あらすじ
短い旅に出た老執事が、美しい田園風景のなか古き佳き時代を回想する。長年仕えた卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々……。遠い思い出は輝きながら胸のなかで生き続ける。失われゆく伝統的英国を描く英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。
...続きを読む
旅は、人生を思い返すきっかけになったりします。
この物語は、執事であるスティーブンスが、旅の最中に自身の人生を思い返す物語です。
どこまでも完璧な執事であり、どこまでも完璧な執事であろうとするスティーブンス。そんな彼の働き方や生き方を、自分の働き方や生き方と比べて読み進めると面白いと思います。
登場人物が多く、すべての登場人物の名前がカタカナのため、最初は混乱しやすいですが、主要な登場人物は複数回出てきてだんだん人柄をつかめるようになってくるので、とにかく読み進めることをお勧めします。
また、スティーブンスの語りで進んでいくため、文章が丁寧で読みにくく感じるかもしれません。こちらについても、とにかく読み進めてみていくと、次第に慣れて心地よくなっていくと思います。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
カズオイシグロは難解だ、
訳文だからか私の読解力不足だからか読みづらい、
映画にもなってるそうなのでイージーそうなそっちから読めばよかったか?
なんて逡巡を口笛で飛ばす読後感です。
氷河期世代で仕事人間たる私には、重みが残りました。
仕事を選んできた人生に後悔はないか?と問われるとイエスと即答できない。
同じように仕事を選んできたあの人にも、読んで欲しい。
Posted by ブクログ
時代は第二次世界大戦の後,1950年代。
執事スティーブンスは、現在はアメリカ人の主人に仕えているのだが、主人が帰省する間、かつて同僚だった女中頭に会いにいくことになった。かつてかれらは、有力貴族ダーリントン卿に仕えていた。物語は大半は、旅中で想起される戦前の出来事(1920〜30年代くらい)が中心となっている。
ダーリントン卿は、政界にコネを持ち、その屋敷は幾度のなく国際政治上の密会の場となっていた。そして、スティーブンスは主人に心酔していた。彼は、ダーリントン卿がいかに偉いか、ということを何度も回想している。
と同時に、そのように高らかに誇張されることによって、その陰にあった(が実は明らかに見えていたはずの)物事が示唆される。
読んでいくうちに、スティーブンスの回想には自己欺瞞があることを、読者は感じとるはずだ。彼は幾度となく「品格」とは何かという問いを反芻している。だが、彼自身は、ダーリントン卿の親ドイツという負の側面を、見て見ぬ振りをしていたのだ。
彼は記憶を辿っていくうちに、自分でも自己欺瞞に気づき始める。物語の途中で、彼の想起の仕方がいつの間にか変化しているように感じられた。
こういう疑問が出てくる。本当は見て見ぬ振りをしてはいなかったのではないか。すなわち、時間が経って自分の過去の思い出し方が変化してはじめて、見て見ぬ振りをしていたということになった、のではないか。記憶が変化してはじめて、その過去が生まれたのではないか。
物語の終局、スティーブンスが桟橋近くのベンチでバスを待っていたとき、居合わせた老人との会話のなかで、こう告白する。
「卿にお仕えした何十年という間、私は自分が価値あることをしていると信じていただけなのです。自分の意思で過ちをおかしたとさえ言えません。そんな私のどこに品格などがございましょうか?」(350頁)
スティーブンスは海を見て泣く。彼の記憶は変わってしまったのだ。彼はかつての過去を、もう二度と思い出せまい。
Posted by ブクログ
こーれはすごい
まるで実在する執事が滔々と自らの職業人生を語っているかのようで、ノンフィクションの自伝を読んでいるような錯覚に陥りそうになる
確かな構成力に加えて生真面目な執事が時折見せる人間臭さや登場人物の会話など、ここまでのリアリティと緻密さをもって細部まで描き切る著者の筆致の力量に圧倒された
Posted by ブクログ
