あらすじ
短い旅に出た老執事が、美しい田園風景のなか古き佳き時代を回想する。長年仕えた卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々……。遠い思い出は輝きながら胸のなかで生き続ける。失われゆく伝統的英国を描く英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。
...続きを読む
旅は、人生を思い返すきっかけになったりします。
この物語は、執事であるスティーブンスが、旅の最中に自身の人生を思い返す物語です。
どこまでも完璧な執事であり、どこまでも完璧な執事であろうとするスティーブンス。そんな彼の働き方や生き方を、自分の働き方や生き方と比べて読み進めると面白いと思います。
登場人物が多く、すべての登場人物の名前がカタカナのため、最初は混乱しやすいですが、主要な登場人物は複数回出てきてだんだん人柄をつかめるようになってくるので、とにかく読み進めることをお勧めします。
また、スティーブンスの語りで進んでいくため、文章が丁寧で読みにくく感じるかもしれません。こちらについても、とにかく読み進めてみていくと、次第に慣れて心地よくなっていくと思います。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
初めて手にした時には、展開の乏しさに、あえなく挫折。今回、リトライして、完読。引き込まれるには、かなり読み進める必要がある。
時は1956年、舞台はイングランド。執事スティーブンスの6日間の小旅行、そこに15~35年前の出来事の回想がはさまる。
スタイルがやや型にはまりすぎている気もする(執事らしさの演出なのかもしれない)。途中、ドーリントン邸での秘密裏の国際的会合など、どこかモームを思わせるところもある。何度も出てくる執事の品格の議論では、お茶大のあの先生の顔が浮かんでしまった。
解説は丸谷才一。イギリス文学史とイギリスの時代的変化の文脈で本作品を論じている。恋愛小説として読んでしまったが、なるほど、マクロにはこう読むのか。でも、ラストの一文はこれ。「わたしは、男がこんなに哀れ深く泣くイギリス小説を、ほかに読んだことがない」。
Posted by ブクログ
めっちゃ面白かった。一気に読んでしまった。
三宅かほさんがYouTubeで言っていた、「カズオイシグロは時代に取り残された人の小説(ニュアンス)」の意味が分かった。
言ってしまえば何も起こらない小説。
翻訳が素晴らしかった。
Posted by ブクログ
先日読んだ『わたしを離さないで』から2冊目のカズオイシグロ。免疫(?)がついた状態だったので語り手をかなり疑いながら読んでいました笑
スティーブンスの自己イメージは完璧主義なプロフェッショナルなんだと思うけど、それとは裏腹に人間らしいところが垣間見れてなかなか愛おしいおじさんだった…ミス・ケントン惹かれていたらしい(スティーブンスの独白によるとだけど)のも理解できるかな。
ラストのシーンは閉鎖的だった空間がひらけてふっと風が通り抜けるような感覚があり、かわいそうとも尊いとも笑いともつかない、色々な感情がないまぜになり泣けてしまった。
イギリスとナチスドイツの関係やスエズ危機など、歴史に疎いので文脈がわかってないところがありそう。少しお勉強しないと…
他のイシグロ作品も引き続き読んでみたい。
Posted by ブクログ
終始穏やかで、優しくて、温かい小説。執事・スティーブンスが語るダーリントン・ホールでの出来事や旅先の田園風景から、イギリスの歴史や魅力がじんわりと心に伝わってくる。
