あらすじ
激務で心身ともに疲れ果てた沙帆は、東京の会社を辞め、群馬県の農園に転職。しかし“一流企業”への就職を喜んだ両親に言い出せずにいる。ある日、社長から思いがけない言葉をかけられ……。(「夜明けのレタス 群馬県昭和村・高樹農園」) 三流私大女子学生、シングルマザー、農家の嫁、女社長……。それぞれに事情を抱えながら、農業を通じて、泣きながら笑いながら、成長し変化を遂げていく8人の女性の姿を描いた短編集。
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登場人物がみんな魅力的でした。口に出して伝え合わないとわかりあえていないことって多い、、自分も思いや考えを日頃からきちんと伝えられているのか考えさせられました。
田舎から都会に出てきましたが、あの田園の風景は素敵なものだったのだと離れてから思いました。改めて食を大切に楽しみたいです。
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こんなに感動していいのだろうか、最初のレタスも戸惑いながら農家を仕事にしてホントよかったと応援出来るもので 寡黙な社長のあんたに長くここで働いてほしいからに決まってるでしょうが!がグッとくる。ただここから母親がレタス貰った後日談とか群馬の春夏秋冬を読んでみたかったのよ閉店ガラガラなのよ。オリーブも恋人の本当の別れとか知らされて、本部長もただの自慢話のおじさんではなくてとか あー全員良い人じゃんか これはもう瀧羽麻子さんの書き方なんだなぁって
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『誰かが収穫し、袋に詰め箱に入れて出荷し、さらに幾人もの手を介して消費者のもとに届く。』p18
『梨奈のことも、百合香のことも、つぐみのことも、葉月はほんの一部しかわかっていなかったのだ。目立つ果実だけに目がいって、根も葉も枝も見えていなかった。彼女たちのほがらかな笑顔の裏に隠された苦労や覚悟を、知らなかった。知ろうともしていなかった。』p157
『うずくまっているわが子の体を、母牛がくまなくなめはじめた。胎膜や粘液が舌で拭いとられて毛並みが乾き、血行が良くなるのだ。経験もなく、誰かに教えられたわけでもないのに、子どものためになにをすべきか、なぜわかるのだろう。』p238
スーパーに並べられた鮮やかで新鮮な野菜や果実といった生鮮食品。
自然という予想できない環境で、手間ひまかけて一から育て、出荷されたもの。
この作品を読んだあとに見ると、さらに光っているように見え、ありがたいなあと思う。
お米が高い、野菜が高い、果物が高い。
そんな声が最近特に増えた。私も実際そう思っていた。
けれど、愛情こもった食品に適正なお金を払うのはごく当たり前のこと。高いのであれば、大事に大事にいただけばいい。
農家さんや畜産業の方に感謝。
支えるためにできることを少しずつしていきたい。
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農業。現代の斜陽産業の1つだ。衰退の要因はいくつもあるが、担い手不足が特に大きい。
業務は多岐にわたり、労働時間は長く、収穫は気候等の状況に左右される。日々が自然との格闘に近い。
それでも手塩にかけた作物が実るのを目にしたとき、手ずから収穫したとき、心は弾み明日への活力となる。
そんな魅力に気づき、農業に携わりながら自身も成長を遂げていく女性たちの姿を描く短編集。
◇
午前4時前。5月の高原でも夜明け前はまだ肌寒い。畑の脇に停められたトラックのヘッドライトが深い闇の中に鮮やかな緑の畝を浮かび上がらせている。そして、その畝のまわりでは小さな光が動いている。レタスを収穫する人の頭につけたヘッドライトだ。
沙帆も片手に包丁を持ち、頭の光を頼りにレタスの収穫に励んでいる。芯のギリギリでざくりと切り落とし、外側の葉を3枚ほど取り除いてから箱に並べて詰めていく。1段に6個ずつ並べるのも傷めないように2段に詰めるのも、この仕事に就いて日が浅い沙帆にはまだ難しい。ふと顔を上げると沙帆の両隣の畝を担当する重田さんや近藤さんは数メートル先まで進んでいる。
