カズオ・イシグロのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
自分が大事にしていると"思っている"価値観も、他者との関係性の中で定義されるキャラクターも、確立されているように見えて根底には大きな揺らぎを抱えている。
一度は軽薄とか、奔放とか、協調性に欠ける、なんて他者のことをジャッジしたかと思えば、気づくと自分がそちら側にいたり。そもそもそのジャッジ自体がどうだったのかと自分に問えるようになるのは、自分自身がそのジャッジに散々苦しんだあとだったり。
悦子とさちこの会話がとても印象的で、個人的にさちこのセリフに心がチクリと痛んだ。自分の子育てや選択を誰かに責められないように予防線を張ったり、相手に伝えているようで自分に言い聞かせているかのような内容で、母親として共感もした。 -
Posted by ブクログ
こんな小説を読むのは初めてだ。
意表をつく状況設定で、読むほどに薄気味悪さが募り想像をこえる世界観に脳の感応も戸惑う。
よくある学園共同生活の描写から始まる。
年少の頃から主人公キャシーは好意をもつトミーが皆に無視されたり虐められるのが気になる。
年長になり友だちのルースがトミーと親しくなり、
その後結ばれる。
そこでは絵や工作や詩などの優秀作が選ばれて別の場所に飾られる。
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ひたひたと小出しの断片的な事象が積み重なる。
日常のエピソードが全体構成のピースを形作る。
徐々に彼らの学園生活と別次元の全貌が像を結ぶ。「彼らの人生」が人類生存の手段になることが決められた社会だ。嫌悪に響いた「提供人、介護人、保護官、健康診断、ポッシブル‥」などの用語は移植システムの呼称であり、無機質なセックスが繰り広げられるのも違和感だった。読むうちに、知るほどに、からくりの悍ましさが脳を満たす。
クローン技術と臓器移植が制度化された架空社会の一面である。生きる限り臓器を提供し続けるクローンの「人生」だ。提供は4回くらいが限度で、あとは役割を終えて消えるだけ。
滑らかな文章と丁寧で抑制の効いた表現で翻訳も手伝い極限の残酷が淡々と描かれる。
いつの間にか読者を「架空現実」に誘い、一時も気を逸らさせず、心を捉えて根底から揺さぶる。
カズオ・イシグロは一作毎に新境地を切り拓くことを心がけているそうだ。繊細な気配りと奥行のある文体で紡ぐ文章はますます磨きがかかる。これを薦めてくれた人に感謝である。他の作品も読むことにする。 -
Posted by ブクログ
この静かなざわざわした気持ちは、カズオイシグロを読んだからだ。解説を読んで、ああ、それ、私もそう思った、と納得。古い考え方をしていた悦子に、何が起こって離婚、イギリス行きを実行させたのか、気になる。余白の部分や噛み合わない会話(私たちもいつもしている。会話しているようで、自分のことしか言ってない、あれを会話と呼ぶのなら。ある意味、セリフのような)の雰囲気が、読んでいる自分をじわじわとり囲み出すような。カズオイシグロを読むと、誠実に生きよう、と思う。頭空っぽにして時代の雰囲気に流されるのではなく。でもそれができてないから、読むたびに後悔を繰り返すのだろう。あかんぞそれでは、私( ; ; )。多分しばらくして読んで、また後悔するのでしょうね。今度は「日の名残り」を読み直そう 95
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もっと早く読んでおけばよかった。こんな世界が、パラレルワールドとしてどこかに存在しているのではないかと思うような素朴さとリアルさ。ルースとキャシーの関係は、私には奇妙に見えた。自分の感情の根っこを見つけるのがキャシーは上手。ルースは不器用。トニーもいい奴。「使命」という、少し誇りを孕んでいるよう言葉を使わないと、彼らも読者も、その宿命を受け止めるのは困難だと思った。余白も絶妙で、読後の満足度も高い。少し厚めの本だけど、読みやすすぎて一気読み。
昔ドラマをやってて、それが良かったのでその後原作を買い、そこから積んでいたので……相当眠っていたな。
すごく美味しい食べ物を食べた後って、お腹が満たされるけど、いいものを食べた後の感覚に似ている。
余韻、かな。 -
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ネタバレ英国執事スティーブンスが、亡き主人との日々を回想する。偉大な執事とは何かを問う、ノーベル文学賞作家の一冊。
めちゃくちゃいい執事小説だった。
品格のある執事とは、どんな執事が優れた執事なのか、ということをたくさん考えられてよかった。
主人たちの会話を邪魔しないように、かつ、呼ばれたらすぐ反応できるように、宴会場の物陰に立っているというシーンが個人的にかなり印象に残った。これがよき執事というものか。
父親との話は彼らにしか分からない感動があってよかった。スティーブンスがカッコよかった。
