橋本治のレビュー一覧
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ネタバレ著者のことは私昔からかなり尊敬していたんですけど、この本を読んだらなおさらその気持ちが強くなりました。
橋本先生やっぱり素晴らしい!知の巨匠だ天才だ!
この本は、著者の代表作のひとつである「双調平家物語」を書くにあたり橋本先生の歴史考察をまとめた本です。
平家物語についての考察のはずなのに話は古墳時代まで遡ります。
というのも、双調平家は裏の主題として「平安時代的な政治構造の終焉」を描いているから。
平安時代的な政治構造とは、藤原氏などの有力者が天皇に娘を贈り、これを后にして皇子を得、この皇子を天皇と立てるという構造のことを言います。
院政の時代にこの構造は一時あやふやになりま -
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本書で著者は、「美しい」とは「合理的」ということだと主張します。ただし、「美しい」が自分のなかで生じる感動なのに対して、「合理的」は「他人の立場からの説明」である点にちがいがあり、それゆえ「合理的」ということは「他人の声」として理解されるものだとされます。「感動してしまった自分自身」を納得させようとして、ことばに出して説明するとすれば、それもまた「他人の声」です。
そして著者は、「美しい」という感動に打たれてしまったとき、ひとはそれを理解するためのことばにたどり着くまでに「時間がかかる」といいます。「美しい」とは、合理的かどうか判断するまでの時間のなかに存在するのです。しかしその一方で、対象 -
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ネタバレ「美しい」がわかる人と、分からない人。
「美しい」を実感するということは、「シンボリックに自分を語ってくれるものを発見する」ということで、それは理解されない孤独を癒す友達のようなものである。
そして、そもそもの始めに「美しい」を実感するためには、他者の愛情という「豊かさの力」が必要である。
しかしながら、人は「孤独」という「自由」に安住することなく、成長=自立に向かわなければならない。センチメンタリズムなどという言葉で孤独からの脱出をひとたび放棄(=時間の囚人)してしまえば、それは「美しいをわからない」ことなのだ。
「美しいを実感すること」は敗北を知ることに似ていて、その「実感」の先 -
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ネタバレ三島由紀夫の作品をロクに読んでいない自分だが、橋本治の迫る三島由紀夫像に引き込まれた。他者と関わりたくて、仮面の下の彼は「無」である。「塔の中にいて、塔の外を望みながら、塔の外に出ることは拒む」という感覚に、身につまされる思いがした。
同性愛、マッチョ、右翼、自殺という表層的なイメージで三島を捉えるのは間違いで、作品から滲み出ている彼のベースはとても繊細で中性的である。
ただし、橋本の捉える三島像では、結局のところ彼は肥大した自己のためにコミュニケーションをうまくとれなかった人ということになるのだろうか?美意識や感情の拒絶、愛の表現方法など、一読では消化不良なことばかりで、三島作品ととも -
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良い問いは人を成長させる。
やなせたかし氏は、かつて書いた「まんが学校」のなかで、こんな問いをしていたそうだ。
「あなたは馬のさかだちが描けますか?」
いくら馬のデッサンがうまくてもそれは漫画ではない。
現実にありえない馬のさかだちを描けるかどうか。
さて、橋本治の書く文章は、ひたすらに問いが進んでいく。
よくありがちなつまらない答えに着地することなく、出かかった答えに対して、なぜその答えが出たのか、あるいはその答えは本当に正しいのか、ひたすらに問い続けて話が進んでいく。
ビジネスでは「結論から書きなさい」と言われる。
その観点でみたら、決して良い文章ではない、ということになるだろ -
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初版の日付を見て驚く。こんな前の本だったのか。
書いた当時よりも状況はもっと悪くなっていると思うが
今読んでも至極まっとうな内容が詰まっている。
橋本さんは本当に頭が良い。
戦国武将の時代から話を始め、
