カズオ・イシグロのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
カズオ・イシグロの作品は前に読んだことがあるが、ピンとこなかったし内容も覚えていない。
この作家はブッカー賞やノーベル文学賞受賞者なので、いつも気になっていた。
今回、辞書のような分厚い文庫本の見た目に誘われて読んでみようという気になった。
読んでる途中で感想を書こうと思ったのは後にも先にもこの本が初めてだ。半分くらい読んだところで、この感覚を忘れないうちに記録しておかねばという衝動に駆られる。異様な空気感、そしてとにかく長い。
描写も文章もスムーズでそれぞれ納得だが、
物語情景のある部分が突然あらぬ方向に突き進む。
その情景毎の詰めというか結論がまったくない。
決着のない尻切れトンボが続き脈絡がない。
迷って決断できない、思ったけど行動しないなど
優柔不断の心理描写が多く、苛立つこと頻り。
スケジュール刻限までにいろいろ他の用事が入り、
時間に押される切迫感と焦りが続く。
繊細な描写に都度都度状況に引き込まれるが、延々と続く文章の連なりには辟易する。
大枠が想像できるだけで、現実性のないもやもやは最後まで残る。
ライダーという著名なピアニストが主人公だ。
存続危機にある閉鎖的な小さな町の話で、彼は救世主として文化芸術的なアイデンティティ構築のコンサートにピアノ演奏と講演のために訪れる。
そこで起こる2日間の”夢現(ゆめうつつ)”の顛末である。演奏会までの時間制約のなか次々と頼まれ事や突発事が重なり忙殺される。
別れた前妻と撚りを戻して人生の再起を図ろうとする元指揮者ブロツキーの悪戦苦闘。彼はコンサートの指揮を務める目玉の存在であり、過去の破滅的な酒癖や性癖の悪さの記憶がいろいろ甦る。
前座のピアノ演奏をするステファンの両親特に芸術を異常に愛する母親との確執。ライダーの妻と息子(ホテルポーター、グスタフの娘と孫)との微妙な遣り取り。
・・・・。
950ページのなかの最後の50ページだけが辛うじて現実的な話になると思いきや、それも結論なしでコンサートは成功か失敗かも曖昧だ。
言葉は人間の精神・脳活動に必須の道具で、成果物の
小説は現実を超えてあらゆる世界を表現する。
事実や現実だけでなく、想像や夢や幻想こそ大胆に描いて、読者の心を揺さぶることが可能だ。
この作品は「現実と夢のまだら空間」のシュールな物語で、読むことの意味に迫り、小説の可能性を問う。
しかし今の自分には鈍い衝撃と反応がやっとだ。
彼の他の作品も読んでみようと思う。 -
Posted by ブクログ
一度挫折しかけましたが、改めて最初から読み直し3日で読み切りました。
淡々とした物語の中に、英国貴族に仕えた執事のプロとしての品格と信念を描きながら、プロフェッショナルとはなにか、人生において大切にすべきことはなにか、色々と考えさせる小説でした。
スティーブンスは絶対にミス・ケントンの好意に気づいていたはずです。そうでなければ、要所要所の彼女の行動や発言を覚えていないでしょう。気づいていて、おそらく自分も好意を持っていて、けれど毎晩彼女の部屋でココアを飲む関係以上にはなりたくない、なぜならそれは執事としての仕事の邪魔になるから、彼女の好意には最後まで気づかないふりをする。でも結婚して去った彼女の不幸せそうな手紙を読んで、もしかしたら以前の関係に戻れるんじゃないかと会いにいってみる。ちょっと勝手すぎやしませんかと思うけど、彼女の方は現実的な幸せを見つけている。
誰だって、心の中にあのときこうしていれば、今頃どうなっていただろうと考えて現実と比べてしまうことはあるけれど、時間を戻すことはできないし、前を向くしかないのだと実感させられます。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ面白かった。主人公の仕事一筋という精神に感銘を受けた。やはり、そのような人間は、ある意味女性的な繊細な感情というのを排除することが得意なのかもしれない。主人公の父親が、黙々と階段の上り下りの練習をするシーンが感動した。心と体が一致しない老いの残酷さを悲壮感たっぷりに演出されていて、それでも死ぬまで仕事を全うするという、果てしない一流の召使いとしての意地のようなものも感じた。主人公の父親の生き様そのものを表していて涙が出た。「かつての主人は、自分の意思で選択をして間違われた、それに対して自分は選択すらしていない」というのは印象に残るフレーズだった。主人に対する深い尊敬と謙遜をここまで客観的に捉えられる姿に感銘を受けた。主人公は、主人が最大の過ちを犯し、ミスケントンとの別れが決定的となったあの夜を人生最高の一時と一寸の翳りもなく言い切っていた。ここまで美しく、残酷な生き方というのはあるのだろうか。
ファラディ様へのユーモアのあるコミュニケーションを身につけようとするラストは感動した。あんまり深刻になりすぎず、笑い飛ばせばいいのかもしれない。真面目で実直に生きてきた人間が、ユーモアにたどり着くというのは、すごく今の自分に刺さった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ父親の臨終に立ち会わず、道を過つ元主人ダーリントン卿を止めず、ハウスキーパー(家政婦長)だったミス・ケントンの想いに一切気付かず……。
常に「品格」を意識して「偉大な執事」たらんと長年努めてきたスティーヴンス。そうして得たのは冷淡、無関心、傲慢、空虚——傍から見ればおよそ人間的な温もりを感じられない立ち居振る舞いと半生だった。終盤にようやく少し認識できた彼のこれから先や如何に。
己の領分に留まり、そこで全うする。——程よければまっとうだが、過ぎれば世界に対して無自覚・無関心・無批判で空っぽになる恐ろしさ。世界情勢はおろか目の前のミス・ケントンの気持ちにすら暗すぎるスティーヴンスが、彼の上品な言葉遣いと相俟ってロボットのようであった。
スティーヴンスは、はっきりと言って嫌な奴だ。作者はなぜこの嫌な奴を、それも執事という役割を与えて描いたのだろう? 何かしらを諷刺しているのか?
