カズオ・イシグロのレビュー一覧
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序盤から中盤にかけて退屈だなあと思いながら読んだ。執事たるものこうあるべきとか御主人のこととかそういうことばかりで。ところが中盤以降、徐々に小さくゆらゆらと燃え上がる何かが起こってくる。ちょっと先が気になってきたという状況がやってくる。最後にその燃え上がる何かが弾けるのかと思いきや、そのままゆらゆらして消えていった。そんなお話でした。あと読んでいて感じたのは、スティーブンスに対して「ええ、それはなあ…」という場面が多かった。もちろんこれは自分が現代の日本で生きているという状況で、かつ執事文化にもイギリス文化にも馴染みがないものにとってはなかなか書かれているもの全体を深く味わうことが難しかった。
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Posted by ブクログ
お堅いお仕事小説
脱線に次ぐ脱線がとても長い…ただ物語をつくりこむ執筆の凄さ、そして前作同様 静かな物語だったのを感じた
今作もイシグロ氏による回想、文学用語の信頼できない語り手 と呼ばれてる物語だった
わたしを離さないで から入った方が多いと思われる、今作物語はこちらも少し悲劇的に描かれてて、雇主だった者の過ち、女中の思いを気づけなかったなどが最後に想いにふけながら終わってく。しかし見知らぬ男との夕刻の話、つまりダーリントン卿との時間は素晴らしいものではあったのだと、イギリスの執事とはこれほどの仕事で素晴らしくあったのだとと思わせるような内容だった
誰にでも一生懸命のとき、じっくり考慮し -
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自分の領分において他人との境界含め自分の関与すべき物事を徹底的に分別して、努力次第で自分の掌中に収まる目の前の物事をコツコツと行い、穏やかな生活を維持していくスティーブンス。
自分の範囲を限定するのではなく手を伸ばす意欲を持てば政治においても人間関係においても多くに触れられて自分で舵を切れるという見方もあるかもしれないが、自身の環境はコントロール不能な側面が多いため、知識の補填や強い意志でどうにかなるものではない(3日目夜ハリーの語る品格への疑念)。スティーブンスはあまりに頑固で枠内に収めることに気を取られすぎているので、関与すべき、関与できる範囲を自ら狭めているような気もするが。
ああすれば -
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小説を読む限りは、佐知子は実在した人物で、過去の悦子にとってはその価値観に腹の底からは承服しかねる異質の存在だったように解釈していたが、映画ではそれは実は悦子そのものであり、そういう人物がいたかのように二キに嘘をついていたと最後にネタバレをして終わるように脚色されていた。原作に対してあまりにも分かりやすく説明し過ぎであり、火曜サスペンス劇場のような単なるエンタメサスペンス映像になってしまっており、舞台のセットや俳優陣は豪華であるものの、映画としてみると☆1。
記憶を無意識に変えずしては思い起こすこともはばかられるような過去を抱えながら、強く生き抜いてきた当時の人々の人生が思い起こさせられる。 -
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オーディブルで。終戦直後の長崎。妊娠中に触れ合った母娘。夫のお父さんの話。民主主義の悪。一方、現代は1980年で、現代的価値観を持って、ロンドンで暮らす次女、ニコが、一人暮らしになった母のもとにやってくる。二人の話から、ニコはイギリス人夫との間にできた子で、日本人夫との子である長女は自殺したことがわかる。
主人公はなんでイギリスに渡ったのか、どういうふうにイギリス人夫と知り合ったのか、妊娠中の話から現在までの間が全く描かれていない。妊娠中の話は不穏だ。親しくしている母娘の母は、アメリカ人と付き合っていて、日本を出ることに心を傾けている。戦争で、富も地位も失い、何もかもが変わってしまったのだ。 -
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ノーベル賞を受賞した、日本とダブルなイギリス人が書いた小説。
年老いた執事が、自分の半生を振り返りながら、旅をし、かつての同僚に出会いに行く話。
本人にとっての執事という仕事に対しての向き合い方はどういったものなのか。それを振り返り、その仕事に真摯に向き合ってきたがゆえに、その他のこと、具体的には、プライベート、恋愛、そうしたものを犠牲にしてきたを少しずつ自覚し、世間的な状況をも自覚する。
ビターなエンド。自分はこういう終わり方は好きだ。
日本語の文章でも非常に美しかったが、これは原文の英語だとさぞ美しい英語なんだろうなと思う。正直、日本語で執事調の喋り方をされると、どうしてもフィクショ -
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ある御屋敷に長く務めている執事が、ふとしたきっかけで数日の外出を許され、その数日の間に自身の過去を回顧していく物語。
まるでブログを読んでいるかのような感じだった。
主人公は、その回顧の中で、執事に求められる「品格」や、職業観についてエピソードとともに誇りを持った感じで述べられているんだけど、その一方で、ジョークを言うのが下手だったり、自分に恋心を寄せる女中頭を無碍に扱ってしまったりしていて、結末として自分の生き様に後悔して涙を流す場面があるんだけど、きっと「主人に忠臣を誓う執事」としてあり続けることが自分にとってラクな生き方だったし、間違っていない生き方だという自負があったんだと思う。