瀧羽麻子のレビュー一覧
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ネタバレ気象学専門の学者、藤巻博士を取り巻く家族たちを登場人物にした連作短編。
いつも空を見て、雨が降ると全身に浴びたがるような藤巻博士は、母親から人との交わりを苦手をしていることを心配されるようなタイプの人なのだが、この博士が掲載1つめと最後の短編でとても良い雰囲気を醸し出すのだ。
ネタバレになるが、その最初と最後の小道具が長靴。作品の間には55年もの年月が流れていて、その間の家族たちの物語が間に挟まれている(不倫や中間管理職の悲哀など浮世のテーマ作品もある)短編を読んだら、この博士と長靴がガツンの効いてくる。
伏線を張って…というタイプの連作短編ではないのだが、こういう回収の仕方もあるんだなぁと感心する。非常に心地よい小説。
俺もこれからはメモ帳を持って暮らすとしよう。 -
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前作「ありえないほどうるさいオルゴール店」から楽しみにしていた。
前作は北の街、今回は南の島へやってきた店主。7つの短編。
その人の心の中に流れている音楽をオルゴールにしてくれるオルゴール店。
ひとつひとつの物語の風景とその人の歩んでいる人生の風景を
丁寧に表現していて その記憶の中にある想いの音楽を思い起こさせてくれる。
いろんな年代の人たちの歩んできたいろんな人生の中にある音楽。
堪能しました。。温かかった。。人の温かさが伝わってきた。
前回のタイトルの「うるさい」から「静かな」へのシフトチェンジになっていた理由が読んでいくうちに垣間見れる。
最後の物語には ちょっとしたサプライズがあってワクワクしました♪ -
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2024/09/28
瀧羽さんの本はとても心が温かくなるものが多いので今回はこの本を読んでみました。
理系の大学の研究室でエネルギーに関する研究をしながら息抜きに鴨川のデルタで花火をするという奇特な青年の山根が主人公。雨の日に下鴨神社で会った女性(美月さん)に一目惚れして、距離を縮めようとするのだが、緊張のあまり何もできなかったり、オドオドしまくったりしてて読んでいてムズムズするような感じ。
そうかと思えば、美月さんも、今まで花火すらやったこと無かったりブランコに乗るのをすごく楽しんだりしてて、こんな人現代にいなくない?あざとい系なのか?と思うけどどうやらそうでもないらしい。そんな2人の関係が進展していくにつれて新しく分かることもあって恋愛初心者をムズムズしながら読みたい場合におすすめなんじゃないかと思います。
あとがきを読んで知ったのですが、この本は3作品のシリーズの2作品目で、この小説には前後となる話があることが発覚したので、前後の作品も揃えて読みたいなと思います。 -
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2024/08/31
瀧羽さんの本をさらに買ってみた。巻末の書評に「精神疲労時の栄養補給に」という表現が使われていて、まさにその通りの作品だなと思いました。
主人公の優子は単身赴任で父が不在の家に、再婚相手のミドリさんと一緒に暮らす高校生で、ある日、家庭教師で大学院生の美和さん(美和ちゃん?)が来るところから始まる物語です。
これだけだとタイトルのうさぎパンって何?かと思いますが、優子の気になる人である富田くんは、父親がパン屋をやっている人でそこと関係があります、
どう関係してくるかはぜひ読んでみてほしいなって思います。
人が当たり前にしていることが優しい表現とか優しい流れで進んでいくお話で、読んでて本当に心が癒やされていくような気がします。
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2024/08/22
