【感想・ネタバレ】落日燃ゆのレビュー

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Posted by ブクログ

広田弘毅の事は知らなかったが城山三郎の著書だったので拝読。非常に勉強になったし、広田弘毅の生き方にはリスペクト出来た。
東京裁判で絞首刑を宣告された七人のA級戦犯のうち、ただ一人の文官であった元外務官僚、元総理、元外相まで勤めた広田弘毅。
戦争防止に努めながら、その努力に水をさし続けた軍人たちと共にA級戦犯として裁かれ、それを従容として受け入れた広田弘毅の潔い生涯を激動の昭和史と重ねながら克明にたどる。
福岡の石屋の倅として生まれ余りの優秀さゆえに進学。日清、日露戦争で戦争に買ったが外交で負けた日本を見て外交官を目指した。
どんな時も国際情勢を冷静に分析し誠意をもって外交を行う広田は、軍人に負けない強い信念と、粘り強さと、実行力を持つ数少ない人物として、外務省の役人から外務大臣となり総理大臣へ上り詰めた。
常に平和外交を目指して軍部、右傾の世論と冷静に戦い続けた広田だが最終的には太平洋戦争突入を止められなかった。統帥権独立の名の下に軍部は独走し、同じ軍部でも陸軍、海軍が対立。同じ陸軍内でも参謀本部と陸軍省が対立。関東軍の勝手気儘な独走によって事態は修復不能になってしまう。
史実に忠実に描かれた小説で、近代史を理解するのにこれ以上正しく歴史が描かれた小説は少ないと思う良書である。
太平洋戦争、第二次世界大戦について詳しく知らない人でも、飽きずにテンポよく読めるので歴史を知りたい人にもお勧めです。
丁寧な取材により小説化されているので脚色はほとんど無く外務省同期の佐分利貞男の死因を巡る陰謀についても一部、丁寧に描かれているが故に佐分利貞男の遺族より訴えられている。
この裁判は故人に対する名誉毀損が成立するかどうかと一時期大変話題となった。
個人的には、当時としては珍しかったであろう高級官僚であった広田が恋愛結婚を実らせた妻静子との仲にも真実と誠実さが垣間見れた。
静子は広田が巣鴨に収監されたのち、広田を楽にしてあげられる方法が一つあると言い残して思い出の鵠沼の別宅にて自殺している。享年62歳。
東條英機他の軍人A級戦犯達が、13階段に向かう前に万歳三唱を行った事に対して象徴的な皮肉のような冗談を言っている。万歳、万歳を叫び日の丸の旗を押し立てて行った果てに、何があったのか思い知ったはずなのに、ここに至っても、なお万歳と叫ぶのは、漫才ではないのか?

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2024年02月10日

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文官で唯一、東京裁判で絞首刑に処された、広田弘毅についての本作。
日本人として必ず読むべき作品だと感じた。

日本の教育って史学を世界史と日本史に分けている上に、理系だと高校以降史学をきちんと学ぶ機会がなかったりするので、日本がどういう風に戦争に向かったのか、きちんと頭で理解出来ていない人が多いのではないか。(大変恥ずかしながら、かくいう私もその一人だし、、、)特に私のような所謂ゆとり世代。
意欲がない人に学べというのは無理があるかもしれないからこそ、義務教育時点できちんと広田弘毅のような人について教えてほしいなあ、、、。

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2023年07月16日

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A級戦犯として裁かれ、文官ととして唯一絞首刑となった元首相広田弘毅の話。心打たれるものがあり、日本人なら一度は読んで欲しい作品。

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2023年06月22日

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極東裁判で天皇を守るために身を挺して責任を被り、門官で唯一絞首刑となった男の話。
小学生の時に読んで心を打たれた。
もっと世に知られるべき日本の隠れた偉人。

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2023年05月07日

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1人の男の壮絶な人生の話だった。以前東京裁判のドラマを見た時は裁判官側の視点だったけど、この小説は逆で、何が正しいのかも曖昧になってしまった。
ただ、1人の文官の使命、行動、覚悟を見た時に、心を動かされずにはいられない、ある意味では清々しいしく真っ直ぐな話し。
ただただ感動した。

