【感想・ネタバレ】夜想曲集のレビュー

あらすじ

ベネチアのサンマルコ広場を舞台に、流しのギタリストとアメリカのベテラン大物シンガーの奇妙な邂逅を描いた「老歌手」。芽の出ない天才中年サックス奏者が、図らずも一流ホテルの秘密階でセレブリティと共に過ごした数夜の顛末をユーモラスに回想する「夜想曲」を含む、書き下ろしの連作五篇を収録。人生の黄昏を、愛の終わりを、若き日の野心を、才能の神秘を、叶えられなかった夢を描く、著者初の短篇集。

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Posted by ブクログ

老歌手からもうすでにいい。構成とキャラ設定、ストーリーの流れ、全部拍手喝采。行を追うのが止まらない。

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2025年08月19日

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翻訳ものは誰が翻訳したかによっても評価が分かれると思いますが、とても読みやすかったです。訳されることを前提に書いていると知った時は驚きました。
音楽をテーマに5つの短編が収録されていますが、一つ一つ異なるテイストで楽しく、すぐに世界に引き込まれました。
余韻のある読後感も心地よい一冊だと思います。

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2025年08月10日

Posted by ブクログ

5篇の短編からなる。
「夜想曲」などに出てくるリンディーガードナーはカズオ・イシグロのお気に入りキャラだろう。
天真爛漫なセレブに売り回されるミュージシャンたち。
5篇の短編はすべて音楽に関係のあるストーリーで、切なく、ときにクスッと笑える要素を含む。

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2025年02月02日

購入済み

副題から分かるように全ての短編に音楽の要素が出てきますが、もうひとつの「夕暮れ」はどういうことだろうと思いながら読んでいました。訳者あとがきにも書かれていましたが、音楽以外にももうひとつ男女関係・夫婦関係の危機というモチーフも全ての短編に共通しています。登場人物皆もう若くなく、ある人は結婚した時の状況とはお互いの関係や自分の感情や人生に求めるものが変わっていたり…。こういう人生の盛りを過ぎてそれでも残りの人生を生きていく人々を「夕暮れ」という言葉で表現しているのでしょうかね。思えば『日の名残り』もそのような意味合いでしたか。
ひとつひとつ心にしんみりとした感覚を残す短編でおすすめです。

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2024年08月17日

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短編集。笑って、しみじみして、唸って、ため息ついてまた笑って。
一番好きなのは「降っても晴れても」。
どれもラストは僕好みだった。

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2022年09月19日

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カズオ・イシグロ(1954-)は、『日の名残り』(1989年)で、イギリスで最も権威ある賞「ブッカー賞」を受賞した、世界的作家。長崎県長崎市で、日本人の両親の元に生まれましたが、5歳でイギリスに移住。成人までは日本国籍、その後、イギリスに帰化しています。2010年に映画化された『わたしを離さないで』で、また、2012年4月に、NHKで「カズオ・イシグロを探して」と題したドキュメンタリーが放送され、日本でもより知られるようになりました。
『夜想曲集』(2009年)は、「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」という副題が付いた、初の短編連作集。どの物語も、人生の後半や終盤にある人物が、自らの過去(=夕暮れ)を、ジャズ、クラシック、ポピュラーなどの音楽とともに振り返ります。
この連作短編集を読んで私は、自分が若い頃にこの本に出会ったならば、今とは違い、ストーリーの展開や場面設定の巧妙さにばかり感嘆しただろうと思います。しかし、人生も優に半ばを過ぎ、振り返る時間が堆積した今、私がこの短編集から読み得たのは、感情の渦に巻かれ、愚かしい選択を繰り返してきた人間の、それでも肯定する他ない人生への愛着でした。
いずれにせよ、これが私の人生だった。そしてこれからもそれは同じ――。作家と出身地を同じくする私は、身勝手にも、遠いイギリスからそんな激励をもらった気持ちなのです。(K)

