カズオ・イシグロのレビュー一覧
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カズオ・イシグロの描く近未来やディストピアな世界観は、程よい距離感で読者を置いてけぼりにするバランス感が素晴らしいと思います。
『わたしを離さないで』のように、ジワジワと「この社会、どこかおかしいんじゃないのか…?」と感じさせつつ、不穏なキーワードもバンバン出してくるのですが、その内容を掘り下げず、でも消化不良にならない程度に、読者の想像力を刺激するバランス感覚が素晴らしいと思います。
この作品も「切なさが残る狭義でのハッピーエンド」なのか、「切なさが残る広義でのバッドエンド」なのか、どちらも考えられる終わり方になっているので、時間を置いてまた読んだら印象が変わるかもしれません。 -
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カズオ・イシグロの4作目の長編。ブッカー賞を獲った「日の名残り」のあとにこれだったから、きっと面食らった人は多かったろうに。
世界的ピアニスト(と思われる)ライダーが「木曜の夕べ」なる催しで演奏をするために、欧米のとある街を訪れる。
ただしこの物語の舞台は不条理であり、筋が通っていない。悪夢的な世界の中で、とっ散らかりながら進行する。
悪夢的な世界なので、すべてが脈絡なく突然起こる。ライダー自身も「木曜の夕べ」で演奏する、ということのみ認識しており、それをやりきることが使命だということのみ理解している。そのイベントがどこで行われるのか、誰と行うのか、何もわからない。それを知ろうとすると突然誰か -
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引退した心穏やかな画家の、内面に潜む葛藤を深く鋭く描いている。
前作『遠い山なみの光』と同じく、地域や世代による認識の狭間で揺れる主人公だ。だがこの作品ではそれがより洗練されている。
これをさらにキレイに纏め、舞台をイギリスに移したものが次作の『日の名残り』と言えそうだ。
次の世代の方々との考え方の違いに、自分がどう上手に折り合いをつけていくかは、僕も常に向き合っている課題だ。
主人公はその答えを
『受け入れる柔軟性を持ちながらも、自己の本質的な考えは変えない』点に見出した。この回答は今後の僕に大きな示唆を与えてくれるだろう。
カズオ・イシグロ作品の多くに言えることだが、活字を追うこと自体 -
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勧められて!久しぶりにカズオ・イシグロ(といって他にたくさん読んでいるわけではないのだけれど)
以前『わたしを離さないで』を読んだ時にも受けた、どこか紗がかかっているような世界、全てが語られない物語感、少し邂逅してすれ違っていく個々人の人生(サラ~~)というものに、カズオ・イシグロ…ってなっていた笑。それからどうしてもクリストファー/アキラが著者本人が投影されるように感じてしまう~
どうして・何をクリストファーは解決しに上海に戻ったのかや、アキラが本当にアキラだったのか、そういったことは語られない。漠然としているだけ。
アガサ・クリスティーの小説をどこか読んでいるような、探偵ものなのは趣向が -
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カズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞した際のスピーチ。彼の真面目で優しい性格がよくわかるが、内に秘める情熱も見え隠れする。
よく知られている通り、彼は5歳まで日本で暮らした後、日本人の両親と渡英し移民した。その後大人になるまで日本に行くことはなかったが、彼の心の中には常に(想像による)日本があったという。その「記憶」をとどめようと書いた小説が評価された。
日本への憧憬を持ちつつもイギリスをいかに愛しているかが綴られている。また、小説と全く関係のないことから、ハッとするアイデアが浮かび、それが自分のスタイルを決定的に変えたことも書いてあった。
彼の小説は胸がじんわりと痛むものも多いが好きだ。 -
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小学生から大人まで、幅広い世代が読みやすく、かつ色々なことを考えさせてくれる素敵な小説だと思った。
話し手がクララという人工知能搭載ロボットのため、目や耳で感じる感覚が私たち人間とは異なり、クララが目にしているものや耳にしているものを文章から読み取り自分の頭に映し出した上で、それは人間の世界のどういう事物や状況なのかを自分で解釈し直す必要がある場面が多く、新しい体験だった。
クララは終始一貫、賢くて思慮深くて優しくて、主人のジョジーとその周囲の人達の幸せを第一に考えて行動する「最高のAF」だった。
そのため、ジョジーは「孤独の意味すら知らず」、クララがどれほど自分を犠牲にしてジョジーの -
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原著2021年刊。ノーベル文学賞受賞後の第1作とのこと。
昔からハヤカワ文庫のコーナーの一角に並んでいて名前は知っていたカズオ・イシグロさんだが、全然読んでおらず、これが2冊目だ。
実を言うと前に読んだときも感じたことだが、私はこの方の小説はあまり好きではないかもしれない。まったりとした時間の進み具合で、そのあいだずっと、何かヒューマンな、生温かいような空気が漂い続ける。別に悪いことではないはずだが、なんとなく気持ちが悪く感じてしまうのだ。
そして、物語の設定がなかなか明らかにされないまま時間だけが過ぎてゆくので、非常にもどかしいものを感じてしまう。
本作もそんなふうなもどかしさがず -
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全体的な曇り空がずっと続いているようなノスタルジックな雰囲気を纏っている短編集。本作はクスっと笑えるシーンも多くて、新鮮な気持ちになった。
個人的には「降っても晴れても」がお気に入り。
まず主人公があまりに不憫すぎる。やる事なす事想像の上をいってて面白かった。それと対比するように、出てくるジャズの選曲がどれも本当に最高で。この話を読んでジャズにハマった。ぜひサラ・ボーンの“April in Paris”を聴きながら読んでギャップを楽しんでほしい。
それにしても土屋さんの訳は何度読んでも素敵だなぁ。一節読むだけでカズオ・イシグロの世界にどっぷり浸かれる。さらに読みやすい。次作も期待したい! -
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カズオ・イシグロの第二作。戦後日本を舞台としていること、一人称の回想の語りによる作品であることは前作『遠い山なみの光』と同様。登場人物同士の視点や価値観のズレが読者に異和を感じさせながら展開していくことも共通しているが、大きく異なるのは『遠い山なみの光』におけるズレは未来に対する視点の違いにあったのに対して本作におけるズレは過去に対する認識のズレが描かれているところ。一人称の語りという構成上、語り手である小野の認識上の問題と事実との差分をどう捉えるか、そして語られることの背景で語られないことをどう推測するか、聞き手であり読み手である私たちの解釈の余地が素晴らしく表現された作品だなと感じる。
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イシグロ氏短編集、肩から力を抜いているようで見事にペーソスの情景を描いている。
「音楽と夕暮れを巡る・・」まさにまさに!
夕暮れとは当然、字kン的それではなく、人生の黄昏。
人生の、恋愛のそれ。。。
上り詰めていた時間では見えなかった、感じなかった、臭わなかったであろう機微が、ぼんやりと姿を現してくると、思いがけず、加速度的に、危機をはらんでいく刹那。
ブラックユーモアセンス一流のペンにかかると、時にはコメディーがかったり、不条理に走ったり。。
ふと最近読み続けているオースターと重なる感覚に陥った。
「降っても晴れても」が好み
親友夫婦の間に生じている不協和音に遭遇したダメダメ僕の想いや