ミス・ケントンの「言いたいことはきっぱりと言う」キャラクターや、執事業一筋なスティーブンスとの凹凸感が微笑ましい。特に、2人が小競り合い的に会話を交わすシーンでは、互いの丁寧な口調の中にイギリス仕込みの皮肉が詰まっていて堪らない。また、世間での評価が芳しくないダーリントン卿に対し、一途に敬慕の念を抱き続けてきたスティーブンスに感じる哀愁は、何とも筆舌に尽くし難い。
Posted by ブクログ
映画公開時に、映画を見て小説も読んだんだけどまったく理解してなかった、と思う。
カズオ・イシグロのノーベル賞受賞(受賞から数年経っちゃってるけど)でちゃんと読んでみることにした。
1956年、オックスフォードの由緒正しいお屋敷ダーリントンホールに勤める初老の執事スティーブンスは、今のご主人ファラディ氏の休暇に伴い小旅行を計画した。ダーリントンホールは以前は名門貴族ダーリントン卿の持ち物だったが、卿の死後アメリカ人富豪ファラディ氏が屋敷を買い取り、スティーブンスはそのまま新しいご主人に仕えている。政財界に携わり世界の情勢に影響力を持つイギリス人貴族と、戦後の自由なアメリカ人。ご主人の違いにも悩む。それより一番の悩みは使用人の未経験や不足によりお屋敷のご奉仕が行き届かなくなっていることだ。
スティーブンスには一つの解決方法を望んでいた。20年以上前にお屋敷を結婚退職した女中頭のミス・ケントン(結婚後はミセス・ベン)に復帰してもらうことはできないだろうか?ミス・ケントンとはたまに交わす便りだけの仲だ。そしてスティーブンスは最近受け取った手紙に、彼女が人生に悩んでいること、ダーリントンホールにいた頃を懐かしむ気持ちを読み取っていた。そこで彼女の住む西岸の町クリーヴトンに行ってみることにしたのだ。
…というのは建前、どうやらスティーブンスはミス・ケントンと自分の間に別の関係が成り立つことができたのではないかと考えているっぽい。
この小説は、ミスター・スティーブンスが読者に向かって語るという一人称形式。1956年の小旅行、第二次世界大戦前後のダーリントン卿につかえていた頃のこと、現在のファラディ氏とのこと、そして長年悩み続けている、執事に必要なもの、特に『品格」とはどのように身につけることができるのか。
一人称なので『このような状況になり、私はこのように発言したけれど、それを言うに至った心境や本心はこのようなものなんです」という本音と建前のようなものも見える。そしてさらに読者には、その奥の彼の本心も見え隠れしてくる。…要するに彼が語ることは表面的で取り繕ってる感じなんです。
彼はいかにもみんなが思い浮かべる執事で、自分の考えは表に出さず御主人様の考えに従い、屋敷の隅々の細かいところまで目を光らせ、言葉や立ち居振る舞いは慇懃で、常に完璧を目指し、ご主人やお客様が何を望んでいるかを瞬時に悟り意に沿うサービスを提供する。ご主人やその客には最大限の敬意とおもてなしを行い、他の従業員には厳しくも適度な距離を保って接する。「あなたの未熟さが…」とか言うけれども人格否定ではなくて自分と同格の人間と認めたうえで言っている感じではあるんだけど、私にはお屋敷努めは務まらんなあ(^_^;)
二つの世界大戦を通して時代が変わっていく渦中のため、登場人物たちの国の運営に関する考え方の違いも見えます。
民主主義とは言え何も知らない素人は政治に口出ししない方が良い。
知的階級だけが国を動かす立場に就くべき。
それぞれのものが自分のふさわしい立場や役割を保ちそこから出るべきでない。
身分に関わらず『品格」は持てるのだから、全員が意見を持つのだ。
それらは、かつてダーリントン卿のもとで見聞きしたもの、1956年現在の旅で新たな意見に出会ったものたちだ。
