穂村弘のレビュー一覧
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卵産む海亀の背に飛び乗って手榴弾のピン抜けば朝焼け 穂村弘
白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ 若山牧水
その川の赤や青その川の既視感そのことを考えていて死にそこなった 早坂類
うつくしい午前五時半ころころと小石のように散歩をします 〃
さみだれにみだるるみどり原子力発電所は首都の中心に置け 塚本邦雄
廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり 来て 東直子
なにゆゑに室は四角でならぬかときちがひのやうに室を見まはす 前川佐美雄
イヌネコと蔑して言ふがイヌネコは一切無所有の生を完うす 奥村晃作
枕木の数ほどの日を生きてきて愛する人に出会わぬ不思議 大村陽子
面白い、面白いと読んでいたら、「終章」で涙がぶわわーと湧き出して。「宇宙とは何か、時間とは何か、生命とは何か。一刻も早くそれらを知らなければならない。そうしないと、このままでは、いつか僕はほんとうに死んでしまう」「不気味世界」「そして何よりも、これらの考えのすべては単なる自意識過剰な怠け者の妄想かもしれないのだった」「この不気味さには確かに何か意味がある。」 -
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『テレビで海の番組を観る。
画面一杯に現れた大きな烏賊が真っ黒な墨を大量に吐いている。
ぶわぶわぶわぶわぶわぶわぶわ。
凄いなあ、と思う。
あれでお習字をしてみたい。
なんて書こう。
「いか」かな。
それから、蛸が出てきた。
やっぱり墨を吐いている。
ぶわぶわぶわぶわぶわぶわぶわ。
これも凄いなあ。
なんて書こう。
「たこ」。
と、みせかけて「いか」。』
『「うちがわからうちがわから」という呪文を習う。
そう云いながら、ヨーグルトを嘗めると美人になるらしい。』
「声をあげて、泣け。昔、私も数多くの失恋をした。片思いをした。破れるたびに、私はダルマのように、強くなった」
『快適さを追求している筈のホテルの部屋の殆どが、ひどく乾いているのはどうしてなんだろう。
小便小僧を設置すればいいのに。』
「失礼しました。当学院は校舎内での標準語の使用は原則的に禁じられているものですから」
「あ、そうなんですか」
「はい。標準語に頼らない環境をつくることで、生徒さんたちが少しでも早く関西弁に慣れることができるようにという配慮なんです」
「レッスン&リピート、パート1、ちゃうんとちゃうん」
「ちゃうんとちゃうん」
「ちゃうんとちゃうん、ちゃうんとちゃうん」
「ちゃうんとちゃうん、ちゃうんとちゃうん」
「いいですよ。その調子」
『子供が大人になるのは給食のせいだ、と教えてくれたことがあった。
給食のパンを毎日持ち帰って家の金魚にあげてたら、仔猫くらいの大きさになった、というのだ。
ユミコちゃんは声をひそめて云った。
「給食には大きくなる薬が入ってる。だから、みんな大人になるんだよ」』
『二十年ほど前の母に云われて驚いた言葉を思い出す。
「四捨五入ってなーに?」』
『テレビで世界陸上を観る。
実況中継なので、さまざまな種目がくるくると映し出されて、ついていけないことがある。
画面が切り替わった一瞬、これは男子? 女子? と迷う。
迷ったら女子、と唱えながら観る。』
『高松さんからメールが来る。
高松です。
今、高松にいます。
それだけです。』
『若い男の子に言われる。
「西さんは絶対いいお嫁さんになりますよ。」
うるせぇ。』 -
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『目先の欲望や安楽に負けるから、そのつけを後で支払うことになるのだ。
「今」をきっちり生きることができないために、そこから先の未来が次々ち腐ってゆく。』
『日常的に私がしていることで、女性たちが未体験とか、踏み込めないとか、想像できない習慣や文化って何かあるだろうか。
ズボンは殆どの女性が穿いたことがあるだろう。
化粧をしていない感覚も知っている。
髭剃りはどうか。
産毛は普通に剃っているだろう。
ネクタイと云いたいが、会社員をやめてからは私もしていない。
褌も締めたことがない。
