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Posted by ブクログ
自分が大事にしていると"思っている"価値観も、他者との関係性の中で定義されるキャラクターも、確立されているように見えて根底には大きな揺らぎを抱えている。
一度は軽薄とか、奔放とか、協調性に欠ける、なんて他者のことをジャッジしたかと思えば、気づくと自分がそちら側にいたり。そもそもそのジャッジ自体がどうだったのかと自分に問えるようになるのは、自分自身がそのジャッジに散々苦しんだあとだったり。
悦子とさちこの会話がとても印象的で、個人的にさちこのセリフに心がチクリと痛んだ。自分の子育てや選択を誰かに責められないように予防線を張ったり、相手に伝えているようで自分に言い聞かせているかのような内容で、母親として共感もした。
Posted by ブクログ
この静かなざわざわした気持ちは、カズオイシグロを読んだからだ。解説を読んで、ああ、それ、私もそう思った、と納得。古い考え方をしていた悦子に、何が起こって離婚、イギリス行きを実行させたのか、気になる。余白の部分や噛み合わない会話(私たちもいつもしている。会話しているようで、自分のことしか言ってない、あれを会話と呼ぶのなら。ある意味、セリフのような)の雰囲気が、読んでいる自分をじわじわとり囲み出すような。カズオイシグロを読むと、誠実に生きよう、と思う。頭空っぽにして時代の雰囲気に流されるのではなく。でもそれができてないから、読むたびに後悔を繰り返すのだろう。あかんぞそれでは、私( ; ; )。多分しばらくして読んで、また後悔するのでしょうね。今度は「日の名残り」を読み直そう 95
Posted by ブクログ
ノーベル文学賞を受賞したカズオイシグロ氏のデビュー作とのことです。
今イギリスで生活している女性の人生について、戦後の長崎で生活していた時の記憶を交えて描かれています。
「遠い山なみの光」というタイトルは、主人公の女性の記憶にある戦後まもない長崎の風景と当時の将来への希望を表したものであると思います。
ストーリーですが、主人公の悦子はかつて戦後まもなくの長崎に夫と二人で生活していて、初めての子供を妊娠して幸せに暮らしていました。女の子を出産後、理由は描かれていませんが当時の夫とは別れ、二人目のイギリス人の夫と共に娘(景子)を連れてイギリスに渡り、現在はイギリスの田舎で生活しています。
イギリス人の夫との間にも女の子(ニキ)が生まれますが、長崎で前の夫との間に生まれイギリスに連れてきた長女(景子)は、イギリスでの生活に馴染めず引き篭もりとなり、やがて家を出たいと言い出して、独り暮らしをする中で自殺してしまいます。
イギリス人の夫との間に生まれた次女(ニキ)も今は家を出て独り暮らしをしており、母親を心配して一時的に家に戻りますが、その娘と生活する中で、かつて自分が長崎で生活していた時のことを思い起こします。
長崎で、悦子は幼い娘を抱えるシングルマザーの佐知子という女性と知り合います。佐知子は戦後の混乱期を幼い娘を抱えて乗り越えようとしていました。一方、当時の悦子は良い夫にも恵まれ、お腹には子供も授かり、幸せな生活をしていると満足していたはずですが、そんな自分が、やがて夫と別れ、幼い娘を連れてイギリスに渡ってきた今になって、かつて長崎で出会った佐知子のことを思い出し、今の自分と重ね合わせます。当時の佐知子は、確証もないまま愛人のアメリカ人を頼って長崎を抜け出しアメリカに渡ろうとしていたのですが、悦子はそんな佐知子を見て、環境を変えることは幼い娘が可哀想と思い、口には出さないまでも佐知子を批判的に見ていました。
しかし、悦子もやがて夫と別れ幼い娘を連れてイギリスに渡り、その娘も失ってしまったわけで、未来に夢を見つつも現実に翻弄されていた当時の佐知子を思い出しながら、今の自分を重ねていたのだと思います。当時は佐知子に批判的だった悦子ですが、今は肯定的に思わざる得ない自分をこの時は認識していたと思います。
物語の中では、結婚して義父に甲斐甲斐しく尽くす旧態然とした悦子の姿や、戦後の価値観の変化についていけず民主主義や男女平等に不満を漏らす義父・緒方の姿が描かれ、一方でこれと対比的な思想の佐知子や悦子の夫・二郎が描かれていて、これも戦後の日本における思想の移行が、この小説のもうひとつのテーマになっていると思います。
長崎で幸せな生活を送っていたはずの夫と別れ、自らの意思で娘を連れてイギリス人の新しい夫とともにイギリスに渡り、その結果娘の景子を犠牲にしてしまったという自責の念が、悦子の意識の中には常に存在していたと思うのですが、後悔しても戻すことはできない、先に進むことはできないと、まるで何事もなかったかのように、これからの人生を生きていこうとする女性・悦子の姿がこの小説には描かれています。