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2023年03月21日

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7人のA級戦犯のうち、ただひとり文官で処刑された広田弘毅の生涯を描いた毎日出版文化賞、吉川英治文学賞受賞作。
広田は福岡の貧しい石屋の子に生まれながら、苦学して外交官の道を選びます。その理由は純粋に日本が外交の力の必要なことを痛感したから。時代は大正、昭和の激動期。本書の前半は幣原喜重郎、松岡洋右、吉田茂といった外務省の一癖も二癖もある人物たちとの対比によって広田の「自ら計らわぬ」という超然とした行き方を浮き彫りにして、広田の人間としての面白さ、魅力を描いていきます。また、満州事変、支那事変の関東軍の暴走を懸命に食い止めようとする広田の外交官としての責任感、平和への希求が冷静に描かれます。
後半は戦犯として裁かれる東京裁判での広田の描写が中心となりますが、前半で広田の協和外交を見てきた読者は広田が被告となったことに驚くはずです。本書は東京裁判が非常に政治的なイベントであり、外交官として「戦争について自分には責任がある。無罪とはいえぬ」と自ら弁護を行わなかった広田の潔さを描き、広田が絞首刑になるまでの過程を淡々と記します。
激動の昭和史を描いた歴史小説ですが、広田と夫人、3男3女との交流も触れられ、小説に奥行きが生まれました。

広田弘毅は本書で悲劇の宰相として知られるようになりました。ただ、実際の広田に関する実際の評価は一定していないと理解しています。それでも、外交官としての広田の生涯を鮮明に描いた作品は本書だけではないでしょうか。とても面白い本であることは間違いなく、一気に読みました。昭和史を手っ取り早く俯瞰したいという方にもお勧めですが、他の本も読む必要はあると思います。

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2022年09月15日

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日本が戦争に足を踏み入れないように、外交努力を重ね各国の大使からも信頼を得ていた広田弘毅さんの生涯を綴った作品。広田さんが重ねた努力は軍人の暴走、妨害により悉く潰されてきた。にもかかわらず東京裁判では、その軍人たちと共に処刑される。一切の弁解をしなかった広田弘毅さんの軌跡を学ぶことができる。
東京裁判の歪んだ構図も伝わってくる。
8月は、戦争に関する書籍を手にしたくなる。お勧めの一冊。

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2022年08月18日

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ネタバレ

東京裁判の結果、A級戦犯としてただ一人文官でありながら処刑された広田弘毅。
名前は知っていたけれど、どういう人物であったのか、この本を読むまで知りませんでした。

貧しい石屋の長男に生まれ、勉強は好きだしよくできたけれども家の後を継ぐことしか考えられなかった少年時代、彼の才能を惜しんで進学を強く勧めてくれた人がいたおかげで 東大まで進む。
そして日清・日露戦争後の国際情勢を見て、軍隊だけでは国際社会で勝ち残ることはできないと、外交官を目指すのです。

戦争で得ることのできなかった国益を、外交の力で得る。
そのためには多くの国とうまくやっていく力がないとだめだ、と。
しかし時代はどんどんきな臭くなり、天皇のため・お国のためを振りかざす陸軍が、政府の言うことも参謀本部の言うことも天皇の言うことすら聞かずに独断専行することになります。

”軍中央は、事変の不拡大を関東軍に指示した。それが天皇の命令であり、統帥といわれることなのに、関東軍は、統帥の独立をうたいながら、統帥に背いて独走した。”

*関東軍:中華民国の関東州に派兵された大日本帝国陸軍の部隊
*統帥権:大日本帝国憲法下における軍隊の最高指揮権

広田は割と早いうちに陸軍の暴走に対して「長州の作った憲法が日本を滅ぼすことになる」と言うのですが、その憲法すら踏みにじって陸軍が暴走してしまうわけです。
このあたり、偽勅を振りかざして天皇をないがしろにした長州のやり口に似てる。
明治維新も昭和維新も同じだな。

そして、平和外交こそが日本が国際的に生きる道と信じている広田のもとで、外務省官僚すら軍に同調していきます。
「目先ばかり見て、勢いのいいところにつこうとする。ああいう軽率な連中に国事を任せては、日本はどこへ行くかわからん」