徳島県の外れの街で仏壇を作る職人仕事を祖父と共にしていた徳井と、徳井の後輩で東京での仕事を辞めて徳井と共に椅子を作る仕事をしたいとやってきた魚住、東京から去っていった際の仕事場の娘で魚住を追っかけて説得しにきた彼女の胡桃と得意の地元での幼馴染の菜摘の織りなす物語。
徳井と魚住は徐々に椅子を作る仕事も増えてき始めた頃に、椅子を見た大学時代の先生であり建築業界で有名な人に徳井がスカウトされるのだが…。
椅子職人というジャンルは初めて読む内容でしたが、とても読みやすいし、また良い意味での田舎の人間ある関係性がこの物語の透明度をさらに押し上げているように感じます。
読後感が爽やかな印象。何も突っかかるものがなく読めるし、働く人が自分の在り方に悩んだりする時、人生の岐路に直面している時、小説の中の徳井や魚住のやり取りや行動を読んで自然と自分と重ねられる部分もありそうだなって思いました。
またこの人の作品を読んでみたいと思います。 -
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農業。現代の斜陽産業の1つだ。衰退の要因はいくつもあるが、担い手不足が特に大きい。
業務は多岐にわたり、労働時間は長く、収穫は気候等の状況に左右される。日々が自然との格闘に近い。
それでも手塩にかけた作物が実るのを目にしたとき、手ずから収穫したとき、心は弾み明日への活力となる。
そんな魅力に気づき、農業に携わりながら自身も成長を遂げていく女性たちの姿を描く短編集。
◇
午前4時前。5月の高原でも夜明け前はまだ肌寒い。畑の脇に停められたトラックのヘッドライトが深い闇の中に鮮やかな緑の畝を浮かび上がらせている。そして、その畝のまわりでは小さな光が動いている。レタスを収穫する人の頭につけたヘッドライトだ。
沙帆も片手に包丁を持ち、頭の光を頼りにレタスの収穫に励んでいる。芯のギリギリでざくりと切り落とし、外側の葉を3枚ほど取り除いてから箱に並べて詰めていく。1段に6個ずつ並べるのも傷めないように2段に詰めるのも、この仕事に就いて日が浅い沙帆にはまだ難しい。ふと顔を上げると沙帆の両隣の畝を担当する重田さんや近藤さんは数メートル先まで進んでいる。
それでも焦る気持ちを何とか抑えて作業に集中するうち、気づけば畝の終点が目の前にあった。
強張った腰を伸ばしさすりながら見上げると、なだらかな山の稜線が眩い朝日でうっすら染まっていた。 ( 第1話「夜明けのレタス 群馬県昭和村・高樹農園」) ※全8話。
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目次を見て、ほぉと感嘆の声を漏らしました。
北海道、東北、関東、北陸、近畿、中国、四国、九州と、各話の舞台が全国に広がっています。日本各地で奮闘する女性たちそれぞれのドラマに期待が高まりました。
読み終わって満足のため息。どの話もよかったけれど特に心に残ったのは、第2話、第7話、第8話です。少しばかり触れておきます。
第2話「『茄子と珈琲』岡山県備前市・横尾農園」
主人公は大学生の真理亜です。
真理亜はまだ農業に携わってはいないのですが、備前特産の鶴海茄子が生産農家の減少で市場から消えるかもしれないという話を聞き、何とかしなくてはと思ってしまいます。どちらかというとのほほんとした真理亜が強くそう思ったのは、大叔父の作る鶴海茄子の美味しさをよく知っているからでした。
幼い頃から親しんだ美味しい作物に対する想い。ほのぼのした描写の中にもそれが十分に感じられ、大学卒業後に農業の道に進む真理亜の姿が目に浮かぶようでした。軽いオードブルのような位置づけの物語です。
第7話「『オリーブの木の下で』香川県小豆島町・高山オリーブ園」
主人公は、古希を越えた光江です。
神戸の元町で開いていた洋裁店を閉めたのは10数年前。還暦を迎えた時でした。以後、かつての恋人が残した小豆島の別荘に移住してきたのでした。
あれは50年以上前のこと。まだ20歳だった光江が就職先の洋裁店に勤めていた頃です。
