薬丸岳さん、久しぶりに読みました。やっぱり、読むべき。
本作も、犯罪被害者と加害者、その家族や周辺の人たちを描いている。胸が苦しいけど、読んで、考えるべき作品だと思う。
何がすごいって、加害者の青年にも、被害者の老女にも、両者の家族や恋人にも、どの立場の人にも共感できてしまうこと。そして推理小説とは
...続きを読む違って、最初(プロローグの時点)から誰が加害者で誰が被害者かはっきりしているのに読むのがやめられなくなってしまうところ。
加害者となってしまう青年は、育ちが良く、決して悪人ではない。テレビにも出ている著名人の父を純粋に尊敬し、自分も期待に応えようと頑張って勉強してきた大学生だが、飲酒運転の末ひき逃げ事件を起こしてしまう。轢いてしまった場面の描写は生々しく、胸が痛む。
被害者の老女とその夫も、善良な人たち。母を亡くした息子も娘も、その後、残された父を支えようと必死に暮らしていく。ひき逃げ犯の青年を恨みもするし、裁判を傍聴して憎悪の気持ちを抱くが、復讐などは考えない。加害者の家族は、世間の批判を受け入れ、姉は縁談もダメになり、両親は離婚し、家を手放し、贖罪しながら生きていく。姉は、出所後久しぶりに顔を合わせた弟(加害者)に、私たちはあなたのせいで不幸になった、でも一番不幸になったのは私たちではない、よく考えなさい、と静かな声で告げる。立派な人たちなのだと感じるエピソードだ。当の本人は、時折自暴自棄になり、闇バイトに手を染めそうになりながらも(このあたりも読ませどころ)なんとか持ちこたえ、まっとうに生きて行こうとする。
犯罪加害者が更生し、本当の意味で反省するために、支えてくれる人の存在がどんなに大事か、ということが伝わってくる。加害者の青年は、母、元恋人、そして会わないまま亡くなってしまった父の手紙に支えられ、出所後何年もたってやっと、本当の意味で自分の罪と向き合う…。
ちょっと、元恋人が出来すぎかな、と思った。
私が女なので…ここまではできない…と、100%共感できなかった…私がダメ人間なんだ…。
加害者の青年が、実は元彼女が自分の子供を産み育てていたということを知った場面が、一番心ゆすぶられた…。