双調平家物語13 治承の巻2

双調平家物語13 治承の巻2

小説・文芸
1,152円 (税込)

5pt

4.8

中宮徳子の懐妊──待望の男子(後の安徳天皇)誕生に、平氏一門は湧き返る。だが、摂関家の北政所である白河殿盛子、さらに、病を得ていた重盛が世を去ると、後白河院と摂関家は再び反平氏を明確にした。これに対し、重盛という歯止めを失った清盛は、関白基房を逐い、院を鳥羽の離宮へ幽閉する。父院を救うため、高倉帝は中宮の皇子に御位を譲り、この暴挙に対して、異母兄である以仁王は源頼政に平氏追討を要請する。

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双調平家物語 の一覧

1~16巻配信中 1巻へ 最新刊へ
1~16件目 / 16件
  • 双調平家物語1 序の巻 飛鳥の巻
    921円 (税込)
    これは、「栄華」という幻想に憑かれた男達の物語である。話は、平清盛から始まらず、その栄華の原型を作った藤原氏、更には、本朝が範とした中国の叛臣伝から始まる。秦の趙高、漢の王莽、粱の朱い、唐の安禄山。彼等は真実、叛臣なのか。そして、万世一系の我が朝に、果たして真実、叛臣はあるのか。
  • 双調平家物語2 飛鳥の巻(承前)
    942円 (税込)
    稲目以来、馬子、蝦夷、入鹿と大臣の地位を伝え、御世に権勢をふるう蘇我の嫡流。大臣入鹿の山背大兄王殺害を機に、蘇我の動きを危ぶむ中臣鎌子は、中大兄皇子との連繋を図る。国を憂え、打倒蘇我で結ばれた藤原氏の祖・鎌足公と若き日の天智天皇の欅の大樹の下の出合い──「川はある。水はある。山はある。緑はある。しかしまだこの国に、たった一つ国はない」。かくして六四五年六月の十二日、蘇我入鹿は、刃に斃れる。
  • 双調平家物語3 近江の巻
    942円 (税込)
    天智の帝亡き後、大海人皇子は大友皇子との皇位継承をめぐる叔父甥の戦い──壬申の大乱──に勝利し、天武の帝となる。一方、鎌足公の嫡子、藤原不比等は、天武の帝の後を継いだ持統の帝の御世において新帝擁立に功を奏し、栄達の道を昇って行く。「皇統という鶯の巣に生みつけられる、藤原という杜鵑(ほととぎす)の卵。鶯の巣に孵って、生まれ出た杜鵑は、鶯の雛に代わって鶯となる。藤原の朝臣は、ただその日が来るのを待てばよい」。
  • 双調平家物語4 奈良の巻
    942円 (税込)
    聖武の帝の御世、長屋王は謀叛の咎によって自害する。だが、政敵を葬った藤原一族に栄えはなくやがて都に蔓延した疫病で藤の四兄弟は揃って世を去る。一方、県犬養橘三千代は、長屋王の変後、娘の立后を策し、藤原の夫人は光明皇后となり、異父兄、橘諸兄が実権を握る。藤原広嗣の乱、繰り返される遷都、橘奈良麻呂のクーデター……。天王貴平知百年──「人は死に、貴い天王の知ろしめす世は、まだ平らかだった」。
  • 双調平家物語5 女帝の巻 院の巻
    942円 (税込)
    御世は下り居の女帝と藤原仲麻呂のものとなった。だが、依然威勢をもちつづける女帝との対立を深めた仲麻呂は、都を逐われ、近江の地でついに命を落とす。再び御世に即かれ、道鏡への御寵を恣にする女帝も、やがて病に倒れ、治世を混乱へと導いた女帝の時代は終わる。「道鏡に狂われた孝謙女帝、怨霊となった井上の廃后、御位への執念を捨てなかった不破内親王。そして、藤原吉子と藤原薬子。女達は繋がれねばならない」
  • 双調平家物語6 院の巻(承前)
    984円 (税込)
    摂関家の長、関白藤原頼通と父帝・後三条帝との不和により十六の齢まで不遇の時を過ごした白河の帝は、摂関家嫡流の地位を取り戻し、家筋の優位を保とうとする頼通の嫡子・師実にかしずかれ、大いなる権勢を恣にする。白河帝を帝王たらしめた師実は、八歳で御位に即いた堀河帝の摂政となるも、幼帝は父の君たる白河上皇の傀儡にすぎず、摂関家の威勢は失墜する。白河帝は、太上天皇として御世を掌握し、院政の時代を開く。
  • 双調平家物語7 保元の巻
    1,047円 (税込)
    白河院崩御の後、御世を掌握した鳥羽院。崇徳帝は御位を逐われ、近衛帝の即位によって「国母」となった鳥羽院の寵姫藤原得子は、皇后の位を贈られる。得子の勢威がさらに強まると確信した摂政忠通は、崇徳院との通いを絶ち、得子に仕えることを選ぶ。一方、鳥羽院のご威光は崇徳院に伝えられると思う内大臣頼長は、崇徳院との好誼を深める。「朕が亡き後は、さぞかし世は乱れるであろう」──そして世は保元の乱へと進む。
  • 双調平家物語8 保元の巻(承前) 平治の巻1
    1,152円 (税込)