長年仕え続けたダーリントン卿は、紳士としては完璧で、自分たち上流階級が国を導く気持ちが強い。スティーブンスは卿に使えることにより、世界を揺るがす決定に自分たちのサービスが影響していることを感じていた。しかし第一次世界大戦後のドイツの困窮に心を悩ませたダーリントン卿は、第二次世界大戦前後ではナチスとの繋がりを囁かれてしまい、晩年と死後はその名誉を失っていた。
現在のご主人はファラディ氏は執事にもアメリカ人らしきジョークを投げかけてくる。スティーブンスはファラディ様は自分がジョークを返すことを期待されているのではないか?と考えるて精一杯のジョークを返したつもり、なのだが相手からは『え?なんだって?」とジョークと認識してもらえない…このジョークに関してのやり取りは『おっさん、慣れないことは無理すんな」と言いたくなる(^_^;)
この『スティーブンスが実際に言ったりやったりしたこと、そのためにスティーブンスが考えたこと、それを読んで読者が考えること」の構造が一番見えるのはやっぱりミス・ケントンとのこと。スティーブンスが実際に行ったりやったりしたことは礼儀を保った仕事だけの関係、そのために考えたことは『ドアを開けるべきかと思ったのだが」など巻kネイが変わるかもしれない機会は何度もあったこと、読者はその奥に『ロマンスを感じてるの?」と見る。でもさー、親族が亡くなった相手に向かって『お悔やみを伝えるべきかと思ったが」実際にやったのは仕事が行き届いていない小言や、相手を愚かな未熟者扱いだもんなあ…。
そしてスティーブンスが仕事上で悩むのは『品格」のこと。ダーリントン卿に仕えていたころ、少しはそれを身につけた時があったと思う。だがその後は?そして自分が思っているものが本当に『品格」なのか?そして今の現在はそのような『品格」は必要なのか?それはミス・ケントンと再会して言葉をかわした後にさらに悩む。
終盤、スティーブンスは一人で考える。自分には品格などなかったのではないか、過ぎ去った日々に取り残してしまったものはあまりにも多かったのではないか。
小説ではずっと『スティーブンスが語ることは表面的で、その向こう側に本心があるはずだ」と見えていたんだけど、最後の悔恨は深刻なんだけども取り繕った感じのない清々しさがあった。
そしてたまたま言葉をかわした男の『一日の家で夕方が一番いい」という言葉に目が覚めた思いを持つ。自分は老いた。かつてのような伝統に基づいた完璧なご奉仕はできない。しかし時代が変わった今、ファラディ氏には新たにご主人と執事の関係が築けるのだ。例えばファラディ様のお気に召すジョークだって、自分はこれから取り入れる事ができる。
自分は老いて、かつての古き良きものも失われつつある。だが人生は夕方こそ一番良いのだろう。
いやーー、一人称のためにスティーブンスの取り繕ったような自分中心なところが読みながらスッキリしない、彼の言う事の向こう側を考えちゃっていたんだが、終盤ですっきり!
人に語るという形式ながらも対外的に作った感じだったスティーブンスが、彼の奥深くの悩みを受け入れて、読み心地が爽やかだ。彼の「品格」は、世界を変えるその場にいてわずかながらに役割を果たしたってことではなくて、自分自身の悩みに向かい合って前に進むことに決めたということだと思う!
Posted by ブクログ
途中まで、いや、6割読むまで!何が面白いんだろう。ここから何が起こるんだろうと考えながら読んでいましたが、最後まで何も起こりませんでした。
ネタバレとなりますが、この、「信頼できない語り手」の無意識のバイアスを上手に表現していて、読後は、スティーブンへ思いを馳せ、作者の技巧に感嘆することになると思います。
興味があれば!ぜひ!
