【感想・ネタバレ】左京区桃栗坂上ルのレビュー

あらすじ

左京区シリーズ最高傑作、待望の文庫化!

〈女子読み恋愛小説第1位〉の『左京区七夕通東入ル』、第2作『左京区恋月橋渡ル』につづく、「左京区」シリーズ最新作にして、幸福度200%の最高傑作が、ついに文庫化!

会いたいひとは、幼いころに遊んだ“お兄ちゃん”――。
父親の仕事の都合で引っ越してばかりだった上原璃子は、4歳の時、奈良で安藤果菜と出会う。
二人はすぐに仲良しになって、青果店を営む果菜の家で毎日のように遊んだ。それに時々つき合ってくれたのが、果菜の3歳年上の兄・実だった。

やがて上原家は奈良から埼玉へ引っ越し、璃子と果菜は離ればなれになるが、高校進学のタイミングで家族は大阪に移り、二人は久しぶりに再会する。
その頃“お兄ちゃん”は大学に進学し、京都の学生寮で暮らしていた。

璃子はそれから“お兄ちゃん”のいる大学に進学。
キャンパスで“お兄ちゃん”が紹介してくれた仲間は、どれも不器用でどこかクセのある理系男子ばかりだった。

4回生になった“お兄ちゃん”は大学院進学をひかえて研究に追われていたが、ある秋晴れの日、璃子と“お兄ちゃん”にとって人生を左右する事件が大学で起きる・・・・・・。

璃子が長年こころに秘めてきた恋の行方は?
シリーズ最大規模の恋の嵐が「左京区」に吹き荒れる!
読後、きっとあたたかい風に包まれます。

(底本 2021年8月発行作品)

※この作品は単行本版として配信されていた『左京区桃栗坂上ル』の文庫本版です。

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Posted by ブクログ

安藤はアンドウ君の事だったのか。いやあピンとこなくて申し訳ないので、というかここは直ぐに気づこうぜ自分ってこと。にしても龍彦に山根に最後は安藤の恋物語だったとは。続いてるやん、左京区で繋がってるやん、にしても安藤が主役になってるとは、もうここばっかだよね、まさかとか、んーでも最初から最後まで優しい物語であった。璃子がとても良い子で、転勤引っ越しに振り回されず、挫けず、生きてきた事が1番嬉しいし、奈良時代の4年間が支えになっているのも伝わる。あれがなかったら璃子の人生も全く違うもので、友達とはこんなもんで

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2023年08月15日

Posted by ブクログ

璃子ちゃんと安藤くんの小さい頃からの、あったかい物語。一癖ある楽しい仲間たちとの大学生活がリアルで共感できる。小さい頃から一途に?思い続けた"お兄ちゃん"、妹の友達で幼馴染みとの大事件はないけど、いろんな出来事が楽しくて微笑ましい。
"左京区"シリーズの中で、一番ほっこり温かかった。

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2023年02月22日

Posted by ブクログ

あなたは、学生時代を『京都』で過ごすことに憧れますか?

人口10万人あたりの大学数が最も多いのが『京都』なのだそうです。国立の京都大学、私立の同志社大学や立命館大学など確かにそんな『京都』に本拠を置く大学はいくつか思い浮かびます。

また、『京都』に私たちは特別な感情を抱きもします。1200年前にこの国の都が置かれた地、『京都』を語る時、私たちはそんな歴史の重みを知らず知らずの内に意識しているようなところもあると思います。

『五月の京の風物詩が葵祭なら、八月のそれは五山の送り火である』。

もちろん全国各地に季節を彩る祭ごとは存在します。しかし、『京都』という地名が持つ重さがそれらを別物にしていくようなところもあると思います。そんな『京都』で多感な大学時代を、青春を送ることができたなら、それはとても絵になる物語としてそれぞれの人たちの中に記憶されていくのではないでしょうか?

