カズオ・イシグロのレビュー一覧

  • クララとお日さま

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    カズオ・イシグロの描く近未来やディストピアな世界観は、程よい距離感で読者を置いてけぼりにするバランス感が素晴らしいと思います。

    『わたしを離さないで』のように、ジワジワと「この社会、どこかおかしいんじゃないのか…?」と感じさせつつ、不穏なキーワードもバンバン出してくるのですが、その内容を掘り下げず、でも消化不良にならない程度に、読者の想像力を刺激するバランス感覚が素晴らしいと思います。

    この作品も「切なさが残る狭義でのハッピーエンド」なのか、「切なさが残る広義でのバッドエンド」なのか、どちらも考えられる終わり方になっているので、時間を置いてまた読んだら印象が変わるかもしれません。

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    2025年07月10日
  • クララとお日さま

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    淡々とした筆致で、AI視点のモノローグで語られていくので、最初は没入しにくいけれど、AI視点に慣れてくるとどっぷりハマる。大きな事件やスピード感や泣き笑いは無いのに止まらなくなるのは、作者の表現力の高さ故か。AIの思い(?)を追体験するような感じ。設定の奇抜さや起伏に富んだストーリーでなくとも、優れた小説を読む楽しさを再認識させてくれた。

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    2025年07月03日
  • 充たされざる者

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    カズオ・イシグロの4作目の長編。ブッカー賞を獲った「日の名残り」のあとにこれだったから、きっと面食らった人は多かったろうに。
    世界的ピアニスト(と思われる)ライダーが「木曜の夕べ」なる催しで演奏をするために、欧米のとある街を訪れる。
    ただしこの物語の舞台は不条理であり、筋が通っていない。悪夢的な世界の中で、とっ散らかりながら進行する。
    悪夢的な世界なので、すべてが脈絡なく突然起こる。ライダー自身も「木曜の夕べ」で演奏する、ということのみ認識しており、それをやりきることが使命だということのみ理解している。そのイベントがどこで行われるのか、誰と行うのか、何もわからない。それを知ろうとすると突然誰か

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    2025年06月29日
  • 浮世の画家〔新版〕

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    引退した心穏やかな画家の、内面に潜む葛藤を深く鋭く描いている。
    前作『遠い山なみの光』と同じく、地域や世代による認識の狭間で揺れる主人公だ。だがこの作品ではそれがより洗練されている。
    これをさらにキレイに纏め、舞台をイギリスに移したものが次作の『日の名残り』と言えそうだ。

    次の世代の方々との考え方の違いに、自分がどう上手に折り合いをつけていくかは、僕も常に向き合っている課題だ。
    主人公はその答えを
    『受け入れる柔軟性を持ちながらも、自己の本質的な考えは変えない』点に見出した。この回答は今後の僕に大きな示唆を与えてくれるだろう。

    カズオ・イシグロ作品の多くに言えることだが、活字を追うこと自体

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    2025年06月07日
  • 浮世の画家〔新版〕

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    主人公の思い出した通りに(時間軸が飛び飛びに)話が進んでいくので、少々読みづらく感じることもあったが、挫折することなく読み終えることができて良かった。次はメモをとりながら読み返そうと思った。
    本の内容とは全く関係ないが、この本を読み終わってから「無言館」に行った時に、絵で成功し、立場(階級、地位)を得たために、おそらく戦地に行くことはなかった主人公と、絵で生きていきたいという夢を持ちながらも戦地に行き、帰らぬ人となった若者たち。この2つを通して、戦争と芸術の関係は何だろうかと考えることができて、それも良かったと思う。

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    2025年06月06日
  • クララとお日さま

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    前に読んだ「感受性とジェンダー」の中で引用されていた一節が気になって購入した本
    子供の親友として製造されたAIの嫌気がさすほど純粋すぎる。信仰心と、子供の成長とともに不要とされていく姿、苦しいくらいまっすぐな子供と大人の対比描写がしんどい