Posted by ブクログ
品格とは何かを問う素晴らしい小説。
主人公のスティーブンスは偉大なる執事として、感情を排した献身こそが品格であると信じ生きてきた。
しかし、幾つかの出来事が示す様に、その信念によって自らの人生を縛り、結果として取り返しのつかない後悔を生んでいった。
では彼は自らの心に誠実でなかったから、品格がなかったのか?そうは思えない。
もしここで彼が過去を否定し、失敗を他人のせいにし、感情を受け入れていなければ品格のない人間に成り下がっていたのかもしれない。
しかし、彼は旅の中で、自らの後悔を受け入れ、人生を投げ出さず、執事として生き続けることを選んだ。
自らが生きてきた人生に向き合い、後悔を受け入れ、責任を持ってそれでも未来へ歩いていった。
この姿勢こそが、この作品の示す人として本当の「品格」であるのだと感じた。
Posted by ブクログ
訳者が相当に技量のある人なのだと思う。特に感嘆詞などは、一体これに該当する英語は何になるのだろうと想像しても全く思い浮かばないが、不自然に思う瞬間や違和感を感じる瞬間は全くなかった。物語を楽しめた。
一方、訳者の技量に頼らず生の英語によってダイレクトに本書を読みたいという気持ちも芽生えた。日本語でこんなに心地よく読めたなら、英語ならどれだけ素晴らしいか、、。
次は英語で読むべきだろう。
Posted by ブクログ
『正しい人生』などというものがこの世にあるのだろうか?そんなことは誰にも分からない。
それゆえに、人生を捧げて全力を尽くした「何か」が、今思えば間違っていたということもあるだろう。
でも、それでいいのかもしれない。
燦然と輝いた太陽が沈む頃、『日の名残』とも言うべき光もまた美しいものなのだ。
Posted by ブクログ
執事という職業自体が私にとっては、外国文学の中でしか触れることのない職業で、執事がどんなものかは作品の中で想像するしかないが、このお話の主人公は第二次世界大戦前から大戦後までをイギリスの貴族のお屋敷で働いていた1人の執事。初めは、世界大戦中の、貴族や国の重要人物のお話だったら、もっと面白そうなのに、なんで、執事のお話なんだろう?と思って読んでいた。主人のダーリントン卿が出会う国の中枢の人物たちとの話が漏れ聞こえてきて、執事は、ダーリントン卿がいかに立派な考えを持っているかということを説明していく。でも、何せ、漏れ聞こえてくる情報だけしか私たちには知らされないから、なんだか、曖昧でもやがかかってる感じ。
それが、本当の本当にラストになって、「このお話の言いたかったことは、これだったんだ!」と私は気づいた。執事のスティーブンスは、ミスケントンの想いに気づかない鈍感さだったけれど、私も同じで、最後の最後になって、やっと、わかった。
夕方がいちばんいい時間なんだ。足を伸ばして、のんびりするのさ。
Posted by ブクログ
福大病院図書室で借りる。久々感動の本。何がよいのか?スッと言葉が出ない。が、読みながら残りページ(紙の厚さ)が少なくなっていくのが残念になるという初めての経験をした。まだ終わってほしくない、まだ読み続けたいと。主人公が「品格」にとてもこだわりがあり自分も「品格」ある行動をせねばと思うようになった。
Posted by ブクログ
途中までよくわからなかったが、最後の方になってどういう話だったのかわかる気がした。
スティーブンスが首相、外相、駐英ドイツ大使リッベントロップの会談をうまく凌いで幸福感を感じるが、その20年後に分かった女中頭の自分への恋慕の情がそれをふいにしてしまった。スティーブンスは鈍感すぎた。僕も読んでる最中全く気が付かなかったから鈍感なのかなと思った(笑)
解説を読んで分かった気になったが、自分でわからなかったのが悔しい。また読みたい。
面白くてすんなり読めました
サー・カズオイシグロの作品を読むのはこれが初めてでしたが、冒頭からすんなり読めて良かったです。
大好きなドラマ「ダウントンアビー」の世界を楽しめました。主人公のドライブ中の描写も以前旅行した時のイギリスの田園風景が目に浮かぶようでした。
どちらかというと主人公より元女中頭のミス・ケントンに感情移入して読後感はどことなく悲しかったですが、他の方のレビューを読むと主人公もミス・ケントンも過去を振り返った上で希望を持って未来に歩み出す物語なのかもと思います。なかなか深い物語です。
人生の黄昏
一部ご紹介します。
・「わしはあんたの言うことが全部理解できているかどうかわからん。
だが、わしに言わせれば、あんたの態度は間違っとるよ。
いいかい、いつも後ろを振り向いていちゃいかんのだ。
後ろばかり向いているから、気が滅入るんだよ。
なんだって?昔ほどうまく仕事ができない?