さて、ここに『京都』にある『大学』に学ぶ学生たちが主人公となる物語があります。瀧羽麻子さんの人気シリーズ三作目となるこの作品。『京都』の魅力たっぷりに、熱い学生時代が描かれていくこの作品。そしてそれは、『多かれ少なかれ、誰かと誰かが出会えば変化は起こるのだ』という先に、幼き日に出会った彼と彼女が紡いでいく恋の感情を描く物語です。

『どちらかといえばおとなしい子どもだった』と自分のことを思うのは主人公の上原璃子。『損害保険会社』に勤める父親は『転勤が多』く、『一歳になったばかりで広島、二歳半で北海道』と住む場所を変えていきます。そして、璃子が四歳になり奈良へとやってきました。引っ越してきた先のアパートから公園を見下ろし『こちらを見上げ、大きく手を振』る女の子の姿を見つけると『公園に行きたい』と母親に告げた璃子。『名前は?』、『りこ』、『何歳?』、『四歳』、『うちも…うちは、かな』という璃子と果菜の運命の出会い。そして、おとなしい璃子とは対照的に、『青果店を営』む両親に育てられた看板娘として社交性を発揮する二人の関係が始まりました。そんな中で果菜より三つ年上の兄と出会った璃子は、三人で遊ぶことも多くなります。そんなある日、東京土産のケーキを持って果菜の家に出かけ、中庭で『おままごと』をしていた璃子でしたが、果菜がトイレに行った間に、『ケーキの皿をねらって』からすが舞い降りてきます。『目をつぶり、身を縮め、両手で顔を覆』う璃子という場に『大丈夫?』と声がし、『もう平気やで。追っぱらったった』と兄が現れました。『安心し』て涙が出てきた璃子は、『そこからどう思考回路がつながっ』たのかわからない中にこんな言葉を発します。『わたし、お兄ちゃんのおよめさんになる』。しかし、『別れは突然やって』きます。父親の転勤によって埼玉へ、新潟へと引っ越していく璃子は、『奈良の風景が何年経っても色鮮やか』に自分の中に浮かび続けることに気づきます。『「親友」はただひとり、果菜だけだ』と思う璃子。そして、小学六年の修学旅行で『京都』を訪れることになった璃子は班行動を抜け出し一人奈良へと向かいます。なつかしいものが次々と飛び込んでくる中に、果菜を見つけた璃子ですが、『ごく自然に、ふいと視線をはず』され『打ちひしがれ』ますが、駅へと歩く中に声をかけられます。『璃子ちゃん?』『おかえり』と言うのはお兄さんでした。そして、さらに時は流れ『高校生になった年の春』『璃子と果菜の交流が復活し』ます。『大阪支社の営業本部』に部長として栄典になった父親と共に大阪に引っ越した上原家。璃子は『歴史ある名門』女子校に通い始める中に、『璃子が奈良に来たり、果菜が大阪に行ったり』と交流を深める二人。そんな中で果菜は、『男っ気ゼロ』の璃子に男子を引き合わせようと画策しますが璃子はあまり気乗りしません。そんな璃子に『もしかして誰かおるん?』、『会いたいひと、おるやろ?』と訊く果菜に『会いたいひとは、いるだろうか?』と自問する璃子は『頭の中で考えただけのつもりが』『お兄ちゃん』と声に出してしまいます。それに、『もう、真剣に考えてよ。怒るで?』と不機嫌になる果菜。一方で、『胸にあてていた手を、顔に移した』璃子は、『頬がとても熱くなってい』るのに気づきます。場面は変わり、『翌年の秋に、とうとう僕たちは顔を合わせた』というのは主人公の安藤実。『僕は大学二回生、璃子は高二だった』と語る安藤は、『たまに誰かから璃子との出会いについて聞かれると、僕はたいがいここから話をはじめる』と、二人のそれからについて語ります。安藤と璃子の運命の出会いから始まる二人のそれからの繋がりが『京都』の大学生活の中に描かれていきます。

“〈女子読み恋愛小説第1位〉の「左京区七夕通東入ル」、第2作「左京区恋月橋渡ル」につづく、「左京区」シリーズ最新作にして、幸福度200%の最高傑作が、ついに文庫化!”という宣伝文句に妙に煽られるこの作品。そうか、”女子読み恋愛小説”…そんなシリーズの大ファンである男の私はどうすればいいの?とちょっと慌ててもしまいますが、好きなものは男性、女性関係ありません。そうです。瀧羽麻子さんの代表作であり、三冊までシリーズされているこの作品はみんなのものです!