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    2025年04月23日
  • 充たされざる者

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    悪夢の中でもがきながら読み進めていく感覚。
    一つの小宇宙が小さな本の中にぎゅっと詰めこられているようで、家の中にこの本があると引き込まれてしまいそうになり、本を閉じた時に鳥肌が立ち恐怖を感じた。日の名残りが美しく精巧な描写だったからこそ、充されざる者の不安定さや歪みが対比になるようだった。混沌とした世界を描いていても発散的な描写にならないカズオイシグロの素晴らしい技量を感じることが出来る一冊。

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    2025年04月21日
  • わたしたちが孤児だったころ

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    勧められて!久しぶりにカズオ・イシグロ(といって他にたくさん読んでいるわけではないのだけれど)
    以前『わたしを離さないで』を読んだ時にも受けた、どこか紗がかかっているような世界、全てが語られない物語感、少し邂逅してすれ違っていく個々人の人生(サラ~~)というものに、カズオ・イシグロ…ってなっていた笑。それからどうしてもクリストファー/アキラが著者本人が投影されるように感じてしまう~

    どうして・何をクリストファーは解決しに上海に戻ったのかや、アキラが本当にアキラだったのか、そういったことは語られない。漠然としているだけ。
    アガサ・クリスティーの小説をどこか読んでいるような、探偵ものなのは趣向が

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    2025年03月31日
  • 夜想曲集

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    音楽にまつわる短編が5編収録された作品
    いずれの作品もとくに盛り上がりは感じませんでした
    それなりに楽しめた感じではあります
    映像化しても楽しめるかもとも感じました

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    2025年03月31日
  • 特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー

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    カズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞した際のスピーチ。彼の真面目で優しい性格がよくわかるが、内に秘める情熱も見え隠れする。
    よく知られている通り、彼は5歳まで日本で暮らした後、日本人の両親と渡英し移民した。その後大人になるまで日本に行くことはなかったが、彼の心の中には常に(想像による)日本があったという。その「記憶」をとどめようと書いた小説が評価された。
    日本への憧憬を持ちつつもイギリスをいかに愛しているかが綴られている。また、小説と全く関係のないことから、ハッとするアイデアが浮かび、それが自分のスタイルを決定的に変えたことも書いてあった。
    彼の小説は胸がじんわりと痛むものも多いが好きだ。

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    2025年03月28日
  • クララとお日さま

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    小学生から大人まで、幅広い世代が読みやすく、かつ色々なことを考えさせてくれる素敵な小説だと思った。

    話し手がクララという人工知能搭載ロボットのため、目や耳で感じる感覚が私たち人間とは異なり、クララが目にしているものや耳にしているものを文章から読み取り自分の頭に映し出した上で、それは人間の世界のどういう事物や状況なのかを自分で解釈し直す必要がある場面が多く、新しい体験だった。

    クララは終始一貫、賢くて思慮深くて優しくて、主人のジョジーとその周囲の人達の幸せを第一に考えて行動する「最高のAF」だった。
    そのため、ジョジーは「孤独の意味すら知らず」、クララがどれほど自分を犠牲にしてジョジーの

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    2025年03月04日
  • クララとお日さま

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     原著2021年刊。ノーベル文学賞受賞後の第1作とのこと。
     昔からハヤカワ文庫のコーナーの一角に並んでいて名前は知っていたカズオ・イシグロさんだが、全然読んでおらず、これが2冊目だ。
     実を言うと前に読んだときも感じたことだが、私はこの方の小説はあまり好きではないかもしれない。まったりとした時間の進み具合で、そのあいだずっと、何かヒューマンな、生温かいような空気が漂い続ける。別に悪いことではないはずだが、なんとなく気持ちが悪く感じてしまうのだ。
     そして、物語の設定がなかなか明らかにされないまま時間だけが過ぎてゆくので、非常にもどかしいものを感じてしまう。
     本作もそんなふうなもどかしさがず

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    2025年03月02日
  • 夜想曲集

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    全体的な曇り空がずっと続いているようなノスタルジックな雰囲気を纏っている短編集。本作はクスっと笑えるシーンも多くて、新鮮な気持ちになった。

    個人的には「降っても晴れても」がお気に入り。
    まず主人公があまりに不憫すぎる。やる事なす事想像の上をいってて面白かった。それと対比するように、出てくるジャズの選曲がどれも本当に最高で。この話を読んでジャズにハマった。ぜひサラ・ボーンの“April in Paris”を聴きながら読んでギャップを楽しんでほしい。

    それにしても土屋さんの訳は何度読んでも素敵だなぁ。一節読むだけでカズオ・イシグロの世界にどっぷり浸かれる。さらに読みやすい。次作も期待したい!

