長谷部恭男のレビュー一覧
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宮沢俊義は自他ともに認めるケルゼニストである。ケルゼンの根本規範論は、法というものは、その中身がどうあれ「法は従うべきもの」(=根本規範)という前提がなければ成り立たないという、法学の前提としての論理的仮説である。八月革命は天皇主権という根本規範を国民主権という根本規範に取り替えたわけではない。「法は従うべきもの」という前提は天皇主権でも国民主権でも変わりないからだ。こう指摘する長谷部氏は、八月革命説はケルゼンの根本規範論で説明するのは難しいと言う。まさにその通りで、宮沢が依拠したのはケルゼンの根本規範論ではなく、その論敵シュミットの憲法制定権力論であると解するのが一般的である(石川健治氏など
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まず、本書は資格試験等に使われる憲法の入門書としての性格を持ち合わせていないことに注意を要する。
どちらかと言えば周辺の哲学や理論から、憲法の輪郭を探っていく類いの書であると感じた。
また、本書はそのような周辺知識が前提知識はなくとも内容に入っていけるよう、砕けた文章も多く見受けられる。気になった箇所があれば、各章ごとに「文献解題」が設置されており、出典と共に、著者の文献解説が掲載されているので、憲法を研究する方の使用にも耐え得る内容なのではなかろうかと思う。
内容も、興味深いものが多く、ちょっとした法雑学的な気持ちで読みすすめていけるのも嬉しい。
ページ数はやや少なめではあるが、内 -
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高名な憲法学者が憲法の役割や立憲主義における立ち位置などを初学者にも分かりやすく解説した本である。初版は2006年とだいぶ古いがその当時より、憲法改正の機運が徐々に高まっていたのを記憶している。
本書の主な主張は憲法の硬性性を訴え、無闇な憲法改正の危険性を指摘しているという所だろうか?本書では法学者らしく精緻で論理的な議論が展開されていて、読者にも著者の主張の正当性を確認することができるだろう。
しかし物事は表裏一体である。浅学ながら偉そうなことを言うと私は法学の特徴はその対象の解釈がある程度自由にできるということにあると思う。例えば集団的自衛権を日本国憲法から容認することからも私の主張に -
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憲法学、政治学、歴史学と3つの視点から今を読み解く。あまりにも刺激的で、新書をこんなに真剣に読み込んだのは本当に久しぶりである。
地に足がついた議論。
日本は防衛費増税だの、敵基地攻撃能力の保持だの様々な論点がいきなり飛び出してきた。きっちり議論も分析も、歴史に学ぶこともない、とてもふわふわした捉えどころのない首相、政府の見解に、どうしようもない不安と怒りを感じているけれど、こうやって、ひとつひとつ立ち止まって考えたい。
戦争は始まってしまったらすぐには終わらないのだ。たくさんの人の生活、命が左右されるのだ。そのことにもっと冷静に想像力を働かせたい。 -
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1:緊急事態条項を利用したナチスの手口
・ナチスは国民の圧倒的支持ではない。少数派政党。
・第一次世界大戦の敗戦と世界恐慌で政治が混乱し、ヒンデンブルク大統領が大統領緊急令を多用した。議会制民主主義に国民が絶望していた。
・ナチスは突撃隊という暴力装置を持っていた。その組織がイチャモンを付けて逮捕していった。議事堂炎上もナチスの自作自演。
2:なぜドイツ国民はナチスを支持したか
・敗戦と世界恐慌で、失業率30%。ワイマール帝国は見放されていた。共産党とナチが受け皿だった。
・第一次世界大戦で旧ロシアから、東方ユダヤ人が難民のようにドイツに来ていて、独特の存在だった。民衆は風変わりさに恐れてい -
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緊急事態条項の歴史的な危うさについて、ひとまづ簡単に飲み込むための入門編、みたいな本だった。大変読みやすく、そしてわかりやすかった。
220頁
<一九七〇年五月八日、終戦二五周年記念式典でのブラント首相の演説>
今から二五年前のあのときに、多くのドイツ人が個人的あるいは国民的な苦しみと感じていたことは、他の民族にとってみれば外国への隷従、テロ、不安からの解放でした。……民族には、自らの歴史を冷静に見つめる用意がなければなりません。なぜなら、過去に何があったのかを思い起こせない人は、今日何が起きているのかを認識できないし、明日何が起こるかを見通すことがもできないからです。冷静に歴史と向き合う -