紫雲国語塾通信〈紫のゆかり〉2012年1月号掲載。

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2022年09月05日

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なんかこう切ない雰囲気がとても好き。

イシグロさんって、淡々と進む情景描写に、綺麗な色の哀愁を乗せるのがとても上手な作家なんだと思う。たぶん、情景と感情の絵をいつも思い描いている人。うまく色が溶け合わさせて、読者を癒してくれる。
この本はそれがすごく出てる。

サンマルコでいつかこんな音楽家に会えますように。

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2020年03月28日

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カズオ・イシグロを読むのは、「日の名残り」について2冊目。「日の名残り」が長編であったのに対して、本書は、「音楽と夕暮れをめぐる」5つの連作短編集である。いずれも、書下ろしとのこと。
5編の短編は、物語としてとても面白いものであった。
どれも面白いが、どれか1つを選べ、と言われれば、私であれば「老歌手」を選ぶ。老いた歌手は、まだ年老いたとは言えない妻に、ベネチアの運河でゴンドラに乗り、妻のいる運河沿いのコンドミニアムに向かって歌う。愛し合っていながら、別れを選択するという不思議な世界に生きる2人の、しみじみとした物語として、私は読んだ。

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2025年07月14日

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音楽にまつわる短編が5編収録された作品
いずれの作品もとくに盛り上がりは感じませんでした
それなりに楽しめた感じではあります
映像化しても楽しめるかもとも感じました

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2025年03月31日

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全体的な曇り空がずっと続いているようなノスタルジックな雰囲気を纏っている短編集。本作はクスっと笑えるシーンも多くて、新鮮な気持ちになった。

個人的には「降っても晴れても」がお気に入り。
まず主人公があまりに不憫すぎる。やる事なす事想像の上をいってて面白かった。それと対比するように、出てくるジャズの選曲がどれも本当に最高で。この話を読んでジャズにハマった。ぜひサラ・ボーンの“April in Paris”を聴きながら読んでギャップを楽しんでほしい。

それにしても土屋さんの訳は何度読んでも素敵だなぁ。一節読むだけでカズオ・イシグロの世界にどっぷり浸かれる。さらに読みやすい。次作も期待したい!

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2025年03月02日

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大人というかシニアの恋愛小説を読みたくて手に取った初めてのカズオイシグロ。叙情的で常に儚い雰囲気が漂っている、好みな作風。出てくる音楽、特にジャズにとてもハマってしまった。降っても晴れてもに出てくる音楽と、それに似つかわしくないドタバタ感のギャップが良い。
身体の関係の描写がないところも良かった。

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2025年01月13日

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音楽と夕暮れという副題の通り、ミュージシャンや音楽に想いを馳せる人々が集う作品集。目に浮かぶような情景描写は、音楽をテーマにしても変わらず。登場人物たちがステージやレコードについて語るシーンがこんなに生き生きと書かれるとは!
コメディライクな作品もありかなり読みやすい。
個人的には『夜想曲』がとても好みだった。テレビ映画くらいの長さで映像化してほしいくらい。

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2025年01月03日

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イシグロ氏短編集、肩から力を抜いているようで見事にペーソスの情景を描いている。
「音楽と夕暮れを巡る・・」まさにまさに!
夕暮れとは当然、字kン的それではなく、人生の黄昏。
人生の、恋愛のそれ。。。

上り詰めていた時間では見えなかった、感じなかった、臭わなかったであろう機微が、ぼんやりと姿を現してくると、思いがけず、加速度的に、危機をはらんでいく刹那。
ブラックユーモアセンス一流のペンにかかると、時にはコメディーがかったり、不条理に走ったり。。