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    2025年03月02日
  • 浮世の画家〔新版〕

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    カズオ・イシグロの第二作。戦後日本を舞台としていること、一人称の回想の語りによる作品であることは前作『遠い山なみの光』と同様。登場人物同士の視点や価値観のズレが読者に異和を感じさせながら展開していくことも共通しているが、大きく異なるのは『遠い山なみの光』におけるズレは未来に対する視点の違いにあったのに対して本作におけるズレは過去に対する認識のズレが描かれているところ。一人称の語りという構成上、語り手である小野の認識上の問題と事実との差分をどう捉えるか、そして語られることの背景で語られないことをどう推測するか、聞き手であり読み手である私たちの解釈の余地が素晴らしく表現された作品だなと感じる。

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    2025年02月07日
  • クララとお日さま

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    世界観や前提を直接描かずに、個人レベルでの日常から垣間見れる習慣や思考によって、徐々に世界観や物語が分かる構造がミステリー小説としても読むことができるし、機械(AF/AI)と人間(心)間の友情や幼少期の恋愛青春小説は前提でありつつ、SF小説・ディストピア小説としても読むことができる。
    凄すぎるし、読むべき文学作品の内の一つと言われる所以に感服。

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    2025年01月20日
  • 夜想曲集

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    大人というかシニアの恋愛小説を読みたくて手に取った初めてのカズオイシグロ。叙情的で常に儚い雰囲気が漂っている、好みな作風。出てくる音楽、特にジャズにとてもハマってしまった。降っても晴れてもに出てくる音楽と、それに似つかわしくないドタバタ感のギャップが良い。
    身体の関係の描写がないところも良かった。

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    2025年01月13日
  • クララとお日さま

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    予備知識なく読んだ方がいい。始めから終わりまで、推理させるような含んだ表現が多い。
    まずAFとは何か?この街はきっとイギリス以外の英語圏。なぜジェジーは病気なのか。もしかして,あれが原因なのかもしれない。
    薄暗い雰囲気の謎に包まれたストーリーを、是非お楽しみください。

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    2025年01月11日
  • 夜想曲集

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    音楽と夕暮れという副題の通り、ミュージシャンや音楽に想いを馳せる人々が集う作品集。目に浮かぶような情景描写は、音楽をテーマにしても変わらず。登場人物たちがステージやレコードについて語るシーンがこんなに生き生きと書かれるとは!
    コメディライクな作品もありかなり読みやすい。
    個人的には『夜想曲』がとても好みだった。テレビ映画くらいの長さで映像化してほしいくらい。

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    2025年01月03日
  • 充たされざる者

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    退屈なのに読み進めたくなる作品。今まで体験したことのない読書体験だった。
    読み切った後でやっと、全てのシーンに、ああ、なるほど、と納得できた。
    登場人物全員がどこかおかしさを抱えていて、読者はそれに翻弄される。そこが面白いと感じられる作品でした。

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    2024年11月23日
  • 夜想曲集

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    イシグロ氏短編集、肩から力を抜いているようで見事にペーソスの情景を描いている。
    「音楽と夕暮れを巡る・・」まさにまさに!
    夕暮れとは当然、字kン的それではなく、人生の黄昏。
    人生の、恋愛のそれ。。。

    上り詰めていた時間では見えなかった、感じなかった、臭わなかったであろう機微が、ぼんやりと姿を現してくると、思いがけず、加速度的に、危機をはらんでいく刹那。
    ブラックユーモアセンス一流のペンにかかると、時にはコメディーがかったり、不条理に走ったり。。

    ふと最近読み続けているオースターと重なる感覚に陥った。

    「降っても晴れても」が好み
    親友夫婦の間に生じている不協和音に遭遇したダメダメ僕の想いや

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    2024年10月23日