ということで手にしたこの作品ですが、前作、前々作共通で楽しませていただいたのは『京都』の街の描写と、”学園モノ”の描写です。シリーズ三作目となるこの作品でもそんな魅力は共通に楽しませていただけますので、まずはこの点から見ていきたいと思います。

では、『京都』に関する描写からです。流石にシリーズ三作目となり、今までに登場しなかったディープ?な『京都』が顔を見せます。主人公の安藤実が『料理をはじめたきっかけは、正月のおせち作りだった』と振り返る『錦市場』への買い出しのシーンを見てみましょう。

・『東西におよそ数百メートルほど続く錦小路通には、京野菜に鮮魚に漬物、乾物や調味料まで、百以上もの店がひしめきあっている』という通りは『アーケードの狭い小路は、年の瀬の買いものに詰めかけた客でごった返してい』ます。

・『ひどい混雑』に躊躇した実ですが、『足を踏み入れてしまえば、店先に目をとられて気にならなくな』っていきます。

・『京の台所と呼ばれるだけあって、見渡す限りうまそうなものが勢ぞろいしてい』るというその場には、『旬の聖護院かぶらを漬けた千枚漬、ちりめん山椒や白みそといった、京都ならではの品々』の他、『正月らしく、立派な尾頭つきの鯛や大粒の黒豆、つきたての餅も並んで』います。

・そんな中に安藤の胸をときめかせるのが『京野菜』でした。『京風の雑煮を作るために白みそと葉つき大根と丸餅、煮物に使う金時人参と堀川ごぼうと海老芋、はりこんで丹波の黒豆も買』ったという安藤。

『京都』ならではの風景を市場に見るこのシリーズ三作目。もちろん他にも『僕は璃子と百万遍の交差点で待ちあわせした』、『今出川通をしばらく東へ直進してから、吉田山の東麓を南北に走る神楽岡通で右折した』、そして『五月の京の風物詩が葵祭なら、八月のそれは五山の送り火である』と、もう全編にわたって『京都』、『京都』、『京都』の街がこれでもか!と描かれていくこの作品。『京都』を舞台にした作品を探されていらっしゃる方には一にも二にもおすすめしたいのが、この作品、そして「左京区」シリーズだと思いました。

次に、”学園モノ”を描くところです。このシリーズで舞台となるのが『京都市左京区』に『大学本部』のある『大学』です。大学名は最後まで登場しませんが、この『大学』が、作者である瀧羽麻子さんの母校でもある京都大学をモデルにしていることに疑いはないと思います。そんな大学の風景として、『朝六時半からはじまる朝食の前には、食堂でラジオ体操をする』という『寮』の暮らしや『蓼食う虫も好きずき』というテーマで行われる『学祭』、そしてこのシリーズのお約束といって良い『たこ焼き』の様子が描かれてもいきます。特に『たこ焼き』はこのシリーズになくてはならないものです。

『たこ焼きにおける最大の肝は焼きかげんである。周りはかりっと香ばしく、中をとろっとろにやわらかく、が理想だ』。

こんな風に『たこ焼き』の作り方が詳述されるなど瀧羽さんの『たこ焼き』へのこだわりを感じさせてくれるまさしくファンサービスといって良い記述です。さすがよく分かってらっしゃる、瀧羽さん!そして、この作品の”学園モノ”で深く描かれていくのが『農学部』に学ぶ学生たちの日常です。

『璃子の所属する農学科は、総勢五十人ほどの一クラスにまとめられ、そのうち女子はただひとりだった』

そんな『男子しかいない教室』に、女子校を卒業したばかりの璃子が唖然とするのは当然だと思います。『どのグラウンドにも女子更衣室などな』いという中での『体育』の授業。『薄暗くかび臭い体育倉庫の中で、ひとりぼっちでごそごそと着替えなければならない』という現実の中に切なさを感じる璃子視点で見ていく『農学部』の風景はそれを知らない身にはとても新鮮に映ります。

