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Posted by ブクログ
犬の眼差し
文が強く鋭い。主人公である50代男の現実的な視線をよく表現している。南アフリカは社会面でも自然面でも日本と違う土地だが、見える風景に対する毒づき方にはいちいち共感した。彼は西欧文学に通じる大学教授。西欧白人社会の偽善にうんざりしていて、口からは皮肉しか出てこない。その南アフリカは、ケープタウンから少し郊外に行くだけで、そうした偽善の裏側にある野生的で危険で不条理な社会がある。彼は学内のセクハラで訴えられ、追われるように娘の住む郊外に行くが、娘を食い物にして消化しようとしているその不条理な社会にも憎しみの目を向ける。鋭い社会批判小説だが、その視点は白人社会にも黒人社会にも置かれず、犬の眼差しのようだと感じた。
Posted by ブクログ
重い、これは告発小説なのだろうか?
圧倒的な力の不均衡のもとにループしてゆく暴力、暴力。
男と女、白人と黒人、若者と老人、人間と動物。
欲望と憎悪と復讐心と。
これはアフリカーナーの懺悔録なのだろうか。帝国主義のもたらした残滓としての「恥辱」が重層的に描かれる。52才にして未だ枯れやらぬ男であるが故に社会的に抹殺されるデヴィッドと、要らない生き物として殺処分される犬の運命が重ね書きされているところに、この作品の救いのなさがある。色好みの中年男性が年下の女性に入れあげて失敗し、都落ちして現地の女性と関係する、というストーリー自体は、一種の英雄流離譚とも読めなくも無くて、日本なら『伊勢物語』『源氏物語』あたりがよく知られている。そのプロットをアパルトヘイト後の南アフリカに置換えた結果、英雄流離譚が暗黒変換されたものとも読める。
では、英雄を駄犬に変えてしまうものとは何なのか?
移民、ではなく、主人、として植民地に乗り込んだ人々の後ろ暗い思いと戸惑い、なのだろうか?現代社会が説く「平等」や「博愛」、「自由」を思う様蹂躙した先祖たちの過去を、謂れもなく精算させられる側の。とするならば、これは、日本人の物語でもあるのではないのか?朝鮮の、中国の、台湾の、南洋諸島の人々の視線を無邪気にかわし、無知に遊ぶ日本人の恥辱を暴く小説ではないのか?
『今ここに在ることの恥』という辺見庸さんの著作を思い出す。
私たちは知らない間に、あるいは意図的に、いつも誰かの足を踏んでいる。
Posted by ブクログ
南アフリカの大学(都会)と田舎の二つが舞台。
仕事で2度しか訪れていないが、リアリティをもって読むことができた。
主人公は西欧文学専攻の大学教員。それがセクハラ疑惑から転落し、犬の殺処分に携わる中で、これまでの人生を振り返る。その振り返りは生やさしいものではない。過去の女性は彼の中では全て美しく輝く。しかし、唯一、実の娘ルーシーだけは、妥協点が見えない。彼女こそ、もう一人の主人公ともいえる存在。覚悟が決まっていて、不可解だが、魅力的なのだ。
読み終わって、ただただすごいものを読んでしまったという感想しかない。ヒロイズムのかけらもないのに、人間とは、社会とは何なのか、考えさせられる。
Posted by ブクログ
最初はしょうもないオッサンやなーって感じだったんだけどね。まぁ最後までそれは変わらなかったわけですよ。
しかし平たく言えばいい年こいても性欲が収まらないオッサンが若い子に手を出すといういやしかし普通に今でもあるけどそれが文学的な表現でここまで生まれ変わるのかと思えば待ちでパパ活に励む世のおっさんどもも大手を振って歩けるというものではないか。
フラレた若い子の出ている劇を見に行ってまた振り返ってくれないかなーとか妄想しているところとか最高だけどしかしこんなんで賞を取っちゃうとか審査員もオッサンしかいねーじゃねーかとかこれはこれでどうしようもなく、、イイネ!
Posted by ブクログ
元文学部の教授が学生と関係をもったために大学を追われるも妙な開きなおりさえ見せる序盤、あまりにも現実での見おぼえがありなんともいえない気分になる。とまあそれはさておき、まだ訴えられる前の主人公の勤めるさきがコミュニケーション学部というのが最高で、この全体のかろやかな皮肉の調子はなによりも文体に滲み出て、絶望的な惨状や嘆きをとことん悲壮にさせない。いわゆるインテリ側の人間が、そういうもののまるで通じない土地に身を置いたときの無力さは、しばしば描かれる題材ではあるかもしれないがやはり痛切。自身のもたらした害には一向に想像力を働かせないで、自身と、そのまわりがうけた屈辱だけを嘆く滑稽な男が、最終的には殺処分される動物らに愛を見いだす結末には、この物語に対する安易な形容を寄せつけないすさまじさがある。
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