ふと最近読み続けているオースターと重なる感覚に陥った。

「降っても晴れても」が好み
親友夫婦の間に生じている不協和音に遭遇したダメダメ僕の想いや行動がクスッと笑わせる。

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2024年10月23日

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カズオ・イシグロ初の短編集。面白かった。
作者らしい上品な文章と雰囲気は、ドタバタな場面でも損なわれていなくて妙に感心した。
整形したサックス奏者の彼が、うまくいっているといいなと思う。
そして、訳者あとがきで印象に残ったのは、カズオイシグロが、自作を様々な言葉に翻訳されることに不安やプレッシャーを感じているということ。
「インタビュー症候群」と命名されていたけど、新作を書いて最長2年をかけて世界各国をまわり、膨大なインタビューを受ける。そのときに、翻訳された言葉について不安を感じる場面があったのだろうか。
それにしても1、2年もかけて世界中をプロモーションするなんてすごすぎる。村上春樹さんはこれを最初から断って批判されたそうだけど、たしかに途方もないことだものなぁ。
そうなると毎年のように作品を発表している有名英語圏作家は超人なのだな。

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2024年09月03日

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4冊目のカズオ・イシグロの作品である。
カメレオンのように作風を変えられる、“ひとり映画配給会社”と私は彼を呼んでいる。
そのイシグロは、実は音楽にも精通していて、シンガーソングライターを目指していたこともあったとか。そんなところから生まれているのがこの短編集で、5篇をひとつとして味わうように求められており、すべてミュージシャン(もしくは音楽愛好家)を題材としている。
今まで読んだ中で、最も読みやすい、ムード漂う作品集である。ドラマ性や落ちはなく、人生の一瞬を描く趣向となっている。長編小説とは全く異なる素顔のイシグロの感性が垣間見られた。
主人公は皆、才能はあるが認められておらず、たゆたゆと人生を彷徨っている。読み手も、物思いに耽りながら、カフェで頁をめくるのにうってつけの良書ではなかろうか。
私のお薦めは、コメディタッチの強い中盤3作品よりも、コリッとした読後感のほろ苦さ(これが著者の本領)がある「老歌手」、「チェリスト」。
ヘンな言い方だが、カズオ・イシグロって大家のように思って見てたけど、現代作家なんだよね。

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2023年08月20日

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常に音楽が流れている短編集。
冷めきった関係を復元しようとする老歌手や、メジャーデビューのために整形手術を受けるミュージシャンとか、設定が微妙に現実離れしているところに面白さがあって、すぐ読めてしまいます。
面白くて品のある短編集です。

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2022年12月02日

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副題は「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」。

全盛期を過ぎた歌手が再起を目指して愛する妻と別れようとする「老歌手」。

音楽の趣味でつながった大学時代の友人夫妻との、今となっては埋めようもない価値観の溝をコミカルに描く「降っても晴れても」。

メジャーデビューに目指し作曲にいそしむ主人公が旅回りの音楽家の夫妻とのわずかな交流の中に、人生のままならなさを感じる「モーバンヒルズ」。

「夜想曲」は、「老歌手」で出てきたリンディが再び登場する。
風采の上がらないサックス奏者が整形手術を受けさせられ、術後を過ごすホテルの隣室に彼女がいる。
二人とも顔を包帯でぐるぐる巻きにされている中で、退屈しのぎに深夜の高級ホテルの中を歩き回る。
なんとなく『ローマの休日』のような、昔の映画にあるロマンチックコメディ風のドタバタ。
が、結末はちょっとほろ苦い。

最終話は、音楽院を出たものの、その後の演奏活動で行き詰っている若手のチェリスト、ティボールの物語。
広場で出会い、彼にレッスンをする謎の女性。
彼女はいったい何者なのか。
才能と教育の問題を考えさせられる。

どの話も、主人公は天才的な音楽家というわけではない。
音楽に関わりながら、時にままならぬ人生を生きる人々だ。
割とドライな筆致でありながら、どこかにこうした人々の哀感がにじんでくる。
すばらしい短編集だった。