大きなことを成し遂げて名をあげようとする輩が多くいるなか、広田は最初から最後まで「外交官としては、決して表に出るような仕事をして満足すべきものではなくして、言われぬ仕事をすることが外交官の任務だ」という。
外交官だけでなく、公務員ってそういうものだと私は思って仕事をしていますが。

どんな時も国際情勢を分析し、誠意をもって外交を行う広田は、とうとう大臣に迎えられます。
軍人に負けない強い信念と、粘り強さと、論理を持つ数少ない人物として。
外務大臣から総理大臣へ。

政治家となると、途端にいろいろなものがいろんな人から送られてくるようになりますが、広田はそれを孤児院や日雇い労働者にまわします。
そんな彼を「人気取り」と書く新聞もありましたが、「いつの世にも、下積みで苦しんでいる人々がある。そういう人々に眼を向けるのが、政治ではないのか。政治は理想ではないのだ」とつぶやく。

なんとか陸軍の暴走を食い止めようと手を打ちますが、常に一歩軍の暴走が先んじてしまい、とうとう戦争が始まってしまいました。
東條英機の独裁下で、満足に御前会議を開くことさえできないなか、それでも平和への努力を惜しまなかった広田が、どういう運命なのか軍人たちと一緒にA級戦犯として処断されます。
「あの時はどうしようもなかったんだ」「そういうつもりじゃなかったんだ」「前線が勝手に暴走したんだ」
見苦しく言い訳をする軍人たちのそばで、広田はついに自己弁護をしなかったのだそうです。
「善き戦争はなく、悪しき平和というものもない。外交官として、政治家として、戦争そのものを防止すべきである」
それができなかった自分を、彼は決して言い訳することなく、刑に臨みました。

東京裁判が多分に政治的な裁判であり、最初からバランスとして文官を入れたいという、答えが先に決まっている茶番でした。
近衛文麿が自殺しなかったら、広田にお鉢が回ることはなかったのではないでしょうか。
それでも、外交官時代の広田を知る各国の大使たちが助命嘆願してくれてもよかったんじゃないの?なんて思ってしまいますが、どうなんでしょう。
私としてはパール判事が広田についてどのように語ったのかを知りたいところです。

*パール判事:戦勝国が敗戦国を裁くのは事後法で、罪刑法定主義に反するとしてA級戦犯全員を無罪とした

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2022年01月27日

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歴史上、表に出ない話にスポットライトを当てており、非常に興味深く考えさせられる一冊だった。
自分の考え・生き方を貫くのは凄いなと思った。

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2021年05月05日

Posted by ブクログ

まず広田弘毅という首相・外相がいたことを知らない。そして極東裁判でA級戦犯として絞首刑になった7名のうち、ただの一人の文官であったことも知らない。太平洋戦争は軍人の戦いとして様々な作品になっているが、その陰で、戦争に転落する日本を食い止めようとした文官の戦いがあった。
広田の述懐として「この戦争の何よりの責任者は、個人よりも、統帥権の独立を許した構造そのものに在る。」と語られる。
広田弘毅がマイナーなのは統帥権に阻まれ何も出来なかった首相・外相であったからだ。実際政治家としての評価は高くないようだ。広田が戦争回避のために行った外交努力は凄まじいものだったが、結果として何もできなかった政治家として、戦争責任を認め、自己正当化することなく東条や土肥原ら軍人被告とともに処刑されていく。
本作では真珠湾から敗戦の戦争物語はほとんど語られず、戦争前の文官の戦いと戦後の人間模様が語られる。統帥権に阻まれ次から次へと瓦解していく内閣の軽さ、常に外交と戦争が紙一重で展開される国民国家の危うさ。システムに飲み込まれた文官の絶望的な戦いを通じて、現代の我々も知っておかなければならない歴史があると感じた。

なお戦後の宰相として権勢を振るった吉田茂は広田の同期で同じ外交官。戦犯として処刑された広田とは対照的に、戦後の政界は欧米にコネクションがある外交官出身政治家が勢力をのばしたという。運命の皮肉か。

