堀茂樹のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
凄いものを読んだ。文句のつけようがない大傑作である。これは本当に面白い!
戦時下に祖母のいる小さな町へ疎開した双子の「ぼくら」の物語で、舞台は第二次大戦中のハンガリーが念頭に置かれているようだが、具体的な場所は言及されていないので架空の国という読み方もできる。
本作の体裁としては双子が秘密のノートに書き綴った、1章あたり3~5ページほどの日記を読者が読んでいくという形。恐らく二人それぞれが書いている体なので、章によって微妙にトーンが異なるのだが、それが一筋縄ではいかない兄弟の造詣に深みを与えている。
疎開先で次々と起こる倫理もへったくれも無い酷い出来事が、純粋な子ども視点で言葉に一切の装飾が無 -
Posted by ブクログ
読書で感情が揺さぶられた時の、「すごい本を読んだ」ではなく、「すごい本を読んでしまった…」という感覚がとても好きです。
これまで「好みと合わなそう」と避けてたのですが、「すごい本を読んでしまった…」以上の感想が出てこなかったです。
とにかくストイックな双子たちの言動と、戦時下にして占領下という特殊すぎる環境、綺麗事が通用しない時代の中で、彼らは本当に「悪童」なのだろうか…??と、読んでいて混乱してしまいました。
自分達の感情はもちろん、双子の固有名詞すら登場しない文体だから、読者からするととんでもないエピソードや事件が、全く特筆すべき出来事でないかのように投下されていくスピード感が癖になり -
Posted by ブクログ
ネタバレ正直さとは、いざという時に嘘が通るための下準備だ。
『悪童日記』では、双子の作文が日記として描かれている。
「作文の内容は真実でなければならない、というルールだ。ぼくらが記述するのは、あるがままの事物、ぼくらが見たこと、ぼくらが聞いたこと、ぼくらが実行したことでなければならない。」
子どもの限られた語彙のなかで、極限までシンプルに表現された人の残酷さを垣間見ることができる。
ただ、これは壮大なフリなのだ。
この作品を読み進めていくと、前二部作が全て嘘だったことがわかる。
人は、真実を守るために嘘をまといながら生きている。そして、その嘘には真実が含まれる。その境目は、本人でさえわからない。
双 -
Posted by ブクログ
戦時中から戦後にかけてのナチスドイツとソ連の狭間であるハンガリー国境付近の祖母のもとに疎開した双子の男の子の日記形式で進む話。
固有名詞が出てこなくて、双子も個性はなく「ぼくら」としか書かれていません。お互い会話もしません。
過酷な戦時を生き延びるために二人は痛みに耐える練習、断食の練習などをして日々過ごします。生き延びるためにいろんな悪事もします。
周りに流されることのない二人だけの判断基準。感情を抑えた客観的事実だけを連ねる日記。徹底した無感情な日記が不気味でもあり、逆にその裏の感情を想像してしまう。心まで武装してるの?と思ってしまう。
最終ページが衝撃的だと聞いてはいたのですが、 -
Posted by ブクログ
家族構造や宗教そして教育という、我々の心理を深い次元で司る要素の分析を通して、それぞれの国の政治や経済がなぜ現在のようになっているのかを読み解く書である。無意識・下意識の階層にある何かが、目に見えるものを支配しているという考えには、大いに納得できるものがあった。
核家族か共同体家族かあるいは直系家族か、という言い回しが数多く登場する。核家族はホモ・サピエンスの原初的家族形態であり、むしろ直系家族のほうが最新なのである。ただ、絶対的な核家族は、創造的破壊が非常に得意である一方、技術や知識の継承という観点で直系家族に劣る側面がある。産業面で成功している中国・インド・日本・ドイツを観れば頷ける主張 -
Posted by ブクログ
ネタバレこの物語の主人公たち(ぼくら)はとても異質な双子、自分たちが生き残るために必要であると感じたことは善悪という感性はなく、ただ必要であるからという理由で淡々とこなす。しかし意外と人情深いところもあったり(おそらくこの少年たちにとって有益、若しくは恩義を感じた人に対して。例えば将校、おばあちゃん、神父などがそれに該当すると考える。)、逆に自分たちにとって取るに足るものではないと判断した人に対しては容赦なく切り捨てていく。
彼らに感情が無かった訳じゃない。ただそこでの生活は感情を殺して生きることがベターだったから。だから機械のフリをした人間と感じた。とにかく本人たちの価値観と信念が明確で、そこから外 -
Posted by ブクログ
ネタバレ凄い本を読んだ。
ノーベル文学賞を受賞されたので、その時に買っておいたのだと思う。ずっと積読でした。
『嫉妬』という作品と『事件』という作品の2篇が1冊になっている。
淡々としている文ですが、ものすごく強い力があって心が揺さぶられ震えた。
読み進めていくうちに複雑な感情が湧いてくる。
恐怖とか悲しみとか安堵みたいなものが、ぐちゃぐちゃに掻き回されて1つになったような感情だった。
読後も心の中がまだ小さく小さくザワザワしている。
それでも暗いイメージはなく、陽射しの明るいイメージが残った本だった。
「わたし」の自己対話を通して、読者も「わたし」の「経験」を体感するような本だと思った。
余韻が物 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「いたずらっ子の双子の話」とだけ前情報を仕入れて読み始めた。
戦争の影響で、都会から田舎の祖母のもとに預けられた双子が書いた日記という体の小説。
双子は日記を記すにあたってルールを決めている。
客観的な事実のみを記入し、感情などという曖昧なものは排除する。
「母親が大好き」はどれくらい好きなのかわからないから不可。
「夜、母親を思い出す」は事実であれば可能、といった感じ。
したがって、双子の日記には母親がどれだけ恋しいかという表現は全く無い。
しかし、「日記には書かれない」だけで、双子は恋しいと思っていたのかもしれない。本当の所は誰にもわからないが、母親に対して何も思っていないわけではない、と