よ。嘘と巻き添え被害だらけ」というのも頷ける。
そんな中、ゼヴェリン・フェルテンのキャラが最高。未だかつてここまで強烈な噛ませ犬がいただろうか。
終盤で特殊応力を発揮するし、ニコラのお気に入りになってるし、レギュラ入りを予感させますね。 -
Posted by ブクログ
ネタバレオリヴァ―とピアシリーズの第10作。
オリヴァーの私生活はこんな酷いことになってたんだっけ?
上手く行っていたような気がしたのだが、
ピアに言わせれば、いつも同じタイプ、
不安定さを抱えるキャリアウーマンタイプに惹かれるオリヴァーが悪いのだが。
元妻のコージマが癌になり末娘と一緒に住んでいるが、
妻の娘が悲惨な事件を目撃したトラウマからか意地悪三昧。
オリヴァーひとりなら、自業自得で終わりだが、
娘を巻き込むのは親としてどうかと思う。
別居すると聞いて「ようやく?」と言いたくなるピアの気持ちがよくわかる。
さらには、家を出た後に元実家のお城を改装したホテルに泊まり込み、
敷地内の家に安い家賃で住まわせてもらえそうとは、
貴族のお坊ちゃん極まれり。
事件の方は、出版社の元編集者が行方不明になったことからはじまる。
働いていた出版社は創業者一族が経営していたが、
その関係者が関係しているのか
もしくは作品の剽窃をばらされた作家が絡んでいるのか。
出版社社長の年の離れた従兄が事故で亡くなったことや、
社長の母親が自殺したことに関係しているのか。
謎解き部分は面白かったし、
編集者の一人と社長が距離を縮めていくところも良かった。
その編集者がアイスティーをもってバルコニーに出て、
原稿を読む場面がうらやましかった。
人を殺したと思い込んだ有名作家のドタバタ劇も、
意外にもそのあと事件解決に手を貸したところも面白かった。
ピアの方はといえば、妹キムと前作で出会えたその娘はうまくいかなかったが、
新しい家で、事件で知り合った犬を飼い始め幸せそうだった。
元夫の法医学者ヘニングがミステリー小説を書き、
今の夫がへそを曲げるのが問題らしい。
被害者の隣人を見てピアが、
投資銀行勤務か弁護士にちがいない、出勤前にはハーフマラソンをしていることに
「わたしのミニを賭けてもいいです」と言ったところを、
カシオミニ、と空目をしたのは私だけでははず。 -
Posted by ブクログ
『犯罪』『罪悪』に続く短編集。当初は本書を含めた三部作として構想されていたらしい。
前作および前々作と同様、描写は簡潔で、登場人物の心情はほとんど語られないため、読者の脳内で埋める余白部分が非常に多いのが著者の特徴。
幸せが一瞬のうちに奈落の底に突き落とされるような急転直下の展開が多いが、読んでいて驚くと同時にどこか納得してしまうのは、余白部分を埋めるパズルのピースの取捨選択が恐らく完璧だからで、率直に凄いと思う。
バッドエンドが多いので読後感の良さを求めるのであれば本書は向かないが、緊張感のある読み心地を体験したいのであればおススメの一冊である。
やはりシーラッハは現代を代表する短編作家だと、本書を読んで再認識した次第です。
いずれ翻訳モノではない、日本語ベースで書かれたこういうタイプの作品を読んでみたい。