みんな同じさ。いつか休む時が来るんだよ。
わしを見てごらん。隠退してから、楽しくて仕方がない。
そりゃ、あんたもわしも、必ずしももう若いとは言えんが、それでも前を向き続けなくちゃいかん」
「人生楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ。
みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だって言うよ」
Posted by ブクログ
内省的で抑制された文章、よく考えられたプロット。
イギリスを舞台とした日本の私小説のようでいて、
それでいて英国精神がに根底に流れる本。
日本の作家でいえば村上春樹氏と近いのかもしれないが
イシグロの方が剛直か。
Posted by ブクログ
めちゃくちゃ真面目な執事が暇を貰い、思い出を回想。そしてあとでその回想に出てきた仕事で共にした女中頭と再会。
恋とかそういうのには、結局生真面目なので発展しない。だが、そこがいい。
そしておじさんとの会話で新たな気付きを得る。ジョークを覚えようか…と次なる道へと進む。
3日目の夜から一気に物語が変わる印象。
大変良い教訓を得たと思います。
また歳をとってから読み返したい。
Posted by ブクログ
イシグロ文学は難しい1冊で貴族社会の執事における品格をテーマに描かれている。ダーリントンホール、ファラデー、ミスケントン、ソールズベリー、ミスターグレアム、ミスタースティーブンス、デュポン、ウェークフィールド、リンゼイ、カーディナル、大尖塔と伝統的な英国はわかりにくい。どこが大きな感動を呼ぶのか自分なりに考えてみたい。
Posted by ブクログ
アンソニー・ホプキンス主演の実写映画を鑑賞後、早速読んでみました。
英国貴族ダーリントン卿が住んでいた荘厳な邸宅は、今はアメリカ人の手に渡っていた。ダーリントン卿に何十年と仕えていた執事スティーブンスはお屋敷に残ったものの、当時のスタッフ達は離れていき人手不足に困り果てている。
そんな折、当時女中頭を務めていて結婚を機に屋敷を離れた元同僚ミス・ケントンからダーリントンホールでの日々が懐かしいと郷愁を滲ませる内容の手紙が届く。
ミス・ケントンがお屋敷に戻ってきてくれるのではという期待を込めて、スティーブンスは彼女に会いに行くことを決めたその道中、素晴らしい故郷の風景に目の当たりにしながら、これまでの自らの執事人生を振り返るという内容。
「信頼できない語り部」という手法がとられていて、執事のスティーブンスが語り部として綴る内容は、"本心"が見えない。
建前や理由を付けて、胸の内を悟られないように語るので、読み手が能動的に、スティーブンスを探りながら読む事になる。
第一次世界大戦後過重な負担を強いられる敗戦国ドイツに肩入れするダーリントン卿が次第に反ユダヤ主義とも言われるようになってしまう様を、執事として「品格」「信頼」「忠誠心」を重んじるスティーブンスは黙って見ている事になる。
更に、十数年共にした女中頭ミス・ケントンにさえ一切明かさない胸中は、スティーブンスに「あなた自身の人生は?」と問いたくなる。
終盤ポロっと出る本心とも取れる少ない言葉は、なんとも物哀しい。
感銘を受けたのが、土屋政雄さんの"日本語訳"。
語り部である執事が重んじている"品格"を一切崩す事のない美しい翻訳で、言葉を知るには本が一番というのがよく分かります。
Posted by ブクログ
スティーブンスの鈍さが最後まで一貫していたのが良かった。確かに彼は卿の判断を信じただけの受動的な人間だが、それについて思索を巡らせることができる時点で立派な人物だと思った。
Posted by ブクログ
おじさんの虚無。
読んでいる途中、激しい感情の起伏は起こらないけれど、執事さんの脳内トークの言い訳に味があって、だんだんと面白くなってくる。
そして、しみじみとする。
品とノスタルジアの小説。
仕事ばかりしてプライベートを台無しにする日本のおじさんに(おばさんにも)お勧めする。
Posted by ブクログ
後悔と過ちの日々。ただその一切はすぎていく。
品格のために執事の服を常に脱がずにいたスーティーブンスが、最後に「自分で決断しなかったこと」を悔いて泣いてるシーンがとても印象的だった。
