前川裕『アウト ゼア 未解決事件ファイルの迷宮』光文社文庫。
元新聞記者の小説家である成瀬幹夫が5つの未解決事件を描くという設定のノン・フィクション風、フィクション短編集。
タイトルは『out there = 未解決で、(犯人等が)捕まっていない 変な、君の悪い(口語)』という意味のようだ。
...続きを読む本作を読んで、マスコミや警察が公表する事件の真相やストーリーはイヤに整然としているが、実際には事件の裏にもう1つの事件が隠れていたり、真相はもっと複雑なのではないかと考えた。短編集全体がそれだけリアリティを感じるような構成になっているところが非常に面白い。しかし、いずれの短編も嫌な後味を残す。
『しりょうのふね』。解決済、未解決を問わず事件の真相というのは結局はこんなものではないのだろうか。真実と思えたことが実は虚偽であったり、その逆もある。物事は時代と共により複雑になり、なかなか真実が見えなくなってきている。今の世が欺瞞に満ちているというのはそういうことなのだろう。
『偽装者の顔』。複雑に入り組んだ人間関係が論理的な思考を阻害し、事件の本質を見えなくすることはよくあること。この短編はこうした見えない事件の本質を見事に描いているように思える。事件の裏には実はもう1つの事件が隠れている……
『たそがれの通り魔』。通り魔事件がいつどこで起こってもおかしくない昨今。『人権』というパワーワードの元、多くのアブない奴等やオカシイ奴等が社会に放置されているのではないだろうか。駅のホームで笑みを浮かべながら踊るように傘の柄を突く男、奇声を発しながらくるくると回り続けている男、怖い顔をして人を押し退けながら突き進む女……怖い。昔はオカシイことを指摘し、周りに注意喚起を促しても『人権』問題にはならなかったと思う。『人権』というパワーワードが席巻する限り、思い切った発言ができず、再び悲劇は起こるのだ。
『みちゆきの夜』。事件の関係者が身内ということで、何とも言えない嫌な後味が残る。しかも、男女関係のこととなると尚更だ。今の世の中、いつどこで事件に巻き込まれるか解らない。いや、知らぬ間に既に事件に巻き込まれているのかも知れない。
『冤罪の条件』。やはり、事件の裏にはもう1つの事件が隠れているのだ。不思議なことに犯罪というのは様々な形で連鎖し、悲劇を増幅させるのだろう。
本体価格660円
★★★★★