中島敦のレビュー一覧
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添えられたイラストが適切なのかどうかは、私には評価できない。わからないからだ。山月記に登場するのは虎であって、猫は一匹たりとも登場しないが、ここにはたくさんの猫のイラストが描かれる。イラストレーターが「ねこ助」という名前の方であるようなので、たぶん猫がお得意で、だからたくさん猫のイラストを描いているのかもしれないし、出版社もそれを求めて依頼したのかもしれない。しかしそれが適切なのか、よくわからない。李徴でも袁傪でもない、幼児的人物のイラストも、どういうつもりで添えているのか、よくわからない。よくわからないけど、これが現代イラストレーターとのコラボレーションによる新しい文学の提案だと言われれば、納得せざるを得ないのかもしれない。よくわからない。また、これによって、名作文学に触れる読者層が広がるという効果もあるであろうから、一概にイラストの適不適だけで論じられない面もある。
ただイラストそのものが美しいのは確かで、また、イラストとは別に、文章の区切り方(このページにはこの文章だけ)のような編集については、良いと思うし、実際読みやすい。
山月記という文学作品単体で言うなら、これはもう間違いなく名作中の名作である。山月記については迷わず★5つである。あまりにも美しい文章とともに、李徴という人間の心の奥深くまでが、この短編の中に異様なまでの生命感をもって描き出される。たとえば、"木の間を伝って、何処からか、暁角が哀しげに響き始めた。"という一文を抜き出してみても、そのあまりの美しさには絶句する程だ。人物の心象と情景の両者が見事に融け合って響き合い、美しさが限界突破しているほどに思われる。なにより、全体を通して、李徴という人物の、ここに描かれる心理描写が、あまりにも迫るものがあるのです。 -
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短い生涯ながら二年の作家人生の中で名作を残した悲運の作家『中島敦』の代表作三篇を、読みやすい現代語に訳した作品集。
山月記
中国の唐の時代、高位の役人が旅の途中人食い虎と出会う。が、そのトラはかつて優れた才能を持ちながら離職し詩人としても芽が出ずに失踪したかつての友人の変わり果てた姿だった。
多分『中島敦』作品の中で一番有名なものだと。
高校の国語の教材で読んだことしかなかったので『乙女』シリーズを読むのに、ちゃんと読んでみようと一緒に借りたのですが、むしろあちらのほうが原文でしたね。
「本気出せばー」って言ってるような奴が頭に浮かんでしまった。いや、だったら出してみろよ、みたいな。
ちなみにテストの問題が「李徴の詩に足りなかったのはなにか?」という一問だったことが忘れられません。
名人伝
中国の戦国時代、『紀昌』という男が天下第一の弓の名人になろうと志し、名手に弟子入りをする。過酷な修行の末、無為の境地に辿り着く。
無常とみればよいのか、笑えばいいものなのかわからない。過ぎたるは及ばないごとし…的な?
李陵
漢の有能な将軍『李陵』は無理な作戦を命じられ、敵方の遊牧民『匈奴』に捕らえられてしまう。
非道な仕打ちに強い忠誠心が揺らぐ『李陵』
李陵を庇った為罰を受ける、歴史書の作者『司馬遷』
同じように捕虜となりながら忠誠心を貫く『蘓武』
三人三様の生きざまと葛藤が描かれています。戦中に書かれたことを鑑みると、色々と考えさせられる作品だと感じます。 -
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ネタバレ李陵について
・李陵への漢への想いや恨み、匈奴への恩などで思考がぐるぐるし、どっちつかずになっているさまは自分を見ている気持ちになった
・寒く困難な状況でも芯を通す蘇武を見ながら自分と対比して恥じる姿に共感
・見返りを求めない祖国への愛は立派。李陵の愛は確かに蘇武に比べ低かったかもしれないがそれだけで人の優劣はつけられるものではなく、李陵にとっては祖国よりもっと大事な、それこそ見返りを求めないレベルで愛する何かがあったんじゃないかな?と想像します。確かに芯の通った姿は格好いいけど、それに揺さぶられすぎて好きでもないものに人生を捧げないようにしなくてはな。と思いました -
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まず装画が怪しげで綺麗!いわゆるジャケ買い
あとタイトル『疵の迷楼』別世界へと誘い込まれるような魅惑的な感じに加え、名だたる文豪たちの作品に興味を引かれてしまう。
まだ、このとき耽美という言葉の意味を理解していなかった。ただ「美しい」くらいにしかとらえていなかったので読んでみたら本当の意味を思い知らされ、常軌を逸した世界への入り口だった。
なかなか普通の感覚では理解、共感し難い作品ばかり。どの作品も何かに心を奪われていたり、病的にのめり込んでいたりと現実からかけ離れていて危うい空気が漂っている。
抗いがたい好奇心や欲望、まるで[パンドラの箱]を開けてしまったようなそんな感じだ。
収録されている一部の作品の感想
『鏡地獄』 江戸川乱歩
鏡や凹レンズの魔力の虜囚となっていくKの話。
自宅の実験室で奇妙な物を作りその後Kは…
Kが見た世界は何なのか?鏡に纏わる話はたくさんある。異界の入り口、魂を抜き取られる、神の依り代。そんな鏡の持つ神秘性、恐怖感とあわせ、鏡に耽溺していく狂気の過程とKの末路が常人には理解し難くカオス。極めてはいけないものを極め、見てはいけないものを見た。
そしてKの見たものも語られていないから一層恐怖心と好奇心がわいてくる。
『妙の宮』 泉鏡花
少年士官が肝試しに妙の宮という神社を訪れ不可思議な光景に遭遇し不可解な結末を迎える。
明治28年の作品とあって文体が古臭くて読みづらい、けれどどこか美しい文章。たった四頁の中にはたくさんのメッセージが詰まっていた。
寂れた山中の神社が醸し出す妖しい雰囲気、夢か現実か幻か。いったい全体どこへ引き込まれてしまったのか?曖昧で幻想的な世界観にゾクリとさせられる。
金時計が意味するものは何なんだろう?時間を盗られた?