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2021年01月25日

Posted by ブクログ

文官としては唯一A級戦犯で処刑された広田弘毅の伝記です。
外交官として地位を築き、望まない戦争に巻き込まれていく広田弘毅をえがいています。
読み終わった後、広田弘毅の生き方のファンに慣れるような本です。

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2021年01月01日

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参考文献の多さが著者の実証主義的な哲学を物語っていますね。
主観を排除して淡々と進むストーリーの中に、広田弘毅という人間の泰然とした人間性が滲み出ます。
なぜ日本は戦争に向かったのか、東京裁判とは何だったのか……広田弘毅という一人の人間を描くことで、近現代史の重要命題に鋭く切り込む傑作です。

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2020年10月24日

Posted by ブクログ

広田弘毅の生涯を描いた伝記小説。「自らは計らわぬ」という信念に基づき、唯一文官としてA級戦犯に問われ、一切の弁明を避け処刑を受け入れた。現代、これ程の覚悟と責任感をもって国政にあたっている政治家が果たして居るのだろうか?他国から靖國参拝に対する中傷があろうと断固として拒絶し、せめて御霊を拝する気概を持つべきである。

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2020年10月22日

Posted by ブクログ

昔外交官を目指していたので、この本の存在は知っていた。しかし、広田弘毅に良い印象がなかったため、敬遠していた。
時はたち、本屋で見かけた時に当時を懐かしみ、手に取り迎え入れたところ、良い意味で裏切られた。

生島ヒロシの帯にもあるが、広田の生き方には他力の潔さがある。自ら計らうことはないが、その結果は自分で負う。しかし信念がないかと言えば、それは違う。表には出さずとも、裏には強固な意思がある。

時代が違えば、きっと活躍出来た人だと思う。背中で語り、現代に生きるヒントを与えてくれる存在だと感じた。

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2020年05月16日

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日本が太平洋戦争へと踏み込んで行った経緯がよくわかる。決して一枚岩で戦争に突き進んだのではなく、天皇、首相、外務省、様々な立場が時に平和主義者として振る舞い、ある行動が戦争を促進に繋がったり。軍部の暴走に牽引された、大きなうねりにとなって戦争に陥入って行った歴史が紡がれる。
その、大きなうねりの中で、翻弄されながらも個人として、平和への志を失わずに、働き続け、死んで行った広田弘毅という人物の人生が静謐な筆致で描かれる。物来順応、自ら計らわぬ生きかた。決して真似することができないし、何故、他者にあれだけ邪魔をされても、自らの命を賭けてまでも、戦犯という汚名を着せられても、その様に在ることができたのか。全く理解ができないが、責任を果たすということ、意志を強く持つ人の姿にこの書を通じて触れることができたことは、自身の駄弱さを痛感し自らの来し方を省みる上で、僥倖なのかもしれない。

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2020年05月12日

Posted by ブクログ

外務省同期の広田弘毅と吉田茂。平和主義者の広田弘毅が戦犯で絞首刑となり、武断派の吉田茂が戦時中拘留された事実を免罪符に戦後に宰相となるとは何という皮肉。
広田弘毅が一切の自己弁護をしなかった理由のひとつとして、「文官の自分が極刑となることで天皇陛下を無罪とすること」とあったのが事実かどうかは何せ本人の釈明が一切無いのでよく分からないけれど、保身に狂奔する他の被告人とすごく対照的で、えらくカッコいい。
広田弘毅のことは、この本を読む迄殆ど何も知らなかったが、令和即位パレードの日に読み終えて、何だかよい節目となった。

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2019年11月11日

購入済み

落日燃ゆ

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2019年03月31日

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清廉潔白に描き過ぎの感は否めないが、文官からみた太平洋戦争に突入する道程を描いていたことは勉強になり、また東京裁判の過程については知らないことも多かった。読んで損はなし。

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2023年07月30日

Posted by ブクログ

歴史小説はシバシカンで成り立っているので他の歴史小説読んでもイマイチピンと来なかったのですが、この本は違いました。行動と他己評価で主人公を形作る筆致に感銘を受けました。城山三郎先生の本をもう少し読んでみようと思います。