誰よりも早く出勤して店を開け掃除をするのも光江の仕事でした。その日も光江が玄関前を掃いていると声をかけてきた男性がいます。
顔を上げた光江は戸惑いました。その男性は西洋人だったからです。でも英語などまったく話せない光江なのに彼のことばはなぜか理解できます。彼は流暢な日本語で話していたからでした。これがレオとの出会いです。
レオはギリシャ人ですが、大学で東洋美術を専攻していて日本に深い関心を持っていました。だから勤務する証券会社が神戸に支店を出すと聞き、志願して日本に来たということでした。レオと光江はすぐに恋仲になります。
ある時レオは、小豆島に別荘を建てます。小豆島を選んだのは、この島がオリーブ農園を営む実家のある島に似ているからという理由でした。
休日になるとレオと光江は別荘を訪れ、庭に植えられた4種類のオリーブの木の下でダンスを踊ったりして、楽しい日々を過ごします。
けれどある日……。
絵に描いたような別れの後、がむしゃらに働いた光江は夢だった自分の店を持ち、還暦を機にスパッと引退します。
生涯独身だった光江の余生を淡々と描いた話かと思ったら、感動的なドラマが用意されていました。作品の中ではメインディッシュに当たる物語です。
最終話「『トマトの約束』石川県小松市・須知トマトファーム」
主人公は、トマト農家の娘で今年30歳になる夏実です。
物語前半で夏実に関して、生い立ちと幼馴染の少年の思い出という2つの事情が語られます。それ自体はスッキリ素直なストーリーなのですが、その設え方がステキでした。
夏実の幼馴染だった少年は成長して立派な青年になっており、第7話では光江に光を届ける役割を担った救いの使者として、最終話では作品全話を通して調和をもたらす優れたマエストロとして登場するのです。 ( 詳しくは作品をお読みください。 )
このフィナーレは見事で、洒落たデザートに匹敵する物語になっています。
「農業女子」プロジェクトが担当省庁や各自治体によって企画されてずいぶん久しくなりました。
かつては農家の嫁不足問題だったのが、今や男自体が農家に居着かないことが深刻な問題になっていて、その担い手不足解消の鍵が「農業女子」であるそうです。
現代でも農業は自然との闘いであることに変わりはなく、機械化が進んだとは言え、乗り越えるべき問題は少なくないでしょう。
けれど、生きることの根底に「食」があるのは間違いありません。それを支える食材の生産というものに私たちはもっと意識を向けるべきだし、生産者に対するリスペクトを持つべきだなと認識をあらたにしました。
農業 ( だけでなく第1次産業すべて ) の未来に希望が感じられるようになることを祈ります。 ( 国産のものをどんどん食べることでしか貢献できませんが頑張ります。 )
作品の随所で窺える瀧羽さんの綿密な取材 ( 全国行脚お疲れ様でした ) と巧みな構成力には頭が下がります。読み終えて満足感でいっぱいです。 ( こういう爽やかなハッピーエンドストーリーが好きなもので……。) -
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日本各地の農場を舞台に、そこで働く悩める女性たちが、農業を通じて心を開いていく過程を描いた8編の短編。
読み始めてまず、畑で心を込めて育て上げた野菜が消費者の元に届くまでの長い道のりに、改めて感動します。
両親の期待に応えようと東京で必死に頑張ってきたOL、有名カフェでバイトする大学生、農家に嫁いだ嫁、シングルマザーなど8人の女性が登場し、どのお話も、小さな誤解がほどけて読んだあと心が浄化されるような、ほんのり優しいものばかりです。
「オリーブの木の下で」は、他とは趣が少し違っていて、ギリシャ人の年上の恋人との昔の思い出を綴った、とても美しい物語でした。
解説にもあったように、読む前に抱いていた以上に味わい深いものが感じられる、素敵な短編集でした。 -