    近衛帝崩御で、関白忠通は守仁王の擁立を策するが、少納言入道・信西の進言により雅仁親王が践祚する。忠通は、藤原氏の長者の座を父忠実と異母弟頼長の手から奪い取らんがため、保元の乱を惹き起こすことになる「新院御謀叛」を策謀する。かくして鳥羽院崩御からわずか九日後、崇徳院と後白河帝、忠通と頼長は兵を交え争うが、その結果、進んで戦いの指揮を取り、勝者となった信西が、御世の政局を動かしうる者となった。
  • 双調平家物語9 平治の巻1(承前)
    1,100円 (税込)
    保元の乱は終結した。左府頼長は敗れ、関白忠通も力を失った。新院の配流、源為義をはじめ新院方武者達の斬首、禅閤忠実の幽閉──摂関家は財の安穏と引き換えに朝廷の中枢から退き、一切は信西の掌(て)の内に……。だが、信西の前に、後白河院の寵を受けて異例の昇進をする中関白家の裔(すえ)、藤原信頼が「敵」として現れる。信西が調じ、院に献上した『安禄山絵巻』によって二人の対立は顕在化し、清盛の熊野詣を機に急展開する。
  • 双調平家物語10 平治の巻2 平家の巻
    1,152円 (税込)
    三条東殿を脱出した信西は、土中入定するも追手に見つかり獄門に懸けられる。一方、熊野路から都へ戻った清盛は合戦を決意する。大内に幽閉されていた二条帝は寝返った公卿の手引きで六波羅の清盛邸へ遷り、後白河院も救出され弟宮のいる仁和寺へ。藤原信頼に従う源義朝に、対するは平清盛。賊臣となった信頼は捕えられ死罪、落武者義朝は鎌田の兵衛と共に尾張で謀殺される。都に残された義朝の愛妾常盤と遺児達は……。
  • 双調平家物語11 平家の巻(承前)
    1,152円 (税込)
    都へ戻った義朝の嫡男・悪源太義平は首を打たれ、東国への下向途中捕えられた三男・頼朝は伊豆へ流される。一方、大和に身を隠していた妾常盤は幼な子達と共に六波羅の清盛のもとに赴く。御世には、近衛帝の皇后であった太皇太后藤原多子の再度の入内を巡って後白河院と二条帝の新たなる角逐が生まれ、その狭間で摂関家は復活を果たす……。乱後の政局は動き、欲を知らぬ清盛は己れの意志と関係なく栄華の道を駆け上る。
  • 双調平家物語12 治承の巻1
    1,152円 (税込)
    安元三年、都では、亡き信西の乳母子・西光の息子が白山の寺僧達と加賀・鵜川で起こした騒動に端を発した叡山大衆の強訴、さらに大内炎上と事件が続く。重盛と愛情関係にあった藤原成親は、平氏の専横を憎み、後白河院の近臣達と俊寛の預かる鹿ヶ谷の山荘に集い、「平氏打倒」の謀議を重ねる。しかし、多田蔵人行綱の訴人によって事は露見し、院が背後で関与したことがわかると、清盛は院の罪を問い、幽閉しようとする。
  • 双調平家物語13 治承の巻2
    1,152円 (税込)
    中宮徳子の懐妊──待望の男子(後の安徳天皇)誕生に、平氏一門は湧き返る。だが、摂関家の北政所である白河殿盛子、さらに、病を得ていた重盛が世を去ると、後白河院と摂関家は再び反平氏を明確にした。これに対し、重盛という歯止めを失った清盛は、関白基房を逐い、院を鳥羽の離宮へ幽閉する。父院を救うため、高倉帝は中宮の皇子に御位を譲り、この暴挙に対して、異母兄である以仁王は源頼政に平氏追討を要請する。
  • 双調平家物語14 治承の巻2(承前) 源氏の巻
    1,152円 (税込)
    源三位入道頼政、さらに三井寺の大衆をも巻き込んだ「以仁王のご謀叛」は、頼政自害、以仁王も首を打たれ、平定された。しかし清盛は、得体の知れぬ不安に駆られ、「福原への遷都」を決断する。その三月後、伊豆の配所にある頼朝は、荒聖文覚のもたらした偽の院宣により、まず伊豆へ着任した平氏の目代の住む山木館襲撃を決行する。この戦に勝利を収めた頼朝は、舅の北条時政等東国武士を従え、遂に平家追討の兵を挙げた。
  • 双調平家物語15 源氏の巻(承前) 落日の巻
    1,152円 (税込)
    石橋山の合戦に敗れた頼朝ら一行は、安房で三浦一族と合流し、上総へ進軍する。さらに下総、武蔵等の兵を従え鎌倉へ入った頼朝は、二十万騎を擁する源家棟梁となっていた。一方、重盛の嫡男・平維盛を大将軍とする頼朝追討の軍勢は、富士川で水鳥の羽音に驚き、戦わずして福原へ逃げ戻る。これに怒った清盛は、「還都」を決断し、反撃を開始した。しかし、還都から三月後、清盛は病に倒れ、激しい熱さの中で息を引き取る。
  • 双調平家物語16 落日の巻(承前) 灌頂の巻
    1,152円 (税込)
    信濃から北陸にまでその勢力を広げ、進攻する平氏軍を打ち破った源義仲は、敗軍を追って都へ攻め上る。義仲軍に都を包囲され、これを恐れた平氏一門は都を捨て西国へと落ちて行くが、義仲もまた都に受け入れられず無残な死を遂げる。後白河法皇は再び御世最大の権力者となり、源頼朝は鎌倉に覇権を確立し、動かなかった。そして、屋島にあった平氏一門は、源義経率いる源氏軍によって、ついに長門の国壇ノ浦で海に沈む。