英国貴族のダーリントン卿と、その名家に仕える執事のスティーブンス、ミスケントンの3人を中心とした物語です。スティーブンスの回想録になっていて全て口語調で書かれています。そのため読みやすく、当時のダーリントン家で行われている会合や執事として働いている情景が鮮明に浮かんでくるため、没入感が素晴らしかったです。とにかく真面目で堅物なスティーブンスの人柄も良い味が出ています。
この物語の最大の魅力としては、3人ともが自らの「人生」と深く向き合っていることです。それぞれが自らの信念のもと進む道を決断・選択しているのですが、上手くいかずに後悔、そして苦悩・・・といったシーンが描かれています。そのため、「もしあのとき違う選択をしていたら・・・」という、もう一つの人生の可能性に関して深く考えさせるような内容となっています。タイトルが「日の名残り」としている点からも、その点が大きな主題になっているのかな?と勝手に推測していますが、そういった点を読者に想像させるような構成が本当に素晴らしいです。
また、フィクションながらも当時の時代背景の細部まで緻密に反映されている点が凄いです。
第一次世界大戦後でドイツに対して弾圧を強めるか、それとも宥和的な政策を取るか英国内や諸外国との間で不和が生じていた政治的な時代背景をもとに、秘密裏の会合で各国の駆け引きしている様子も描かれています。また、英国貴族が没落していった時代背景も表現されていたり、文学作品として見事に昇華されています。ブッカー賞受賞作品はダテじゃないですね。本当に素晴らしい作品でした。
Posted by ブクログ
素晴らしい作品だった。雇主が戦前戦後の欧米各国の思惑に翻弄され失意の中で去る話、女中頭の過去と現在の話。最終的には、執事も前を向いてジョークにまず向き合おうとこの旅を経て思えた事、何もかもが素敵なストーリー。
カズオ・イシグロの本の中で、マイベストです。
Posted by ブクログ
ある屋敷に長年執事として勤めた人物の回想と現在、これからの話。
屋敷の主が亡くなり、スティーブンスは新しい主人の執事となったが、ノリがうまく合わずジョークすらうまくできないと思い悩んでいる。その主人の勧めで小旅行をすることなり、屋敷が全盛を誇った頃に同じ屋敷で働いていた元女中頭のミス・ケントンに会いに行くことになる。
昔の回想と今を行き来しながら、スティーブンスが色々なものを犠牲にして、重きを置いてきた品格とは何だったのかを問う内容になっている。
相手への配慮というか直接的な表現を避ける独特な言い回しで、訳文なのにとてもイギリスっぽさを感じる。
人によって好き嫌いはあるかもしれないが、個人的にはかなり好み。
一日のうちで夕方が一番いいという話も年齢的に刺さる言葉だった。
Posted by ブクログ
5年ぶりくらいに再再読。
冒頭はスティーブンズのモノローグがすっごい「めんどくさ…」って思えてページをめくる手が止まりかけるのですが、それを乗り越えて読みすすめ、終わりまいくと、やっぱり素晴らしい作品だったと感動できました。
Posted by ブクログ
さぁ、どうしよう?
ブッカー賞である
ノーベル文学賞である
お前らみたいなもんは、どうせこの世界的名作は敷居が高いだろうから、読んだ気になるレビューを書いてやろうかと思ってはみたが、外気温が35度を超えているので、ちょっと無理かも
語り手はイギリスの著名人に仕える「執事」のスティーブンス
このスティーブンスが、昔の同僚に会いに行く小旅行の中で、その同僚との思い出なんかを思い出しながら「過去語り」をするというストーリー
まずは控えめな語り口ながら、わたし仕事出来ますよ感を全身から発してきます
はいはい、一流の「執事」なんですね、え?一流じゃなくて超一流?あーそうね、そうですね、超一流の「執事」様ですね
まぁ、正直言ってだいぶ鼻につくスタートですが、話が進むにつれて、ちょっと怪しくなってきます
あれ?こいつ確かに「執事」としては超一流だけど、人としてはだいぶお間抜けなんじゃなかろうか
むしろ大馬鹿野郎で、欠点の多い人間なんじゃなかろうか
そして最終的には、あーこいつあかんわ、ぜんぜん分かってないわ、むしろ恥ずかしいわ
となって行き、小旅行自体も最後にはまあまあ恥ずかしい”やらかし”で幕を閉じます
でもね、この年になって自分の半生を振り返ってみると、まあまあ恥ずかしい”やらかし”で埋め尽くされた人生だったような気もします
誰もそうなんじゃないでしょうか?