バブル後の「勝ち組負け組」の単純な言葉の裏にあるめんどくささを一つ一つほどいてみせ、
経済とはもともとなんなのか、と根本に帰り、
今や「フロンティア」は「欲望」にしかない、まで来た時は
素晴らしすぎてひっくり返りそうだった。
恐ろしい話だ。
「必要」はもう十分に満たされ、
それでも発展していくにはもはや「欲望」というマーケットに進出する以外の場所はない。
「欲望」には具体的な形がないし終わりが -
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ネタバレ橋本治の最新短編集。どこにでもいる家族や男女の肖像と日常を、そのディテールまで繊細に描かせたらこの人の右に出るものはいない。
そして今作は、震災を通して人間の心理変化や関係性の変化を切り取った作品が多い。「助けて」や「海と陸」で描かれた「震災後」の情景の1つは、どこまでも続く「無」への恐怖であり、「在」であった陸が震災によって「無」になったことの絶望感が人間心理を通して情景とともにヒリヒリと伝わってくる。
「海と陸」で描かれる、自分の感情に正直に生きる強い女の葛藤と、そんな女が「どうとも思ってない」男だから馴れ馴れしく抱きつくことができるという不思議さ、というのは男と女のリアルな関係性。「 -
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ネタバレ軽いタイトルと軽い表現の裏に濃厚な味がする本でした。
古典の内容よりも、漢字・漢文という外国語が日本に到来して、それをいかに日本人が悪戦苦闘の末、克服して現在に至ったかを、古典を通じて、橋本流の面白い比喩を駆使した解かり易く丁寧な説明で、楽しく読むことが出来ます。
漢文だけで書かれた『古事記』や『日本書紀』、漢字を使った万葉仮名の『万葉集』、そして「ひらがな」だけで書かれた『源氏物語』『枕草子』などを経由して、鎌倉時代にはいり『方丈記』をへて『徒然草』の和漢混淆文の完成にいたり、現代使用されている日本語に近づいたとの道筋をチョコチョコと寄り道をしながら楽しく読ませてくれます。
カタカナは漢 -
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「あまでうす」などと名乗っているくらいだから私は西洋の音楽が大好きで、とりわけモザールのオペラなどを見聞きしていれば上々の気分なのですが、それよりも好きなのがなにを隠そう浄瑠璃なのでありまする。
浄瑠璃、すなわち三味線の調べに乗って太夫が「語る」江戸時代の音曲、あるいは歌舞伎の下座音楽に耳を傾けることが出来れば極楽極楽で、あとは何も要らないと断言する著者には我が意を得た思いでした。
著者によれば、そもそも日本の音楽はメロディラインではなく「拍子」を軸にしているので、例えば人形浄瑠璃の三味線と太夫の語りも(小澤征爾の死んだ音楽のように縦と横の線を顕微鏡的に合致させることなく)それぞれが勝手に -
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橋本治さんの思考は、とても粘り強くて、とても深くて、とても色んな道があって、とても恥じらいがあって、とてもしなやかです。
だからとてもゆっくりです。
橋本治さんは、この本の中で小林秀雄さんのことを
「おじいちゃんのよう」と表現されています。
そしておじいちゃんである小林秀雄の恵みとは
「学問は面白いんだよ」
とおっしゃってます。
最初からそのことを分かって書かれたのではなく、
書いてるうちに、調べているうちに
「どうやらそんな感じなんだ」ということが分かったという過程は、
「そもそもこの本を書いたのは、小林秀雄賞という賞をもらって、ならば小林秀雄について何か書かなければ -
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相変わらず、日本社会に対する批判の書であろうとは思う。そして、相変わらずわかりにくい。結局、何をいいたいのかよくわからない。そんな印象もある。
橋本治の本は、筆の向くままにいろいろなテーマが繰り出される。それに対して、丁寧に説明したりしなかったりする。しなかったテーマはそのまんま宙ぶらりんである。
橋本治という人はユニークな思考パターンを持っている人だ。それは世間に流通する「常識」とされる考え方によらず、自分自身の思考を積み重ねてきた結果なのだろうと想像する。
最も印象に残ったのは民主主義のこの先について語っている終盤の次の言葉だ。
『自分の利益ばかり求めていた王様は、その結果すべてを