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2022年09月23日

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チェロの師匠の話が衝撃で面白かった。

船と歌のシーンは、ロマンティックなムードの情景が頭に浮かび、印象に残っている。
素敵だった。

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2022年06月02日

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カズオ・イシグロ氏の初短編集。「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」は、どれも夫婦や男女の微妙な関係や人生における変化を音楽をキーワードに綴られた、個性と雰囲気あふれる作品ばかり。著者の「五篇を一つのものとして味わってほしい」という言葉にも納得、シングルカットではなく、アルバムとして美しく秀逸なCDを聴いたような読後感があった。それぞれに異なる都市の映像も目に浮かぶよう。個人的には冒頭の「老歌手」が印象深かった。ちなみにここに出てくる人物が他の一篇に出てきて「おっ!」と思うのも楽しかった。

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2022年01月22日

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音楽とすれ違う男女の仲をモチーフにした短編5編。
特にオチがあるわけでなく、各主人公の人生のうちの少しを覗く。
細かく計算し尽くされた描写が続く(描写の謎解きをしているサイトもいくつも)ので、自分的には読み取るのが苦手。
解説を読んで、また今度2回目読もうかな。

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2021年08月07日

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ヨーロッパ・アメリカが舞台の話。
音楽をやっているというのは自分と同じ共通点だが、あまり自分が知らない世界感を覗かせていただいた。
後書きを書かれた作家さんも言っていたが、真面目な文章の中に、ユーモアな発言や行動が沢山散りばめられていたため、こんな素敵な情景が思い浮かぶ大人な話の中なのだけど、その中に楽しさがあった。
最後の「チェリスト」は、結果どうなったとか結論とかはっきりとしたものがないんだけど、その謎めいたものに全くイライラせずむしろしっくりきた。

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2021年05月17日

Posted by ブクログ

全体的に充たされざる者のようなシュールな雰囲気がある不思議な短編集。やっぱりカズオイシグロの小説は結末の曖昧さが良いですね。中では老歌手が一番好き。

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2020年06月17日

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Nocturnes(2009年、英)。
音楽をメインテーマとした短編集。チェーホフを彷彿とさせる哀切感漂う3編(奇数章)と、アメリカンコメディーのような2編(偶数章)で構成されている。

「降っても晴れても」が一番好きだ。著者の作品としては例外的に軽妙に笑える。とはいえ、根源にあるのはやはり哀愁なのだが…。全編を通して私が最も好きな登場人物が、この物語の主人公、レイモンドなのである。他の人々が自分の才能を人に認めさせようと躍起になる中、彼だけは自分のアドバンテージを自ら放棄して、親友夫妻のために道化役を演じるのだ。それが本人の意図を超えて、何もそこまでやらんでも、というほど必要以上に道化になってしまうところが笑えるのだが。「イシグロ史上最も冴えない語り手(解説者談)」は、「最も心優しき語り手」でもあると思う。素っ頓狂な友人チャーリー(そもそもこいつが全ての元凶だ)とのやり取りも絶妙で、ベストコンビ賞を贈りたい。それにしてもチャーリー、最終試験のあと泥酔して何をやったんだろう?

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2022年09月06日

Posted by ブクログ

好きな作家の短編集。もう少し音楽に造詣が深ければ (背景が分かれば) より味わえるのだろうが、分かったのはABBAのdancing queenだけというお粗末な自分には少々 (?) レベルが高かった。音楽と男女の関係をモチーフに、時の流れの残酷さ (過去も未来も) と共にどこか「日の名残り」を連想させるノスタルジックな雰囲気や人間関係の機微を感じさせられる。

全般読みやすい文章で、ハチャメチャなものから、コメディタッチなものまでテイストが違う作品も含めてサラッと楽しめるのは短編集ならでは。音楽に疎くても。

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2025年04月20日

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2024/6/9

初イシグロ
淡かった

五個?の短編
あのイギリス田舎の、ホテル勧める話が一番すき
あと友達の家めちゃくちゃにする話もいいな

内容というより、ジャズ聞にながら時間を楽しむ本だわ

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2025年02月08日

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カズオ・イシグロの短編集。

音楽と夕暮れって、本当によく付けたタイトルだと思う。いわゆる人生の黄昏時を表現してるんだけど、短編の主人公5人とも自分とはかすりもしない人生を歩んでいながら、もう節々に「その気持ち分かるわー」と感心する時がある。