『死後の恋』 夢野久作
美しい宝石に魅入られ元貴族の男が罪悪感に耐えられず死後の恋というロマンスに変え自己正当化しようした?
宝石が持つ魔力と呪いが彼を狂気に導き歪んだ愛に発展させたのか。そもそも語り手の男の話がどこまでが真実かも曖昧。
実は敵軍に殺されたのではなく語り手の男が殺し話を美化したのかも。
戦争の狂気、宝石の魔力が男を狂わせたのか?
結末も曖昧なので読み手に委ねられる。
「強制的な肉体の結婚」という言葉が衝撃的だった。
『疑惑』 芥川龍之介
芥川らしい繊細な男の物語。
罪の意識、良心の呵責から「本当は妻を殺したかったから殺した」のではと悩み苦しむ男の話。そもそも本当に殺したいと思っていたら、そんな長期間悩まないのではないだろうか。
妻を愛していたが故に自分を罰するために「愛していないから殺したことにしたかった」という風に思いたい。
どうもこの物語の主人公の男が芥川自信の心の葛藤を投影しているように思えてしょうがない。
「今日私を狂人と嘲笑っている連中でさえ、明日私と同様な狂人にならないものでもございません」最後の台詞がこころに妙に残った。
耽美文学は面白いとか面白くないではなく
耽美的、幻想的な世界観を楽しむもののように感じた。
たまにはこういう変わった世界観を味わうのも良い読書経験になった。
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『山月記』、『名人伝』、『弟子』、『李陵』の4作品が収められた短編集。
中国伝記や古伝説に取材した著者のどの作品も、常に「自己のあり方」を見つめ続けている。
詩作、弓、儒家の道、軍師。それぞれが抱える苦悩や葛藤や孤独感は、現代人が抱えるアイデンティティクライシスに異としない。
自分の弱さや克服できないこと、曲げられずに意地を張ってしまうことは誰しもある。
作中の登場人物達は、それを自らが明確に自覚し、どう向き合うかを自分が考えることが大切であることを教えてくれているような気がした。
複雑な人間関係や自己実現性への挑戦を諦めず、悩みながら曲がりなりにでも、なるべくまっすぐに、「自分を生きる」ことを目指してゆく主人公達の姿は、本当にかっこいい。
高貴で美麗な人物描写の中に、運命の儚さや虚しさを絶妙にしまい込み、読者の胸に言葉の深みを染み込ませてくれる感覚を覚える。
元史料に基づき中島敦氏の言葉によって、繊細で明瞭で丁寧に描き出された懐疑的自我は、どの読者もが自己のあり方を見つめるきっかけとなるに違いないだろう。 -
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ふとある芸人さんの本の内容を思い出した。
まったく本を読まない芸人さんの読書経験を綴った本であったが、「どうして単に文字が並んでいるを読むだけでシーンが頭の中に浮かぶのか、この仕組みは一体なんなのだ」…というようなことだったが、それもまた文字の精霊の力、ともすれば文章の精霊の力というものなのだろうか。
たしかに、なんでもない文字という記号の列だけで、見たこともない文明の街並みや老学者の様子が頭に浮かぶ。
それを元に、しきみ氏がこうしてイラストを添えている。
読書をする人間にとって、当たり前すぎることを、否、人間として生きるうえでも当たり前すぎることを、揺さぶられる短編だった。
…それも、文字を通しての体験というのがまた。
それを、誰かに伝える感想が、こうして文字打たれる形になるのもまた。