カズオ・イシグロのレビュー一覧
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購入済み
淡々とした中にあるインパクト
特殊な暮らしにおける日常の描写、心情が淡々と書かれているものの、ミステリーがちりばめられているよう不思議な小説でした。
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Posted by ブクログ
ネタバレ名作「日の名残り」と同じように、自分なりのポリシーを持って難しい時代を生きた老人の回想という形をとっている。
老人は戦時中に、愛国心を支えるような活動をしてきた画家。一時期は高い地位を得ていた(それも本人の記憶の中だけで、実際はどうだったのか、最後の方には現実と記憶の乖離も考えられるようになっているのが面白い)。
戦後、新しい価値観が広がる世の中で、自分のしてきたことに対する誇りや反省、保身、様々な感情が入り乱れる。娘や義理の息子たちにどう思われているかも気になるし、威厳は保ちたいし…。
「時代の変化」の中で、小さな一個人が翻弄される…というほど大げさな設定でもない(戦場に行くわけでもなく、戦 -
ネタバレ 購入済み
人生の黄昏
一部ご紹介します。
・「わしはあんたの言うことが全部理解できているかどうかわからん。
だが、わしに言わせれば、あんたの態度は間違っとるよ。
いいかい、いつも後ろを振り向いていちゃいかんのだ。
後ろばかり向いているから、気が滅入るんだよ。
なんだって?昔ほどうまく仕事ができない?
みんな同じさ。いつか休む時が来るんだよ。
わしを見てごらん。隠退してから、楽しくて仕方がない。
そりゃ、あんたもわしも、必ずしももう若いとは言えんが、それでも前を向き続けなくちゃいかん」
「人生楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ。
みんなにも尋ねてご -
ネタバレ 購入済み
人生の尊厳
一部ご紹介します。
・「あなた方は教わっているようで、実は教わっていません。
形ばかり教わっていても、誰一人、本当に理解しているとは思えません」
「あなた方の人生はもう決まっています。これから大人になっていきますが、あなた方に老年はありません。
あなた方は一つの目的のためにこの世に産み出されていて、将来は決定済みです。ですから、無益な空想はもうやめなければなりません」
「みっともない人生にしないため、自分が何者で、先に何が待っているかを知っておいてください」
・「絵も、詩も、そういうものは全て、作った人の内部をさらけ出す。作った人の魂を見せる」
・すぐにも行動を起こさないと、機会 -
Posted by ブクログ
ネタバレこういう感想文を投稿するのは初めてなのでご容赦ください。以下の感想は読み終わったばかりの勢いで書いています。
最初から最後まで、画家・小野の視点で描かれている。『価値観の変動』と『生き方』に焦点を当てた作品だと感じた。私がこの本から受け取ったメッセージを以下に示す。
《価値観は時代とともに移ろい行くものだから、誰しも後になって自らの過ちに気がつくかもしれない。しかし、『自分の信念に従って、全力で生きた』ならば、それの信念が間違いであったとしても後悔はしないであろう。》
また、この作品では、とかく何かを明言するのを避ける傾向にある。しかし、多数の場面を組み合わせて、人の心の動きを -
Posted by ブクログ
この本はすごい。ほとんどもしくはすべての登場人物が自分のことしか考えられない。もどかしい思いで何度も本を閉じたのだが、読みきったあともう一度それぞれのエピソードを読んでみると、噛めば噛むほど味が出てくる。吸い尽くせないほどに。頑張って読み切る価値がある。
自分は果たして本当に誰かのことを知りたいと思ったことがあったのか? そう思っていたと感じていたときでも、ただ自分のことを誰かがどう思っているかを知りたかっただけではなかったのか? 時に誰かに優しくすることはできるが、結局いつも自分のことばかりだったんじゃないか? そんなことを思う。
最初は荒唐無稽で夢のような世界の話だと思うのだが、読み終 -
Posted by ブクログ
ネタバレ後半からは、一気に最後まで読みました。
というより、読まずにはいられませんでした、先が気になって。
どういったらよいかわからない気持ちです。
幼い日の、当時の自分には責任はないし、気付くはずもない小さな判断が自分と周囲の人の運命を変えてしまったかもしれないという罪悪感、無力感。
正義感、責任感、向上心、愛情を持っていたからこそ訪れてしまった家族の悲劇、知人の悲劇、世の中の悲劇…。そして、それを利用して生き延びる人々もいる。
ひとつの事実によって、これほどまでに、自分の思い出や自尊心や家族や知人への印象・想い、経験したことの意味が変わってしまうということがあるのでしょうか。
自分がこの主人公 -
Posted by ブクログ
2回目。いつも素晴らしい小説をありがとう。
初めて日の名残りを読んだ時はたまげたけど、テーマほんとうにそっくり。
日の名残りの方が華やかさと鮮やかな色彩感があって好きだけど、地味で淡々としていて暗いこちらも良い小説。
主人公のやるせなさや辛さも、周囲の気まずさや不満も、どちらも手に取るようにわかるから、読んでて少ししんどくなる部分すらあった。
今主人公を責める周りの人たち、すなわち二人の娘や素一や三宅家の人たちは、戦争中は何を考えてどう行動してたの?
主人公が先陣切ってやったことが戦後的価値観に照らし合わせれば良くない行いだとしても、当時彼ら周囲の人たちはそれを支持して尊敬したんじゃない -
Posted by ブクログ
巻末の解説によると、発表当初から賛否が大きく分かれたという本書。デビューからそれまでに寡作ながらいずれも高い評価と栄誉ある賞を得た作家が、本当に書きたかったものを書いたそうです。
出だしから登場する人たちの長いセリフ、それに続く非現実な場面転換。序盤から、読み進める側は、この奇妙な小説をどう受け止めていいのか、戸惑います。否定的な感想を持つ人は、おそらくこの戸惑いを消化できなかったのではないでしょうか。そうした気持ちも当然と言えるほど、風変わりな小説です。
自分は、その風変わりさが、ルイス・キャロルのファンタジー小説に通じるものとして呑み込み、非現実な進行も含めて楽しむようになり、中盤から -
Posted by ブクログ
カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』が面白いと話題なので読んでみようかと思ったのだが、そう言えば『充たされざる者』が未読だったのを思い出して、読んでみた。
時間も空間も歪んだ世界で、登場人物は何重にも重なり、悪夢のような(というか悪夢そのものの)不条理が延々と続くが、個々のエピソードが魅力的でグイグイと読ませる。大きな話の筋は世界的ピアニストのライダーが「町の命運は音楽藝術の解釈次第にかかっている」と信じられている町に招かれて演奏と講演を行うというストーリー。その枝葉として、やがて彼の義父であることが明らかになるポーターのグスタフとその娘ゾフィーとの不条理な関係、その関係と相似する名指揮者グロ