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面白かったー。
予想以上によかった。
軽いんだけど、じんわりする。
占い師を父に持つ、男ばかりの四兄弟。
次男が家業を継ぐべく修業中だが、お父さんが絶大な占い師のため、なんだか思うところがある。
勝手に松坂桃李のイメージで読んでいた(笑)
長男、三男、四男も、映像化するなら誰だろうかとか思いながら、読む。
占いがメインではなく、四兄弟それぞれが少しずつ関わり合いながら、紡がれる日常。
それぞれ人間味があって、優しくて、家族とはいえ入っちゃいけない境界線も一応考えていたりして、なんだかんだ彼らの日常が気になって、読んでしまった。
読みながらなんだか、癒された。
四人いるから誰が自分に近いかなぁと思いながら読むのも面白いかもしれない。
朔太郎がよかったな
鷹揚とはこういう人か
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「目は赤いゼリービーンズ、鼻はレーズンで口がチョコレート。」(p121)ツヤツヤもちもちでこんがり健康小麦肌。私の大好きなうさぎ形のパンを大好きな彼が焼いて手渡ししてくれるーーーああなんという事でしょう。想像するだにときめきが押し寄せすぎてわたしの心の内は鳥獣戯画よろしくうさぎの大群が湧き出てきてマツリダワッショイタッタタラリラ状態になってしまった訳であります。
初読み・瀧羽麻子先生のデビュー作(厳密には初書籍化作?)の表題〈うさぎパン〉とそのスピンオフ作〈はちみつ〉の2話収録。パンの美味しさを引き立てるはちみつの付け合わせ。最高です。
〈うさぎパン〉…高校一年生同士の甘酸っぱい…もとい、芳醇で香しいパンがつなぐ青春恋愛物語。主人公である高校生カップルその1〈優子〉と〈富田くん〉と、カップルその2として優子の家庭教師である大学院生〈美和〉と美和が通う大学のゼミの先輩〈村上さん〉というふた組の恋人たちが織りなす成長劇を見守るはなし。
メインとしては優子と富田くんの瑞瑞しい恋模様をニヤニヤしつつ羨ましいなと思いながら眺めていく訳であり、歳上の同性である美和が優子に大きく影響を与えるという王道を踏まえつつ、なんと途中で幽霊まで登場するというちょっと不思議な展開を迎える。正直この辺のくだりに関してはさらっと流される感じなので「なぜ幽霊が?え?」と戸惑いを感じるのは確かだが、「細けえこたぁ良いんだよ!」と押し切れるくらいの絶対的な爽やかさと感動が心地良い短編。
徐々に親しくなってきたけどまだ恋人未満の関係時点、いつもよりちょっとだけ遠出した時に富田くんが優子の事を「隊長」(p52)と呼ぶ距離感とかたまんなく好き。
優子の年齢の割に落ち着いた性格を「ラムレーズン」(p26)を選ぶ女子高生と描写しているのも成る程と思うし(ついでに、優子の友達〈早紀〉の活発で社交的な性格を「マンゴーアイス」(p25)を選ぶ子、と対照しているのも上手いと思う)、「美和ちゃんはわたしのことをゆうこ(なぜか、優しいに子供の子の「優子」ではなくて、ひらがなの「ゆうこ」に聞こえる。そこにどういう違いがあるのか、説明はできないけれど)ちゃんと呼ぶ。」(p16)みたいな絶妙な感覚とか、なんかわかる気がするし、美和の声音とかイメージ出来てきてより物語に没入できる一因になっているのかなと感じた。
〈はちみつ〉…1話目と同じように恋にまつわる話でありながら雰囲気は随分と違う。若さや不思議さといった面に替わり、落ち着きやしっとりさをまとったはなし。もしやと思ったけど幽霊は出ません。優子と富田くんはニアミス出演しますが。
大失恋をしたばかりの美和の友人〈桐子〉が主人公。はじめは食事が喉を通らない状態だったが、美和の働きかけと時間がちょっとずつ桐子を前向きにさせ、やがて再びの恋の予感を醸し出しつつのラスト。
理系研究室の様子や人間像が妙に生々しくリアルに描かれているのもポイント。
元気と滋養を得られる、まさに栄養成分たっぷりの一冊。
しかと堪能を致しました。
22刷
2024.2.3