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2023年02月11日

Posted by ブクログ

日本史をほとんど勉強したことがないのと、一般教養不足なのもあり、誰のことを言っているのか、なんのことを言っているのか分からないことが多く、かなり読むのに苦戦した。登場した政治家の中ですぐ分かった者といえば吉田茂くらい、、それもこんな人物だとは全く知らず新鮮だった。

戦争という悲劇を招いたとはいえ、この時の政治家たちには、今の政治にはない政治家としての信念や熱意を感じた。政治家だけでなく会社でも、上役になることを拒む者が多く、今の日本は皆責任を追うことを避けたがる風潮があると思うが、当時はこんなにも皆自信を持ち、野心があり、生き生きしていたのかと、ある意味感動した。

印象的だったのは身内の死に対する広田の受け止め方。自分が広田の立場だったとすると、一生立ち直れないだろうと思った。広田がそれぞれの死を自分なりに解釈し、消化して、かなり前向きにとらえていてすごいな…と思いつつも、只者ではなかったというか、そういう人だからここまでのことができたのかと納得させられた気がする。

A級戦犯という言葉は知っていたが、何も知らなかったと痛感した。自国の歴史くらい、いい大人なんだからちゃんと知っておかねばと反省。

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2022年02月04日

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A級戦犯とは「平和に対する罪」で訴追された者を指し、B級戦犯、C級戦犯はそれぞれ「通例の戦争犯罪」、「人道に対する罪」であるようだ。では「平和に対する罪」とは何なのかというと、「侵略戦争を計画、準備、遂行し、共同謀議を行なったかど」とのこと。

日本では極東国際軍事裁判にて28名がA級戦犯で訴追され、そのうち以下の7名が絞首刑に処せられた。
土肥原賢二:陸軍大将
板垣征四郎:陸軍大将
木村兵太郎:陸軍大将
松井石根:陸軍大将
武藤章:陸軍中将
東條英機:陸軍大将
広田弘毅:文官

ただ一人の文官、広田弘毅。外交官から二・二六事件後の首相となり、後に外務大臣として戦争防止に努めた人物。その生涯を描く本書は、吉川英治文学賞受賞の長篇です。

広田弘毅は、外務大臣として国際協調路線を貫き、とにかく戦争回避に奮闘します。一方で、現実的な判断を兼ね備え、うまく軍部と渡り合おうとしたようにも感じました。統帥権の独立と帷幄上奏権の濫用が軍の暴走に繋がったと認識していますが、そのような状況下、すべて軍部に反対していては、そもそも何もできないか暗殺されるかのどちらかですので、文官としてできることを模索していたように思えます。

とはいえ、何かとタイミングが悪い時期に重職に就いているな、との印象。例えば、二・二六事件後の首相時代は「軍部大臣現役武官制」を採択しています。軍部大臣就任資格を現役の陸海軍大将あるいは中将に限定した制度ですが、これがために軍部の政治的進出が強化されます。そして、近衛文麿内閣における外務大臣時代に盧溝橋事件が勃発し、日中戦争に拡大。南京大虐殺が引き起こされます。日中戦争を始めたことや、南京大虐殺を止める有効な手立てを講じなかったことが罪状となり、起訴されたようですので、広田弘毅自身の本意ではないところで処せられるという、悲しい結末です。広田弘毅の処刑にはさまざまな憶測があるようですが(例えば早々に自決した近衛文麿の身代わり)、いずれにせよ、戦争反対に努めた者に対する処置としては、あまりに皮肉。
ちなみに、不作為の罪という言葉のとおり、何もしないことも罪だと見方もあるようですが、本書を読む限りにおいては、広田弘毅は全く何もしなかったわけではないので、その見方も一方的だな、と思う次第。

