瀧羽麻子のレビュー一覧
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ネタバレ『誰かが収穫し、袋に詰め箱に入れて出荷し、さらに幾人もの手を介して消費者のもとに届く。』p18
『梨奈のことも、百合香のことも、つぐみのことも、葉月はほんの一部しかわかっていなかったのだ。目立つ果実だけに目がいって、根も葉も枝も見えていなかった。彼女たちのほがらかな笑顔の裏に隠された苦労や覚悟を、知らなかった。知ろうともしていなかった。』p157
『うずくまっているわが子の体を、母牛がくまなくなめはじめた。胎膜や粘液が舌で拭いとられて毛並みが乾き、血行が良くなるのだ。経験もなく、誰かに教えられたわけでもないのに、子どものためになにをすべきか、なぜわかるのだろう。』p238
スーパーに並べ -
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タイトルと装丁で衝動買いした本。
買ってから間が空いたが、もっと早く読めばよかった。
砕けすぎず、文学的すぎず、平易すぎず、小難しくなく、ちょうどいい語り口。穏やかなストーリー進行が読んでいて心地よかった。好きなのは「よりみち」「おさきに」、感心したのは「おそろい」。極論、どれも好き。
近年多いカフェもの、ちょっと変わったお店ものってだいたい展開が決まりきっていて、小説によっては退屈にも感じられるが、これは全く飽きない。何度でも読み返したいし、この作家さんを他にも読みたくて、さっそく本屋でお買い上げした。久しぶりに素敵な作家さんに出会えた! -
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あなたは、『好きなものはなんですか?』と、『突然』訊かれた場合、なんと答えるでしょうか?
これは答えられるようでなかなか難しい質問だと思います。その答えは時と場合、そして相手にもよると思います。”好きなこと”でもなく、『好きなもの』という設問が答えを難しくしてもいます。また、『突然』という設定も微妙です。人は慌てると何を口走ってしまうか分かりません。
とは言え、一般的には、その『質問の意図としては趣味・特技あたりが聞きたかったのだ』とは思われますが、確定的なことはその場にいないとなかなか類推も難しいものだと思います。
さてここに、『好きなもの』を訊かれて、『パンです』と答えた一人の女子高 -
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2024/12/08
瀧羽麻子さんの作品は本当に好きで色々と読み漁ってます。
この本は、着物を染める職人さんの光山という人物と出会った、こじんまりとした食器販売店を営む紫さん(ゆかりさん)の紆余曲折ある人間関係の模様を描いたお話です。
それぞれの人の雰囲気があるように、着物にもそれぞれの人の良さを際立たせる色があって、それを考えながら着物の染色をする職人さんの人を見る目というのがこの本の描写の中に出てきます。
人の性格や人間性を見抜いてどんな色が合うかを考える、またその色はどんな植物から得られるのかと言った、普段は考えたこともないような世界が描かれていてとても面白かったです。
また、舞台が京都 -
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ネタバレ気象学専門の学者、藤巻博士を取り巻く家族たちを登場人物にした連作短編。
いつも空を見て、雨が降ると全身に浴びたがるような藤巻博士は、母親から人との交わりを苦手をしていることを心配されるようなタイプの人なのだが、この博士が掲載1つめと最後の短編でとても良い雰囲気を醸し出すのだ。
ネタバレになるが、その最初と最後の小道具が長靴。作品の間には55年もの年月が流れていて、その間の家族たちの物語が間に挟まれている(不倫や中間管理職の悲哀など浮世のテーマ作品もある)短編を読んだら、この博士と長靴がガツンの効いてくる。
伏線を張って…というタイプの連作短編ではないのだが、こういう回収の仕方もあるんだな -
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前作「ありえないほどうるさいオルゴール店」から楽しみにしていた。
前作は北の街、今回は南の島へやってきた店主。7つの短編。
その人の心の中に流れている音楽をオルゴールにしてくれるオルゴール店。
ひとつひとつの物語の風景とその人の歩んでいる人生の風景を
丁寧に表現していて その記憶の中にある想いの音楽を思い起こさせてくれる。
いろんな年代の人たちの歩んできたいろんな人生の中にある音楽。
堪能しました。。温かかった。。人の温かさが伝わってきた。
前回のタイトルの「うるさい」から「静かな」へのシフトチェンジになっていた理由が読んでいくうちに垣間見れる。
最後の物語には ちょっとしたサプライズがあっ -
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2024/09/28
瀧羽さんの本はとても心が温かくなるものが多いので今回はこの本を読んでみました。
理系の大学の研究室でエネルギーに関する研究をしながら息抜きに鴨川のデルタで花火をするという奇特な青年の山根が主人公。雨の日に下鴨神社で会った女性(美月さん)に一目惚れして、距離を縮めようとするのだが、緊張のあまり何もできなかったり、オドオドしまくったりしてて読んでいてムズムズするような感じ。
そうかと思えば、美月さんも、今まで花火すらやったこと無かったりブランコに乗るのをすごく楽しんだりしてて、こんな人現代にいなくない?あざとい系なのか?と思うけどどうやらそうでもないらしい。そんな2人の関係が -
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2024/08/31
瀧羽さんの本をさらに買ってみた。巻末の書評に「精神疲労時の栄養補給に」という表現が使われていて、まさにその通りの作品だなと思いました。
主人公の優子は単身赴任で父が不在の家に、再婚相手のミドリさんと一緒に暮らす高校生で、ある日、家庭教師で大学院生の美和さん(美和ちゃん?)が来るところから始まる物語です。
これだけだとタイトルのうさぎパンって何?かと思いますが、優子の気になる人である富田くんは、父親がパン屋をやっている人でそこと関係があります、
どう関係してくるかはぜひ読んでみてほしいなって思います。
人が当たり前にしていることが優しい表現とか優しい流れで進んでいくお話で、 -
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2024/08/22
徳島県の外れの街で仏壇を作る職人仕事を祖父と共にしていた徳井と、徳井の後輩で東京での仕事を辞めて徳井と共に椅子を作る仕事をしたいとやってきた魚住、東京から去っていった際の仕事場の娘で魚住を追っかけて説得しにきた彼女の胡桃と得意の地元での幼馴染の菜摘の織りなす物語。
徳井と魚住は徐々に椅子を作る仕事も増えてき始めた頃に、椅子を見た大学時代の先生であり建築業界で有名な人に徳井がスカウトされるのだが…。
椅子職人というジャンルは初めて読む内容でしたが、とても読みやすいし、また良い意味での田舎の人間ある関係性がこの物語の透明度をさらに押し上げているように感じます。
読後感が爽やか -
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農業。現代の斜陽産業の1つだ。衰退の要因はいくつもあるが、担い手不足が特に大きい。
業務は多岐にわたり、労働時間は長く、収穫は気候等の状況に左右される。日々が自然との格闘に近い。
それでも手塩にかけた作物が実るのを目にしたとき、手ずから収穫したとき、心は弾み明日への活力となる。
そんな魅力に気づき、農業に携わりながら自身も成長を遂げていく女性たちの姿を描く短編集。
◇
午前4時前。5月の高原でも夜明け前はまだ肌寒い。畑の脇に停められたトラックのヘッドライトが深い闇の中に鮮やかな緑の畝を浮かび上がらせている。そして、その畝のまわりでは小さな光が動いている。レタスを