いままでほぼ全編にわたってスティーブンスの仕事の素晴らしさ、正しさを説かれていた身としては冷や水をかけられる思いだった。
ただ、後悔した先の、過ちを犯した先の日々が目の前にはただ広がる。もし過去に戻ってそこ後悔を解消したところで、自分の望む未来が手に入るなんて確証はない。
「これでよかったんだ」と、ただただ明日に向かって歩いていく事。明日をより良いものにするために、ジョークの勉強をしようと決めるスティーブンスはあまりにもいじらしかった。
Posted by ブクログ
目的がわかりやすく終盤に配置されていて、読み進めるほどに何が起きるのか期待させられてしまう物語だった。はじめ、スティーブンスはたいへん有能な執事かのように見えるのだが、だんだんと信頼できなくなっていく。どうも仕事一辺倒で、他の面が疎かになっているのではないかと。だが全てがスティーブンスの語りゆえに、その疑念が読者に伝わっているのは、だんだんとスティーブンスの自信が揺らいでいることの表れでもあるという構造がおもしろい。
物語終盤、スティーブンスのこれまですべての自信が一気に崩れ落ちてしまう。そこから終わりまでがあまりにも短いのもこの物語の特徴のように思う。だから、「昔ほどうまく仕事ができない?みんな同じさ。いつかは休むときが来るんだよ。」「夕方が一番いい時間」という言葉から晩年の身の振り方を感じ取るのもいいが、終盤までの一連の流れを「後悔のないように生きるためにはどうすればいいのか?」という考察のとっかかりとするのが楽しめるのではないかと個人的には思った。
Posted by ブクログ
執事の回顧によるダウントン・アビー ダウントン・アビーに出てくるようなお屋敷に仕える執事の物語。最初の方は、堅くて面白くなさそうな文体だな、と思ってたけど、車での旅に出るとイギリスの自然や緑が広がる風景と執事の回顧から見えてくるお屋敷の豪奢な作りやその佇まいがとってもステキな情景として見えてくる。古き時代の輝かしい公爵、伯爵たちがいた頃の、まさにこれがイギリス!
Posted by ブクログ
まず読み終わって感じたことは、読みやすかったと言うこと。外国の翻訳された本が苦手な私でも楽に読めた。日本の本でも同じなのだが、その国の人ならある程度分かる事でも、他国の人には分かり難い事がある。その国の歴史、文化、地理的な事とか。例え注釈があっても、その注釈を見ながら読むと話の流れが途切れ途切れになり話に入り込めない。この点、この小説は分からない事は分からないなりに読んでいっても話に入り込めた。これは作者、翻訳者の力量もさることながら、この小説が「昔ながらの品格ある執事」の1人称の語りという形をとっているからだろうと思う。この語りで、話の内容も雰囲気も分かりやすくなっていると思う。「昔からの由緒ある、高貴で、品位も教養も騎士道精神も持ち合わせている貴族」が行う政治、外交なども、なんとなくこんな感じなんだろうなと思わせる。現在の我々からみたら、時代遅れで、傲慢に思える考え方も、この当時の英国の貴族達にしてみれば当然の事なのかもしれない。結局この考え方が通じなくなり、最後には多くの人々によって厳しく糾弾されるのだが、主人公の「執事」スティーブンスが仕えていたダーリントン卿も、最後には自分が間違えていたことを認め悔いている。「品格ある誠実な執事」であるスティーブンスは仕事に忠実であるため、ただただ「お仕えしている」ダーリントン卿を敬慕し、信頼し、その思想その行動に批判を挟めなかった。その機会があったにもかかわらず。また、仕事に忠実であることで、ひょっとしたら心を通じ会え、一生を共に歩んでいける女性とも結局心を閉じ心ならずも離れてしまう事になった。
歳を取り仕事に些細な失敗が重なり、人材不足解消にと、かつて共に働いていた女性と話をするために、新しい雇主から頂いた休暇を利用して出た旅。その旅で、過去を振り返る主人公。結局、自分は何をしてきたのかと問い、ただ信じただけ、選ぶ事すらしなかった。過ちを犯したとすら言えないと嘆く主人公。最後の最後に知ってしまった自分の愚かさ。でも、
最後に出会った行きずりの男の言葉。
「そりゃ、あんたもわしも必ずしも若いとは言えんが、それでも前を向きつづけなくちゃならん」そして、「人生楽しまなくちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ·····」
その言葉がいい!
