鴻巣友季子のレビュー一覧
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ネタバレ言葉を生業にしている親近感もあり、翻訳家や通訳のひとの話はおもしろい。書評もよくかいているが、そのセンスもわりと好き。彼女はちょっと上の世代で子育てもする人なので、共感のポイントはさらに多くなる。あちこちの媒体に書いたエッセイを集めたものなので、長短も話題・文体もバラバラながら、それもまた最後まで飽きさせないリズムと思えてくる。「言葉が気になる」の章はもちろん、「道草を食う」と章立てされたちょっと不思議な、非日常にくらっとするような文章もおもしろいもの揃い。ホストファミリーとして出会ったアフガニスタンの若い女性の話、掉尾を飾る久世光彦さんとのエピソードなどはしんみり。
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クッツェー『恥辱』を翻訳された鴻巣さんのエッセイ本。見慣れた世界名作文学の『嵐が丘』、『傲慢と偏見』、『ぼくを探しに』(シルヴァスタイン)、『風と共に去りぬ』、そこにいきなり『ロングテール』(クリス・アンダーソン)などなど、かつて読んだ本、見覚えのあるタイトルがぞろぞろ出てきて、そばで話を聞いているようなワクワクとした親近感が沸く。海外文学だけでなく、近代日本文学、文学者たちの翻訳の歴史まで追究して迷宮の森に入り込むようだ。
どう翻訳しようか著者が思い悩む英単語の例には難しい単語はなく、特に英語が身近ではない人にも分かりやすく読めるだろう。翻訳の話題だけではなく、意外と料理の話も多く、しかもか -
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明治・大正時代の翻訳の裏話もろもろ語り、といった本。例えば、「鉄仮面」の仮面は鉄でできてはいなかった!とか煽ってあるけど、まあその作品自体知らないんだよなー。でも知ってたらもうめちゃめちゃ面白いと思う。というのも、あんまり想像でいい加減に書いたりしないで、面白い引用をたくさん出していて、文章も落ち着いていて、ユーモアも利いていて、いろいろ知らなくてもちゃんと読める本に仕上がっているからです。最近、岸本佐知子という唯一神を中心に翻訳家崇拝者になっているんだけど、鴻巣さんの文章もだいぶ気に入りました。ポプラ社のエッセイも読んでみたい。これ、知っている話だったら(っていうか現代作家バージョンはもう誰
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ちょっと、西の魔女が死んだを思い出した。
子供にとってひと夏という短い時間が、一生の中でどれだけ大切なものになりうるかが、さらっと描かれた文章の中に詰まっている。
楽しいときを留めておけないくらいなら、いっそ素っ気なく振る舞う感じ。
願望や喜びの感情をあえてセーブすることで、避け難い現実からのダメージを大したことではないかのように、やり過ごす感じ。
そんな子どもならではの心の防衛反応が、あぁ分かるなーと思う。いろいろと思い出す。
だからラストの一言が、ぐっとくるね。
ここは、クレア・キーガンがうまい。実に鮮やか。
映像やセリフでは、この一言に込められた想いの半分も伝えられないのではないだろう -
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面白くなくはなかったけど、絶賛されてる意味はわかんなかった。。
毒親によって人生をめちゃめちゃにされる子供たちにはシンプルに心が痛んだので、ノットフォーミーだった気もしている。
無理矢理嵐が丘の家に連れて行かれたリントンくんが、最終的にあんなに性格がひん曲がってしまったことが悲しい。
根っこには性格の悪いところがあったとしても、穏やかな叔父の元で慈しまれながら育ったならあんなふうにはならなかったんじゃないか。
ヒースクリフが生涯を捧げた復讐も逆恨みすぎて全然共感できないし普通に嫌い。
でも登場人物一人一人にこうして心を痛めたり、嫌いになったりするってことは、まあ、ちゃんと面白くはあったんだ -
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1985年、アイルランドの小さな町。
クリスマスが迫り、寒さが厳しくなるなか、
石炭と木材の商人であるビル・ファーロングは
ある日、石炭の配達のために女子修道院を訪れる。
そこでファーロングは「ここから出してほしい」と願う娘たちに出くわす。
修道院には未婚で妊娠した娘たちが送り込まれているという噂が立っていた。
隠された町の秘密に触れ、決断を迫られたファーロングは
己の過去と向き合い始める。
そんなあらすじ。この物語を読むまで存在すら知らなかった。
1996年まで存在したマグダレン洗濯所。
婚外交渉により身ごもった女性ばかりでなく、
堕落する可能性があると恣意的に判断された女性、
身寄りのな -
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ネタバレ作者は、南アフリカ生まれの白人。この作品で、2度目のブッカー賞を受賞。
前に読んだ『絵葉書きにされた少年』で、クッツェーの作品が何度か引用されていたので、興味を持って読んでみた。
読んでみると、話は重い。南アの社会的問題に直面させされる。
アパルトヘイトが終わり、民主化の道を開いたマンデラ政権。様々な人種が共存できる「虹の国」として新しい出発をきった南アだったが、長年抑圧されてきた黒人と白人の共存はむろん一朝一夕で実現できるものではない。犯罪率が急増し、白人への強奪、レイプなどが日常茶飯事となり、南アを去る白人も増えた。
話の展開は、一人の大学教授が、ある時女子学生と親密な中になり、それが -
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ネタバレまず、自分に700ページあまりの小説を読めるのかと躊躇しました。さらに200年も前の海外文学を理解出来るはずがないとも思いましたが、理解したいと思ったのです。
初めのうちは名前と人間関係、物語の背景に慣れず、1日30ページにも満たない遅さで、かなり時間をかけて読み進めました。何度も巻頭の家系図を見返してこれまでになく丁寧に読みました。
女中視点の昔語りで話が進み、物語の最後には現在に追いつく箇所がきます。まるで「物語の中の人」にあえた感覚でした。
英国の田舎の閉鎖的で鬱屈とした逃げ場のない環境において、遂には破壊し尽くせないこと察して諦めて死して結ばれたあの御方。とうとう最期まで理解できません -
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家族でも結局、一人一人の人間なのだから
分かりあうってことは、ごく珍しいかもしれない。
この本は第三者から見た景色や語り手から見た景色が進む話ではない。
出てくる登場人物たちが、お互いにどう思っているか、どんな感情を持っているかが延々と書いてある。
誰かのたった一言に対して、過去の記憶や複雑な感情が数ページにわたって書かれていたり、何も起こらない静かな情景の中で、人との孤独や繋がりが繊細に描かれている。
セリフだって無いようなもので、
読んでいて本でしか表現できないとは
こういうことかと思った。
映画ではどうしても台詞や行動で表現する必要があるから、ここまで深く、複雑な感情を伝えるの -
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