貫井徳郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
幼なじみ五人が集まり別荘内で起きた殺人事件
五人の内一人が被害者となり
五人の内一人が加害者となった
死体の前で花瓶を持った「梨愛」は子供の頃からの友人の一人 「雛乃」を殺害した事を認めているが
最後まで、残った仲間達に動機を語る事は無かった
ー 五人に何があったのか 事件はなぜ起きたのか ー
それぞれの視点から語られる羅生門形式
名前すら持たされない可哀想な弁護士Aさんによる
残った三人の聞き取り調査を、神の視点(読者特権)で覗き見していく事となる
重成→聡也→夏澄 と二往復を経て 梨愛の独白
一周目はみな、宛らコナンの容疑者達の如く自分の話より人の話。
「誰それってこういう所あるんですよ〜」
と、悪意では無いが己から視点を外したがる姿勢は実に人間臭くてよろしい
そもそも犯人探しでは無いので保身を発動する理由は無いはずだが、他人に人の話をするとなると良い言葉だけ並べるのは難しいんだろうなぁ
募り積もった「負」の感情は、ここぞとばかりに顔を出したがる...
本人不在の井戸端会議とかでよく見るヤツですね
さてさてさて、
二週目ともなると容赦無しの暴露合戦
面の皮バナナです スルスル剥けます
スペック人外なのに内面は「THE 人ォ!」って感じが、見たくない現実突き付けられてるようで居心地悪い
反面教師を学びたい身とすれば決して嫌いでは無いが、振り切らない微弱な不快感は常にまとわりついている
遂に各々が梨愛が雛乃を殺害した理由を身勝手に推理し始め、最早一体何処に着地したいのか分からないカオス状態
真実を知るのは殺害を認めた梨愛だけだというのに
最後に梨愛の独白で真実が語られるが
彼女の言葉はページ数にすると30ページ程
語られた内容は
ー 五人の関係性は「不等辺五角形」であったー
答え合わせの時間だ
ーーーーーーー
多分真相は...なんだろうけど
つまり知っててあの証言をしていたということで
となると最後の最後まで
「誰が本当の事を語り、誰が嘘を言っているのか」となる (ふわふわ〜)
いや違うな
人は皆、
「誰もが本当だと信じ込み、嘘を言っている」のやもしれない
うーん!多くを語れない作品です!
一昔前だったら梨愛の動機は邪道扱いされていたのやもしれないが、時代だなぁ 全く違和感を感じませんでした
面白かった! -
Posted by ブクログ
ネタバレなんとなく、最後の独白を読んで梨愛が好きだったのは夏澄なのではと思ったけど…
夏澄は「雛乃の部屋で話したら主導権握られそうだから、自分の部屋に呼んで話した」的なこと言ってたp244
そんで話したあと雛乃は怒って出て行ってたのに、雛乃の部屋で突き飛ばして死んだとなるのはなぜ??追いかけたん??
犯人は自分が殺してしまった事に気付いてないというのも…相手が転ぶほどの強さで押したら、転ぶまで数秒だと思うし頭をぶつける音もしただろうし。その間に背を向けて部屋を出てって何も気づかないってあり得るかな?