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学問の自由は私たちの生活とも関係している。学問をすることが自由なのもあるが、学問はそれ自体国の権力から自由で独立したものでなくては、また再び、戦争に使われる可能性がある。過去の過ちを繰り返さないという学者の決意から生まれた学術会議の経緯を知っていれば、今回の件は学者集団にとって、赤信号であるとともに、私たちの身にも危険が近づいていることを示している。
さまざまな学会から声明が出され、報道を賑わせたが、最近また忘れられそうになっている気がしてならない。しかし、このことは決して忘れてはならない。
個人的には内田樹さんの部分が、自分が薄々感じていたことをはっきりと明文化して提示されたようで戦慄が走っ -
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同じ著者による『憲法とは何か』を読んだ際、しばしば引用されていた本書。
民主主義や立憲主義の基本的な説明は、こちらに書かれていそうだったので、続けて購入しました。
読んでみると、予想した通り。
例えるならこの『憲法と平和を問い直す』は、もう1冊の『憲法とは何か』の双子のお兄ちゃん。
華やかで社交的(発展的な議論を多数紹介)な弟に対して、実直で勤勉(基本的な考え方を丁寧に解説)な兄。
なぜ民主主義や多数決が採用されるのか。
その上でどのように立憲主義に基づく近代国家が成立したのか。
そして、国家間の争いを解決するにはどのような方法が考えられるか。
お兄ちゃんがじっくり解説してくれたお陰で、よう -
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通常人の道徳的感覚に著しく反する法(例えばナチスの法)は、「法」の資格をもつか?
この問いにYesと応えるのが法実証主義であり、Noと応えるのが自然法思想だ。ハートは法実証主義を擁護する。
ハートは本書で、法とは「責務に関するルール(一次ルール)」と「法の認定・変更・裁判に関するルール(二次ルール)」の組合せであるとする理論を説く。それは演繹的な定義ではなく、事実の観察に基づく「記述」である。だからこそ、その議論には説得力がある。
ハートの理論の大要は次のようなものだ:あるルールは、圧倒的多数の国民がそれに従う責務を感じ、裁判官や公務員がそれを法として受容し、社会生活で実際にそのルールが -
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安保法案を与党推薦人ながら違憲証言した注目の方をなぜ自民党は見誤ったのかを知りたかった。タイトルどおり、憲法の本質を哲学的、政治学的に追究していく内容の濃いコンパクトな一冊!。ホッブス、ルソー、カント、モンテスキュー、ロールズ・・・。昔、教科書で学んだ名前が次々に登場、正に根源から考えさせられた。「憲法9条による軍備の制限も、通常の政治のプロセスが適正に働くための規定」(P12)「従来の政府解釈で設けられている制約-たとえば集団的自衛権の否定-を吹っ飛ばそうというのであれば、その後、どう軍の規模や行動を制約していくつもりなのかという肝心な点を明らかにすべき。その見通しもなく、どこの国とどんな軍
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最近受験生の我が息子は、少し遠くの塾に
日曜日の夜間に通っています。(そんなに必死に
受験勉強しているわけではないのですが)
そこで、夫婦も揃って息子を送り届けて
塾が終わるまで二人でスタバに行って2時間
くらい待っています。私はじっくり本を読める時間
なので割と気に入っています。そこで読み終わった
今回のこの本。
川崎の桐光学園高校に様々な
論客(日本のトップクラス)が特別の授業をする
らしいのですがその授業の内容が本になっている内容。
こんな高校生はとても幸せだと思いますが
多分自分が高校生だったときはあまり興味を
覚えなかっただろうなあと思います。
でも、それでもそういうことを言っていた -
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なぜ多数決なのか、民主主義なのかに対して自己決定の最大化、功利主義、一人一人を平等に扱うこと、コンドルセの定理と四つの説を紹介するとこから始まる。そして良好に民主政治が機能するためになぜ立憲主義が必要かって話になる。究極的な比較不可能な価値観が対立すると、それは血みどろの争いに向かう。だから政治などの公にそのような私を持ち込まないよう公私が区別される。そしてそれを憲法で規定する立憲主義が出てくる。んで国家や権威にどこまで、なぜ従うのかといった議論が紹介される。オデュッセウスの寓話で憲法九条を合理的自己拘束として紹介してて面白い。
憲法や民主主義、平和主義、自然権とかってのを考える上で大きなヒン