カズオ・イシグロのレビュー一覧
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『「浮世の画家」でいることを許さないのです』という小野の言葉。モリさんは歓楽(耽美主義)に美しさを見出し、「浮世」を描くが、時代が進むにつれて小野は師の「浮世」への考えに対して自分の考えを表す。ただ、小野の当時の作風について改めて考えると、小野が導き出した精神主義的な作風もまた、大きく見ると「浮世」だと言える。小野自身もまた時代に翻弄された「浮世」の画家なのでは。
小野に限らず、この作品の時代背景も、紀子の縁談も、一郎の好むヒーローも、時と共に流動的に変化している。浮世の中で人々は時代に合わせて生きている。
小野の語りからは、古風かつ独善的で自己を正当化しようとする性格が滲み出ている。当時を思 -
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・ 人間と同様の観察能力を持つAI搭載アンドロイド、クララ。「子どもの親友」としての機能ゆえか、やや幼い。とくに、科学的知識と科学的観察方法が不十分であるため、因果関係を誤って認識してしまう。冒頭の物乞いと犬の「復活」についての、誤った因果関係の認識が、その後のストーリーでの重要な意味を持つことになる。この点は、原始宗教の萌芽ともとれる。
・ 科学技術の発達が、子ども達の環境を歪めていく。そのことを純真なAIの目を通すことによって、中立的に描くことができている。
・AIは人間をコピーできるのか、人間の「心」は複雑すぎないか、そもそもコピーできない魂のようなものがあるのか、という問いかけもある。 -
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ネタバレ『日の名残り』『わたしを離さないで』の著者、カズオ・イシグロ氏の作品。
10歳で両親が謎の失踪を遂げた主人公クリストファー・バンクスは、成長し名探偵としての名声を獲得した後、両親の失踪事件を解決するために立ち上がります。
あらすじからすると探偵小説のようですが、探偵小説ではありません。しかし前半は美しい文章と、過去の回想から浮かびあがる様々な事実にワクワクです。
…が、後半は突如として支離滅裂な行動を繰り返す主人公、品のない使い古されたチープな不幸、ありきたりで悲惨な結末にかなりうんざり。(世の中とはそういうもの、という作者のメッセージ!?)
『わたしたちが孤児だったころ』の「わたした -
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"まるでおじいちゃんおばあちゃん版のドラクエみたいだな"のレビューが気になって手にとりました♪
ドラクエと言えばFC版のドラクエⅢ
あのこわ〜い音楽に合わせて、「おきのどくですがぼうけんのしょはきえてしまいました」のメッセージが出たときのショックは今でも覚えています…w
けど、本書は大丈夫!
途中でしおりを挟んでおけば消えることはないでしょう!
安心して続きから始めれます!
ドラゴンクエスト風に
カズオ・イシグロエスト 〜忘れられた巨人〜
主人公はアクセルとベアトリスの老夫婦
遠い地で暮らす息子に会うために冒険に出かけます
冒険に出るこの大地は人の心や記憶に影響を -
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カズオイシグロの短編集。タイトルにある「夕暮れ」とは、サンセットタイムだけではなく、人生の夕暮れ(中年から初老の世代)とか男女関係の夕暮れ(別れの予感がある状態)を指しているようだ。熟年離婚、旅先での喧嘩、不安を感じる結婚相手など、何かしら影を感じる設定である。
登場人物はいずれも「若さ」「付き合いたての頃」「才能」への憧れを持っており、やるせなさを織り交ぜながら切ないストーリーが展開する。それでも、コメディの要素が含まれる話も2話入っていて、ユーモアたっぷりの登場人物とぶっ飛んだ展開に驚かされ、思わずクスッと笑ってしまう場面もあった。切ないストーリーでテンションが下がった読み手としては救われ