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双調平家物語13 治承の巻2 のユーザーレビュー

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感情タグBEST3

    Posted by ブクログ

    重盛が死んじゃった。宮仕えをしている今の身としては重盛に一番共感。変人と呼ばれていても、いなくなってその人の働きがわかるって目指したいところですね☆
    (大河ドラマは見ていないけど)あー、ちょうど同じくらいのところですね。重盛の病状悪化から後白河法皇の幽閉までほぼ1巻でした。エピソードもだいぶ違うみたい。
    たしかにこれを映像にしたら、室内の会話・駆け引きがすべてなので、演技のうまい人たちでないとね。派手ではないけどおもしろいと思うけどね(でも人気ないんでしょ?みんな録画してみたいんだろう)。

    0
    2012年11月17日

    Posted by ブクログ

    途中で源氏物語とか読んでいたらしばらく双調を放置状態になってしまいましたが、ようやく続きを読み始めました。重盛死にました(涙)しかしこれだけ複雑な源平ドラマを一年間大河で取り上げようと思ったNHKさんはたいしたもんです。最後の方、正に今(2012年11月)大河でやってるところでした。以仁王の令旨が出てどんどん盛り上がって行くのがたまらないです。佐殿はまだ活躍していませんが…続きが楽しみです。

    0
    2012年11月19日

    Posted by ブクログ

    清盛の先を頼もしく思った。清盛のためにならどんなことでもやってやろうと思い、そのようにして来た邦綱である。今更の他人行儀はおかしい。二十数年前も昔の話を持ち出して、無理なこじつけをする必要はない。清盛は、そのような人物ではなかったはずだ。しかし、清盛は変わった。



