堀茂樹のレビュー一覧
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ネタバレ戦争というものは、かくも人の心を傷つけ続けるものなのかとあらためて思う。リュカは激しい悲しみと孤独の人だけれど、他の人々もそれぞれひとりひとりが喪失の物語を持つ。ヴィクトールの「すべての人間は一冊の本を書くために生まれた」という言葉にあるように。
それにしても謎が回収されないままに終わってしまい、読者であるわたしは置いてけぼりだ。最大の謎は「兄弟」の存在だけれど、それ以外にもある。なぜリュカはこれほどまでにマティアスに執着したのか、なぜヤスミーヌを殺したのか、なぜ彼は神に祈らないのか...。3体の骸骨の下にある藁布団が「生温か」かったのはどういう意味なのかもよくわからなかった。アゴタ・クリスト -
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ネタバレ「悪童日記」の続編だけども、表現の仕方がガラッと変わる。「悪童日記」は子供の世界「ふたりの証拠」は青年から大人への世界。登場人物に名前の無い、肩書や属性や特徴だけだった世界に、名前とともに個性が与えられて、それぞれのしがらみで、分かたれた双子の片割れであるリュカを浮き上がらせる。もう片方のクラウスの人生が対比で語られるのかと思いきや、終盤まで出てこないばかりか、イマジナリーフレンドだったのではないかという疑念が湧いて、そう言えば「悪童日記」での靴屋のおじさんの受け答えは不自然だったかもしれないなと思い至る。
著者は、物事が人間の成長や変化に与える影響を、すごくよくわかっている人だと思う。
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初アニー・エルノー。すごく良かった。小説ってこんなに生身の人間を直に曝け出すことができるんだと圧倒された。
恐らく筆者自身が経験したであろう出来事を深く正確に綿密に的確な言葉を重ねて描きつつも、決して感情だけに流されることのない冷徹とも言える明晰さ。個人的な出来事を突き詰め続けることで至る普遍。特に嫉妬には自分自身に思い当たる経験があり、個人的な経験を分析して突き詰めて文学に昇華させる彼女の手腕に驚いた。小説というのはこういう書き方もできるだと世界を広げてくれる作品だった。
事件は男女問わず必読。甘えのない生々しい描写に気分が悪くなるかもしれない。しかしこれが現実なのだ。本作のレビューを読むと -
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面白くてあっという間に読んでしまった。
英仏の黒人差別や「文化の盗用」論が中心でイメージしづらいところもあるが、ここ数年の世界で左派が負けるメカニズムが示されており、よくバズっている日本の(何ちゃって)フェミニズムの状況を適用して考えればかなり腑に落ちる。
かといって悲観せず、希望が持てる終わり方になっているのがよかった。
以下メモがてら。
『エスニシティを基準にして発言や想像への権利といった特別待遇を要求することで、人々が種々のカテゴリや、個々のエスニシティに固有の発想方法を維持すると、支配者たちがそれらを用いて自らの偏見を正当化し、被害者面をする。』
その結果、『アイデンティティ至 -
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ネタバレ
(※ネタバレ)
⚫︎受け取ったメッセージ
実際には離れ離れだった双子。
二人が一緒にいられた「悪童日記」は、
二人が一緒にいられない現実から逃避する手段であった
⚫︎あらすじ(本概要より転載)
ベルリンの壁の崩壊後、初めて二人は再会した…。絶賛をあびた前二作の感動さめやらぬなか、時は流れ、三たび爆弾が仕掛けられた。日本翻訳大賞新人賞に輝く『悪童日記』三部作、ついに完結。
(あらすじネタバレ)
クラウスとリュカには悲しい事実(と思われる)があった。2人が4歳の時、父は浮気相手と一緒になりたいと話し、2人の母は父を撃った。その流れ弾がリュカの脊髄を損傷し、離れ離れに暮らすこととなった。2 -
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ネタバレ⚫︎受け取ったメッセージ
双子のひとり、リュカの暮らし
⚫︎あらすじ(本概要より転載)
戦争は終わった。過酷な時代を生き延びた双子の兄弟の一人は国境を越えて向こうの国へ。一人はおばあちゃんの家がある故国に留まり、別れた兄弟のために手記を書き続ける。厳しい新体制が支配する国で、彼がなにを求め、どう生きたかを伝えるために―強烈な印象を残した『悪童日記』の待望の続篇。主人公と彼を取り巻く多彩な人物の物語を通して、愛と絶望の深さをどこまでも透明に描いて全世界の共感を呼んだ話題作。
(ネタバレ)
祖母のいなくなった家へ戻ったリュカ。15歳。知り合ったのは自らの父との子をもうけてしまったヤスミーヌとい -
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警告の書、世界経済という視点からグローバリズムという経済活動を検証する
グローバリズムがもたらしたものは、経済の自立を失い、国家主権さえ失ってしまう状況である。
EUは、グローバル資本主義のもとに完全な自由貿易、経済的国境の撤廃がもっとも進んでいる地域。
圏内で関税をなくし、通貨を統合した。しかし、その結果なにが起きたか。各国は通貨の切り下げなど金融緩和や財政出動もできず、独自の産業政策も不可能になりました。
EUでの勝者は、ドイツだ。ユーロ安でドイツの輸出産業は大いに潤った。経済危機に瀕した国々を低賃金で下請けのように使いユーロ圏がドイツにとって開かれた市場であることをフル活用している。
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別れた男の現在の彼女への嫉妬を描いた「嫉妬」、中絶が認められていなかった時代のフランスで中絶する「事件」2編のオートフィクション。
ものすごい解像度と赤裸々さで、感情とその流れが克明に記されていき、全て本当にあったこととしか思えない。
性愛を重視していることと、時々ある観念的な考え方はフランスっぽいなと思うが、どの国でも女の思考は共通しているところが多いな、と連帯感を覚えた。「嫉妬」なんて失恋した時に読んだら共感の嵐だと思う。
やはり衝撃的だったのは「事件」。
読んでいて自分まで下腹部が痛い気がしてくるほどだった。
中絶を禁じるって、本当に悪しき文化だと思う。胎児の命を軽視するのはもちろん良 -
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「嫉妬」も「事件」も女性として考えさせられる小説だった。アニー・エルノーの小説は自伝的。本当の所は知らない。淡々と書かれているけど、情熱的。その相反する読後の印象が自伝的だと思わせるのだろう。「事件」で知った、フランスは中絶が違法だった期間が長かったこと。フランスのイメージとは大きく異なるこの法律にヨーロッパがいかにキリスト教と結びついているのかを改めて見た気がする。
「嫉妬」の主人公。恐らく表面上は淡々と生活はしていたのだろう。だけど、内面は相手女性への執着でドロドロしている。それを伝える文章は全くドロドロしてはおらず、一歩間違えばメロドラマ的になってしまう内容をいたく知的で詩的なものに感じ