作中のミス・ケントンの言動に些か当惑させられた。いきなりスティーヴンスに突慳貪な態度をとり、それが何週間も続くのは彼女の恋心ゆえ? やられた方はたまったものではないが。
土屋政雄の訳文のうち、ミス・ケントンの役職「housekeeper」を「女中頭」としている事だけが気に入らない。イギリス貴族に仕えた使用人の話なのに、この単語が出た途端に和装のおばちゃんのイメージが浮かんで集中しにくい。イギリスが舞台の小説に日本的要素の訳語は要らない。 -
Posted by ブクログ
ノーベル文学賞受賞記念講演を文庫化したもの。
イシグロ作品、2020年くらいまでに日本語で出版されたものについては全て読んでいるので、作品に関するちょっとした解説のようなものもご本人の口から聴くことができてとてもありがたかった。私なりの作品に対する解釈が大きく外れていないことも嬉しかった。
イシグロ作品はどれも、語り手である主人公が根本的な部分で嘘をついていて、それ分かるとき深淵が顔を出す…という内容なのだけれども、どうしてこのスタイルで小説を描こうと考えたか、ヒントを得た別の作品(音楽や映画など)についても紹介しながら解説されていてとても面白かった。
彼の中での『日本』という国についても言及されていて、5歳からイギリスで暮らしその後何十年も日本に帰らなかったイシグロの中で、彼だけの『日本』という国が作られていった、という話もとても興味深かった。
『遠い山なみの光』『浮世の画家』に描かれる日本はどこか現実離れしている世界のように感じられたのだけど、この世界はイシグロだけのものだったからなんだなと腑に落ちた。
『遠い山なみの光』は、映画でも長崎の風景がどことなく現実離れした絵のように見えた。監督の手腕に驚いた。
翻訳はイシグロ作品『日の名残り』『わたしを離さないで』『忘れられた巨人』を訳された土屋政雄氏。
カズオ・イシグロの世界観を味わえる素晴らしい翻訳だと感じた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ最初の方は読みやすくすらすら読めましたが、途中気が滅入ってしまいました。
特に、リックとヘレン、その昔の恋人とのやり取りは、この物語の中でも特に醜悪なやり取りだったと思います。
クララが純真で愛情深く謙虚なAFであるからこそ、そのやり取りがより醜く見えてしまい、そこから読み進めるのが億劫になってしまいました。
また、その反面、クララのお日さまに対するあまりにも真っすぐな感情には、「そんなことで病気が治るわけがないのに……」という苛立ちのようなものを覚えてしまいました。
なので、最後にジョジーの病気が治ったことにはとても驚きました。ご都合主義的というか、ファンタジーなシーンだと思いましたが、その先の展開は苦みの残るものだったなと思います。
全体を通して、あまり楽しめなかったというのが正直なところですが、特別な何かはそれを愛する人の中にある、というフレーズはとても印象に残りました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ主人公の悦子は記憶の中の佐知子に自分の罪を投影していたのだろうか。それとも佐知子は本当にあんな女だったのだろうか。とにかく佐知子は愚かで嫌な母親のように描かれている。娘の万里子は完全に被害者だ。女の子の唯一の心の支えの子猫を殺してしまうシーンは本当に心が痛んだ。子供のことをよくわかっていて、誰よりも考えているようなことを言うが、結局なにも見えていない。少なくともそのように読者の目には映る。しかしそれは佐知子が本当にそういう人間だったのか、それとも悦子が佐知子を通して自分を責めていたのか、わからないままだ。
なぜ悦子は二郎と離婚し、イギリスへ渡ったのか。なぜ景子は自殺してしまったのか。そのあたりのことは想像するしかないのだが...景子にとっての子猫のような存在を、悦子は殺してしまったのだろうか。