月村了衛のレビュー一覧
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面白かったー。これぞ、痛快ノワール小説。
主人公の凌玄は最初信心深く善良な僧侶なのだけど、少しずつ悪に染まっていく。
この悪に染まっていく度合いが半端じゃなくて、本当にもうただの悪なんですよね…人もバンバン殺すし。
良心の呵責に苦しむ場面は最初の方だけで、あとはもう一気に悪の道をひた走っていくのだけど、悪すぎてむしろ爽快感すらある。
正しいことをするには力が必要で、力を得るためには正義に相反する汚いこともしなければならない…というのは、この世界の偽らざる真実なのかもしれないけど、権力と金を手に入れると人は堕落するんですよね…。こういうのは仏教界に限らず、政治の世界でも同じだよなぁと思ったり。 -
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ネタバレ「スクールカースト」「いじめ」「受験」「貧困」「タイパ」「東横キッズ」「闇バイト」などの社会問題を扱った本書。令和の都心部に住む若者の生きづらさが過酷。そんな過酷さの中で生き残る術は「普通」であること。目立ちすぎず、下に見られず程よいバランスをキープする。
本書は、闇バイトで殺人を犯し捕まった一般的な子が、いかにして犯罪者になったかを自身の幼少期から振り返り、3通の手記にまとめ、読者はその内容を読んでいく形で展開する。
とても読みやすく、運の悪い状況に同情する側面もあるが、その子の思考の展開の中に妙な気持ち悪さが通底しているのが怖い。本書ではその気持ち悪さを「薄っぺらさ」と表現している。
「普通」を維持するために「タイパ」が良いからと「闇バイト」に簡単に手を出して犯罪を犯してしまう。仕方がないと諦めてしまう。合理性を優先するが故に、倫理観が破綻した思考は、完全にホラーであったし、現代的なのかもしれない。
好感が持てたのは、そういった若者批判に収まらず、現代に生きる人すべて、誰でもそういったホラーな考え方を持っている事は否定できないと述べている事。それを行動に移すか移さないかは、人生経験などによって変わるのだろう。 -
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女子大生夏芽の一年間の冒険譚というと作品のイメージがガラリと変わってしまいそうだが、最後まで読み切るとこの作品の主人公は間違いなく夏芽であり、その役割を真っ当している。作中、全てのキャラクター造形が際立っており、親友の紬以外はバックボーン含めて想像できる様な描き方がされている。それぞれの登場人物達は皆魅力的で、謎の老人である鳴滝も、彼の知人である剛田も、夏芽の大学の教授である榊も、まるで彼らが登場する作品を過去にみてきたかの様に生き生きとしている。
一点残念な部分があり、表紙に夏芽と鳴滝の姿が描かれている点で、時に鳴滝についてはミステリアスな要素を残しながら、読者に人物を想像させて欲しかった。イメージとかけ離れているわけでは無いが、夏芽含めて少しだけ、想像のビジュアルとギャップがあるのは残念な要素だ。
大きく四つの章から構成されており、一つ目、二つ目は世界観の共有、3つ目が最大の事件、ラストが大団円の構成になっている。どの章も面白いが、最終的な物語の締め方は、何故この作品が「おぼろ迷宮」であるのかを充分に表現しており、夏芽が迷い込んだ不思議な数々の出来事や出会いが、ノスタルジックな描写で霞んでいく、飲み込まれていくイメージの作品だ。
鳴滝という謎の老人が、ぼろぼろのアパートで生活しながらも、時に鋭い洞察や判断、時に夏芽と甘いもの談義を交わす和やかさと魅力的で、正体等もっとぼかして欲しかったなあ、と思う反面、第三章は正体がわかったからこその物語であり、難しいところだ。鳴滝がシリーズ化しながら他にも沢山の人が増えていき、実はあの人物がこうだみたいに派生していく事ができそうな、世界観が広い作品に思う。
それぞれの事件自体が重苦しいものではなく、「謎」について最大にフォーカスされているので比較的軽めに読む事ができるし、徐々に打ち解ける夏芽と鳴滝のやりとり、食レポは個人的にとても楽しかった。 -
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「虚の伽藍」で著者の存在を知り、本作はまったく違った雰囲気を醸し出しているので手に取ってみました。