『土日も祝日も、盆も正月も、理系の研究室にとって完全な休みというものは存在しない』という中に、『二十四時間三百六十五日、生命の営みはとぎれることがない』という『農学部』ならではのリアルな日常

『ほぼ毎日研究室で寝起きしている』大学院生の存在など、『農学部』のリアルな研究現場が描かれていきます。また、

『大半の学生が学士課程を修了した後、大学院での修士課程に進む』という『農学部』の進路。一方で『博士課程となると、それなりに腹をくくって、えい、と勢いをつけて階段を上る必要がある』という現実も語られます。

そして、

・『卒業審査が厳しく、留年も多い』

・『卒業したらしたで、働き口がすぐに見つかるとは限らない』

・『大学に残って教授職をねらうにも、狭き門を勝ち抜かなければならない』

・『企業の研究職に応募しようとしても、専門領域に特化しすぎていて融通がききにくい』

そんな厳しい現実があることが語られてもいきます。理系研究者としてやっていくことの大変さが伝わってもきますが、一番の問題点として語られるのがこんな現実です。

『いくら能力や意欲があっても、すばらしい仮説を考えついても、期待するデータが手に入らなければどうにもならない。運もある。どんな大発見でも、先に他の研究者が発表してしまえば価値はなくなる』。

実力だけでもダメで、運も必要というのは他の分野でも同じなのかもしれませんが、研究者という道へ進んだ者にとっては非常に厳しい現実が待っているのだと思います。”学園モノ”を描く中に、このような学びのリアルをきちんと描いていくこの作品。これこそがこのシリーズの本物感を裏打ちしていくものでもあると思いました。

そんなこのシリーズ第三作の主人公は安藤実と彼の妹・果菜の友人でもある上原璃子です。物語は六つの章に分かれ、安藤視点と璃子視点に切り替わりながら進んでいきます。物語の冒頭は上記もした通り、父親の仕事の都合で全国への転勤を余儀なくされる幼き璃子が描かれるところから始まります。『あまり仲よくなってしまうと、別れがつらい』という中に転校を繰り返していく璃子は、奈良へとやってきます。そんな場に出会ったのが『青果店を営』む両親の下に育った果菜と兄の実でした。とは言え、父親の転勤が奈良で終了するはずもなく、その後も埼玉、新潟と転勤していく上原一家。しかし、そんな引っ越し後も璃子の中に果菜と実の存在は大きなものとして残っていきます。

『璃子の「親友」はただひとり、果菜だけだった』。

そんな風に果菜をいつまでも特別視し続ける璃子は、やがて父親の大阪転勤に伴って果菜と再会を果たします。この作品は文庫本で416ページという分量の作品ですが、上記した幼き日々の璃子を描く部分が全体の五分の一にもおよびます。「左京区」シリーズ第三作を入手!と思って読みはじめた読者を戸惑わせるのがこの部分でもあります。しかし、この幼き日の描写が本来の「左京区」シリーズが展開し出す物語に強い説得力を与えていきます。前作、前々作にはなかったこの演出、第三作ならではの物語を是非味わっていただきたいと思います。

そして、この第三作のもう一人の主人公が安藤実です。前作にも登場した安藤は前作では脇役の一人にすぎませんでした。そこには、こんな風にその存在が描写されています。

・”安藤は、パンツを三枚しか持っていないくせに、塩とカレー粉はそれぞれ五種類ずつ持っている”

・”縦にも横にも幅のある体格の安藤が立てる物音は、ひときわ大きい”

・”こと食べものに関しては、安藤はうるさい。錦市場で珍しい京野菜を買ってみたり、西京にある老舗の漬物屋まで足を延ばしてみたり、金もないのに高価な食材を買いこむ癖がある”

