中島敦のレビュー一覧
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「李陵」
李陵と司馬遷、二人の不遇な男の物語。
祖国への忠心を頑に守るのか、柔軟に新たな恩義を大切にするのか、どちらの生き方が正しいのかは誰にも判断できないが、迷いのある者が苦しむことは確か。
「悟淨出世」
西遊記でおなじみの沙悟淨が、三蔵法師一行に出会うまでの話。自分とは何なのか、何のための人生なのか。答えのない問いにとらわれて苦しむ悟淨の姿には、誰しもが人生に対して感じる言いようの無いもどかしさが表れている。
案ずるより生むが易しという、簡単な言葉で殻を破れるのもまた、悩みというものの本質か。
「牛人」
魯の名大夫、叔孫豹のエピソード。突如叔孫豹の前に現れた生き別れの倅・牛が、叔孫を死の恐 -
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ネタバレ≪引用≫
地に落ちた矢が軽塵(けいじん)をも揚(あ)げなかったのは、両人の技がいずれも神(しん)に入っていたからであろう。
(なんじ)がもしこれ以上この道の蘊奥(うんのう)を極めたいと望むならば、ゆいて西の方(かた)大行(たいこう)の嶮(けん)に攀(よ)じ、霍山(かくざん)の頂を極めよ。そこには甘蠅(かんよう)老師とて古今(ここん)を曠(むな)しゅうする斯道(しどう)の大家がおられるはず。老師の技に比べれば、我々の射のごときはほとんど児戯(じぎ)に類する。の師と頼むべきは、今は甘蠅師の外にあるまいと。
「既に、我と彼との別、是と非との分を知らぬ。眼は耳のごとく、耳は鼻のごとく、鼻は口の -
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まず装画が怪しげで綺麗!いわゆるジャケ買い
あとタイトル『疵の迷楼』別世界へと誘い込まれるような魅惑的な感じに加え、名だたる文豪たちの作品に興味を引かれてしまう。
まだ、このとき耽美という言葉の意味を理解していなかった。ただ「美しい」くらいにしかとらえていなかったので読んでみたら本当の意味を思い知らされ、常軌を逸した世界への入り口だった。
なかなか普通の感覚では理解、共感し難い作品ばかり。どの作品も何かに心を奪われていたり、病的にのめり込んでいたりと現実からかけ離れていて危うい空気が漂っている。
抗いがたい好奇心や欲望、まるで[パンドラの箱]を開けてしまったようなそんな感じだ。
収録されて