『日の名残り』のある夕暮れの中で思い返してみれば、あの時ああしていれば…なんてことばっかりなんじゃないでしょうか
思い返してみれば、涙がこぼれてしまうようなこともたくさんあるんじゃないでしょうか
誰もが実はスティーブンスなのではないでしょうか
だけど、となりには薄汚いハンカチを差し出してくれる人がいて、ちょっと苦笑いさせられたり、新しい出会いや、新しい課題が、ほんのちょっぴり前に進もうとする明るい気持ちにさせてくれたりする
結局それが人生を生きるってことだったりするんじゃないでしょうか
そんなことを感じた書評家三宅香帆さんおすすめの一冊でした
Posted by ブクログ
まだ学生の頃に映画でみて全くピンと来なかったのですが、歳を経て小説を読んだら、読みどころが良く理解できて、素晴らしい小説でした。カズオ・イシグロさんのマイベストです。
英国執事の視点から語られるストーリーは時と場所を超えて英国執事の価値観や深い想いを追体験させてくれます。その中で描かれる淡い恋心。人間の心の尊さを描く感動の小説です。
Posted by ブクログ
三宅香帆さんのYouTubeで、一番好きな作家がカズオ・イシグロと知り、読む順番のおすすめとしてはこの「日の名残り」が一番目ではないんだけど、とりあえず家に積んであったのでこれから読んでみることに。
だって「あの文芸評論家」の三宅さんが一番好きな作家なんて言われたら、読むしかなくない?!笑
YouTubeで三宅さんが言われていた「信頼できない語り手」って何のこと?と思っていたんだけど、これを読んで体感した。
語り手であるイギリスの執事、スティーブンスのバイアスがかかりまくりで話が進み、「偏ってるな〜」とは思いながらも、読者はしっかり中立的に、客観視しながらストーリーを追えるから不思議。
それは「信頼できない語り手」ということを前もって知っていたからなのか?は分からないけど。
そして私は初めからスティーブンスの「品格」に固執する職業的プライドのせいで、「悪い人じゃないけど不器用」な人柄にシンパシーを感じていた。
そしてスティーブンスの言う、全世代は職業をはしごとして捉えていて、自分の世代は歯車として捉えているというところに強い印象を持った。ここを注目して読んでほしい!
最後に私の中で刺さったところのメモ。
「〜“プロ“と言う言葉で何を意味しておられるのか、だいたい見当はついております。それは、虚偽や権謀術数で自分の言い分を押し通す人のことてはありませんか?世界に善や正義が行き渡るのを見たいという高尚な望みより、自分の貪欲や権利から物事の優先順位を決める一人のことではありませんか?」
「私は部屋には死臭があるものと予期していましたが、ミセス・モーティマーのーあるいは、エプロンのーおかげて、部屋には焼肉の香ばしさが立ち込めていました。」
(↑死と焼肉を同じ文に入れ込められるって天才か?!!とびっくり)
「品格」とは
「結局のところ、公衆の面前で衣服を脱ぎ捨てないことに帰着するのではないかと存じます」
「私どものような人間は、何か真に価値のあるもののために微力を尽くそうと願い、それを試みるだけで十分であるような気がいたします。そのような試みに人生の多くを犠牲にする覚悟があり、その覚悟を実施したとすれば、結果はどうであれ、そのこと自体がみずからに誇りと満足を覚えてよい十分な理由となりましょう。」
いやー名作だった。
面白くてすんなり読めました
サー・カズオイシグロの作品を読むのはこれが初めてでしたが、冒頭からすんなり読めて良かったです。
大好きなドラマ「ダウントンアビー」の世界を楽しめました。主人公のドライブ中の描写も以前旅行した時のイギリスの田園風景が目に浮かぶようでした。
どちらかというと主人公より元女中頭のミス・ケントンに感情移入して読後感はどことなく悲しかったですが、他の方のレビューを読むと主人公もミス・ケントンも過去を振り返った上で希望を持って未来に歩み出す物語なのかもと思います。なかなか深い物語です。
人生の黄昏
一部ご紹介します。
・「わしはあんたの言うことが全部理解できているかどうかわからん。
だが、わしに言わせれば、あんたの態度は間違っとるよ。
いいかい、いつも後ろを振り向いていちゃいかんのだ。
後ろばかり向いているから、気が滅入るんだよ。
なんだって?昔ほどうまく仕事ができない?