表紙からして昭和感が漂っていますが、作風もまた、どこか懐かしい昭和の空気感があります。舞台は現代(令和)なのに、アパートや地名など、そこかしこに“朧”という漢字が登場するせいでしょうか。全体にノスタルジックでレトロな雰囲気が流れているのです。
(「乱歩と千畝」を読んだ流れで本作を読んだせいか、余計にそのレトロ感を強く感じました。)
それにしても、思いっきり人情モノに振ってきましたね。笑
しかも、読み心地はとてもライト。
月村了衛さんは重めのテイストを描く作家だと思っていたので、そのギャップにやられました。
「おぼろ迷宮」を読んで感じたのは、「人は人に生かされているんだな」ということです。
ITやAIといったテクノロジーをどう使いこなし、いかに効率よく働くかが求められる毎日ですが、それだけじゃないよなぁ、と思うのです。
ちょっとした効率の悪さ(手間)が、楽しみや苦しみを生み出し、人との関わりを広げてくれることもある。
女子大生・夏芽と老人・鳴滝が事件を解決していく様子を眺めていると、そんなことをしみじみ思わされました。
そんな中で、私が好きなシーンは“プリンの食べ歩き”の場面です。
謎解きの最中、夏芽と鳴滝が洋菓子店を回りながら人探しをする――という名目で、ひたすらプリンを食べ続けるシーンがかなりのボリュームで描かれています。
目的はあくまで聞き込みなのに、いつの間にかプリンが主役に。笑
途中で「プリンを食べなくてもいいのでは?」と気づくも、うんざりしながらもプリンを食べ続ける二人の姿が想像できて、思わず笑ってしまいました。
そして、本作で特に印象的だったのは、罪の償い方がちょっと変わっている点です。
罪を犯した人が、法律ではなく“別の方法”で償っていくのです。
今の時代、世の中はあまりにも世知辛い。
本作のような結末は、現実ではありえないのかもしれません。
でも、せめて物語の中だけでも、こういう償い方があってもいいじゃないかと思うのです。
“正しさ”とは、置かれた立場や、それを判断する人の視点によって、いかようにも変わってくる。
だからこそ、“正しさ”って、ひとつじゃないんじゃないかな……そんな余韻を残す作品でした。 -
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第68回日本推理作家協会賞
第12回本屋大賞第5位
自衛隊海外派遣は前提として、自衛隊は軍隊ではないので戦闘はしないし、ましてや戦死者が出ることなどないという。
本当にそうなのだろうか?
何が起こるかわからない危険地帯で、本書のようなことが起こっても不思議ではない。
舞台は内戦の続くソマリア。砂漠気候でうだるような暑さの中、ひたすら援助を待ちながらの移動と死闘。
あまりにも過酷な状況に読んでいるだけで苦しくて、早く読み終わりたくなった。
後半はみんな満身創痍すぎて、誰がどこを負傷してどの配置なのか訳がわからなくなり、極限状態を垣間見たような感覚。
最後はなんて表現したらよいかわからない感情になり涙が止まらなかった。
戦闘シーンの描写が多くて、それ以外は殆ど移動と隊員同士の会話。
テンポ良く進む小説が好きな私としては少し辛抱が必要でしたが、この状況ではその方がリアルなのかも。
隊員たちと共に思わず泣いて、自分も同時に一喜一憂しながら緊張状態にあったのだと初めて気づいた。 -
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C市C大に通う三輪夏芽がいつもの和菓子屋にバイトに行くと、バイトは他にいる、帰ってくれといつもと違う人に店長と名乗られ追い出される。訳が分からず翌日また訪れると、昨日どうして来なかったの?大変だったんだよといつもの店長に言われ、ますます訳が分からなくなる。防音などないおんぼろアパートに住んでいるため、友人への通話を隣に住む鳴滝老人にきかれ、なんと彼は鮮やかに謎解きをする。そして、どうやらこの老人、こんなアパートに住みながら権力を有する人のよう?そしてダンディーでスイーツ好き?謎。
日常の謎系のほんわかとした雰囲気でお話が進み、主人公の夏芽も少し抜けているような性格。鋭い謎解きは老人担当だけどのんびり調です。ブラインドで読んだら100%作者を当てられない本でした。月村了衛好きは逆に読んだ方がいいのでは...?