    盛衰は、起こっては消え、消えてはまた起こる。御世の表の波頭。咲く花は、やがて散るためにこそ咲き誇る。盛りの華に降りかかる雨の滴を、風雅と見るか、無惨と見るか。治承二年の春、その一門の栄華の時は、盛りの蕾を開かせんとして息づいていた。



    なにがどう絡み合っているのかは分からない。



    しかし、重盛は面を動かさない。かつて勇んで敵に立ち向かって行った平氏の若武者は、今では何事にも動ぜぬ人物と成り変わっていた。それが慶事であれ、凶事であれ。



    教盛は、理解出来なかった。まさか、そこに「絶望の表情」があるとは思えなかった。重盛自身さえ、そのように理解してはいなかった。まさか、一門の繁栄を推し進める中宮の懐妊に対して、自身が絶望の色を示しているなどとは。重盛はただ、一門を巡る人の思惑の中に、処理しきれぬ煩わしさだけを感じていた。「中宮の懐妊はよし。しかし、その先は――」と思うと、重盛にはどのような展望もなかった。「よし」と思うその先には、ただ『無』しかない。教盛は、「中宮ご懐妊」の慶事に不安を見、重盛は無を見ていた。なぜなのかは分からない。重盛には「その先」が見えなかった。



    俊寛の一族は消え、これに仕える者達も四散して、今や、有王と俊寛の間を隔てるものは、ただ青く広がって続く海だけとなっていた。



    人臣位を極めて身を退けた清盛は、すべてが自分の思うままになりうるものと、信じ込んでいた。しかし、重盛は違う。俗世を離れた父から一切を委ねられた重盛は、自身の一族が、藤の一族によって占められた大海に浮かぶ小島のようなものであることを、よく知っていた。



    盛子によって、清盛は「摂関家」という格式を手に入れた。盛子があればこそ、高倉帝の立太子も御即位も可能になったーー摂関家の北政所たる盛子は、高倉帝の御生母滋子よりも先、遥かに高い身分を得ていたのであるから。…平氏一門の栄華の礎は、まだ年若い盛子によって築かれたのだ。



    盛子は、栄華の女だった。そして、父に孝なるこの娘は、ひそやかな女だった。…11歳で「摂関家の後室」となった盛子には、愛する夫も、愛する子もなかった。ただ義務として、「母」の役割を勤めさせられたーー「在る」という以外になにもする必要のない「母」の役を。盛子にとって、その後の人生は、ただ「在る」ばかりで、実質のないものだった。盛子は、ただ待った。なにを待つとも思わず、ただ待った。待つ以外、盛子にはなすべきことがなかった。なにを待つとも分からずに待ち続けた盛子は、ついにその年になって、「待つべきこと」のなんたるかを知った。その年、盛子は二十四歳になっていた。夫の基実は、二十四歳で死んだのだ。盛子は、基実のそばへ行きたいと思った。盛子が愛し、盛子が「愛された」と思いうるただ一人の男ーー…基実の享年と同じ二十四歳の春を迎えた盛子は、ひそかに食を断った。その年まで生きて、盛子は、十分に自身の役割を果たしたと思ったのだ。…夫基実の命日より、一月ほど早い死だった。「故摂政殿よりも一日も若く」と、盛子は、それもまた望んでいたのである。



    一門は、鳴りをひそめていた。八月になると…知盛が、嫡宗の兄重盛の喪に服して、官を辞した。殊勝な心懸けではあるが、これを見習う弟達はなかった。見習おうにも、辞するほどの官を持つ者は、まだない。



    邦綱の支えるべき相手は、既に重盛であって、清盛ではない。その重盛が病み衰えて、幾許もない――邦綱は確かな頭脳で時代を読んだ。…彼が支え実現させた「伊勢平氏の栄え」は、既に先のない、散り始めた万朶の桜も同然のものだった。
    「花は、咲き誇ってある。しかし、幹は折れた」



