【感想・ネタバレ】日の名残りのレビュー

あらすじ

短い旅に出た老執事が、美しい田園風景のなか古き佳き時代を回想する。長年仕えた卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々……。遠い思い出は輝きながら胸のなかで生き続ける。失われゆく伝統的英国を描く英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。

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旅は、人生を思い返すきっかけになったりします。
この物語は、執事であるスティーブンスが、旅の最中に自身の人生を思い返す物語です。
どこまでも完璧な執事であり、どこまでも完璧な執事であろうとするスティーブンス。そんな彼の働き方や生き方を、自分の働き方や生き方と比べて読み進めると面白いと思います。
登場人物が多く、すべての登場人物の名前がカタカナのため、最初は混乱しやすいですが、主要な登場人物は複数回出てきてだんだん人柄をつかめるようになってくるので、とにかく読み進めることをお勧めします。
また、スティーブンスの語りで進んでいくため、文章が丁寧で読みにくく感じるかもしれません。こちらについても、とにかく読み進めてみていくと、次第に慣れて心地よくなっていくと思います。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

 時代は第二次世界大戦の後,1950年代。
 執事スティーブンスは、現在はアメリカ人の主人に仕えているのだが、主人が帰省する間、かつて同僚だった女中頭に会いにいくことになった。かつてかれらは、有力貴族ダーリントン卿に仕えていた。物語は大半は、旅中で想起される戦前の出来事(1920〜30年代くらい)が中心となっている。
 ダーリントン卿は、政界にコネを持ち、その屋敷は幾度のなく国際政治上の密会の場となっていた。そして、スティーブンスは主人に心酔していた。彼は、ダーリントン卿がいかに偉いか、ということを何度も回想している。
 と同時に、そのように高らかに誇張されることによって、その陰にあった(が実は明らかに見えていたはずの)物事が示唆される。
 読んでいくうちに、スティーブンスの回想には自己欺瞞があることを、読者は感じとるはずだ。彼は幾度となく「品格」とは何かという問いを反芻している。だが、彼自身は、ダーリントン卿の親ドイツという負の側面を、見て見ぬ振りをしていたのだ。
 彼は記憶を辿っていくうちに、自分でも自己欺瞞に気づき始める。物語の途中で、彼の想起の仕方がいつの間にか変化しているように感じられた。
 こういう疑問が出てくる。本当は見て見ぬ振りをしてはいなかったのではないか。すなわち、時間が経って自分の過去の思い出し方が変化してはじめて、見て見ぬ振りをしていたということになった、のではないか。記憶が変化してはじめて、その過去が生まれたのではないか。
 物語の終局、スティーブンスが桟橋近くのベンチでバスを待っていたとき、居合わせた老人との会話のなかで、こう告白する。
 「卿にお仕えした何十年という間、私は自分が価値あることをしていると信じていただけなのです。自分の意思で過ちをおかしたとさえ言えません。そんな私のどこに品格などがございましょうか?」(350頁)
 スティーブンスは海を見て泣く。彼の記憶は変わってしまったのだ。彼はかつての過去を、もう二度と思い出せまい。

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2025年11月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ある屋敷に長年執事として勤めた人物の回想と現在、これからの話。

屋敷の主が亡くなり、スティーブンスは新しい主人の執事となったが、ノリがうまく合わずジョークすらうまくできないと思い悩んでいる。その主人の勧めで小旅行をすることなり、屋敷が全盛を誇った頃に同じ屋敷で働いていた元女中頭のミス・ケントンに会いに行くことになる。

昔の回想と今を行き来しながら、スティーブンスが色々なものを犠牲にして、重きを置いてきた品格とは何だったのかを問う内容になっている。

相手への配慮というか直接的な表現を避ける独特な言い回しで、訳文なのにとてもイギリスっぽさを感じる。
人によって好き嫌いはあるかもしれないが、個人的にはかなり好み。
一日のうちで夕方が一番いいという話も年齢的に刺さる言葉だった。