なのに最近では女性用もあるらしい。
うーん、私が知っていて彼女たちが知らないことは、ひとつもないじゃないか。
こちらは知らないことだらけなのに、何だか、申し訳ないような、悔しいような気持ちになる。
そのような体験のアンバランスを一発でチャラにしてしまうようなら男らしくて凄いものってないだろうか。
そうだ。
刀を持ち歩こうかな。』
『女性たちは特別な事情や理由などとは関係なく、自然にどんどんオーガニックになっていくようだ。いや、女であること自体が特別な事情なのかもしれない。
彼女たちは、食だけではなくて、漢方とか鍼とか骨盤体操とかピラティスとかアロマテラピーとかヘッドスパとかゲルマニウム温浴とか町内洗浄とか、凄まじい切実さかつ貪欲さで、生活の改善と洗練に向かって突き進んでいるようだ。』
「男の側からすると、つるつるすべすべでいい匂いの相手と抱き合えるわけだから、それは嬉しいけど、女性からみると、いつも自分よりごつごつざらざらしたものと抱き合うことになって、それは『損』なんじゃないの?」
「それがいいのよ ー ああ、私って女だ、って実感できるから」
『男女の違いの中心にあるのは、自らの身体というものへの想いの差ではないか。』
『こんなめにきみを会わせる人間は、ぼくのほかにはありはしないよ』
『「雨だから迎えに来てって言ったのに傘も差さずに裸足で来やがって」
「あのこ紙パックジュースをストローよ穴からストローなしで飲み干す」
どこか共通性が感じられませんか。日常のしょうもないほど些細な行為のなかに、やはり圧倒的な自由の煌めきなあると思います。』 -
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ほむほむの文庫化したものはかなり読んでいるが、今回にしてようやく中島らもを思い出した。
ポップでメロウで唾棄すべき人間への愛と金言に満ちている言葉たち。
・好きという気持ちを確認できればセックスなど必要ない。でも確認するにはそれしかない。
・逸脱するものこそ本当に生きようとしているのではないか。
・フィリップ・マーロウのピンクの虫のエピソード。
★「共感(シンパシー)」と「驚異(ワンダー)」。
・言葉(以前のエネルギー)が勝手に跳ねまわる度合い。詩歌>純文学>エンターテインメント小説。
・我々の生に「変」の可能性が含まれていることが文学を生みだしたのでは。
・次の一瞬にまったく無根拠に生を奪われる可能性を、経験した人のすごさ。
・「生きる」ための言葉(詩)を包み込むようにして「生き延びる」言葉たち(新聞のように実用的)がある。
・まずは「生き延びる」ことだ。「生きる」のは明日でいい。こうして、「生きる」は一日ずつ後ろにずれていく。 -
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う~ん、やっぱり面白いっ!
私はこのシリーズ(『短歌はじめました。』『短歌があるじゃないか。』。執筆者はこの本と同じ)で短歌を読み始めた人間なので、その続編にあたる本作が出たときは「また『短歌~』シリーズが出たんだ! やったーーー!」と心の中で一人歓声を上げたくらいなのである。
(この本に収録されているものと『短歌があるじゃないか。』で収録されている内容が、半分ほど被っていると知ったのは、もう少し後のこと)
短歌同人・「猫又」メンバーの提出作品を、主催の沢田さんを進行役に、穂村・東の両氏が批評するという体制のこの本。
相変わらず、よく言えば肩の力が抜けた、悪く言えば脇が空きすぎな短歌たちが、にぎやかにそして時に真剣に評されていく様子がたいへん面白かった。
たとえばこんな歌。
君と乗る深夜のタクシー窒息しそう閉じ込められた好き好き好き好き 本下いづみ
いいでしょう? どれもこれもそれらもね ほんのわたしの あれ なんですわ 平田ぽん
君の字がやけに綺麗で風鈴の音も忘るる残暑のころに 清野ゆかり
全体的に、プロの歌のような「完成度」はそこにないものの、伸び伸びとした印象を受け、読んでいるうちに同人それぞれの性格も見えてきて、大変親しみやすい。
穂村・東両氏の的をついた批評も、歌の「読み」にぐいぐい分け入ってくれて、歌を読む可能性の大きさを感じる。穂村さんがドライ、東さんがウエット、と作風が正反対なことも、批評に良く作用していると思う。進行役の沢田さんのツッコミの上手さも○、です。