橋本治のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
江戸時代の江戸の歌舞伎の説明である。現在の歌舞伎と共通するところもあるが、かなり違っていて驚かされる。決まりごとが多いのに、守れないなら仕方ないというところ。昼間にしか興行しないので、時間切れになったら打ち切ってしまうところ。いい加減なようだけれど、江戸時代の人はそれも含めて、芝居を楽しんでいたのだろうと、少しだけわかった気がする。型があるからこそ、役者絵や芝居の絵が人気があったんだろうと、少し前に見た絵金の展覧会を思い出したりもした。
わかりやすく書いてあるのだけれど、時々、理屈っぽいなぁって思うところもある。格好良い挿絵は誰が描いているのかと思ったら、作者本人によるものだった。ニッチな内容 -
Posted by ブクログ
これは前代未聞の迷著の名著ではないだろうか。
著者の言い回しが、複雑巧妙で、冗談か本気かわからないところが随所にあり、正直言って、頭が悪い私は振り回されて、ついて行くのがやっとである。
何よりも、「じいちゃんと私」の一節を紹介したい。タイトルの「小林秀雄の恵み」の意味がわかる。
<たとえて言えば、小林秀雄は、私に親しい「じいちゃん」である。「また学校で、先生に怒られた!友達の笑われた!」と言って帰って来る孫の私に、「なんだ、そんなこと気にするでねェ。昔の人はな、こういうことしてたんだぞ」と言って、とんでもなく難解な例を持ち出した慰めてくれる――こんなへんてこりんな小林秀雄の読み方をした人間は -
Posted by ブクログ
最初はあまりの「くどさ」にあえなく挫折。数年後、読み方を変え、再チャレンジ。今度は完読。読み方があるのだ(「くどさ」の理由を知るといいかもしれない)。
編み物のあの字も知らなかった橋本治、古文が苦手で『枕草子』をちゃんと読んだことのなかった橋本治。その彼がいかにして編み物の達人になり、清少納言になり通し、『男の編み物』や『桃尻語訳 枕草子』といった本を生み出したのか、そのメイキングについて語る。
周囲はわかっているのに、自分はどうしてもわからない。その「わからない」から出発するというアプローチ。先入観、定説や常道・常識をふり払い、ナイーヴに一から、自分が納得する形でわかることを積み上げてゆく( -
Posted by ブクログ
凄いものを読んでしまったような気がする。事実が時系列で並べられているだけなので、不思議なことはなにもないはず。なのに、これに類するものは読んだことがなかった。
いにしえの日本語は、文字がなかったので、書き残せなかった。中国から漢字が入ってくることによって、初めてなんとか書き記すことができるようになった。しかし、どう漢字を使うかについては試行錯誤。簡便な表音文字として、各種の万葉がな、次にはカタカナやひらがなが生み出された。公けの文書は漢文や漢字が基本、その読みの補助としてカタカナが用いられた。そしてそれは男だけのもの。一方、ひらがなは女性のもの。和歌はおもに女性が詠み、ひらがな書きした。そして -
Posted by ブクログ
2047年、橋本治、98歳、栃木県の日光の杉並木にある被災者住宅にひとり住む。数年前に東京大震災が起こり、家を失ったのだ。
近所の杉林には、プテラノドンが営巣している。どこかのばか学者がゲノムなんたらでプテラノドンを再生させてしまった。この作品中では、自衛隊によるその駆除が行なわれる。
でも日常は日常。老人の日常も、平々凡々とスローに過ぎてゆく。
仕事柄、お金にならなくても、とにかくこの日常を書き綴る。そこに心の声が解説やら突っ込みを入れる。モノローグなのか、ダイアローグなのか。掛け合い漫才よりもおもしろい。それにこの老人がしゃべるトリビアも最高。
橋本治はよく作品中の登場人物に憑依してしまう -
Posted by ブクログ
『桃尻娘』シリーズ(全6作)の完結編。1冊まるごと、温州蜜柑姫こと、醒井涼子だ。
結婚して子どものいる醒井涼子、30歳、誘拐をめぐる冒険活劇、これが第1話。第2話はお見合いで、26歳。第3・第4話はイギリス留学で、23歳。第5話は舞台が横浜・山下公園で、20歳。第1話から第5話へと、時間をさかのぼるという粋な構成。
なかでも第3話が読みどころ。舞台はイギリス。醒井涼子は上智大学英文科卒。度胸はあって、でもナイーブで、頑張り屋。実家はキャバレーチェーンを経営していて、裕福。彼女がオックスフォードに短期留学する。彼の地のディテールも彼女の心の機微も実にリアルに描かれている。橋本治はおそらく現地ロケ -
Posted by ブクログ
1983年8月刊。橋本治34歳、『その後の仁義なき桃尻娘』の次の書き下ろし作品。いま読んでも(orいま読むからこそ)、おもしろい。2022年に集英社から新装版が出た。