レビューを書くために安藤の描写を振り返ってみましたが、そこで驚くのは、前作に描かれる安藤が確かに今作の安藤になっているということです。前作執筆時に今作を想定して設定を描いたのか、それとも前作の描写の先に今作を描いたのか、このあたりはよく分かりませんが、シリーズとしてとても上手くできているのは間違いありません。それは、前々作で主人公を務めた龍彦と花子、前作で主人公を務めた山根が今作に脇役としてそれなりの存在感をもって描かれていくこともあります。前々作、前作の物語に酔わせていただいた身には、まさしく瀧羽さんのファンサービスだと思いますが、かつての主人公たちのその後を知ることができるのもシリーズものの何よりもの醍醐味だと思いました。

そして、この作品ではそんな安藤と璃子の恋の物語が描かれていきます。幼き頃にただひとりの『親友』と認識した果菜の存在、そんな彼女の兄である安藤のことを『お兄ちゃん』と呼んで接していく璃子の中に『お兄ちゃん』は特別な位置を占めていくのがよく分かります。そんな物語には不思議な存在が登場します。それこそが大学生になって女子が極めて少ない環境の中に知り合った涼真の存在です。

『璃子にとって人生初の男友達は、涼真だった』。

まさかの『男友達』の発想が登場します。『男友達』というと、千早茜さんの代表作の一つ「男ともだち」が思い起こされもしますが、この作品で璃子が認識するのは女友達の延長線上にある関係性という設定です。『男友達』というものが成立するかどうかは千早さんの作品でも大きく問われましたが、この瀧羽さんの作品で描かれる『男友達』にも是非注目いただきたいと思います。

話は少しそれましたが、物語では、安藤と同じ『大学』に入学した璃子の姿が描かれていきます。幼き日に『ケーキの皿をねらって』からすが舞い降りてきたことがきっかけで知り合った二人。『わたし、お兄ちゃんのおよめさんになる』と語った幼き日の璃子。そして、離れ離れになった先に再び出会った二人の関係性が描かれていくこの作品。”恋愛小説”としてキュンとくる物語は、『それでも結果は同じだったんじゃない?』という先に万人が期待した、万人が納得する結末へと展開していきます。「左京区」シリーズならではの物語、そう、そこにはこのシリーズだからこその説得力をもった”恋愛物語”が描かれていました。

『透きとおった「ご縁」の糸が、僕たちの上に網の目のように張りめぐらされている様を、僕は思い浮かべた』。

『京都市左京区』に『大学本部』のある『大学』を舞台に描かれたこの作品。そこには、『農学部』に学ぶ安藤と璃子視点で描かれる大学生の日常が描かれていました。安定感のある『京都』の描写に『京都』の魅力を堪能できるこの作品。”学園モノ”として大学生のリアルな日常を浮かび上がらせてもいくこの作品。

それぞれの作品がキラ星の如く輝く「左京区」シリーズの第三作目となるこの作品。瀧羽さんの”京都愛”と”大学愛”がひしひしと伝わってくるとても愛らしい作品でした。

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2023年06月12日

Posted by ブクログ

おとなしくのんびりした性格の上原璃子。
父の転勤で、璃子が4歳のとき一家は奈良へやってきた。
住宅地にある公園で、璃子は同い年の果菜と友達になり、三つ歳上の「お兄ちゃん」が、時々遊びに加わってくれた。
商店街のはずれで両親が青果店を営んでいる兄妹。「お兄ちゃん」とは、すなわち安藤くんである。
その後も上原一家の転勤はたびたび続き、大阪に栄転となった父のおかげで、ついに高校生の璃子は、果菜と「お兄ちゃん」に再会するのです。

左京区シリーズでおなじみの、優しくて親切なあの寮生たちにまた出会えます。
お兄ちゃんと同じ大学の農学部に入学した璃子の大学生活に、前回も登場した学祭のたこ焼き屋の場面や、葵祭や五山の送り火などが、ブレずに再現されていて、何だか集大成のようで、左京区ファンにはたまらなく嬉しいです。
物語全体が人の縁であふれていて、出てくる人たちが次々と幸せになっていきます。

2人の傍らでとってもいい味出してくれる果菜と、大学のたくさんの仲間たちと、のんびりゆっくり着実に、一歩一歩坂を上るように進んでいく、璃子とお兄ちゃんの物語は、本当に幸せな気持ちにさせてくれます。

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2022年04月14日

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