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2025年09月08日

mac

ネタバレ 購入済み

人生の黄昏

一部ご紹介します。
・「わしはあんたの言うことが全部理解できているかどうかわからん。
だが、わしに言わせれば、あんたの態度は間違っとるよ。
いいかい、いつも後ろを振り向いていちゃいかんのだ。
後ろばかり向いているから、気が滅入るんだよ。
なんだって?昔ほどうまく仕事ができない?
みんな同じさ。いつか休む時が来るんだよ。
わしを見てごらん。隠退してから、楽しくて仕方がない。
そりゃ、あんたもわしも、必ずしももう若いとは言えんが、それでも前を向き続けなくちゃいかん」
「人生楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ。
みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だって言うよ」

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2022年09月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

後悔と過ちの日々。ただその一切はすぎていく。

品格のために執事の服を常に脱がずにいたスーティーブンスが、最後に「自分で決断しなかったこと」を悔いて泣いてるシーンがとても印象的だった。
いままでほぼ全編にわたってスティーブンスの仕事の素晴らしさ、正しさを説かれていた身としては冷や水をかけられる思いだった。

ただ、後悔した先の、過ちを犯した先の日々が目の前にはただ広がる。もし過去に戻ってそこ後悔を解消したところで、自分の望む未来が手に入るなんて確証はない。

「これでよかったんだ」と、ただただ明日に向かって歩いていく事。明日をより良いものにするために、ジョークの勉強をしようと決めるスティーブンスはあまりにもいじらしかった。

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2025年11月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

目的がわかりやすく終盤に配置されていて、読み進めるほどに何が起きるのか期待させられてしまう物語だった。はじめ、スティーブンスはたいへん有能な執事かのように見えるのだが、だんだんと信頼できなくなっていく。どうも仕事一辺倒で、他の面が疎かになっているのではないかと。だが全てがスティーブンスの語りゆえに、その疑念が読者に伝わっているのは、だんだんとスティーブンスの自信が揺らいでいることの表れでもあるという構造がおもしろい。

物語終盤、スティーブンスのこれまですべての自信が一気に崩れ落ちてしまう。そこから終わりまでがあまりにも短いのもこの物語の特徴のように思う。だから、「昔ほどうまく仕事ができない?みんな同じさ。いつかは休むときが来るんだよ。」「夕方が一番いい時間」という言葉から晩年の身の振り方を感じ取るのもいいが、終盤までの一連の流れを「後悔のないように生きるためにはどうすればいいのか?」という考察のとっかかりとするのが楽しめるのではないかと個人的には思った。

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2025年11月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

主観以外が入り込まない回想形式で書くのが生きる題材、素晴らしい。スティーブンスなんて不器用で愛おしい人なんだろう。彼やその主人を愚かだと思うことはわたしにはできなくて、そのときそのとき信じたものがあって、一生懸命で、それに不正解はないよね。人生取りこぼしてしてしまうものがたくさんあるのは多くの人にとってきっと事実で、ジョークを鍛えようと屋敷に帰ったスティーブンスみたいに今持っているものを大事にできたら良いな。

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2025年09月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

面白かった…!
堅苦しい、古風な作品かと思いきや、するすると読めてしまった。
ずっと積読していて、二の足踏んでなかなか読まなかったけれど、久々に手に取ってよかった!

スティーブンスの言い訳のような語り口に、思わずにやっとした。
特に、ミス・ケントンへの思い。
素直になりなよーと何度言いたくなったことか。
スティーブンス、すごく意地悪な言い方しかしないんだもん!
私がミス・ケントンだったら、超嫌いになるところだよ。
でも、ミス・ケントンは、スティーブンスが実は自分に好意を抱いていると気づいていたんだろうな…。
素直になれない小学生のようなスティーブンス…。

ジョークのくだりもいいね!
頭の中ですっごく考えて、ここぞというところで繰り出したのに、シーン…。
いたたまれないよ、スティーブンス!!

そして、やっぱりダーリントン卿のこと。
純粋だったのかな。
人を疑わないというか。
人を信用しちゃうんだね。
最期はとても悲しいものだったけれど、スティーブンスの胸には生き続けるんだね。

人間味溢れる登場人物たちの物語を語ってくれてありがとう、スティーブンス!

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2025年09月14日

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