みんな同じさ。いつか休む時が来るんだよ。
わしを見てごらん。隠退してから、楽しくて仕方がない。
そりゃ、あんたもわしも、必ずしももう若いとは言えんが、それでも前を向き続けなくちゃいかん」
「人生楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ。
みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だって言うよ」
Posted by ブクログ
後悔と過ちの日々。ただその一切はすぎていく。
品格のために執事の服を常に脱がずにいたスーティーブンスが、最後に「自分で決断しなかったこと」を悔いて泣いてるシーンがとても印象的だった。
いままでほぼ全編にわたってスティーブンスの仕事の素晴らしさ、正しさを説かれていた身としては冷や水をかけられる思いだった。
ただ、後悔した先の、過ちを犯した先の日々が目の前にはただ広がる。もし過去に戻ってそこ後悔を解消したところで、自分の望む未来が手に入るなんて確証はない。
「これでよかったんだ」と、ただただ明日に向かって歩いていく事。明日をより良いものにするために、ジョークの勉強をしようと決めるスティーブンスはあまりにもいじらしかった。
Posted by ブクログ
目的がわかりやすく終盤に配置されていて、読み進めるほどに何が起きるのか期待させられてしまう物語だった。はじめ、スティーブンスはたいへん有能な執事かのように見えるのだが、だんだんと信頼できなくなっていく。どうも仕事一辺倒で、他の面が疎かになっているのではないかと。だが全てがスティーブンスの語りゆえに、その疑念が読者に伝わっているのは、だんだんとスティーブンスの自信が揺らいでいることの表れでもあるという構造がおもしろい。
物語終盤、スティーブンスのこれまですべての自信が一気に崩れ落ちてしまう。そこから終わりまでがあまりにも短いのもこの物語の特徴のように思う。だから、「昔ほどうまく仕事ができない?みんな同じさ。いつかは休むときが来るんだよ。」「夕方が一番いい時間」という言葉から晩年の身の振り方を感じ取るのもいいが、終盤までの一連の流れを「後悔のないように生きるためにはどうすればいいのか?」という考察のとっかかりとするのが楽しめるのではないかと個人的には思った。
Posted by ブクログ
主人公に比べるとまだまだ若輩者だけど、過去の自分の行動や選択を振り返って、選ばなかったその先の人生について考えることがある。まぶしく輝くような時間が過ぎ、まばゆさが薄闇に包まれていく時間こそが一番いい時間だと、人生になぞらえながら読んだ。美しい物語だった。
Posted by ブクログ
序盤から執事として勤めてきた過去回想とミスケイトンとの馴れ合いが続く。
物語の後半まではスティーブンスが行なってきた仕事ぶりと、そこで巻き起こる歴史の変革に自分がいる感覚に没頭しているようにも見えた。
この作品が信頼できない語り手の回想だったことを理解し始め、「今までのあのシーンのこういう事だよな!!」と私も解釈しながら読めて面白い。
ラストスパートでは、過去ばかり目を向けてはいけないというメッセージ性が沢山書かれており、自分に言われてるかのようで、前を向こうと思いました。
Posted by ブクログ
古き良きイギリスの原風景が美しく描かれ、映画で触れるくらいしかなかった社交界、執事の世界、その厳しさも垣間見ることができた。