同じ話も視点が変わると違ってて、それは面白かったけどあんまりすっきりはしなかった。 -
Posted by ブクログ
タイトルの「不等辺五角形」は、仲の良い5人の実際の距離感や力関係、心理的な位置取りを表している。その意味が物語の中で腑に落ちた瞬間には、思わずニヤッとしてしまった。
物語は、5人のうち一人が一人を殺害したという衝撃的な状況から始まる。しかし動機は明確に示されず、被害者・加害者以外の3名へのインタビューを通じて、少しずつ人間関係や価値観がひも解かれていく構成になっている。断片的な情報から全体像を推理していく点は、ウミガメのスープのような読書体験だった。
一方で、インタビュー形式ゆえに、物語の本筋との関係が薄く感じられるエピソードや、同じ主張の繰り返しも多く、やや冗長に感じる部分はあった。展開が読めてしまうほど削られているよりは良いが、もう少しコンパクトにできたのではないかという印象は残る。また、社会人同士の関係性としては作為的に感じる描写も多く、ツッコミたい箇所が何ヶ所か(誕生日会やギャンブルのくだり)あった。
ただし、この冗長さや違和感自体が、登場人物たちの自己正当化や確証バイアスを読者に体感させるための装置だったと考えると、インタビュー形式という選択だとすれば、無駄話や脚色、話のすれ違いが、そのまま人間のコミュニケーションの不完全さを表しているとも読める。
終盤、加害者の独白によって状況がひっくり返る展開は素直に面白かった。5人はいずれも海外のインターナショナルスクール出身で、個人の開示や価値観の違いが、それぞれのパーソナリティを強く形作っている。伝統的な日本的価値観に縛られない、比較的リベラルな考え方が共通している一方で、その中でも被害者と加害者の間には決定的なズレがあったように思う。
この物語で描かれているのは善悪の問題というより、価値観の違いと、それを否定・否定される環境の危うさだと感じた。多様性を認めると言いながら、異質なものを排除しがちな社会の構図は、現実の日本とも重なる。ただし、多様性を盾に自分の正しさを押し付ける態度もまた、別の歪みを生む。
価値観や考え方に明確な正解・不正解はなく、否定しないこと、押し付けないことの難しさを改めて突きつけられる作品でした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ加山聡
新聞記者。心配性。
加山光恵
聡の妻。
健太
聡の息子。二歳。
田丸ハナ
五十代。主婦。昔から困ってる人を見捨てておけない性分。夫は外国人でもその名を知る大企業に勤めている。ボランティア活動に精を出している。道路の拡幅工事で街路樹が伐採されると聞き、反対運動をしようと考える。
阿部昌子
ハナの近所に住む主婦。自宅の一軒家の前に、地上十五階建てのマンションが建つ計画がある。
建設差し止めを求める話し合いの場を設けて欲しいと求めている。
三隅幸造
六十代後半。定年退職後、ただ寝ることだけが楽しみの老人に過ぎないことに気づき愕然とする。犬を連れている女性を見かけ、自分も犬を飼うことにする。腰痛で犬のフンの始末するために腰を屈めることが辛く、街路樹の根元に放置してしまう。
久米川治昭
内科医師。三つの病院でアルバイトの掛け持ちをしている。
羽鳥
四十代の女性看護師。久米川の働く病院に勤めて二十年近くになるベテラン。
安西寛
十九歳。大学生。虚弱体質。混雑する待合室で別の病気がうつるのが嫌で、夜間救急を利用する。
佐藤和代
阿部昌子の隣人。同じくマンション建設に反対している。
小林麟太郎
市役所道路管理課職員。二十五歳。道路拡幅に伴う街路樹伐採の事前調査中、大量の犬のフンを片付ける羽目になる。
菊江
三隅幸造の妻。
加山の父
加山の母
上村
道路管理課職員。麟太郎の上司。
雪代可奈
安西寛と同じ大学の法学部の学生。なかなかお目にかかれないレベルのかわいい女性。欠席した授業のノートを写させて欲しいと安西に頼む。深夜にひどい風邪をひき、安西に病院を紹介してもらう。病院で待っていた安西の接し方に嫌悪感を覚える。
田丸佐緒里
ハナの娘。二十四歳。誰にでもできる仕事しかさせて貰えず、男性と同じ立場で仕事をしたいとの考えを恋人に否定され、縁故採用された会社を1年あまりで辞める決意をする。母のような夫に尽くすだけの人生は真っ平だと思っている。
ヒロ
佐緒里の付き合っている相手。
河島
