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Posted by ブクログ
農業。現代の斜陽産業の1つだ。衰退の要因はいくつもあるが、担い手不足が特に大きい。
業務は多岐にわたり、労働時間は長く、収穫は気候等の状況に左右される。日々が自然との格闘に近い。
それでも手塩にかけた作物が実るのを目にしたとき、手ずから収穫したとき、心は弾み明日への活力となる。
そんな魅力に気づき、農業に携わりながら自身も成長を遂げていく女性たちの姿を描く短編集。
◇
午前4時前。5月の高原でも夜明け前はまだ肌寒い。畑の脇に停められたトラックのヘッドライトが深い闇の中に鮮やかな緑の畝を浮かび上がらせている。そして、その畝のまわりでは小さな光が動いている。レタスを収穫する人の頭につけたヘッドライトだ。
沙帆も片手に包丁を持ち、頭の光を頼りにレタスの収穫に励んでいる。芯のギリギリでざくりと切り落とし、外側の葉を3枚ほど取り除いてから箱に並べて詰めていく。1段に6個ずつ並べるのも傷めないように2段に詰めるのも、この仕事に就いて日が浅い沙帆にはまだ難しい。ふと顔を上げると沙帆の両隣の畝を担当する重田さんや近藤さんは数メートル先まで進んでいる。
それでも焦る気持ちを何とか抑えて作業に集中するうち、気づけば畝の終点が目の前にあった。
強張った腰を伸ばしさすりながら見上げると、なだらかな山の稜線が眩い朝日でうっすら染まっていた。 ( 第1話「夜明けのレタス 群馬県昭和村・高樹農園」) ※全8話。
* * * * *
目次を見て、ほぉと感嘆の声を漏らしました。
北海道、東北、関東、北陸、近畿、中国、四国、九州と、各話の舞台が全国に広がっています。日本各地で奮闘する女性たちそれぞれのドラマに期待が高まりました。
読み終わって満足のため息。どの話もよかったけれど特に心に残ったのは、第2話、第7話、第8話です。少しばかり触れておきます。
第2話「『茄子と珈琲』岡山県備前市・横尾農園」
主人公は大学生の真理亜です。
真理亜はまだ農業に携わってはいないのですが、備前特産の鶴海茄子が生産農家の減少で市場から消えるかもしれないという話を聞き、何とかしなくてはと思ってしまいます。どちらかというとのほほんとした真理亜が強くそう思ったのは、大叔父の作る鶴海茄子の美味しさをよく知っているからでした。
幼い頃から親しんだ美味しい作物に対する想い。ほのぼのした描写の中にもそれが十分に感じられ、大学卒業後に農業の道に進む真理亜の姿が目に浮かぶようでした。軽いオードブルのような位置づけの物語です。
第7話「『オリーブの木の下で』香川県小豆島町・高山オリーブ園」
主人公は、古希を越えた光江です。
神戸の元町で開いていた洋裁店を閉めたのは10数年前。還暦を迎えた時でした。以後、かつての恋人が残した小豆島の別荘に移住してきたのでした。
あれは50年以上前のこと。まだ20歳だった光江が就職先の洋裁店に勤めていた頃です。
誰よりも早く出勤して店を開け掃除をするのも光江の仕事でした。その日も光江が玄関前を掃いていると声をかけてきた男性がいます。
顔を上げた光江は戸惑いました。その男性は西洋人だったからです。でも英語などまったく話せない光江なのに彼のことばはなぜか理解できます。彼は流暢な日本語で話していたからでした。これがレオとの出会いです。
レオはギリシャ人ですが、大学で東洋美術を専攻していて日本に深い関心を持っていました。だから勤務する証券会社が神戸に支店を出すと聞き、志願して日本に来たということでした。レオと光江はすぐに恋仲になります。
ある時レオは、小豆島に別荘を建てます。小豆島を選んだのは、この島がオリーブ農園を営む実家のある島に似ているからという理由でした。
休日になるとレオと光江は別荘を訪れ、庭に植えられた4種類のオリーブの木の下でダンスを踊ったりして、楽しい日々を過ごします。
けれどある日……。
絵に描いたような別れの後、がむしゃらに働いた光江は夢だった自分の店を持ち、還暦を機にスパッと引退します。
生涯独身だった光江の余生を淡々と描いた話かと思ったら、感動的なドラマが用意されていました。作品の中ではメインディッシュに当たる物語です。
最終話「『トマトの約束』石川県小松市・須知トマトファーム」
主人公は、トマト農家の娘で今年30歳になる夏実です。
物語前半で夏実に関して、生い立ちと幼馴染の少年の思い出という2つの事情が語られます。それ自体はスッキリ素直なストーリーなのですが、その設え方がステキでした。
夏実の幼馴染だった少年は成長して立派な青年になっており、第7話では光江に光を届ける役割を担った救いの使者として、最終話では作品全話を通して調和をもたらす優れたマエストロとして登場するのです。 ( 詳しくは作品をお読みください。 )
このフィナーレは見事で、洒落たデザートに匹敵する物語になっています。
「農業女子」プロジェクトが担当省庁や各自治体によって企画されてずいぶん久しくなりました。
かつては農家の嫁不足問題だったのが、今や男自体が農家に居着かないことが深刻な問題になっていて、その担い手不足解消の鍵が「農業女子」であるそうです。
現代でも農業は自然との闘いであることに変わりはなく、機械化が進んだとは言え、乗り越えるべき問題は少なくないでしょう。
けれど、生きることの根底に「食」があるのは間違いありません。それを支える食材の生産というものに私たちはもっと意識を向けるべきだし、生産者に対するリスペクトを持つべきだなと認識をあらたにしました。
農業 ( だけでなく第1次産業すべて ) の未来に希望が感じられるようになることを祈ります。 ( 国産のものをどんどん食べることでしか貢献できませんが頑張ります。 )
作品の随所で窺える瀧羽さんの綿密な取材 ( 全国行脚お疲れ様でした ) と巧みな構成力には頭が下がります。読み終えて満足感でいっぱいです。 ( こういう爽やかなハッピーエンドストーリーが好きなもので……。)
Posted by ブクログ
日本各地の農場を舞台に、そこで働く悩める女性たちが、農業を通じて心を開いていく過程を描いた8編の短編。
読み始めてまず、畑で心を込めて育て上げた野菜が消費者の元に届くまでの長い道のりに、改めて感動します。
両親の期待に応えようと東京で必死に頑張ってきたOL、有名カフェでバイトする大学生、農家に嫁いだ嫁、シングルマザーなど8人の女性が登場し、どのお話も、小さな誤解がほどけて読んだあと心が浄化されるような、ほんのり優しいものばかりです。
「オリーブの木の下で」は、他とは趣が少し違っていて、ギリシャ人の年上の恋人との昔の思い出を綴った、とても美しい物語でした。
解説にもあったように、読む前に抱いていた以上に味わい深いものが感じられる、素敵な短編集でした。
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