それでも焦る気持ちを何とか抑えて作業に集中するうち、気づけば畝の終点が目の前にあった。
強張った腰を伸ばしさすりながら見上げると、なだらかな山の稜線が眩い朝日でうっすら染まっていた。 ( 第1話「夜明けのレタス 群馬県昭和村・高樹農園」) ※全8話。
* * * * *
目次を見て、ほぉと感嘆の声を漏らしました。
北海道、東北、関東、北陸、近畿、中国、四国、九州と、各話の舞台が全国に広がっています。日本各地で奮闘する女性たちそれぞれのドラマに期待が高まりました。
読み終わって満足のため息。どの話もよかったけれど特に心に残ったのは、第2話、第7話、第8話です。少しばかり触れておきます。
第2話「『茄子と珈琲』岡山県備前市・横尾農園」
主人公は大学生の真理亜です。
真理亜はまだ農業に携わってはいないのですが、備前特産の鶴海茄子が生産農家の減少で市場から消えるかもしれないという話を聞き、何とかしなくてはと思ってしまいます。どちらかというとのほほんとした真理亜が強くそう思ったのは、大叔父の作る鶴海茄子の美味しさをよく知っているからでした。
幼い頃から親しんだ美味しい作物に対する想い。ほのぼのした描写の中にもそれが十分に感じられ、大学卒業後に農業の道に進む真理亜の姿が目に浮かぶようでした。軽いオードブルのような位置づけの物語です。
第7話「『オリーブの木の下で』香川県小豆島町・高山オリーブ園」
主人公は、古希を越えた光江です。
神戸の元町で開いていた洋裁店を閉めたのは10数年前。還暦を迎えた時でした。以後、かつての恋人が残した小豆島の別荘に移住してきたのでした。
あれは50年以上前のこと。まだ20歳だった光江が就職先の洋裁店に勤めていた頃です。
誰よりも早く出勤して店を開け掃除をするのも光江の仕事でした。その日も光江が玄関前を掃いていると声をかけてきた男性がいます。
顔を上げた光江は戸惑いました。その男性は西洋人だったからです。でも英語などまったく話せない光江なのに彼のことばはなぜか理解できます。彼は流暢な日本語で話していたからでした。これがレオとの出会いです。
レオはギリシャ人ですが、大学で東洋美術を専攻していて日本に深い関心を持っていました。だから勤務する証券会社が神戸に支店を出すと聞き、志願して日本に来たということでした。レオと光江はすぐに恋仲になります。
ある時レオは、小豆島に別荘を建てます。小豆島を選んだのは、この島がオリーブ農園を営む実家のある島に似ているからという理由でした。
休日になるとレオと光江は別荘を訪れ、庭に植えられた4種類のオリーブの木の下でダンスを踊ったりして、楽しい日々を過ごします。
けれどある日……。
絵に描いたような別れの後、がむしゃらに働いた光江は夢だった自分の店を持ち、還暦を機にスパッと引退します。
生涯独身だった光江の余生を淡々と描いた話かと思ったら、感動的なドラマが用意されていました。作品の中ではメインディッシュに当たる物語です。
最終話「『トマトの約束』石川県小松市・須知トマトファーム」
主人公は、トマト農家の娘で今年30歳になる夏実です。
物語前半で夏実に関して、生い立ちと幼馴染の少年の思い出という2つの事情が語られます。それ自体はスッキリ素直なストーリーなのですが、その設え方がステキでした。
夏実の幼馴染だった少年は成長して立派な青年になっており、第7話では光江に光を届ける役割を担った救いの使者として、最終話では作品全話を通して調和をもたらす優れたマエストロとして登場するのです。 ( 詳しくは作品をお読みください。 )
このフィナーレは見事で、洒落たデザートに匹敵する物語になっています。
「農業女子」プロジェクトが担当省庁や各自治体によって企画されてずいぶん久しくなりました。
かつては農家の嫁不足問題だったのが、今や男自体が農家に居着かないことが深刻な問題になっていて、その担い手不足解消の鍵が「農業女子」であるそうです。
現代でも農業は自然との闘いであることに変わりはなく、機械化が進んだとは言え、乗り越えるべき問題は少なくないでしょう。
