小学校に上がるまで叔母をママと認識して育てられた娘が、小学校からは産んだ母の元で暮らし始めるお話
小学一年生、六年生、中学から高校へと成長していく各時期が描かれている
町田そのこは私からどれだけの涙を搾り取ろうとしているのか
一話毎に泣けるシーンがある
その涙を促した感情は悲しさだけではなく、救い、赦し、癒やしの要素を含む
母と娘の関係を描くという意味では過去の本屋大賞ノミネート作と同じテーマではあるけど、今作は寄り添ってくれる人の存在に特に救われる
世の中には、育ててくれている「ママ」と、産んでくれた「お母さん」という二人の母がいるものと思っていた宙
厳しいところもあったが愛情込めて育ててくれた風海と、イラストレーターとして注目され自由な振る舞いが魅力的なお母さんの花野
二人の母がいて「さいこーにしあわせ」だったが、宙が小学校に上がる時、風海の一家がシンガポールに転勤の話が持ち上がる
そこで、宙はどちらの親の下で暮らすか選択を迫られ、花野の方を選ぶ
今までは偶にしか会っていなかったために魅力的に見えた花野であったが、共同生活を送り始めると、宙の世話をすることもなく、ご飯の準備は人任せ、授業参観には来ないのに恋人とのデートには宙を連れていく
さらに、宙の内心を気遣う様子も見られないようだった
そんな宙を優しく支えてくれたのは、ご飯を作りに来てくれている、商店街でビストロを営む佐伯恭弘
恭弘は花野の後輩で、花野に恩があると思っている
花野への不満を溜め込んで家を飛び出した宙に、恭弘はとっておきのパンケーキを一緒に作ってくれ、レシピまで教えてくれた
その日から宙はレシピをノートに書き留めるようになる
・主な登場人物
宙
花野:宙の産みの親
風海:宙の叔母
恭弘:宙を気にかけてくれるビストロの店長(やっちゃん)
柘植:花野のマネージャー兼恋人
マリー:宙の同級生
鉄太:宙の恋人
遠宮廻:父親の刃傷沙汰起で高校を辞めた同級生
ヒロム:父親の起こした交通事故の許しを請う少年
智美:ビストロ サエキの従業員。恭弘の……
直子:恭弘の母
今作のテーマは「毒親」というものに注目されているように感じる
一般的ではない親が多数登場し、それが多段構造にもなっている
宙の母としての花野
花野と風海の母、そして祖母
風海も最初は理想的な母親に見えるが、実はそうではないことが伺い知れる
読み始めは風海が理想的な母親で、花野は母親として不適なように思えるけれども
年月が過ぎる事でその印象が変わっていく
宙を引き取ったことを後悔するような言動、花野と風海の父が違う事情、花野が実は料理ができるけどご飯を作らない理由
そんな花野も料理をするようになる
花野が母親になっていくというのもあるけど、宙と二人で親子になっていっているようにも思える
その二人の間を繋ぐ恭弘もいたけど……
また、マリーの母も一般的ではない
自らの望みを子供に託し、強要する母
マリーが、母性や親子の情を「かろうじて香る、プールに垂らした香水」と評しているのが悲しい
子供なんて、親がどう望もうと思ったようには育たないって
親だからではなく、どうしようもなく不器用な大人たちだと思う
花野、恭弘、マリーの母、鉄太の姉と父、智美、風海の父、5話の大人達なんて皆そう
あと、毒親や不器用な大人に伴って様々な問題が描かれている
不倫、育児放棄、モラハラ、ヤングケアラー、いじめ、贖罪、赦しの強要
大人だからといって何でもできるわけでもなく
子供も同じくできない事も多い
それでも、救われる人が多い社会であって欲しいとは思う
そんな様々な経験をしている宙の育ち方が気になる
鉄太と付き合い始めた理由が、「別れを経験してみたかった」というのは、この歳にしてはかなり歪んでいるなぁ
酷い理由ではあるけど、それでも受け入れる鉄太は良い奴なのか、それとも自分の当面の利益のみを追ってるだけなのか判断がつかない
まぁしかし、そのしっぺ返しが後にやってくるのだけどね
遠宮廻との関係が「耳をすませば」と似たシチュエーションではあるのだけど
二人が物語に求めるものの方向性の違いがなぁ
宙は適切に書かれてある答えを探し求めていて、遠宮は現実にはありえないハッピーエンドを受け取っている
遠宮にとって、それは救いにならないと思うのだけど……
どの話も重いけど、最終話が特に重い
過ちを犯した側が被害者に謝罪し、赦しを乞うのは暴力
そりゃぁ赦されてはいけない事はある
でも、それが過ちを犯した本人ではなく家族ならどうだろう?
ある意味で被害者でもあるけど、加害者側でもあるわけで、何より辛いかもね
この辺は「手紙」(東野圭吾)を読んだときにも思ったな
物語全体を通して、登場人物の印象が変わっていく
花野の印象が変わっていくのは当然として
風海も一旦は毒親だったのかという落胆もするけど、最終的には花野との関係性も新たに構築したり、家族としての再生が成されている
何より、恭弘の重要性がどんどん増していった
最初は、花野への一方的な想いを寄せているけど、物語の定番としては報われなそうという、可哀想な人物と思っていて
鉄太の家族を料理で癒やしたり、一時期は花野と付き合って再び幸せという山の景色を見せたり、智美を救い、寄り添ったり
何より、花野や宙の思考に影響を与えるまでの存在になるとはね
最終話では「ヒンメルならそうする」とばかりに「恭弘ならそうする」という想いからの行動だからなぁ
恭弘の存在が尊い
確かに、恭弘ならヒロムを放っては置かないだろうなぁと思える
町田そのこという作家は、家族という呪いを解く人なのだろうな
既存の常識や世間一般の理想とされる家族像とは違うけれども幸せな風景の方向へと向かっている家族を描いているように思える
本屋大賞で言うなら、「そして、バトンは渡された」(瀬尾まいこ)も同じように一般的ではない形態だけれども幸せな家族が描かれていた
やはり、本屋大賞はこんなヒューマンドラマが私の好みなのだと自覚した
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この物語は、あなたの人生を支えてくれる
宙には、育ててくれている『ママ』と産んでくれた『お母さん』がいる。厳しいときもあるけれど愛情いっぱいで接してくれるママ・風海と、イラストレーターとして活躍し、大人らしくなさが魅力的なお母さん・花野だ。二人の母がいるのは「さいこーにしあわせ」だった。
宙が小学校に上がるとき、夫の海外赴任に同行する風海のもとを離れ、花野と暮らし始める。待っていたのは、ごはんも作らず子どもの世話もしない、授業参観には来ないのに恋人とデートに行く母親との生活だった。代わりに手を差し伸べてくれたのは、商店街のビストロで働く佐伯だ。花野の中学時代の後輩の佐伯は、毎日のごはんを用意してくれて、話し相手にもなってくれた。ある日、花野への不満を溜め、堪えられなくなって家を飛び出した宙に、佐伯はとっておきのパンケーキを作ってくれ、レシピまで教えてくれた。その日から、宙は教わったレシピをノートに書きとめつづけた。
全国の書店員さん大絶賛! どこまでも温かく、やさしいやさしい希望の物語。
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