史実との整合性は不明、仄かな恋愛ストーリーはあったものの、執事が昔を懐かしみ、振り返っているだけなのに、退屈せず、なぜこんなに惹き込まれてしまうのか、、、自分でもよくわからなかった。
それにしても、翻訳がうますぎる。。。全く違和感なく、読み進められた。
Posted by ブクログ
この作品は、大きな事件もなく、執事スティーブンスの日常が淡々と描かれていますが、その静けさの中に彼の過去や現在、そしてこれからの人生への深い思索が込められています。
特に最終章では、自らの人生を振り返り、これまでの生き方やこれからの在り方を静かに見つめる姿に強く心を打たれました。
読後、自分自身の人生とも重なり、「これまでの人生は何だったのか」「これからどう生きていくのか」という問いが胸に残りました。
年齢を重ねるほどに、仲間の死や老いに直面し、生きる意味を考える機会が増えます。
ただ日々を過ごすだけでは満たされないもどかしさや、今の現状を変えるにはなにか怖気付いてしまうという思い――この作品はそんな中年期の揺らぎを静かに映し出しています。
若い頃には理解できなかった深い味わいを、今だからこそ感じられる一冊でした。
Posted by ブクログ
主観以外が入り込まない回想形式で書くのが生きる題材、素晴らしい。スティーブンスなんて不器用で愛おしい人なんだろう。彼やその主人を愚かだと思うことはわたしにはできなくて、そのときそのとき信じたものがあって、一生懸命で、それに不正解はないよね。人生取りこぼしてしてしまうものがたくさんあるのは多くの人にとってきっと事実で、ジョークを鍛えようと屋敷に帰ったスティーブンスみたいに今持っているものを大事にできたら良いな。
Posted by ブクログ
面白かった…!
堅苦しい、古風な作品かと思いきや、するすると読めてしまった。
ずっと積読していて、二の足踏んでなかなか読まなかったけれど、久々に手に取ってよかった!
スティーブンスの言い訳のような語り口に、思わずにやっとした。
特に、ミス・ケントンへの思い。
素直になりなよーと何度言いたくなったことか。
スティーブンス、すごく意地悪な言い方しかしないんだもん!
私がミス・ケントンだったら、超嫌いになるところだよ。
でも、ミス・ケントンは、スティーブンスが実は自分に好意を抱いていると気づいていたんだろうな…。
素直になれない小学生のようなスティーブンス…。
ジョークのくだりもいいね!
頭の中ですっごく考えて、ここぞというところで繰り出したのに、シーン…。
いたたまれないよ、スティーブンス!!
そして、やっぱりダーリントン卿のこと。
純粋だったのかな。
人を疑わないというか。
人を信用しちゃうんだね。
最期はとても悲しいものだったけれど、スティーブンスの胸には生き続けるんだね。
人間味溢れる登場人物たちの物語を語ってくれてありがとう、スティーブンス!
Posted by ブクログ
全体的に漢字が難しかった。前半は難しい漢字と名前に苦労したが、後半は一気に読み進めることができた。人に支えるものとしての考え方、苦悩、過去の後悔これを振り返りながら旅をする物語。真面目な主人公が、公私を混合しないように時に無慈悲になる姿が一貫していて素晴らしい。
時代が戦争前ということで、その時の正しいと思われた考え方が戦争後に変わることで否定される残酷さ。主人公が前に支えていた主人の話をもっと聞きたかった感はある。
過去を振り返ってばかりだと憂鬱な気持ちになる。という老人の一言がかなり効いた。
Posted by ブクログ
