城山三郎のレビュー一覧
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高度成長期の日本を舞台に、国家を背負い、自分の人生を懸けた通産省の官僚たちの生き様を描き出した作品。主人公は飽くなき人事への興味を持ち、ミスター通産省とも呼ばれることになる有力官僚ながら、歯に衣着せぬ物言いとざっくばらんな態度から、野武士然とした官僚らしからぬ男。彼はあくまで国家のために、そして有用な人材を生かすべく奮闘するのだが、彼の言動は政財界との軋轢も産んでしまうのだった。。。
世間一般の官僚のイメージとはかけ離れた主人公。これでうまくやっていけるのかと心配していると、案の定彼の理想の実現は暗礁に乗り上げるのだが、まあ今の目で見るとフランス式経済というのもどうかなとは思う。でもそんな彼も -
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78歳で財界人から初めて国鉄総裁になった石田禮助の伝記。戦前三井物産社員として中国やアメリカで活躍したところから当時の部下へのインタビューも交えて話を起こし、パブリック・サービスの精神で国鉄総裁に就任、安全重視と健全経営に向けた改革を進める姿、一方で"ブレイン・ファーマー"として自給自足の農園暮らしを送るなど家族生活の模様も描き出している。
自分のことはマンキー(猿)であると言いながら、"粗にして野だが卑ではない"として、合理的な考えを通し、どんな相手にも直言を辞さなかった生き方には好感が持てる。時代もあるとは思うけれど、こういう筋の通った人が今の世の -
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このところ城山三郎のエッセイを、手に取る機会が続く。
「無所属の時間」とは、まさに読書子の現状にピッタリと、15年ぶりに再読。
「無所属の時間」とは、どこにも属さず、肩書きのない状態を指すと思うが、著者は「人間を人間としてよみがえらせ、より大きく育て上げる時間ということではないだろうか」と、積極的に捉えている。
著者は、「この日、この空、この私」と所々に綴っている。
人生は考え出せば、悩みだせば、きりがないから上記のような気持ちで生きるしかないのではないか、と。
諦念という意味ではなく、「その一日こそかけがえのない人生の一日であり、その一日以外に人生は無い」「明日のことなど考えずに、今日一日生 -
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18年ぶりの再読。
他の文庫本に比べて、字が大きく行間も広めにとってあり、小さい文字が見にくい身にとって読みやすい。
題名は、島崎藤村の「千曲川旅情のうた」の一節だそうだ。
「テンポの速い人間が多くなり、社会のテンポが加速度的に速くなっている」ゆえに、この言葉をつぶやきたいと。
まったく同感の思い。
戦争体験の著者が、「ガイドライン法、盗聴法、国旗国歌の法制化、一億総背番号制と、国民の自由を奪うおそれのある立法が立て続けに進められており(著者執筆当時)、悲惨な戦争に何を学んだのかと、悲しくなる」とも。
現在でなら、マイナ法や個人情報保護法などが該当し、著者の懸念は増すばかりだろう。
その他、身 -
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2023.04.30
1955年に中部経済新聞に連載された明治の中京財界の概説書。
2023年4月の今とは異なり、豊田佐吉はベンチャースピリットの塊であったことが、抑えた筆致から伺われる。
本書は2021年に新装版として再刊されたものだが、解説文にて、経営学者の楠木建いわく、現在はVUCAの時代だというが、経済と商売に限っていえば、いつでもどこでも「激動期」というのが本当のところであり、明治維新から昭和初期の不確実性、複雑性、曖昧性は今日の比ではなかったとのこと。
人間は自分が1番大変だと思い込んで、あるいは思い込まないと生きていけない存在であることを改めて考えさせられている。