カズオ・イシグロって、そういった誰の人生でも経験する言葉にし難い気持ちを文章に表現するのがすごく上手い。

正直ストーリー的にはそれほど引き込まれなかったんだけど、その絶妙な文章に出会いたいために、また他の作品も読みたくなってしまうんですよ。

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2024年09月28日

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なんかお洒落な感じの短編集だった。人生の黄昏的なところを描く人なのかな。ちょっと沁みるところもある。夫婦関係が悪化する様子とか。
若いとき読んだ「日の名残り」はものすごい退屈だったけど、今読んだら面白いのかな。クララ~は面白かったし。

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2024年01月22日

Posted by ブクログ

カズオイシグロの短編集。タイトルにある「夕暮れ」とは、サンセットタイムだけではなく、人生の夕暮れ(中年から初老の世代)とか男女関係の夕暮れ(別れの予感がある状態)を指しているようだ。熟年離婚、旅先での喧嘩、不安を感じる結婚相手など、何かしら影を感じる設定である。
登場人物はいずれも「若さ」「付き合いたての頃」「才能」への憧れを持っており、やるせなさを織り交ぜながら切ないストーリーが展開する。それでも、コメディの要素が含まれる話も2話入っていて、ユーモアたっぷりの登場人物とぶっ飛んだ展開に驚かされ、思わずクスッと笑ってしまう場面もあった。切ないストーリーでテンションが下がった読み手としては救われる。

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2022年11月23日

Posted by ブクログ

短編集。‥‥の割に情報量が多い。一気に読むと疲れるかもしれない。ユーモアは感じたが、いつものすっとぼけたような趣きは感じられなかった。

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2022年08月20日

Posted by ブクログ

音楽と夕暮れをめぐる五つの短編集
相変わらず靴の中に小石が入ったような
微妙な違和感は相変わらず
音楽のオチがついてるのはそのうちの二編

長年連れ添った妻にヴェネツィアで唄を捧げる
『老歌手』、不思議な才能をもつ美女との
レッスンを繰り返す『チェリスト』が好き

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2022年06月05日

Posted by ブクログ

「日の名残り」「わたしを離さないで」のカズオ・イシグロによる、音楽をテーマにした5作の短編集。著者の言う通り、5作は個別の作品でありながらも根底に流れているテーマのようなものは繋がっている。

それは主人公らしき人物の描写に表れている。皆一様に招かざる人か、あるいは本人が望んでないのにこの場所にいる人である。さらに独り身であり、社会的立場が不安定で自分の才能に懐疑的である。

対して彼らが出会う人々の大半は夫婦であり、野心家で社会的に成功することに価値を置いている。しかもある程度自分の才能について確信がある。しかし成功に対するアプローチはバラバラで、それが基になって人間関係が不安定になっている。夫婦という本来安定した関係性が崩れることでその悲惨さがより鮮明になる。そして物語の最後に彼らは変化の瀬戸際に立たされる。この先上手くいくのか、いかないのかは明示されない。ただ彼らが変化するために主人公たちは存在した。そう考えると、主人公たちはただのキッカケだったとも言える。

カズオ・イシグロの作品はあらゆるところに引っ掛かる部分が用意してあり、素直に読ませてはくれない。時には語り手が本当のことを語ってないんじゃないかと疑う場面もある。それは短編になっても同じで、短編だからこそ気になった箇所を何度も読み返せる面白さがあった。

作中にある音楽についてたとえ知らなくても、サブスクですぐに調べて聞ける現代って良いね。

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2022年01月12日

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