ルビはないけど読みたがれば小学生でも大丈夫。基本は中学校以上。 -
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ネタバレタイトルだけはずいぶん前から知っていて気になってた作品。手に取るのにずいぶん長くかかってしまった。
作者曰く「初めに銃ありき」、まさにM1851ネイビーのための小説で、主人公残月こと郎次は銃に振り回される役どころ…と言っても魔銃に振り回される怪奇小説の類ではなく、あくまでアクション主体。
さらに言うと活劇ウェスタンでありチャンバラであり、何よりも正統派のノアールだということが大事な部分。その要素の美味しいところを抽出して組み込んで仕上げているのが良い。
あまりにも正統派かつ王道過ぎて、展開が読めてしまう部分が多いのが若干マイナス要素ではあるが、マンネリを理解しつつ時代劇ドラマを楽しめる素養があるなら、問題なし。
コルトシリーズは他にもあるようなので追いかけてみようと思う。 -
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機龍警察シリーズ、短編集。
長編を4作立て続けに読んだ勢いもあったので、1作品が短い、もうちょい続き読みたいっという気持ちが沸く。えっ!この先どうなったの?って所で終わる作品が多い。でも短編てこんな感じのテンポになるよね。
個人的イチオシは、『勤行』。宮近理事官の真摯な仕事ぶりとご家族への愛がギュッと詰まった短編。
長編での疲労(読み応えがあるが故の、良い意味の疲労である)を癒してくれる。
笑ってはいけない、宮近理事官は真剣なんだ…と思いつつも、えっ!と言うようなアクシデントに見舞われる宮近理事官。無事ミッションをクリアし、果たして娘さん、奥様の信頼を勝ち取れるのか⁇
機龍警察のキャラの中で一番(良い意味で)、人間臭い気がする。出世欲もありながら、根は真面目で奥様と娘さん、同期の城木理事官など、周りの人達を大切にするからこそ、時に判断に悩む顔も見せる宮近理事官。
これまで、宮近or城木で言ったら城木派だったけど『勤行』を読んだら宮近派になりそう。
『勤行』でクスッとしてたら、最後の『化生』で、現実に引き戻される。あぁ、そうでしたよね、機龍警察はまだまだ得体の知れない作品でしたよね…って。
てことで、続きの長編5作目『狼眼殺手』を読もー!
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今までの骨太な社会派ミステリーとはガラリと雰囲気が違って少々戸惑ってしまったほど。
軽快で面白さもあり、キャラも際立っていて楽しめた。
おんぼろアパートの「朧荘」に住む女子大生夏芽と隣りに住む老人・鳴滝が、身近に起こる不思議な事件を解決していく。
先ずは、夏芽がバイト先で不可解な出来事を遭遇したことをアパートから友人に電話で喋っていたところ、それが隣りの老人に筒抜けで…
翌日、散歩中に老人に誘われて洋菓子店『プリムローズ』でケーキを食べながら、不可解な出来事を詳しく話すことになり…
この鳴滝老人が不思議で、謎の人脈があるのか瞬く間にサクッと解決してしまうという。
2話から振り込め詐欺かと思いきや…これは犯罪なのかと考えてしまう事件で、いつものようにケーキを食すのもあり。
ここから榊准教授と剛田が登場。
3話は、少し複雑になり榊准教授もちょっと関係ある事だったり…警察内部の隠された闇を知ることに。
剛田の正体もわかったと同時にもちろん鳴滝老人が何者だったのかもわかる。
ケーキじゃなくてプリンの食べ歩きはキツいだろうなと思うところもあったりと、けっして暗くはならない結果となる。
4話は、「朧荘」の最後かと思うくらいに纏まり盛り上がる。