イギリス人の夫との間に生まれた次女ニキは、現在の自立した考え方をする女性の象徴的な存在として描かれているのですが、彼女から悦子が長崎で生活していた当時の思い出の資料が欲しいと頼まれ、悦子は長崎の港の風景のカレンダーを渡します。そこに遊びに行った時の思い出を話し、その時は本当はまだ妊娠中であったにもかかわらず、「あの時は景子も幸せだったのよ。みんなでケーブルカーに乗ったの。」と、ニキに嘘をつきます。これも過去を忘れて(偽ってでも)生きていくしかないという、自立して生きていこうとする悦子の思いを示しているように思いました。
ただ、小説の中で語られていない真実を、小説の中で語られている事実の断片から、読者が想像して判断するしかない部分が多々見られるように思います。例えば、なぜ悦子は長崎を離れイギリスで生活するようになったのか、長崎で生活していた当時の夫である二郎となぜ別れたのか、景子はなぜ独り暮らしを始めたのか、景子とニキとの関係はどうだったのか、景子はなぜ自殺したのか、などです。
最後に思うのは、悦子が長崎で知り合ったという佐知子は架空の人物で、実は悦子そのもの(本人)のことだったのかもしれないなということです。
Posted by ブクログ
これだけ登場人物たちの過去を語らない作品も珍しい。
かすかに文中に出てくるだけで、あとは読者がなんとなく想像するしかない。
悦子の心情も本当はどう考えているのかわからない。娘が自殺をしたという母親にしてはものすごく冷たい。でも、過去を語りながら後悔と懺悔を伝えている気がする。
決して「後悔」という言葉は出てこないが、母親としてあの子とどう向き合えばよかったのか?と彼女は考えているのではないだろうか。
大声をあげて泣くのでもなく、取り乱すわけでもなく、昔を思い出しながら娘との関係を振り返っているのではないのか。
本当に始終遠い何かを眺めているようで、霞がかかったような感じ。
登場人物の過去なんて読者が想像するだけ、説明はいらない、でもそれでいいんだ!となぜか納得してしまう不思議な作品だった
一方で謎を説明してほしい人はすごくモヤモヤして消化不良を起こす作品だと思う
池澤さんの解説にもあったように、小津安二郎の映画を1本見たような気分にもなる。
“if you don’t like it over there, we can always come back.”
「とにかく、行ってみて嫌だったら、かえってくればいいでしょ」
このセリフは翻訳が良くないと言われているが、確かにちょっと冷たい。
「私たちはいつでも一緒に帰れるよ」
これが悦子が景子に言うべき本当の答えだったのかもしれない。
説明が少ない小説なので、いろんな解釈ができると思う。
私は良い作品だと思うけど、一番最後の方の解説が嫌だった。それでちょっと台無し。
Posted by ブクログ
最近、世界文学ってナンダ?が頭の片隅にある。今回池澤夏樹の解説を読んで、『遠い山なみの光』で描かれているものは一見日本的心性にも見えるが、実は世界的に共通しうるテーマも内包していることを証明していることを理解した。これはかなり希望である。
個人的にこれまで読んできたイシグロの作品から、彼の小説に出てくる「どこまでも無垢で真っ直ぐな主人公」が好きだった。本作『遠い山なみの光』の主人公悦子は、それとは少し違う。女は家長を立てるものだという旧来の日本的価値観を信じながらも、悦子と佐知子、万里子と景子という対比構造から、結果的に悦子がその価値観から離れ自立を目指したことが暗に示される。
それを暗に示さず、権威を盲信したり、無垢のまま生き続ける主人公を最後まで見守っていたのが『日の名残り』や『私を離さないで』や『クララとお日さま』であると思う。私はそっちの方が好きだなと感じた。
Posted by ブクログ
映画化されたものは役者さんの演技が非常に素晴らしく、それはそれで見ごたえあったのだけど、最後の種明かしがあまりに納得いかず、モヤモヤしすぎて原作買ってしまいました。
今はイギリスで暮らす悦子が回想する戦後間もない長崎での暮らしーー時代の変化に苛立ちを隠せない義父と冷淡な夫、恋人についてアメリカに移住さえすれば自分にも娘にも新しい道が開けると信じている、悦子とは対照的なように見える女性・佐知子。その回想の中には、子殺しの不穏なイメージが繰り返し立ち現れて、主人公がすすんで語ろうとはしないその後の離婚とイギリスへの移動、そして娘の自殺という犠牲がほのめかされる。すべてを語ろうとしない秘密をかかえた回想者は、イシグロの他の作品にも共通するものではあるけれど、やっぱりあの映画の解釈はちょっと無理があるというか、そこまでトリッキーな解釈をしなくても十分に深淵をのぞきこませることのできるような物語になっていると思うのですが、どうでしょうね。
イシグロ作品の中では自分はけっこう好きな方かもしれない。
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