1983年1月14日に始まる殺人事件。その頃のニュースやTVドラマも登場するので、まさにリアルタイム小説。探偵役は25歳、東大卒のイラストレーター、田原高太郎。彼の独白や内言と会話の形で物語は進んでゆく。『獄門島』『犬神家の一族』『不思議の国のアリス』を用いるなど、伏線の張り方も巧妙。上質のミステリー……と思いきや
最初は、橋本治特有の語りや会話の冗長・冗漫さ、反復や反芻が鼻につく。ところが、不思議なことに、読んでゆくうちに、そ -
Posted by ブクログ
長い落語である。
真冬のデンマーク。真夜中、城壁のてっぺんには、北風が吹きつける。「うー、さぶい。さみい! 出ねェなァ」と言いながら、父の亡霊を待つ、ご隠居のハムレット。それにお供するホレイショー。ともに齢80を過ぎている。のっけから、落語の名調子。
『ハムレット』の原作通りのオールスターキャスト。みな高齢だが、それぞれ自分の文脈、自分の世界で生きているのがすごい。大臣のポローニアスなんか、108歳だもんね。尼寺に行ったはずの娘オフィーリアも70過ぎてるし。でも、筋書きは一応原作に即して進行する。違うのは、だれも死なないことか(みな棺桶に片足を突っ込んでるけど)。
物忘れ、記憶違い、勘違い、遠 -
Posted by ブクログ
タイトルに一目惚れした。思うに、住まいの国における古典について持ち合わせていた言葉が少なかった。そして、自分の扱う言語が、現代の日本語に限られてしまうのが勿体ないような気がしていた。そんな悩みに応えてくれるのではという期待を胸に、本書を手に取った。
結論を端的に言うなら、本書はそんな私の期待に十二分に応えてくれた。そもそも過去の言葉を扱う上で日本語にはかなり不利な面があることを踏まえることから議論が始まる。一口に日本の古典といっても、漢文と和文、文語と口語というような様式は一定でない、そして、たとえ平安の世に成立した物語でも、その意味ないし教訓のようなものは時代と共に移り行くのだという。
まと -
-
Posted by ブクログ
千年前に書かれた小説を、現代人にもわかりやすく、そして原文よりもさらに原文に忠実に伝えたいという橋本先生の思いが詰まった窯変源氏の執筆課程裏話がてんこ盛りの下巻でした。
たしかにそう言われてみれば窯変源氏は忠実な現代語訳ではないです。
ただ、読んでいて「そうそう、源氏ってこういう冷たさがあるよね」とか、「女君の気持ち、こっちの方がしっくりくる」と思うことが多かったです。
それは、現在人に寄せて私たちが理解を深められる工夫をしてくれていたからだったのですね・・・なんというか、感無量でした!(再読なのにすっかり忘れていた)
具体的にはどんな手法を使ったかというと、
紫式部が書こうとして書けなか -
Posted by ブクログ
ネタバレ源氏物語の訳本のなかでダントツに好きなのが著者、橋本治先生の窯変源氏物語です。
(桃尻娘を読んだ世代なので、先生呼び!)
本書はそんな窯変源氏の執筆にあたって著者が考えていたことをつらつらと綴った一冊です。
再読だけど、遠い昔に読んだきりだったので、新鮮に楽しめました♪
私なんかは思います。という語り口が懐かしかった~
とはいえ、すっかり忘れていたことも多かったし、難しくて理解できない所が多数ありました。
それでも、著者がつらつらと綴っているので私もつらつらとりとめもなく感想メモを書いてみようと思います。
まず、源氏物語は漢詩の対句的表現にあふれてるという指摘が面白かったです。
五条で女童 -
Posted by ブクログ
とっても面白かった!
古典は慣れること。書かれた時代、言葉が違うのだから難しいのは当たり前。
まずは冒頭を覚える。暗唱するまで。
余計な知識はいらない。
そして「をかし、あはれ」など、
当時の人たちが感じていた感情を同じように感じてみる。
月を見よう、梅の花を嗅ごう。(P228など)
P181 「古典を書くのも、いま詠むのもみんな同じ人間。だからどこかに接点はある。昔の人たちもみんなその時代に生きていた。現代人だった。」
P219 古典が教えてくれるのは、
「え、昔から人間はそうだったの?」
という人間に関する事実。
とんでもない(元)現代人でいっぱい!
☆P62
紀貫之が古今和歌集の序 -
Posted by ブクログ
深い。深すぎる。これで橋本氏の著作は読み収めかと思うと何とも残念だ。こんなにも人々のモヤモヤを端的に表現できる人を他に知らない。
オヤジの権威低下という卑近な題材から始めて、ジェンダー論や政治論、更には組織論まで父権性の崩壊に由来する社会課題の本質を鮮やかに描き出している。1年にわたった雑誌連載だと言うのに、最初から最後まで首尾一貫した完璧な構成で、一体この人の頭の中はどうなっているのかとただただ驚くばかりである。
オヤジを成り立たせている『男が女を支配する』という『論理』が豊かさのお陰で消滅し、自由になった女が『それっておかしくない?』と声を上げているのが今の状況。それを理解できない一部(大