拡幅計画がある道路沿いに住まいを持つ、セットバックに応じないただひとりの住民。計画が持ち上がった際の担当者の態度に未だに腹を立てていて、市役所の人間と聞いただけで塩を撒きかねないような頑なな老人。道路管理課では代々語り継がれるほどの生きた伝説とかした頑固じじい。心臓発作で急死し、佐藤和代が看取る。
榎田克子
軽自動車でさえ上手く車庫入れができない。妹の希望により買い換えられたSUVでは尚更上手くできず苛立つ。
榎田麗美
克子の妹。
トモナガコウキ
麗美が連れてきた男。
ゴミ屋敷に住む女性
海老沢
デスク。
足達道洋
石橋造園土木勤務。樹木医の資格を持っている。三十四歳。息子の誕生をきっかけに潔癖症になる。
足達泰代
道洋の妻。病的なまでの潔癖症になった夫を同情していたが、夫婦の営みの前に体を除菌シートで拭かれ、腹を立て、傷つき、以来夫婦の間にはわだかまりができた。
粕谷静江
ハナが通い始めた英会話教室で親しくなった年配の女性。ハナから道路拡幅に伴う街路樹伐採の話を聞く。市議会議員を夫に持つ知人に話をする機会を設け、反対運動の中心的人物になっていく。
宮崎佳美
静江の友人。夫が市議会議員。
石橋
石橋造園土木の社長。
佐々倉
警察官。
医局長
可奈の女友達
女子高生
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読んだ本 悪の芽 貫井徳郎 20251206
嫁さんのお下がり本。
小学生のころの同級生が大量殺人事件を起こす。その同級生を不登校まで追い込んだいじめの原因者が主人公で、自らの責任、自己嫌悪、社会的制裁への怖れとか色んなものを抱えながら犯行の動機を探るってお話。いじめてたことがばれて公表されると社会的に抹殺されるっていうSNS時代のサスペンスを絡めて、結構先がどうなるのか気になって一気に読んじゃいました。
なんだかんだ言って、SNS上の匿名の世間は無慈悲だけど、実在のリアルな関係者たちには情があるというか救いがあるというか、正直ラストはうまく呑み込めなかったんだけど、ホッとした感で終わるのはそれはそれで。
テレビでやってる「良い子悪い子」とシンクロして、どきどきしました。
こういうの、振り返ってみて今更ながら考えさせられるな。 -
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ネタバレ人ひとりを殺したら死刑になる世界の連作短編
この本を手に取ったのは、最近SNSで蔓延している私刑について、それがどうというわけではないけど、それが行き着く先の一つとしてこんな世界もあるかもなとか思ったから。
あと、ずっとエンタメ100%の小説ばかり読んでいたのでたまにはエンタメの中に社会的メッセージありそうな作品を読みたくなったから。
勝手にメッセージ性の強い作品である思っていたけど、実際そんなことはなくて、ただ人を殺したら死刑になる世界線の事件の話。
無論そのルールの弱点(殺さなくても両腕切り落として眼球くり抜いて舌切られたら殺してるのと同じじゃない?とか、過失で殺しちゃったらどうなのとか、冤罪で死刑執行したらどうするのかとか、更生の余地あるが判断せず死刑にしていいのかとか。)みたいなことはうっすら伝えてくるけど、結論は出さずみんな考えてねみたいなスタンスで終わる。
紙の梟というタイトルの回収はどうなるんだろうとワクワクしていたけど個人的にはあんまりだった。
ラストの終わり方もめっちゃ好みというわけではなかった。ただ、なんだかんだ続きは気になってスラスラ読めたし面白かった。 -
Posted by ブクログ
複数の人物からのアプローチ、無関係と思われる人物らの意外な接点、点が徐々に繋がり線になっていく展開は著者の得意とする手法であり、本作でも持ち味が発揮されている。
だが、部分的な繋がりを見せるが全てが完璧に絡まり合う事はなく、少しモヤモヤする章が多い。また似たようなエピソードがあり、必要性に疑問を持ってしまう章もあり後半で失速気味。
また、物語の肝である「最初のトベ」が終盤で明かされるが、明らかに異質で違和感を覚える章があり、多くの読者は途中で気づくはず。
消化不良の部分も多いが、テロを起こすレジスタントの行動心理には現代日本が抱える問題が数多く内包されており、フィクションと思えないほど真に迫った内容だった。
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Posted by ブクログ
ネタバレ(上)(中)(下)まとめて。