けれど、生きることの根底に「食」があるのは間違いありません。それを支える食材の生産というものに私たちはもっと意識を向けるべきだし、生産者に対するリスペクトを持つべきだなと認識をあらたにしました。
農業 ( だけでなく第1次産業すべて ) の未来に希望が感じられるようになることを祈ります。 ( 国産のものをどんどん食べることでしか貢献できませんが頑張ります。 )
作品の随所で窺える瀧羽さんの綿密な取材 ( 全国行脚お疲れ様でした ) と巧みな構成力には頭が下がります。読み終えて満足感でいっぱいです。 ( こういう爽やかなハッピーエンドストーリーが好きなもので……。)
Posted by ブクログ
日本各地の農場を舞台に、そこで働く悩める女性たちが、農業を通じて心を開いていく過程を描いた8編の短編。
読み始めてまず、畑で心を込めて育て上げた野菜が消費者の元に届くまでの長い道のりに、改めて感動します。
両親の期待に応えようと東京で必死に頑張ってきたOL、有名カフェでバイトする大学生、農家に嫁いだ嫁、シングルマザーなど8人の女性が登場し、どのお話も、小さな誤解がほどけて読んだあと心が浄化されるような、ほんのり優しいものばかりです。
「オリーブの木の下で」は、他とは趣が少し違っていて、ギリシャ人の年上の恋人との昔の思い出を綴った、とても美しい物語でした。
解説にもあったように、読む前に抱いていた以上に味わい深いものが感じられる、素敵な短編集でした。
Posted by ブクログ
瀧羽さん小説、2作品目。
全国の土地で、色んな年代の女性が色んな形で農業に関わり生きている。8人8通りの悩みや気付き、心に響く言葉を日常で感じること、とても素敵な作品だった。
私の気持ちは、解説の藤田さんと同じであり、藤田さんが選んだ言葉もまさにそれ、と共感。
「オリーブの木の下で」が少し雰囲気が違って一番引き込まれた。
どの地域の方言も素敵で、注目してみてしまった。
Posted by ブクログ
軽く読めちゃうのかなと思っていたけど、ほどよく重みがあり、ままならない人間関係に心傷んだり、社会問題も織り込まれて考えさせられたり、じっくり読めた。
食べるものを作る人々と女性たちを応援する感じはありながらも農業に限らず色々な人たちの背中を押してくれる物語だと思う。
この本が八百屋さんやアンテナショップに並べられてたり、カフェやレストランに置かれていたりしたらいいなと思った。
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いつも食べているひとつひとつの野菜は誰かの手によって育てられ収穫され私たちのもとへ届けられるけど、その誰かについて、普段はあまり意識していませんでした。
そこに気づかせてくれる作品。
章タイトルそれぞれに野菜の名前が入っていたりしてかわいいなと感じながら、農業に携わる・深く関わる女性たちの愛情や葛藤の果てに完結される野菜の物語はどれもハートフルでラブで、どれもほっこりするお話でした。
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茄子と珈琲、オリーブの木の下が個人的嗜好に刺さりまくった。
トマトの約束は王道というか男の方一途すぎる。創作だと一途と言えるが現実だと初恋に拘りすぎヤバい人になりそう
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「言わなわからん」が信条です。察することは大事だし、言われなくてもわかりたい、わかってほしいとは思うけれど、わかるよわかれよというのは傲慢じゃないかと思ったりもします。
ここに登場する人たちはみんな優しい。それがゆえに聞けない。聞かなくても察しているつもりだったけど、ひょっこり聞く機会がやってきたら、とんだ思い違いをしていたことに気づく瞬間がとてもいい。
馬鈴薯とレモンの話が特に好きでした。アスパラガスとチーズの話も好き。『うさぎパン』のときから好きだった著者ですが、久しぶりに読んだらなんだか大人になっていた。
