貫井徳郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
貫井作品の中でも珍しい青春小説仕立てのミステリ(私の記憶ではない、と思う)。
英語表題のIt will be fine tomorrowが、この小説の核でもある。
ずっと貫井作品を追いかけてきて、生まれて初めて買ったサイン本がこの作品というのは本当に何と言う縁かと思う。
ずっと心をテーマにミステリを書かれている貫井作品に魅せられて、不条理な心のあり方を描かれる方がむしろアリだと思う人間なのだが。この作品もまたアリ、そう変えて行きたくて日本に帰ってきた人間には何と言うタイミングで心に響くか……。
各作品には読者にとっての読み頃があると思う。
まさにこの作品は、私にとって今読んで正解。
幸せな時間 -
Posted by ブクログ
ネタバレ心臓移植手術を受けたら、もともと自分の持っていなかった趣味や能力が身についていた・・・。というのを発端に、自分のドナーを探り始める、という、まあ、割とよく見かけるテーマの物語。ドナーは誰なのか、そして警告を発してくるのは誰なのか、という謎はあるけれど、比較的ミステリー要素は薄いかな。ドナーにたどりついた後は、さらさらと流れていく感じ。移植手術と生命倫理などの重いテーマを扱いながら、雰囲気は青春小説で、読後感は爽やか。
臓器移植は、人工臓器が実用化されるまでの、過渡期の医療行為であり必要悪、という部分には考えさせられます。
また、人間の記憶や心はいったいどこにあるのか・・・。本当に、考えれば -
Posted by ブクログ
ネタバレ幻冬舎文庫の「心を運ぶ名作100」で重版されたものを購入。
「慟哭」や「症候群」シリーズでしか作者を知らなかったので、軽く明るい文体に引きこまれた。
あとがきにもあったけど、徹底的に無意味な物語である。
結局歴史は変えられず、祐里は消えてしまう。
そのあがきにも見える必死さが次第に心を打つ。
理屈にはあわなくても希望を持ってしまう人の心のありようが切ない。
祐里がなかなか事情を説明できないわけが、圧倒的な孤独を伴って伝わってくるラスト。それを受け止める和希はひとつ成長するのだ。智美さんがもうちょっとガッツリ絡むのかと思ったけどそういうわけでもなかったのがちょっと残念。