    邦綱は、負けるわけにはいかなかった――清盛を、負けさせるわけにはいかなかった。



    瞬く内に清盛は、人の世の階梯を登りつめた。登りつめた「先」はない。清盛は、栄華を達成した。達成することは許された――清盛一代に限って。…栄華の高みに駆け上った清盛は、栄華の高みに追いやられ、退けられたのである。…清盛の去った一門は、既に「栄華の一族」ではなかった。



    清盛の生涯で最も輝かしくあったのは、栄華の頂で俗世を去るその日だった。…栄光と歓喜の中で、清盛は世を捨てた――それが当然のありようと、誰もが思っていた。であるならば、清盛に全き栄達を与えれば、清盛を朝廷から逐うことも出来る――



    院が、清盛を「疎ましい者」と思し召されていたのなら――。「疎ましい者を逐い払わん」と思し召された院が、清盛に「身に過ぎるほどの栄達」をお与えになられたのなら――。清盛は、身に過ぎる栄を畏んで受け、歓んで朝廷を去った。…「逐われる」という自覚なくして、清盛は逐われた――その後の一門の不協和は、すべてこのことに由来する。



    「夜討同然の、”官打ち”などという兵法が、この世にはあるのか?」
    …しかし、それはあるのだ。昇進の矢を次々と放たれ、見事清盛は、人の世から退いた。昇進の矢に「射られた」と知らぬまま。



    清盛と邦綱が「栄華への道」と信じて歩んだものは、「奈落への道」でもあった。



    父の忠通はない。兄の基実もない。舅の公教もない。兄の遺領を奪って平然としている伊勢平氏の一族との縁もない。「殿下」を称される摂関家の長が、後盾のなさを嘆く時代が来ていた。



    院にとっては、御自身のご勢威を瑕つけ奉る者のすべてが「敵」であられるのである。院のご勢威に拠り奉って力を得ようとする者のすべてが、疎まれ悪まれ、退けられてしかるべき者輩なのである。



    十九年前、平治の乱の翌年、…一門は、院のおそばに一人の女を奉った――ひそかに、院のお胤を得るため。院は、奉られた女を寵され、同時に、一人の男をも寵された。女は、後の建春門院――平滋子。男は、世を去った平重盛。重盛へ賜わされた越前一国の知行権は、その一門へ賜わされた、院の初めてのご恩寵であった。院は、その初めへ戻られて、平氏一門へのお心を根こそぎお奪いになられようと思し召されたのである。



    越前の国にあった重盛の知行権は、効力を失っていたのである。除目の席にいた公卿は、誰一人として、この決定に異を唱えなかった。唱えようがなかった。…席に姿のあった平氏一門の公卿は、清盛の義弟である公家平氏の時忠と、清盛とは微妙に距離を置いた異母弟頼盛。そして、喜界ヶ島から戻った婿の丹波少将成経を迎えて精魂の尽き果てた、人のいい門脇の宰相教盛の三人ばかりだった。…小松の内府重盛を欠いた平氏の一門は、いつの間にか、朝廷での勢威を失っていたのである。



    (院を幽閉した時)
    入道の声は落ち着いて、静かだった。季貞はなにも疑わず、これを静憲に告げた。しかし季貞は、清盛が涙を堪えていたことを知らなかった。清盛は、静憲の来訪に感謝していた。「したくてしたことではない」と思う清盛は、自縄自縛の嘆きの中にいたのである。



    清和源氏の棟梁としてあった老将為義は、嫡男義朝と戦って、敗れた。我が子を思う為義に、義朝を憎む心はなかった。父に弓引いた義朝にも、その心はなかった。仕える主に「戦え」と命じられれば、戦わねばならない。それが、王朝の世に走狗としてあった、清和源氏の宿命である。



    (頼政の、平治の乱の回想)
    頼政の一党が固める橋を、既に自身が制したもののように心得て、義平は突進してきた。義平が何を叫んだか、頼政は覚えていない。しかし、軍神が乗り移ったかのような義平の形相を、頼政は忘れることが出来ない。それは、「戦う」ことがいかなることであるかを熟知し、それを己が性とした者の顔だった。そんな顔を、頼政は初めて見た。頼政にとって、「戦う」ということは、攻めることではなかった。まず、守る―― …第一になされるべきことは、戦いを回避すること―― …このことを第一とする都の武者達にとって、戦いの場から逃げ出すことは、卑怯でも怯懦でもなかった。



