清水義範と西原理恵子による,お勉強エッセイシリーズのひとつ。シリーズ7作目にして最後の作品である。この作品のテーマは,「ほとんど枠組なしの,こんなことも勉強だよね」というもの。このシリーズは,清水義範らしい,ひねくれた目線がないので,よくも悪くも優等生のような仕上がりになっている。ほどよく知的好奇心をくすぐる話が多いのだが,聖書の話やら,奴隷の話やら,天使の話やら…やや興味を持ちにくい題材も多い。清水義範作品の中では中の下…あるいは下の上程度のできか。ぎりぎり★3で。
個々の作品の所感は以下のとおり
○ 文明の自己紹介(歴史の話)
テーマは世界史。学生が学ぶ世界史は,中国史とヨーロッパ史であることを指摘した上で,イスラムやインドなどの歴史観を紹介している。歴史という学問は,そもそもヨーロッパのヘロドトスや,中国の司馬遷であることを示した上で,文明や文化に達成度の採点を付けていく考え方をやめて,それぞれの国の自己紹介=歴史を突き合わせていくような世界史を学びたいと閉めている。
○ 食べ方は生きる知恵(料理の話)
料理の歴史の話。子どもが世界の料理の話に関心を持つという話から始まり,世界三大料理であるトルコ料理をはじめとするイスラム圏の料理の話,しょうゆの話などが書かれている。
○ 見たことありますか(幽霊の話)
幽霊の話。21世紀に入り,科学がより進歩していく中で,幽霊を信じ,怖がる人が増える傾向にあることを紹介した上で,幽霊を怖がる原因は,人間が死を怖がること,そして生き返ることを怖がることをあげている。人間は,生と死の間にある垣根が壊れることこそを恐れており,幽霊というものは人間の文化であると閉めている。
○ 時を刻む方法(暦の話)
うるう年の話,特に2000年が非常に100年に一度のうるう年がない年でありながら,400年に一度のうるう年がある年であることからはじめ,イスラムの太陰暦,月,1週間,六曜,干支の紹介をしている。
○ 商品としての人間(奴隷の話)
古代ヨーロッパの奴隷,イスラムの奴隷,日本の奴隷などさまざまな奴隷を紹介し,「奴隷」って何なのかを考察する。戦国時代の頃などに,日本人も奴隷としてヨーロッパに売られていた話なども紹介。一般的な人が持っている奴隷=黒人のイメージはかなり偏ったものなのだろう。「何人も,いかなる奴隷的拘束も受けない」という社会を守り通していきたいですね」と閉めている。
○ 眠るための場所(墓の話)
ピラミッドの話から始まって,中央アジア,トルコ,イスラムの墓,インドには墓がない…といった話をした上で,タージ・マハルで終わらせている。
○ 翼のある使者(天使の話)
旧約聖書の天使の話から,聖書の外典,儀典に出てくる天使の話,古代の天使の話をした上で,アメリカの天使信仰について言及している。
○ 有名な話がいっぱい(聖書の話)
旧約聖書の話,天地創造,楽園喪失,カインの弟殺し,ノアの箱舟,バベルの塔,アブラハムからモーセまでの話を紹介している。それから,新約聖書の洗礼者ヨハネの話とバラバの話を紹介している。
○ 異世界にひたる(旅行の話)
インド人の旅行の話,イラン人の旅行者の話,トルコ人の旅行者の話,マルコ・ポーロの話,イブン・バットゥータの話が紹介されている。
○ 中心でも端でもなく(宇宙の話)
理科的ではなく,よもやま話的に,人間は宇宙をどう考えてきたんだろうという話を描いている。地動説と天動説から始まり,コペルニクス,ケプラー,ガリレイ,ニュートンときてハッブル。宇宙の膨張とビックバンについて上で,人間原理の宇宙論を紹介している。