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農業に関わる元OLや私大生、シングルマザーに古希の女性など様々な境遇の女性達。舞台は日本全国あちこちでそれぞれの作物もみな美味しそう。青春ストーリーに切ない恋に初恋物語ありで多彩。特にオーリーブは知らないことばかりで興味深かった。自分の食卓にある食材は沢山の人たちが作ってくれているのだと感じる。オリーブに登場した桜田くんはトマトの桜田くんと同一なんですよね?二十数年経て再会、二人の今後もどっかで読みたいな。
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何がすごいとかドラマッティックとかではないんだけど、どのストーリーも気持ちが良い。
作者の好きな感じが、期待を裏切られることなく楽しめたお野菜小説でした。
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自然や野菜が好きだから、タイトルに惹かれて手に取りました。
どの話も良かったけど、短編だから話の始まりに情報が多くて、話に溶け込む頃には物語が終盤で…
ちょっと短編苦手かもと初めて思いました。
本部長の馬鈴薯が、印象に残って良かったかな。付き合いづらいけど、かわいらしい感じがあって、人っていろんな面があるから、決めつけたらだめだよな、と思いました。だけど、実生活だと難しいかも…。
Posted by ブクログ
タイトルの『女神のサラダ』、帯の「読むサラダ」に、素晴らしい食材で超美味なサラダを提供する女性の物語‥と想像しましたが、全然違ってました。
8編の独立した短編集で、日本各地の8人の農業女子たちの、明日への希望を見出す物語でした。
年齢も置かれた立場もばらばらな女性たちが、様々な事情を抱えながら、野菜・果樹・酪農を中心に農業に従事する喜びを体感し、成長していく様子が清々しく描かれています。さらに8編それぞれ、農業以外の人間関係等、重い問題も扱い、短編で終わらせるのが惜しいほどの深みもあります。
短編集にした良さとしては、日本各地の里山の風景や伝統野菜の瑞々しさが上手く融合して描かれていて、行ってみたい、味わってみたいと思わせてくれる点です。綿密な取材に裏打ちされていることが伺われます。
そして、8人の女性の人生模様と併せて、農業就業人口の減少や高齢化の問題、転職から就農のパターンなど、現在の日本が抱える農業事情を取り込んでいて、問題提起とともに魅力提供にも一役買っているようです。
どんな仕事にも特有の喜びと苦労があり、農業にもメリット・デメリットがあるのは言うまでもありません。安易に脱サラ→就農とはいかないでしょうが、本書では、作物を丹精込めて育て収穫する喜び、採れたてを食する魅力が表現されています。
日本の次代の農業を支えていく若手就農者が増えていくことを願いながら、日頃何気なく口にする食材に、もっと感謝と関心をもちたいと思いました。
Posted by ブクログ
様々な境遇の女性たちが、農業に関わりながら成長していく物語。どの話も農業の大変さも感じながら、色々なことを乗り越えていく姿に共感したり、うるっとしたり。素敵な短編小説でした。
Posted by ブクログ
どのお話もすてきでした。特に最後の『トマトの約束』を読んだあとは、とても晴々とした気持ちになりました。
不器用でもいいから、人を大切に思う気持ちだけは諦めずに持ち続けていたいなと思いました。
Posted by ブクログ
とにかく読むと野菜が食べたくなる!
物価高で気軽に野菜もあまり買えなくなってしまいましたが、読むととにかく野菜が食べたくなります。
野菜が食べたくなる以外にも、背中をそっと押してくれるような話ばかりです。物価高だし、その割には給料は上がらない、仕事や人間関係、将来…皆それぞれ色々荷物を抱えて、心に少なからず傷や棘が残りながら生活していると思いますが、美味しくて栄養あるみずみずしい野菜を食べて少しだけでも前を向こうよと言ってくれるような作品です。短編集なので短時間で読みやすかったです。