    「ようぞや兵庫頭!清和源氏の一統ながら、なにゆえ伊勢平氏の麾下につく!臆したか!怯んだか!二心を恥じる心はないか!兵庫頭の二心、我が一族の恥として、末代までも語り継がん!」
    …何をもって「二心」などと言い放てるのか。…しかし、頼政は、その言葉が忘れられなかった。聞き捨てにしようとして、その言葉が胸に食い込んだ。



    「日本一の不覚仁、信頼卿に一味同心したることこそ、我が一族の恥となる!恥を唱えて恥を知られい!」
    ――そう義朝に怒鳴ったことを誤りとは思わない。しかし、「恥」の一語が、頼政の胸に深く突き刺さった。なにを「恥」とし「二心」とするのか――その根本が、頼政と義朝とでは、大きく違うのだ。



    頼政が人となって行く時期は、清和源氏と伊勢平氏の勢力が交替して行く時期であり、院の御所がお主上の朝廷の上に立たれて、御世のありようが不思議に揺らぎ始める時期でもあった。



    戦うことは、死ぬこと。王城の地の平安を守って、「戦いを回避する」という術は、もうない。守るべき王城の平安は、既に、頼政の知るものではなくなっていた。「生きるべき時は生きた」と、頼政は再び思った。「俺は、長く生き過ぎた」と。戦うということは、己の尊厳を賭け、己の尊厳を守り通すことであるのだと、その生涯の最後の時に至って、頼政は悟った。



    (以仁王に挙兵を求められる)
    「我が身は今、なにを陳べているのか」
    ――それを思うと、腹立たしかった。偽りを陳べ、「偽りにはあらず」と断じて、危うい状況に突き進む。覚悟のこととはいえ、自身の生の最後に訪れるのがこの空しい弁舌かと思うと、頼政は、腹立たしく、悲しかった。




    ++++++++++++++++++++++

    邦綱はめっちゃ頭いいですね。どんだけ清盛のこと好きなんだ。こういう右腕がいるトップは、強くなります。参謀。

    盛子ちゃんはとにかく幸薄です。摂関家に嫁がされた運命。「生きて居るだけ」の大切な存在だから出家もできず、再婚もできず。

    そいてやっぱり黒い後白河。こいつは…嫌いだ…!清盛が疎ましくて、さっさと身を退いてほしくて、高い位をあげたってことですね。清盛の片思いかわいそうです。

    しかも、この時期って「平家の栄華」とか言われる時期だと思うんですが、意外とそうでない。除目の席にいる平氏公卿は3人ぽっち。越前知行権の奪還を阻止することもできませんでした。全然力ないじゃんね…。

    最後のほうは、頼政にスポット。平治の乱で義朝義平親子に「恥」と罵られたことが胸に残っているんです。恥とは何か。そしてとうとう、平氏と戦うことを決意します。勝てる見込みの無いことを知って。以仁王に勝てるか強く問い詰められたときには、仕方なく「勝つ見込みはある」と言い、己の不甲斐無さに悲しくなります。為義とかぶる部分が多いですね。上の人間の言葉で動かされるつらさ。

    0
    2011年04月16日

    Posted by ブクログ

    新興の一族の周りには、目に見えぬ標が結い渡されている。己が分際を忘れ、その境から一歩でも踏み出しさえすれば、ひそやかな嘲りがたちまちに襲いかかる。栄華の大海に乗り入れた一族には、この攻撃に対処する術がなかった。新興の一族を呑み込もうとして盛りあがる大波をかわし、進むべき航路を指し示す者はなかった。この哀れな一族を導きうるお立場にあられたのは、御世の頂の更にその上の高みにましまされる、法皇ただお一方ばかりだった。法皇がどのようなお力をお持ちであられるのかを、哀れな浄海入道は、わきまえずにいた。であればこそ入道は、摂関家に抗することも恐れず、法皇に対し奉っても抗そうとした。その父の哀れな振舞が、ごうがんなる人の世を残された嫡宗の子重盛に、心労を積もらせ、回復の余地のない疲弊へ誘っていった。

    0
    2025年06月12日

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