「こういう後悔することって、あるよな」の連続。
最後、主人公は過去の過ちを悟って涙する。でも、それだけにとどまらず、未来を前向きに生きようともしている。そこに大きな救いがある。
『浮世の画家』と同様に、隠さねばならない過去がある者の悲しさを感じる。
Posted by ブクログ
1956年のイギリス、さらにそこから昔を振り返る、名家に仕えた執事スティーブンスの物語。
舞台が古く、歴史的、政治的な背景もあるために、理解が難しい部分がある。
スティーブンスの執事の仕事への、誠実な姿だけを追いかけていると、頑なな大真面目さに驚かされる。「品格」を携えられる執事になれていたか、常に内省している。
読者はスティーブンスの内情がわかるから、どうしてそんなに自我を犠牲にして…と思ってしまう。だが、自分語りの中の細かい描写を見ていくと、決して自分の心まで殺していたのでは無い、と感じ救われる。
口が固すぎるスティーブンスの口から、優しいジョークが出て来る日が来ますようにと願う。
Posted by ブクログ
後半一気に面白くなるタイプの本。ナチドイツ周辺の歴史的な知識があればもっと面白く読めたかもしれない。信念を突き詰めるのもひとつの素敵な生き方だと思うが、スティーブンスは色々なものを引き換えに差し出しすぎたのだろうと思う。人間臭くてよかった。ストーリー展開の派手な物語ではないので、時々眠くなるけれど、日の名残り、というタイトルがしっくりくる穏やかでノスタルジックな小説だと感じた
Posted by ブクログ
かなり前に読んだものの再読。
前半部分はわりと覚えていたのに、ミスケントンと再会する場面を全く覚えてなかった…。
でもそのお陰で新鮮に楽しく読めました。
当時も思ったけれど、私みたいに歴史的背景や知識がなくても、主人公の執事としての日常や矜持、過去の日常についての独白が続くのに、退屈せずにどんどん読める。
スティーブンスは執事としては忠誠心があって優秀かもしれないけど、遊びがなくて、人に対して不器用で鈍感で空気が読めないところがイラッとしつつ段々と可愛らしく思えてくる。
個人的には言葉遣い一つで登場人物の印象も変わると思っているので、作家さんが書いた言語で読みたいのだけれど、こちらの訳も十分魅力的に描かれていて品があって美しい文章たちでした。
彼が人生の夕暮れにこの旅ができてよかった。
またしばらくして読み返すのもいいかもしれない。
Posted by ブクログ
序盤から中盤にかけて退屈だなあと思いながら読んだ。執事たるものこうあるべきとか御主人のこととかそういうことばかりで。ところが中盤以降、徐々に小さくゆらゆらと燃え上がる何かが起こってくる。ちょっと先が気になってきたという状況がやってくる。最後にその燃え上がる何かが弾けるのかと思いきや、そのままゆらゆらして消えていった。そんなお話でした。あと読んでいて感じたのは、スティーブンスに対して「ええ、それはなあ…」という場面が多かった。もちろんこれは自分が現代の日本で生きているという状況で、かつ執事文化にもイギリス文化にも馴染みがないものにとってはなかなか書かれているもの全体を深く味わうことが難しかった。
でも、最後にケントンはスティーブンスに色々と告白をしたのに、彼の旅の道中たくさん色々と思いを巡らせあそこが分岐点だったなんて語ってたのに、最後まであの態度を変えられなかったことにはがっかりだよ、それも人生といえばそれまでのことなのかもしれないけど。ギャグなんかよりヒューマンドラマを見たまえスティーブンス?