この物語の終わりでスティーブンスが受け入れるべき結末も父をまったく同じものとなるのか。と思いながら読み進めたが……。
こういう結末ものすごく好き! となった! -
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ネタバレ臓器提供のために生まれたクローン人間の主人公が過去に過ごした施設での出来事や、同じ境遇の友人達との思い出を振り返っていくストーリー。
はじめは謎が多かったが、少しずつ真実が明らかになっていき、しかもその謎が割とサラッと明かされる。一瞬理解が追いつかず、一拍おいてから驚きが来るのが面白い感覚だった。
メインの登場人物(キャシー、ルース、トミー)についても単なる仲良し3人組ではなく、嫉妬や憐れみなど負の感情を何度もぶつけ合っていたので、途中読むのがしんどくなる時があった。でも彼らの置かれた立場や状況を鑑みるとそういった行動になってしまうのは仕方がないと感じた。自分が同じ境遇だったらきっと彼らのようには受け入れることは出来ないと思う。
キャシーとトミーが雑貨屋でレコードを一緒に探す際に、先に見つけたキャシーがトミーとの楽しい時間を終わらせないため、見なかったふりをしようかと迷ったシーンがクローン人間なのにとても人間臭くて印象に残った。
こんなにも人間らしい感情を持ち合わせている彼らがクローンだとしたら、人間を人間たらしめるものって一体何なのだろう? -
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偉大な執事とは何か。
品格とは何か。
自らの仕事に人生を捧げた男の、独白。
執事という仕事に人生を捧げたスティーブンスが、最後にミス・ケントンと出会い、そして彼女が心境を打ち明けた時に彼女の幸福を祝福した(してしまった)シーンで、僕は少し涙が出た。
偉大な執事として、ダーリントンホールに君臨したスティーブンスとしてなら、かつての同僚の幸福を祝福するのは至極当たり前である。しかし、その地位と引き換えに、スティーブンスという1人の人間としての本能はかき消されてしまったのかもしれない。それが良い、悪いではなく、それが生きるということなのだと思う。
カーディナル卿との会話で、スティーブンスは頑なに自らの意見を言おうとはしなかった。あくまでダーリントン卿の執事として、最も正しい選択を選び続けた。言わずもがな、偉大な執事である。しかし、その行動が正解だったのかという点においては、誰も断定できないのである。仮に、スティーブンスが自らの思いの丈をカーディナル卿に打ち明けて、結果ダーリントン卿の未来が変わったというifストーリーがあったとしたら、それはスティーブンスが「執事とは何か」を追い求めなくなった場合に限る。そうなった瞬間、そのスティーブンスは姿を変え、スティーブンスでありスティーブンスではない何かになる。スティーブンスだからこそ、ダーリントン卿に全幅の信頼を置き、あくまで執事としての立場を守り続けたのだ。
と、なると、ミス・ケントンとスティーブンスは交わらない運命だということになる。そこに圧倒的な現実の物悲しさを感じる。誰かが誰かを精一杯想ったとしても、その結末は最初から決まっていて、行動なんてものは後から付随する金魚のフンでしかないのだから。
しかし、物悲しさを感じさせつつも、そこに絶望を残さないのが、「日の名残り」の素晴らしいところだと思う。ミス・ケントンが涙を流しながら、夫を愛していると断言をした。あるタイミングでは誤った選択をしたとみえたミス・ケントンだったが、あくまでそれは運命というレールの途中地点での話であり、そのレールの行先には幸せな家庭が待っていた。
運命のレールを走る列車の乗客である僕たちには、レールの行き先なんて到底みえない。その先が断崖絶壁であるのか、光り輝く国への入場口なのかなんて誰にもわからない。スティーブンスは、自らの仕事に誇りを持ち、その仕事に自らの全てを生贄として捧げた。それによって、失ったものもいくつかあるのかもしれない。しかし、最後に彼は未来を輝くものだとして捉えた。ジョークを練習しようとする姿勢からそれはハッキリとわかる。それこそが、僕たちが生きるうえでの全てなのだろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレヘールシャム出身でない提供者は、キャシーがそこの出身と聞くと、その話を聞きたがるという。
それは提供者が自身の記憶として、ヘールシャムを思い出すことができるかもしれないから。
それ以外の提供者にはつらい記憶しかないから…。
キャシーは介護人としての12年間、多くの提供者に話して聞かせてきたのでしょう。
ヘールシャムは幸福な時代だったのかもしれません。
介護人を終えたキャシーは提供者としての運命をたどるはず。
キャシーはヘールシャムの記憶を持つ最後の提供者となるのでしょうね。
そして、その後も提供者たちは生まれ続ける…。
残酷な世界を淡々と語るこの小説を読み終え、何とも言えない感覚になりました。