堀茂樹のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレかつて検閲は保守的で道徳主義的な右派のすることであったが、今日では道徳主義的でアイデンティティ至上主義的な特定の左派が行っている。
文化盗用の定義として、はじめは支配や搾取の要素が含まれていたものの、次第に失われてしまった。
反レイシズムとして、普遍的なものの名において待遇の平等を要求するフランス的なものと、アイデンティティの名において特別待遇を求めるアメリカ的なものがある。後者は、差異への権利として、ステレオタイプをより強固にし、各々のアイデンティティを競争させる。すなわち、アファーマティブアクションの恩恵を優先的に受けるべき一番の犠牲者が誰かを決めるため、マイノリティ同士が喰いあうような事態となってしまっている。
大学はあらゆる人に開かれ、異なる考え方が交流する場所であり続けなければならない。
保守陣営は、特権者たちの支配を復活させるため、単一文化主義に戻るため、好き勝手に言葉を投げつけられるようにするため、ポリコレを批判するため、代案や本当の解決策は、誠実な反レイシストからしか出てこない。 -
Posted by ブクログ
アニー・エルノー『嫉妬/事件』の次にこれを読んでみる。
ひとりの女性の幼少から大人まで。
独り言をまくしたててるような、短い分の連なり。
特に少女から大人に移行していく十代後半の脳内は、特有の悩みが充満する。比較、否定、肯定…繰り返し。
この十代の気持ちが必死に一つに、自分のアイデンティティにしようともがいている様子から引き込まれるように読んだ。自分にも覚えがあるからだろう。
結婚してからの現実。よくある不満だ。女はこうであらなければならない、男はこうあるべきだからね。
夫婦がどちらもバランスよく過ごすとしたら、話し合いしかない。
話し合いができないなら、どちらかが我慢を強いられることになる。
私だったら、主人公のように追い込まれるなら、怒り爆発で喧嘩するけどね。
小さな子の子育てと仕事だと、仕事してる方がラクと感じる場合はある。そっちの方が多いかも。
ブラックで働いてる人はどうしようもないけど、仕事にやりがいとか面白さがあれば、子育てより面白いからね。
仕事して、家に帰ってご飯があり、ちょこっと子供相手してくつろげるなら、そりゃ精神的にもラクだわ。
やっぱり、子育てと家事は当たり前になるぐらい分担する、助け合う関係じゃないと、どっちか壊れるね。 -
Posted by ブクログ
冒頭に書いてあるが、トッドによる研究の全貌を一般の読者にも読みやすい形で示した「私にとって最も大事な本」だそうだ。全人類の歴史を、家族システムという補助線ひとつで整理しなおしてみせる手際はおみごと。経済学ばかりが重視される社会科学の現状への異議申し立ても傾聴すべきと思う。「反米を煽るものではない」と言いつつ、アメリカとドイツをディスるときの筆の冴えも面白い。
日本やドイツの直系家族が経済的な効率性に優れると言いながら産業革命がテイクオフしたのは核家族のイギリスであったり、それはそれで理由が示されるのだが、全般を通して、ああ言えばこう言う的なところも多く、ウクライナ戦争にまつわる言説も含めすべての議論を真剣に受け止めていいいかどうかは留保したいところ。 -
Posted by ブクログ
2023.1.14
喉の奥に胸の奥に、後味がざらりと残る。
追体験とはこのようなことを言うのか、
と考えさせられるくらい、とめどない感情の波に呑み込まれ揺さぶられてしまう。
読者の想像力や思考力を試しているかのような、畳み掛けるような筆致が続く。
これは、遠い昔の話ではないのではなかろうか。
いま我が身に起こったばかりのような迫真さ。
中絶にまつわる世界情勢が巻末で解説されている。
この本がノーベル文学賞受賞の話題と共に世界に広まることで、女性の人権と政治と宗教を見つめ直す契機とせねばならない。
だからこその受賞ではと思い巡らせる。
邦題は「事件」だが、映画版のタイトルは「あのこと」である。
私にとっての決定的な出来事を指すならば、このタイトルの方が身に迫ってくる。
映画を観に行こうと思う。
しかし、喉元の奥に引っかかるのは、主人公の子供への思いのようなものが描かれていないと感じた点。
敢えてのこの描写なのだろうか。
それとも、「中絶は子供の命を奪うこと」「罪である」という社会通念自体(または私に刷り込まれた考え)を、その成り立ちと共に冷静に批判的目線で見つめ直した方がよいのだろうか。
女性が感じる、感じさせられる罪悪感は、社会が罪悪視していることを内面化させられているのでは。
堕胎した女性が罪の意識に苛まされてしまう世の中がおかしいのかもしれない。
この感覚は日本だからだろうか。フランスの感覚とは違うのだろうか。
流産と中絶は異なるが、水子供養のようなものは世界にもあるのだろうか。
堕胎罪は。
日本の現状や文化や慣習や法整備の歴史を辿りながら、読後の違和感の正体を考えたい。 -
Posted by ブクログ
上巻はだいぶ体力の要る読書だったが、そのおかげで下巻はすんなりと理解できた。
アメリカ、フランス、イギリス、中国、ドイツ、ロシア、日本など、異なる家族形態や宗教、教育がたどってきた歴史をもとに、現在を読み解いている。
個人的に興味深かったのは、教育、特に高等教育が不平等主義を後押ししているという現象。識字が課題となる初等教育の普及段階では、教育が平等主義とつながっているが、高等教育になればなるほど、当然のことではあるが格差が広がる。民主制は指導者が必要だから、エリートも必要なわけだが、経済格差と教育格差がリンクして議論されている日本でも、まさにこの部分を直視して問題の落としどころをさぐらねばならないのだろうと思う。
もう一つ面白かったのは、同性婚の法的承認がなされ、女性の社会的ステータスが高い国ほど出生率が高い、という相関関係があるという事実。女性のステータスに関しては、社会的システムの整備など十分想像できる結果だが、同性婚については個人的には新たな視点で勉強になった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ2022ノーベル文学賞受賞のアニーエルノーの作品。
母親の死を契機に、母の人生を咀嚼するように、振り返るために書かれたかのような本。
文を書くことで、母の人生を、母の価値観を、母の生活苦をそして母の心配を母の希望を母の喜びを追いかける。そうやって母の人生を文章で綴ることが唯一の追悼でああるかのようだ。これは場所で父親を追悼した時と同じ手法である。ただ母の場合は性についてより赤裸々に描写している。
日本では私小説という分野が盛んで、小説家の家族は結構なんでも赤裸々にバラされてあらあらということがあるが、これはネタ探しというよりもう少し内省的である。フランスの民衆も歴史に翻弄され、貧しいながらも懸命に生きていたことがよくわかる。日本の手練れの小説家ならこのエルノーの母親を題材に面白い小説を書けるのに、面白くかかないところにこの本の面白さがある。