激動の昭和史を描く小説は何かと暗い気持ちになりがちですが、広田弘毅という偉大な人物が存在したということを知れたことは大きな勉強でした。

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2022年01月08日

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極東軍事裁判で死刑判決となった7人中6人は軍人で、判事団の票は7対4で死刑だったのに対し、残り1人は文官である広田弘毅で評決は6対5の僅か1票差。オランダ代表判事の意見書では「文官政府は軍部に対しほとんど無力であった」中で広田は十分な努力をしたとして全ての起訴事実について無罪を主張した他、フランス代表判事も、一人の主要な発起人である天皇の責任が追及されない裁判は不平等であり被告人達は不当な責任を訴追されているとの意見を出しており、また検事団にとっても広田の死刑は意外で、主席検事キーナンは「なんというバカげた判決か、どんな重くても、終身刑までではないか」と憤慨していた。
そもそも極東裁判は、合衆国の命令系統下にある最高司令官に支配されるにもかかわらず、最高司令官は合衆国の立法や司法の手続きを取らずに裁判所条例を設け新しい犯罪を規定して刑を宣告しているのは米国憲法に違反している、とかつて広田の弁護に当たっていたスミス弁護士が願い出たり、減刑を望む署名運動が起こったりで、その判決の不当さが際立つ中で、広田本人が不服として騒ぎ立てる様な態度を全く見せない。
外交官や首相として暴走する軍部に対して一貫して平和に向けた努力をし続けた彼が、何とかして止めようとした相手である軍人達と同日に処刑されるという理不尽さ、自分の様な常人にはとても消化出来ない。

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2021年11月04日

Posted by ブクログ

●企業人になった頃に、城山三郎さんの本をたくさん読みました。城山さんは某小説賞の席で、金で左右されるような賞の審査員は辞退すると、席を立ったそうです。そうした言行一致の姿勢が好きです。
●この本は広田弘毅の人生について書かれました。ただ一人の文官として、処刑された広田の思いに感動しました。

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2021年08月01日

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広田弘毅贔屓の物語だったので、そこは少し割り引かないといけないとは思ったが、広田弘毅の人生なり考え方はとても勉強になった。
生き切った人生だったのではないかと思う。

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2020年12月04日

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東京裁判で東条英機らとともに絞首刑を言い渡されたA級戦犯7人中唯一の文官であった広田弘毅。元総理であり外相を3期務め、戦前戦中の「名門」「軍人」が占める重臣の中にあって「背広」組として卓越した外交手腕を基に戦争回避に奔走した人物である。

戦中における政府中枢機関における責や極東国際軍事裁判の是非などは一先ず問わない。軍部の指揮命令系統が瓦解し統帥権独立の名のもとに陸軍暴走する様は恐怖であり愚かである。しかしその軍部の暴走を少なくとも開戦までは支持し賞賛したのは国民であったのも事実。そうしたなかで冷静な眼でブレずに外交交渉に尽力する広田の胆力の強さをひしひしと感じる。史料や証言も少ない中で広田の人物評をこれだけ魅力的かつ多面的に描く城山三郎の筆力にただただ恐れ入る。

「自ら計らわぬ」の精神ゆえ自己弁護も最低限の主張さえせず宣告を受け入れた広田の落日とは如何がであったか。「A級戦犯」というレッテルを外したうえで日本を守ろうと奔走した偉大な人物の生き様を捉えておくべきであろう。

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2020年07月16日

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ネタバレ

戦後の東京裁判で文官でありながら唯一A級戦犯とされ
処刑された広田弘毅。
彼の戦前から戦後までを追ったノンフィクション。
著者の主観が入っているとはいえ
歴史教育では語られない人物です。
戦争回避のために内外含めて交渉を重ね
最終的には軍部の暴走に敗れる。
次は軍部として、そうせざるを得なかった
分を勉強したい。

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2020年06月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

