カズオ・イシグロのレビュー一覧

  • 充たされざる者

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    「充たされざる者」(カズオ・イシグロ : 古賀林 幸 訳)を読んだ。
    読んでいる間中〈混乱〉か〈苛立〉もしくは〈混乱と苛立〉に支配される。
    『ライダー』は泥濘んだ方泥濘んだ方へと足を踏み出さざるを得ない状況に落ちていく。
    カズオ・イシグロ氏は読み手の辛抱強さを試しているみたいだ。(笑)
    過去に一度挫折した作品だが、今回は腰を据えてじっくりと向き合った。
    最後の最後に救済が待っていた。

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    2022年02月28日
  • 忘れられた巨人

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    最初のページから、いきなり6〜7世紀のブリテン島にタイムスリップしたような感覚を覚え、物語の中に知らず知らず惹き込まれていく。カズオ・イシグロが一流のストーリー・テラーであることをあたらめて実感させられた。

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    2022年01月23日
  • 夜想曲集

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    カズオ・イシグロ氏の初短編集。「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」は、どれも夫婦や男女の微妙な関係や人生における変化を音楽をキーワードに綴られた、個性と雰囲気あふれる作品ばかり。著者の「五篇を一つのものとして味わってほしい」という言葉にも納得、シングルカットではなく、アルバムとして美しく秀逸なCDを聴いたような読後感があった。それぞれに異なる都市の映像も目に浮かぶよう。個人的には冒頭の「老歌手」が印象深かった。ちなみにここに出てくる人物が他の一篇に出てきて「おっ!」と思うのも楽しかった。

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    2022年01月22日
  • 忘れられた巨人

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    作中にでてくる「霧」のように 物語も文も霧に包まれたような 不思議…というかボンヤリと進んでいく感じ.
    グイグイ読み進めるというよりは ん?? んん??と思いながら毎日少しずつ読み進めました.
    読む人によって大分印象が変わるだろうなぁ… 私は面白かったです.
    過去の記憶をとりもどしたアクセルは今後どうするんだろう??
    少年と戦士はこの後どうするんだろう??
    それは自分で考えてね.って事??
    読んでる途中もだけど 後からジワジワ色々考える内容でした.

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    2022年01月06日
  • 浮世の画家〔新版〕

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    数冊読んだイシグロ作品の中で一番好きだなあ。小津安二郎の世界に、ほんのちょっと社会派的要素を垂らしたような感じが良かった。ためらい橋とか、名前もなんかすてきだった。訳が良かったのもあるのかな。

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    2021年12月31日
  • わたしたちが孤児だったころ

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    ネタバレ

    今回はロンドンと上海。
    大戦中の上海の様子が、生々しい。日本の侵略が書かれていると同時に、イギリスが犯したアヘン貿易についても書かれている。
    『わたしたちが孤児だったころWhen we were orphans 』のタイトルにある孤児とは、両親が行方不明になるまでの子供の頃までではなく、父の死と母に会うまでの時間も含まれているのではないだろうか。
    危険な地域に両親を探しに行くときは、中尉やアキラに止められても、語り手の頭を占めていたのは、戦争ではなく両親だった。
    カズオ•イシグロの作品には、何度も同じセリフがでてきたり、自分がされたことを結局は自分が他の人にすることになるという設定が多いように

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    2021年10月30日
  • 特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー

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    2017年ノーベル文学賞の受賞記念講演。
    今までの生活、文章を書き始めた時のこと、ターニングポイントや自分にとっての物語とはなどが、わかりやすい英語(日本語訳も)で表されている。
    左ページに英文、右ページに日本語訳が掲載されているので、英文を読みながら日本語も確認できてとても読みやすかった。

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    2021年10月27日
  • わたしたちが孤児だったころ

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    10歳で孤児となった主人公が、大人になってから行方不明の父母を探す話。子供の頃の回想を挟んで、両親に関する真相が徐々に明るみになっていく。タイトルを見ると過去にフォーカスされた話かなと想像してしまうが、この作品はむしろ、過去と決別し新たな生き方を模索する主人公の姿が最終的に描かれている。長編でなかなか核心に迫らないもどかしさはあったが、イシグロの他の作品と比べると、リアリティー性が強く、話に入り込みやすかった。

