月村了衛のレビュー一覧
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日本在住の北朝鮮籍の人が『帰還事業』で1959年12月14日の第一次船から1984年まで約9万人、集団移住した話です。とにかく強烈な追体験ができます。3部立てとなっていて、1部は第一次帰還の前に、日本に住み帰還を勧めていた側の在日高校生の目線で語られます。この部分が一番話も進まないし、移住しても絶対に幸せにならない未来を私たちは知っている上、当時の非人道的な在日差別を追体験し、読むのが辛いです。
第2部は1部で語り手だった孔仁学の親友、勇太が体験していく、移住後の帰還者たちの暮らし。とにかくここが壮絶を極めているので、恐ろしいのに読む手を止められません。そして、短めの第3部は日韓共同開催ワール -
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1959年から開始された北朝鮮への帰還運動による悲劇をめぐる在日朝鮮人の青年二人の物語。
日本国内での、在日朝鮮人に対する執拗ないじめ、勉学に励んだところで就職先もない、健康保険に入れないから病院にもかかれないなどの、絶望的な状況があったところへ、「地上の楽園」北朝鮮への帰還事業が始まった。
これには、朝鮮総連のみならず、共産党、社会党、自民党の超党派の議員、その上、マスコミもこぞってこの事業を賛美する。
優秀な高校生である孔仁学は、北朝鮮を礼賛する本に影響を受けた上、総連にそそのかされ、この運動にのめり込み、多くの人を北朝鮮に送り込むのだった。
あまりの悲惨さにページを捲る手が止まらず一 -
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重い、とにかく重い。
本作の感想を一言で言ってしまうとこうなりますが、『重い』という言葉だけで片付けられるような話ではありませんでした。
また、このような悲惨な事案に再び人々が巻き込まれるような事があってはならない、とかやはり差別はあってはならない、などと言ってもそれはどこまでいっても綺麗事でしかない、と思わずにはいられないほどに色々と考えさせられました。
今はまだ読み終わったばかりなので色々と思うところがありすぎてうまくまとめられないのですが、とにかくまずはこの本の末尾に列記されている参考文献をいくらかでも読んでいきたい、そして日朝の歴史についてわずかながらでも理解を深めたいと思いました。 -
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地上の楽園
あの頃、誰もがそこに夢を見た
あの頃、誰もがそこに憧れを抱いた
あの頃、誰もがそこに希望を求めた
日本での酷い差別に、苦しい生活に耐えれず、希望の楽園へ渡ったおよそ9万人の在日朝鮮人(日本人妻は約1800人)
今でこそ地上の楽園なんてものは偽り、そんなものは存在しないということは百も承知である
しかし、あの頃にはそんなことがわかるはずもない
差別のない、希望に溢れ、安定した夢のような生活
彼らはただそれをを求めて祖国へ向ったのだ
だが、希望の楽園へという偽りの国で彼を待ち受けていた真実とは!?
日本以上に厳しい差別が待っていた
その日その日の命をつなぐのが精一杯 -
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1959年の大阪で、朝鮮学校の中等部を卒業した仁学は大学の受験資格を得るために公立高校へ進学したが、虐めや暴力、そして差別のなかで唯一の味方であった山崎先生から一冊の本を勧められる。
『38度線の北』を読み終えた仁学は、「地上の楽園」と称される北朝鮮への帰国運動に力を入れるようになる。
幼馴染の勇太が、ヤクザの抗争に巻き込まれたことで、勇太に「帰国」を勧める。
仁学が北朝鮮への帰国を勧めてからのその後を第一部に勇太が北朝鮮で経験したことを第二部として描かれている。
地上の楽園はまやかしだった。
十万人近くを地獄へ送る壮大な罠だった。
なのに、今日に至るも、責任を取るどころか、誰も謝罪すら -
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ネタバレ2025/09/25予約9
星5では足らない。
北朝鮮帰還事業、こういうことだったのか。不勉強でわからないことが多すぎて調べながら読み、第一部で孔仁学のつき進む方向がそっちじゃないのに頭がよく正義感に溢れた若者だったからか、そそのかされうまく使われてしまう。今読んでいる私たちは間違いがわかるが、当時は知識って本からあるいは信頼する人から得るもので、偏ってることがわからない。リアルタイムの情報も無く信じて北朝鮮に帰還(帰国)するなんて。第二部はとにかく辛い。金賢姫の手記を読んだ時の驚きがよみがえった。家族をみんな失ったのに脱北し生き続けた玄勇太、私の語彙力ではすごい、以上の事が言えないのがもどか -
Posted by ブクログ
高市政権になり、拉致被害者問題が微かにだが動き出す可能性を感じる昨今、その根っこにある北朝鮮帰還事業の欺瞞と闇を、そして騙されて北朝鮮に渡った在日朝鮮人および日本人妻たちの生き地獄という言葉では生温いほどの無間地獄を、忘れさられることを強く拒否するような強烈な言霊を容赦なく読者に投げつける、月村氏渾身の大傑作。同胞を裏切り続けて地獄に送る様は、ある意味ホロコーストよりたちが悪く、スターリンや文化大革命の大粛清に匹敵する悪行であり、人間がどこまで悪になれるのかの見本市のよう。その無間地獄の生き残りが、それでも見出す希望とは、歴史を風化させないための言霊を後世に残すことだった。本年の、そして月村氏