なんとなく、ほっとした気持ちになった。
Posted by ブクログ
カズオ・イシグロはディストピア小説しか読んだことがなかったので、これもあらすじを見ずにSFだと思って読み始めた。
主人公が普通の人間か、中盤まで疑いながら読んでしまった笑
Posted by ブクログ
私が未熟だからなのか、イギリスの歴史に無知だからなのか、感動できずに終わってしまった。
自分の仕事に誇りを持つことと、作り上げた考え方に固執すること、そのバランスが難しい。
そして執事の文化がわからないけれど、主人に忠誠を誓いどんな要望にも従うのか、時には主人よりも賢く主人の道を正す方が良いのか、そのあたりがものすごく難しい世界だと思った。
もっと歳を重ねたら共感できるようになるのか。。。
今の所女中頭のスティーブンスへのもどかしさが1番共感できるポイントだった。
Posted by ブクログ
カズオ・イシグロ氏の著書を一度読んでみたいと選んだ一冊
主人に忠実に仕える老執事の回想は頑なで陰鬱‥
人生の夕暮れに半生を振り返り、これからどう生きるか?ということを考えさせられた
Posted by ブクログ
これぞカズオ・イシグロ!という名作。
英国の美しい情景や伝統を描きながら、人間ってこうだよね…というリアルが詰め込まれている。
英国の執事の一人称視点で物語が描かれる。
人生をかけて仕えた主人への尊敬や、世間からの評判への後ろめたさ、後悔、恥辱、仕事への誇り、不器用な恋愛等、主人公の中で色んな感情がごちゃ混ぜになった結果、自分に不都合な事実や出来事に蓋をして、自分に都合の悪い部分を隠した主人公の語りが続く。
そのため、話の核心にもやが掛かったような進行に気持ち悪いなあと思うのだが、これが人間のリアルだよね、ということなのだろう。
日本にはない執事の文化が興味深かった。
Posted by ブクログ
「クララとお日さま」を読んで著者の別作品に興味が湧き、英国最高の文学賞ブッカー賞を受賞作と知り、期待して読み始めましたが、取り立てて特別の感動を感じませんでした。
英国の品格ある執事としての理想を追求する主人公スティーブンス、女中頭として同じ館で働き始めたミス·ケントン、主人公に思いを募らせるケントンと執事としての役目に没頭してその思いに気づかないスティーブンスとの切ないやり取り。
ダーリントン卿に絶対の信頼感を抱き、その高潔な人格を持つ主人に仕えることこそ執事の本望であると仕えるも、敗戦国ドイツと祖国イギリスの間を取り持とうと卿が奔走するも人々から中傷を浴び、また、自分の過ちもあったことを吐露するダーリントン卿。
ダーリントン卿が亡くなり、館を買われた新しい主人から休みを貰い、結婚で辞めたケントンからの手紙でもう一度働かないかと打診する為にケントンと会いに旅に出るスティーブンス、再会したケントンから昔の思いを聞くも哀しく別れたスティーブンスが公園の夕日、日の名残りを眺めながら過去を追想するシーンは印象的でした。
ただ、執事の品格や民主主義ではなく高貴な貴族こそが国を導くという考えはいかにも昔のイギリスであり、本作の歴史的背景であるその記述に厚みや心の震えは起きませんでした。ブッカー賞の受賞理由のひとつはそこにあるのでしょうか?