城山三郎のレビュー一覧
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近ツリの社史を、前身の日本ツーリスト社長 馬場勇をメインにして描いた、いわゆる経済小説。著者の入念な資料調査と、機微な人間関係のタッチは良かったと思う。ただ個人的には、宮本常一と近ツリの結び付きについて、もう少し話が聞きたかったところではある。
観光研究の教科書では、往々にして、「マスツーリズム」から「サスティナブル・ツーリズム」へなどと、短絡的な言葉遊びが展開されているが、かかる「マスツーリズム」の内実を細かに描出した本に出会ったことがなかった。本書は、戦後から70年代までの国内における旅行業事情、言い換えれば、当時のマスツーリズムの諸相をまざまざと見せつけてくれる一冊であった。
日本 -
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武州血洗島の一農夫から攘夷の志士。そして実業界の父へ。渋沢栄一の波乱の生涯を追った描いた長編歴史小説。
武州の一農夫渋沢栄一は尊皇の志士から一橋家に取り立てられ幕臣。洋行の後、明治新政府に出仕するまでが上巻。
下巻では、渋沢が明治政府に仕え 銀行の創設や合本会社(現在の株式会社)など民間企業の育成に努める。井上馨、大隈重信、江藤新平、大久保利通、西郷隆盛など登場。渋沢の評伝であると共に明治初期の政治、経済の歴史ともなっている。
三井、三菱などの後に財閥となる商店との戦い。横浜での外国商人との争いなど維新の前後を通じ渋沢の正義感と合理的な行動は変わらない。
やがて野に下り第一銀行の頭取や -
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現代日本につながる実業界を作った渋沢栄一。武州血洗島出身、幕末は志士であったという。エネルギッシュな渋沢の波乱の生涯を描いた長編歴史小説。
上下巻の上巻。
大河ドラマ「青天を衝け」の渋沢栄一、日本経済、実業界の創立の立役者。武州中山道の宿場町深谷宿の北の血洗島の豪農の家に1840年に生まれる。
自分にとって渋沢は明治の人。調べてみたところ、意外にも高杉晋作、久坂玄瑞、沖田総司と同世代だった。
本書を読み渋沢も志士だったことを知る。
幕末に開国。攘夷、威信の風は空っ風の吹く関東地方にも及ぶ。栄一ら若者は江戸への遊学や武芸の修行者との出会いを通じ、世の中を変えようと思い至る。
一つ間違えば清川 -
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ネタバレ田村正和さんの死をきっかけに知った本作。城山さんの作品を読むのも初めて。
出会った瞬間から別れる瞬間まで、ただただ、温かくて深い愛情を、容子さん一点に注いだ城山さんに心を打たれた。
これを読んでから城山さんの本家の(気骨ある)作品を読むことと、本家の作品を読んでからこの作品を読むこととは、全く違う読書体験になるだろう。
城山さんファンとにわかファンの私とは、城山さんとの出会い方が全く違う。恐らく、この出会い方は城山さんの本意ではないだろうが、経済小説に疎い私に対して唯一開かれた、貴重な入り口だと思っている。
ちなみに、児玉清さんによる解説が、この本の価値を高めているように思う。なんと素晴らし -
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幕末維新激動の中、渋沢栄一が武州の一農夫から明治新政府の一員(租税正、今で言えば財務省主税局長)として招かれるに至る迄がこの上巻で描かれる。尊王攘夷に燃え仲間と共に討幕の行動を起こす決意をしその機を常に窺い乍らも世の中は目まぐるしく変化し続け、なかなかその意を遂げる事が出来ない。しかしそんな中でも、栄一は世の中の動きを常にキャッチアップして、初志貫徹する事の武士としての潔さ等に縛られる事なく、今どうすべきかの方向性を柔軟に修正する事が出来る。そんな思考・行動特性が、回りの若くして散っていった仲間に比べて、僥倖とも言える程の境遇に導いて行かれる事に繋がるんだなぁと思う。
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「静」の浜口雄幸と「動」の井上準之助。対照的な二人の人生が金解禁という大事業を前に交錯し、政治を動かしていく様を史実に基づいて生き生きと描いた傑作です。二人は対照的でありながら、働くことについての信念や経済観などの核心部分では通低している部分があるように思え、そこもまた面白いです。
二人は、戦前、命をかけて軍部に立ち向かえた最後の政治家ではないかと思います。二人の死後、軍部に物言える政治家を挙げろと言われてもなかなか難しいのではないのでしょうか。
日露戦争と太平洋戦争に挟まれた時代の、しかも経済の話ということで、日本の近現代史の中ではあまり陽の当たらない箇所をテーマにしていますが、二人の波