カズオ・イシグロのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
6年ぶりの新作『クララとお日さま』も話題のカズオ・イシグロ、2000年の作品。長編第5作にあたり、このあとが2005年の『わたしを離さないで』。
大戦前夜の1930年ロンドンから、おそらく20年以上前の上海、租界の少年時代を回想するところから物語が始まる。
カズオ・イシグロに慣れた身にはそれが「信頼できない語り手」であることは百も承知。彼の語る思い出が本当にあったことなのか、彼の語る印象は彼自身だけのものなのか、つねに疑いながら読んでいくことになる。
(今回はわりと親切で同級生たちの印象と自分が抱いていたイメージが違うとか「わたしはまちがえて覚えているかもしれない」など、あちこちに「信頼できない」という警告がされている。)
カズオ・イシグロの文体は原文がよほどシンプルなのか、日本語訳で読んでいてもとても落ち着く。子供時代の回想をはさみつつ、「昨日の出来事」やら「数週間前」のことがつづられていくのでストーリーは遅々として進まず、はたして過去の真相がなんなのか、主人公が探しているものはなんなのか、よくわからないままゆっくりと展開していくのだが、それはそれで心地いい。
上海へと舞台が移ってからの後半は村上春樹的なハードボイルドというか、『不思議な国のアリス』的なファンタジーというか、ここらへんの主人公の行動は混迷していてよくわからないし、謎解きも不十分なのだけど、本作の主題はそこにない気もする。
「孤児」である「わたしたち」とは誰なのか。主人公クリストファーはまちがいないとして、サラをさしているのか、ジェニファーなのか、アキラなのか。それとも古川日出男の解説にあるように「わたしたち」はみな「孤児」なのか。
以下、引用。
お客様はふつう若い男性で、『たのしい川辺』でしか知らないイギリスの小道や牧場、あるいはコナン・ドイルの推理小説に出てくる霧深い通りなどの雰囲気を持ちこんできてくれたからだ。
「ああ、クリストファー。あたくしたち二人ともどうしようもないわね。そういう考え方を捨てなきゃいけないわ。そうじゃないと、二人とも何もできなくなってしまう。あたくしたちがここ何年もそうだったみたいに。ただこれからも寂しさだけが続くのよ。何かはしらないけれど、まだ成しとげていない、まだだめだと言われつづけるばかりで、それ以外人生には何もない、そんな日々がまた続くだけよ。」
「あたくしにわかっているのは、あたくしが何かを探しながらここ何年も無駄にしてしまったってことだけ。もしあたくしがほんとうに、ほんとうにそれに値するだけのことをやった場合にもらえる、一種のトロフィーのようなものを探しているうちにね。」
「大事。とても大事だ。ノスタルジック。人はノスタルジックになるとき、思い出すんだ。子供だったころに住んでいた今よりもいい世界を。思い出して、いい世界がまた戻ってきてくれればと願う。だからとても大事なんだ。」
「そう思っていました。彼のことを幼友達だと思っていました。でも、今になるとよくわからないのです。今ではいろんなことが、自分が思っていたようなものではないと考えはじめています」
「今から思うと子供時代なんてずっと遠くのことのようです。」「日本の歌人で、昔の宮廷にいた女性ですが、これがいかに悲しいことかと詠んだ人がいます。大人になってしまうと子供時代のことが外国の地のように思えると彼女は書いています」
「あの、大佐、わたしには子供時代がとても外国の地のようには思えないのですよ。いろんな意味で、わたしはずっとそこで生きつづけてきたのです。今になってようやく、わたしはそこから旅立とうとしているのです」
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Posted by ブクログ
ネタバレ奇妙。読みにくいことはないのだが、なにやら奇妙な話だったなあっというのが正直なところ。
アーサー王伝説あたりの知識があればもっと面白かったのかも。
大事な記憶をいつのまにかなくしてゆく。
それは悲しいことだけれど同時に救いでもあるのかもしれない。
記憶をなくす原因が竜、というのはなにかの比喩的なものなのかとおもっていたけど、ほんとにいた。
確かにファンタジー。
でもそうしたのはマーリンだったという驚き。
憎しみを忘れさせることで、平和を保つ。
そもそも憎しみが生まれるようなことをするなよ、と思うのだけれど…
メインの老夫婦は強く想いあっているようで、
決定的に分かり合えてないのでは、とも思ったり。
原文だとどういう呼びかけなのか、と思うのだが、「お姫様」が、最後までなんか慣れんかった。
普通に名前で読んだのじゃダメなのか。
船頭さん、どうあってもアクセルを渡しそうにないよなあ
つーかあの島に息子のはかがあるとか言ってたけど、
もしかして死者の島ってことなの?