Posted by ブクログ
お堅いお仕事小説
脱線に次ぐ脱線がとても長い…ただ物語をつくりこむ執筆の凄さ、そして前作同様 静かな物語だったのを感じた
今作もイシグロ氏による回想、文学用語の信頼できない語り手 と呼ばれてる物語だった
わたしを離さないで から入った方が多いと思われる、今作物語はこちらも少し悲劇的に描かれてて、雇主だった者の過ち、女中の思いを気づけなかったなどが最後に想いにふけながら終わってく。しかし見知らぬ男との夕刻の話、つまりダーリントン卿との時間は素晴らしいものではあったのだと、イギリスの執事とはこれほどの仕事で素晴らしくあったのだとと思わせるような内容だった
誰にでも一生懸命のとき、じっくり考慮したとしても周りが見えなく選択の判断を悔やむこと一つや二つだってある、しかしというかやはり前を向けば新たな出会い、自分なりの楽しみを見つけられると、そんな想いが伝わってくる日の名残りだった
好きなフレーズ引用
人生が思いどおりいかなかったからと言って 後ろばかり向き 自分を責めてみても それは詮無いことです
私どものような人間は何か真に価値あるもののために微力を尽くそうと願い それを試みるだけで十分であるような気がいたします
Posted by ブクログ
自分の領分において他人との境界含め自分の関与すべき物事を徹底的に分別して、努力次第で自分の掌中に収まる目の前の物事をコツコツと行い、穏やかな生活を維持していくスティーブンス。
自分の範囲を限定するのではなく手を伸ばす意欲を持てば政治においても人間関係においても多くに触れられて自分で舵を切れるという見方もあるかもしれないが、自身の環境はコントロール不能な側面が多いため、知識の補填や強い意志でどうにかなるものではない(3日目夜ハリーの語る品格への疑念)。スティーブンスはあまりに頑固で枠内に収めることに気を取られすぎているので、関与すべき、関与できる範囲を自ら狭めているような気もするが。
ああすればよかった、こうすればよかったの一言で正解の選択肢を振り返って単純に丸つけをできるほど、記憶も含めて人生、世間の流れは明確なものでも操作可能なものでもない。後になって負の側面が目立つようになった選択を信奉し、過ちと後々判断される行為に従事した人たちが善悪で評価され、全ての信念と誇りを一概に否定されるのは酷すぎる。一貫性を好む性質がどこに適応されるかな問題なだけな気もしてくるし(時代によって更新される正解を追求する一貫性or自分が決めたものに寄り添い続ける一貫性)。父の衰え、病に際して情動を抑えて執事としてのあり方を遵守すらのすら、品格という信念、一貫性。
人の人生をとやかく講評すること自体必要ないことだし、必ず発生するそういった野次に反応するのも馬鹿げているけど、何かを信じて自分の身を捧げる覚悟をもって生きてきた。そういう姿勢がそこにあったということを認識して、仄かな灯で照らされた夕方に温かく迎え入れられるような、そんな生でありますように。ジョークのように、丸つけから離れた文脈で色づいた夕景に恵まれますように。
イシグロカズオは回想が鮮明すぎず、不確かなところがそのまんまぼやけた形で描写されているのが好き
歴史わかんない!
Posted by ブクログ
人生の”夕方”になって過去を一度振り返る時期になったら、また読み直したいと思う作品でした。
そして、その時に誇りを持っていられるように今を生きなければならないと感じました。
Posted by ブクログ
ノーベル賞を受賞した、日本とダブルなイギリス人が書いた小説。
年老いた執事が、自分の半生を振り返りながら、旅をし、かつての同僚に出会いに行く話。
本人にとっての執事という仕事に対しての向き合い方はどういったものなのか。それを振り返り、その仕事に真摯に向き合ってきたがゆえに、その他のこと、具体的には、プライベート、恋愛、そうしたものを犠牲にしてきたを少しずつ自覚し、世間的な状況をも自覚する。
ビターなエンド。自分はこういう終わり方は好きだ。
日本語の文章でも非常に美しかったが、これは原文の英語だとさぞ美しい英語なんだろうなと思う。正直、日本語で執事調の喋り方をされると、どうしてもフィクション味がしてしまうのが「偽りの品格」しか見ていなかった影響だなぁ…
Posted by ブクログ
ある御屋敷に長く務めている執事が、ふとしたきっかけで数日の外出を許され、その数日の間に自身の過去を回顧していく物語。
まるでブログを読んでいるかのような感じだった。
主人公は、その回顧の中で、執事に求められる「品格」や、職業観についてエピソードとともに誇りを持った感じで述べられているんだけど、その一方で、ジョークを言うのが下手だったり、自分に恋心を寄せる女中頭を無碍に扱ってしまったりしていて、結末として自分の生き様に後悔して涙を流す場面があるんだけど、きっと「主人に忠臣を誓う執事」としてあり続けることが自分にとってラクな生き方だったし、間違っていない生き方だという自負があったんだと思う。
そういう、一見とてもスマートな紳士の回顧を読んでいる印象だったのだが、読んでいくうちに、実は不器用な生き方しかできなかった一人の男の話なんだなという印象に変わっていった。