氏の著作はこれまで少なくない数読んでいるが、おそらく大方が抱かれる感想と同じく、「これがあの貫井徳郎が書いた小説か…?」というのがまず、最初に感じたこと。
それほどまでに趣を異にする長編大河小説である。
なんだか登場人物の弁明を読んでいると、京極夏彦氏が書く文体を想起してしまった、それほどまでに。
もちろん叙述トリックの出番はない(笑)。
そして全編を通じ、そこはかとなくユーモラスというか微かではありながらも絶対的な陽気さのような空気が漂っていることもまた、これまでの氏の作品群とは一線を画す。
と言っても、その明るさは上巻が顕著、中巻以降はやや薄れていき、相対的にシリアスさが増していくわけだが…。
特に第五部、あまりにも物哀しい「夢に取り憑かれた男」を機に、その傾向が強くなっていく気がする。
また、そもそもが一ノ屋という特異な家系を軸としたクロニクルの体を取っている物語だが、薄まると言えばその"一ノ屋色"も同様。
限られた紙幅の中に戦争というものがもたらす深い闇を余すところなく存分に著しきった第十二部「勝ってくるぞと勇ましく」、続けてさらに直截的に絶対悪である戦争の悲惨さを訴えた第十三部「子供たち」あたりが象徴的であるように思うが、作中の時代が下がるごとに一ノ屋の血の重みは排され、日本という国の変容を描くことに重きが置かれていく。
終盤、第十六部で一ノ屋は名実ともに終焉を迎えることになるが、そこでは時代の変遷とそれに伴う社会の変質がダイナミックにぎゅっと凝縮及び集積され、実に端的に示されている。
長く紡がれてきた物語は続く第十七部で幕を閉じるが、著者が始めから決めていたというラストシーンは決して気負うことなくするりと、それでいて前を向き腰を据えているのがまた、良い。
ただ大河ではあるが、その全容は大きな一本の奔流というよりも、それぞれに独立した中編の集合体であるという印象が強い。
私見を申せば、時空を超越した有機的な連環による驚きがもっと得られていれば、さらに感慨は深まっただろう。
「苦手なことに諦めず挑み続けたこともまた、良太郎の才能だったのではないかと今は思える。」
「でも頭が切れる人間は、先が見えるから簡単に諦めてしまう。粘りがないんだ。意見が違う人間を説得することなんて、馬鹿馬鹿しくてやってられない。」
「小説家は掴み所がなかった。駄目と即断できない代わりに、これでいいという到達地点が見つからない。言わば、果てしない道のりを歩いているような行為だった。この、霞を手で集めるような空しさを、小説家はどのように克服しているのか。」
「アメリカも日本も、女が政治家をやってれば戦争なんて起こさなかったんだ」
「たとえメイ子が百歳まで生きようと、日本は才ある女を生かせる国にはならない気がした。」
「何が正しくて何が間違っているかは、戦争に勝った方がきめるんだよ」
「『馬鹿だねぇ』
~中略~
自分が一番聞きたかった言葉は、このひと言だったのではないかとすら思えた。」 -
Posted by ブクログ
ネタバレ(上)(中)(下)まとめて。
氏の著作はこれまで少なくない数読んでいるが、おそらく大方が抱かれる感想と同じく、「これがあの貫井徳郎が書いた小説か…?」というのがまず、最初に感じたこと。
それほどまでに趣を異にする長編大河小説である。
なんだか登場人物の弁明を読んでいると、京極夏彦氏が書く文体を想起してしまった、それほどまでに。
もちろん叙述トリックの出番はない(笑)。
そして全編を通じ、そこはかとなくユーモラスというか微かではありながらも絶対的な陽気さのような空気が漂っていることもまた、これまでの氏の作品群とは一線を画す。
と言っても、その明るさは上巻が顕著、中巻以降はやや薄れていき、相対的にシリアスさが増していくわけだが…。
特に第五部、あまりにも物哀しい「夢に取り憑かれた男」を機に、その傾向が強くなっていく気がする。
また、そもそもが一ノ屋という特異な家系を軸としたクロニクルの体を取っている物語だが、薄まると言えばその"一ノ屋色"も同様。
限られた紙幅の中に戦争というものがもたらす深い闇を余すところなく存分に著しきった第十二部「勝ってくるぞと勇ましく」、続けてさらに直截的に絶対悪である戦争の悲惨さを訴えた第十三部「子供たち」あたりが象徴的であるように思うが、作中の時代が下がるごとに一ノ屋の血の重みは排され、日本という国の変容を描くことに重きが置かれていく。
終盤、第十六部で一ノ屋は名実ともに終焉を迎えることになるが、そこでは時代の変遷とそれに伴う社会の変質がダイナミックにぎゅっと凝縮及び集積され、実に端的に示されている。