うーんよう分からん。
村上春樹っぽいなー
謎めいたところを読み解くのが向こうの人は好きなのかなあ? -
Posted by ブクログ
カズオ・イシグロがファンタジーを!という点で話題になっているようだが、確かに竜や鬼や妖精などが出てくるものの、さほどファンタジー色は強くなく、やっぱり純文学の印象。
6世紀頃のイングランドが舞台で、ブリトン人とサクソン人の争い、とかあんまりピンとこないのだが、荒涼とした自然を舞台にした冒険旅行記である。
といいつつも、旅をする主人公は老夫婦であり、その他老騎士なども登場して、アクションシーンはあるものの全体としての流れはゆったりとしている。
夫が妻を「お姫様」と呼ぶ、老夫婦の純愛が全編に通底し、『日の名残り』にも通じるような気品が漂っているのだが、その一方、霧が晴れたときにあらゆることが覆されて惨禍へと陥る予感に満ち溢れる不穏さが常につきまとう。
その妙味に身を委ねるのがこの小説を読む醍醐味だろう。
けっして「面白い」小説ではないが。 -
Posted by ブクログ
読んでる最中はハラハラしながらすごく引き込まれてあっという間に読み終えたのだけれど、終わってみれば霧の中、結局何が言いたかったんだ?と、呆然、立ち尽くす、そんな読後感。
鬼、霧、赤い髪の女、夢、蝋燭、黒後家、兎、船頭、島、雌竜、戦士、山査子、全てが記号?でも一体何の?
もう、置いてかれ過ぎて、考えてもわからないから、ネット上の色々な方の書評や考察、また、作者ご本人のインタビュー内容で答え合わせ。
結果、全っ然違うこと考えて読んでたわ、自分。何故だろう、冒頭から一つの仮説に囚われ過ぎて、結局、物語終盤までその疑念が拭えなかった。
その仮説というのも、実はこの物語に登場する人物全員、本当は「霧」になんて全然影響されてなくて、皆んな忘れたフリをしてるだけ。都合の悪いことを作為的に忘れ、自分自身も騙してるんじゃないかとか、そんなこと。
だって、皆んな忘れているようで本質的なことは忘れてないように見えたし、「霧」の影響がすごく限定的に思えたから。アクセルも、ベアトリスも、お互い、ずっと何かを隠しているみたいな風に思えたから。息子について語る二人の会話が妙に白々しく思えたから。そして極め付けは、船頭とアクセルとの会話の中で明かされる息子の死が、突然でありながら、静かでさりげな過ぎたから。(でも読み返してみると…”爺さんはおれの足音を聞いて 、夢から覚めたような顔で振り向く 。夕方の光を浴びた顔には 、もう疑り深さはなく 、代わりに深い悲しみがある 。目には小さな涙もある 。”と、ここで思い出したのかなと読みとれますね。)
ていうか、その仮説でいくと、雌竜クエリグのくだりから辻褄合わなくなってくるんだけどね。うむ。ウスウスは矛盾に気づいてはいたんだけどね、ホントは、ね…いやはや、解釈はむつかし。
ポストアーサー王の時代設定プラス、ファンタジー要素により、作者のメッセージが見えにくくて、他の方のレビュー見ても、評価が二分してる。物語にメッセージ性を強く求める人たちには不評みたいだけど、イシグロ氏はアクティビストではなく文学者。敢えてこの設定にする事で、物語に普遍性を持たせようとしたのかな。時代を経ても語り継がれるアーサー王の伝説みたいに。 -
Posted by ブクログ
あのカズオイシグロ氏の長編。
やはりイギリスにベースを置く作家は、ファンタジーの世界にも造詣が深くなるのだろうか?
アーサー王が去り、円卓の騎士は年老いてもまだ生きていた時代のイングランドの話。
イメージ的には、トールキン指輪物語の第一部旅の仲間に非常に近い世界だが、もちろんトールキンの焼き直しではなく、イシグロ氏の設定した世界での完全なオリジナル。
派手に盛り上がるシーンはないが、情景描写が非常に細やかで、主人公の息遣いまで感じられるようなリアルさ。
そして深まる謎とその解決、展開。
じわじわと面白く、最後まで一気に読んでしまった。
面白かった。 -
購入済み
淡々としたノスタルジー
高評価のレビューがいっぱいの中、すいません。
ノーベル文学賞を取ったというニュースで初めて知り、読んでみました。
期待が大きすぎたのか若干がっかりしました。
何の予備知識もなく、提供、3-4度目の提供で使命を終える、とのことから主人公たちがどういう子供たちなのか検討はつきました。
不思議だった施設での授業や保護官とのやりとりが後に明らかにされますが意外性や驚きがなく終わってしまいました。
こういう目的のために生まれてきた子供たちの話は日本の漫画でかなり昔にも読んでいたので、その時の衝撃が大きかったのと、内容もはるかに壮大(漫画的)だったからかもしれません。
ちなみに清水玲子の『輝夜姫』(1993)という作品になります。
ところで主人公キャシーはこの物語を誰に向かって話しているのでしょう?私たち読者?翻訳だからなのか、それは違うような感じがしながらずっと読み進んでいました。
一度読んだだけの感想としては、意外性がなくがっかり、というところですが、再読の際にはいろいろ想像力を働かせて読んでみるといいかもしれません。
語り手キャシーの一方的な思い出話は、もしかしたらトミー側、ルース側では全く違う受け取り方が出来るかもしれません。