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    2021年10月24日
  • わたしたちが孤児だったころ

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    カズオイシグロ作品を読んだのは、「わたしを離さないで」に次いで二作目。
    ミステリーに分類されてもされなくても違和感無し。結末はえげつない。

    表題が少々謎めいて聞こえる。「わたしたち」とは誰と誰のことなのか? 「だった」と過去形なのは、いつ孤児でなくなったということなのか?
    素直に読めば、クリストファーとジェニファー?それぞれ実の親と育ての親を見つけたのだから孤児でなくなった、ってことか?

    終盤クリストファーはアキラらしき日本兵と遭遇したが、本当にアキラだったのか? そんな偶然はあるわけないし、描写的にも別人かと思う。
    クリストファーが、盲人の俳優宅っぽい家を見つけたと思い込もうとする辺りは

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    2021年09月29日
  • 充たされざる者

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    そろそろ桜が咲こうかという時季になんだけど、今年みた初夢の話。
     燦々と陽光降り注ぐ部屋でクリスタルピアノを弾いているYOSHIKIが、メロディを奏でるのをやめ、グラサンを指先でスッとあげながら、こちらを見ると、じゃ、20分後に、これ舞台で歌って下さい、と言って出て行った。 
     オッケー!任しときな!と安請け合いしたのはいいものの、よく考えたら、俺、歌詞を知らないや、ということに気づいた。さすがにお客さんの前でカンペみながら歌うのも失礼だし、手のひらに書いて、それみながら歌うってのも、様にならないし、さて、どうしよう・・・
     ってところで目が覚めた。 
     完全に大晦日にみた紅白の影響だ。

     

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    2021年08月13日
  • 夜想曲集

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    音楽とすれ違う男女の仲をモチーフにした短編5編。
    特にオチがあるわけでなく、各主人公の人生のうちの少しを覗く。
    細かく計算し尽くされた描写が続く(描写の謎解きをしているサイトもいくつも)ので、自分的には読み取るのが苦手。
    解説を読んで、また今度2回目読もうかな。

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    2021年08月07日
  • 充たされざる者

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    ネタバレ

    悪夢を彷徨うような不条理な小説でした……
    ふわふわ、あてどなく1000頁近くも彷徨うのはいささか疲れました。

    なのにシュールリアリスティック的ではなく、最後まで読ませる力があるのは、作者の確かな手腕によるものでしょう。

    そんな夢の中で、挟まれる断片的なエピソードは、誰でも覚えのあるような根源的な傷を抉ってきます。
    両親とシュテファンの関係とかお辛い…
    ライダーの両親が来ないこととの相似性もありますね。

    ブロツキーとミス・コリンズとの関係は、ゾフィーと自分との関係とも相似しているような気がする。
    過去、現在、未来を淀んだ形で顕現した世界なのかもしれない

    そう考えると、グッと面白くなった

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    2021年06月22日
  • 浮世の画家〔新版〕

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    これを30歳そこそこで書いたのか!とまずそこに驚く。たしかに日本人ぽくない言い回しや思考回路、やりとりはあちこちに見られる。特に、一郎。理路整然と喋りすぎ。けれど、主人公である小野は明治生まれの鼻もちならないじいさん。そんな作者自身からかけ離れた人間の自分語りを、その年齢でこのレベルの作品に仕上げるのがすごいと思う。いかに彼に祖父母の記憶があるとはいえ、カケラのようなものに過ぎないはず。そこからこのサイズの図を描きおこす筆力を、若くしてすでにもってたんだなぁ。