3.5
東京裁判で絞首刑となった7人のA級戦犯のうち、唯一の文官であった元総理、外相広田弘毅。戦争防止に努めながらも、それに邪魔し続けた軍人達と共に処刑宣告され、それを一切の弁解をせずに受容した。その生涯を描いた伝記小説。このような人物がいたのかと考えさせられる内容。なかなか面白い。「自ら計らわぬ」「風車、風の吹くまで昼寝かな」。吉田茂の同期であり誰もよりも先んじて外相・首相となった。文官の中では、近衛首相をはじめ多くが自殺等で死んでいたため、広田が何の処置もとらなかった式に、不作為の罪を問われる形となった。巣鴨刑務所でも一切の不満や愚痴、言い訳を言わず、全責任は自分にあるとした。13階段の前に、東条らが万歳三唱をしていたが、次の組だった広田は、マンザイをやっているのかといい、ここに来ても万歳といえるのかという最後の痛烈な冗談とのこと。自らはやらずに刑場に入った。この逸話は真偽不明のよう。
質素で華やかな社交なども苦手で、妻静子も夜会嫌い。海外でも単身赴任。
福岡県庁付近の水鏡神社の南の鳥居の「天満宮」は、無名だが字のうまかった小学生の広田が書いたものらしい。丈太郎が最初の名前だったが、中学卒業と同時に、好きな論語の1節「士は弘毅ならざるべからず」からとり広田弘毅に。親のつけた名前を捨てるのは辛く当時改名は僧籍に入る必要があり、そこまでして変えた。おとなしいが、思い込んだら徹底してやる性格。外交官1年目の北京では、外交官の集まりではなく、駐在の特派員、銀行員、商社員、軍人などの若手の集まり。中国政策についての話し合いであり、声高にいうのではなく吸収に努めた。当時の外務省政務局長であった山座から、外交の中心は、志那とロシヤだと聞かされその情報を究めていた。
オランダからの帰国時、ロシヤだけでなくインドネシアを見たかった広田は、部会の大鷹に託した。「熱帯を制するものは世界を制する。オランダの植民地だったが、日本が進出すれば国際紛争になるため経済面での進出が可能か見てくる」また、広田はオランダ時代は、読書に明け暮れた。小国ながら世界を制覇したことがあるオランダの発展の秘密や工夫、知恵を学びたいと考えた。他の外交官のように英語版だけでなく、オランダ語の新聞雑誌資料を読むためにオランダ外務省を退職した老人を雇い翻訳させ読書をした。一日の読書の終わりには論語を読むのが日課。陸軍大臣の候補者推進方法に関して取り決めをなした。一角の人物を不遇にしておくとかえって策謀をめぐらし悪影響を及ぼすが、むしろ責任ある地位につけることで自重して軽挙妄動しないという見方。

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2020年01月05日

Posted by ブクログ

「自ら計らわず」を信条に、大戦前の激動で混沌とした政治の世界を生きた広田弘毅を主人公にその半生を描く。
小説上、広田は外交官・政治家として軍部に対抗し、苦しみながら和平を模索するが、結局、戦争への道を閉ざすことができず、さらに皮肉なことに軍人以外の文官で唯一、A級戦犯として処刑されることになる。「自ら計らわず」の通り、積極的な自身の弁護もしないまま・・・。そのギャップが広田への大いなる同情をさそう。
ただし、仮に積極的な作為がなかったにせよ、重大ポイントで広田は外務大臣や総理大臣としての判断をしめしてきた。政治家の判断の重さを感じざるを得ない出来事である。

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2020年07月12日

Posted by ブクログ

首相や外相の立場で何度も何度も戦争を止めようとしたが、軍部の暴走に翻弄され、責任を問われて東京裁判でA級戦犯として死刑となった広田弘毅の一生を描いたノンフィクション。

この話を読んでいると当時の軍部の行動が非常に無謀で短絡的なように思える。
広田に焦点は当てられているものの、作品の範囲が、戦前、戦時中、敗戦後の裁判に及んでいて、あまり整理されていないため、もともと知識が無いのもあって少し分かりにくかった。

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2021年09月10日

Posted by ブクログ

日本が第二次世界大戦に向かうまでとその後についてが描かれているが、いかに軍部が暴走していったのかや、外交が蔑ろにされてきたのかが描かれており、また違った歴史の一面を知れた。

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2021年06月19日

Posted by ブクログ

第二次世界大戦後、唯一の文官として処刑された広田弘毅の話。

A級戦犯がどのように処刑されていったのかが、淡々とした口調で語られていく。
所々に城山の私見も入っているけど、フィクションにさせない描写力が素晴らしい。
自ら計らわない生き方は賛否両論あるし、個人的には好きではないかな。それでも読後感は悪くなく、壮大な絵を見たかのような感じが残った。

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2020年03月09日

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