長く紡がれてきた物語は続く第十七部で幕を閉じるが、著者が始めから決めていたというラストシーンは決して気負うことなくするりと、それでいて前を向き腰を据えているのがまた、良い。
ただ大河ではあるが、その全容は大きな一本の奔流というよりも、それぞれに独立した中編の集合体であるという印象が強い。
私見を申せば、時空を超越した有機的な連環による驚きがもっと得られていれば、さらに感慨は深まっただろう。
「苦手なことに諦めず挑み続けたこともまた、良太郎の才能だったのではないかと今は思える。」
「でも頭が切れる人間は、先が見えるから簡単に諦めてしまう。粘りがないんだ。意見が違う人間を説得することなんて、馬鹿馬鹿しくてやってられない。」
「小説家は掴み所がなかった。駄目と即断できない代わりに、これでいいという到達地点が見つからない。言わば、果てしない道のりを歩いているような行為だった。この、霞を手で集めるような空しさを、小説家はどのように克服しているのか。」
「アメリカも日本も、女が政治家をやってれば戦争なんて起こさなかったんだ」
「たとえメイ子が百歳まで生きようと、日本は才ある女を生かせる国にはならない気がした。」
「何が正しくて何が間違っているかは、戦争に勝った方がきめるんだよ」
「『馬鹿だねぇ』
~中略~
自分が一番聞きたかった言葉は、このひと言だったのではないかとすら思えた。」 -
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ネタバレ(上)(中)(下)まとめて。
氏の著作はこれまで少なくない数読んでいるが、おそらく大方が抱かれる感想と同じく、「これがあの貫井徳郎が書いた小説か…?」というのがまず、最初に感じたこと。
それほどまでに趣を異にする長編大河小説である。
なんだか登場人物の弁明を読んでいると、京極夏彦氏が書く文体を想起してしまった、それほどまでに。
もちろん叙述トリックの出番はない(笑)。
そして全編を通じ、そこはかとなくユーモラスというか微かではありながらも絶対的な陽気さのような空気が漂っていることもまた、これまでの氏の作品群とは一線を画す。
と言っても、その明るさは上巻が顕著、中巻以降はやや薄れていき、相対的にシリアスさが増していくわけだが…。
特に第五部、あまりにも物哀しい「夢に取り憑かれた男」を機に、その傾向が強くなっていく気がする。
また、そもそもが一ノ屋という特異な家系を軸としたクロニクルの体を取っている物語だが、薄まると言えばその"一ノ屋色"も同様。
限られた紙幅の中に戦争というものがもたらす深い闇を余すところなく存分に著しきった第十二部「勝ってくるぞと勇ましく」、続けてさらに直截的に絶対悪である戦争の悲惨さを訴えた第十三部「子供たち」あたりが象徴的であるように思うが、作中の時代が下がるごとに一ノ屋の血の重みは排され、日本という国の変容を描くことに重きが置かれていく。
終盤、第十六部で一ノ屋は名実ともに終焉を迎えることになるが、そこでは時代の変遷とそれに伴う社会の変質がダイナミックにぎゅっと凝縮及び集積され、実に端的に示されている。
長く紡がれてきた物語は続く第十七部で幕を閉じるが、著者が始めから決めていたというラストシーンは決して気負うことなくするりと、それでいて前を向き腰を据えているのがまた、良い。
ただ大河ではあるが、その全容は大きな一本の奔流というよりも、それぞれに独立した中編の集合体であるという印象が強い。
私見を申せば、時空を超越した有機的な連環による驚きがもっと得られていれば、さらに感慨は深まっただろう。
「苦手なことに諦めず挑み続けたこともまた、良太郎の才能だったのではないかと今は思える。」
「でも頭が切れる人間は、先が見えるから簡単に諦めてしまう。粘りがないんだ。意見が違う人間を説得することなんて、馬鹿馬鹿しくてやってられない。」
「小説家は掴み所がなかった。駄目と即断できない代わりに、これでいいという到達地点が見つからない。言わば、果てしない道のりを歩いているような行為だった。この、霞を手で集めるような空しさを、小説家はどのように克服しているのか。」
「アメリカも日本も、女が政治家をやってれば戦争なんて起こさなかったんだ」
「たとえメイ子が百歳まで生きようと、日本は才ある女を生かせる国にはならない気がした。」
「何が正しくて何が間違っているかは、戦争に勝った方がきめるんだよ」
「『馬鹿だねぇ』
~中略~
自分が一番聞きたかった言葉は、このひと言だったのではないかとすら思えた。」