    功罪という言葉があるけれど、功績の大きさを認めると罪の大きさも同時に認めざるを得なくて、そうすれば必然的に罰を受けていない今の自分を

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    2021年05月19日
  • 夜想曲集

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    ヨーロッパ・アメリカが舞台の話。
    音楽をやっているというのは自分と同じ共通点だが、あまり自分が知らない世界感を覗かせていただいた。
    後書きを書かれた作家さんも言っていたが、真面目な文章の中に、ユーモアな発言や行動が沢山散りばめられていたため、こんな素敵な情景が思い浮かぶ大人な話の中なのだけど、その中に楽しさがあった。
    最後の「チェリスト」は、結果どうなったとか結論とかはっきりとしたものがないんだけど、その謎めいたものに全くイライラせずむしろしっくりきた。

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    2021年05月17日
  • 忘れられた巨人

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    ネタバレ

    雌龍の息によってさまざまな記憶を失った老夫婦が息子がすむ村を目指して旅をする。例によっていつまでも辿り着けず、そこはもう慣れたものであります。鬼とか妖精などが日常的に登場して、アーサー王のころの神話が舞台になっています。きっといろいろな伏線や神話との合致点があるのでしょうが、そこを楽しめないのが残念です。だから☆4つ。

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    2021年01月09日
  • わたしたちが孤児だったころ

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    ネタバレ

    幼少期を上海の外国人居留地・租界で過ごしたイギリス人のクリストファーは、今やロンドンの社交界でも噂の名探偵。彼が探偵になった理由は他でもなく、かつて上海で行方不明になってしまった両親を探しだすためだった。父、母、フィリップおじさん、そして隣の家に住んでいた日本人の友だち・アキラとの日々を回想しながら、遂にクリストファーは真相解明のため再び上海へ向かう。しかし、かつての〈故郷〉は戦火に飲み込まれつつあった。


    古川日出男の解説がめちゃくちゃ上手いのであれを読んだ後に付け足したいこともないくらいだけど、この小説を読んでいて、昔からずっと考えていることを思いだしたのでそれを書きたい。
    児童文学に孤

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    2020年12月07日
  • 浮世の画家〔新版〕

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    過去の過ちを認めたことと、マダム川上のバーがオフィスへと変わったときのタイミングが重なるのは、本作を象徴的に表している。現実と対峙するには、浮世(マダム川上のバー)から離れなくてはならない。

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    2020年11月03日
  • わたしたちが孤児だったころ

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    ネタバレ

    わたしたちが孤児だったころ。カズオイシグロの本のタイトルは、いつもこれしかないと思わせるタイトルをつけてくれる。
    この本には、主人公は勿論、幾人の孤児が登場する。サラ、ジェニファーを含む3人が主に指している人物だと思うが、要素として日本人としてのアイデンティティが今一つ持てずにいたアキラも精神的には孤児だし、犬を助けて欲しがった少女は、戦争で散っていった民間人の遺子である。アキラと思われる日本兵の子供も孤児になってしまうかもしれない。

    そして、孤児達は、様々なバックヤードや性格違いがあるものの、根底の心根にあるものは非常に似通っているように思える。
    現実から目を逸らし、答えのみつからない幸せ

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    2020年10月17日
  • 浮世の画家〔新版〕

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    「少なくともその時は、信念に基づいて行動していた」

    主人公の自尊心が強すぎる。こんな父親だったら面倒だと思ったけれど、昔の父親はこのような人が多かったのかな?
    以前、NHKでドラマをやっていた。主人公は渡辺謙、上の娘が広末涼子。少ししか見ていないけれど。

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    2020年10月07日
  • 特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー

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    はじめて読んだカズオイシグロ。これで彼の作品を判断するなんてできないのですが、平坦でわかりやすい文章が意外だった。作品を読んでない分、この本への理解はかなり浅くなってしまうが、最後に書かれた、未来への普遍的かつ重要な願いを読んで、ノーベル文学賞を獲るような方の思想の本質はそこにあるのか! となかなかの発見があった。未来がもっと多様になること、そしてよりよく進歩すること。凡人の私でもその理想に突き進んでいきたいと強く思ったし、世界で評価される作品の本質はこうでなくちゃと勇気づけられた。ちゃんと彼の作品も読みます。

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    2020年08月15日