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Posted by ブクログ
上海租界で少年時代を過ごしたイギリス人クリストファー。その地には隣家の日本人少年アキラとの楽しい思い出もある。しかし、父親の失踪、それに次ぐ母親の誘拐という事件を経て孤児となり、イギリスの叔母のもとに引き取られることとなる。この少年が、長じて優れた探偵として名を馳せるようになり、満を持して上海に舞い戻り、消えた両親の謎の解明に挑む。
真実を知りたい、という気持ちで読んでいけるミステリー小説のような推進力がありながら、そこで描かれる世界に立ち込める闇は深い。ってその世界とは私たちの住むこの世界である。途中途中、ウィキペディアなどで世界史のおさらいをしながら読み進めた(アヘン戦争、上海租界、日中戦争、国共内戦⋯)。出来事自体は昔のものだが、同じ暴力の構造は今もここにある。
そして、大きな物語を背景にしながらも心のひだの奥にあるものを決して取りこぼさない透徹の視界が、私のカズオ・イシグロ作品の好きなところだ。彼には見えているけれど、すべて書きはしない、という筆の運びにまたしびれる。
▼連想した他の本
・王谷晶『ババヤガの夜』
うんざりする暴力(※本書にはバイオレンスシーンはなくて、あくまで私の勝手な読み方による連想です)。ラスボスの本音へのうんざり感。あー、うんざりうんざり。
そのうんざりから、彼女はおりられたのだ、と私は思っている。
・ギリガン『人間の声で』
(最近こればっかりだが)無視された“女”の声。
それから重要なことは、この物語が“クリストファーの声でしか語られていない”ということ。サラの声を、一度は聞いたクリストファーだったが、聞こえなくなったまま終わっているのだ。私たちはサラの声を聞いたほうがいい、と私は思う。
・平井杏子『カズオ・イシグロの長崎』
これは著者/作品に対する解釈本なので“連想した本”としては安易過ぎるが、ノスタルジー、子ども時代の記憶、外国、といった軸で彼の作品を捉えていたこの本の解釈は特にこの作品にドンピシャだったのかもしれない。
▼好きだったセリフ(うろ覚え!)
「トロフィーのようなものが欲しかったけど今は別のものがほしい。私が何をしたかとかどうであるかということと関係なくそこにあって、そこに戻ってこれるもの、例えばいつもそこにある空のような。」
「私には、子ども時代が外国のようには思えないのです。ずっとそこにいて、ようやく今旅立とうとしているところです。」
▼タイトルについて
わたしたちって、誰と誰だろうか。誰もがそうではないかもしれないけど、意外と私やあなたやあの人もそうかもしれない。拡大解釈し過ぎか。過去形なのは、救いと私は感じた。
Posted by ブクログ
冒頭は1930年代で主人公クリストファー・バンクスは20代なかば。ロンドンで、子供の頃からの夢だった探偵として認められつつある。
クリストファーは子供時代を上海の租界(外国人居留地)で過ごした。父親はイギリス貿易会社の社員で、母は上海の人々がイギリスが売りつける阿片で苦しんでいることを許せずにいる。そして自分たちの不自由のない生活には中国人たちを阿片付にしていることで父を責める。
クリストファーの一番の友達は日本人一家のアキラだった。二人とも異国で暮らしているのだが、自分の国は上海だと思っている。子供なりに人生を見つめる独自の理論や哲学、自分を保つための嘘もある。
だがクリストファーの父が、次いで母が相次いで行方不明となり、彼は10歳で一人でイギリスの親戚に引き取られた。
そして現在、クリストファーは探偵として事件も解決しそれなりに評価も高まってきている。最近親しくなった女性、サラ・ヘミングスは社会的地位のある男性を狙う野心家のようだが彼女は何かを成し遂げる人物を欲している。そしてかつて第一線にいて今では引退した老外交官の後妻となり上海に渡った。
ロンドンでクリストファーは、両親をなくしたジェニファーという少女を養女に迎えた。だがいよいよ両親失踪の謎の確信に近づき、ジェニファーが学校にいる間に上海を再訪することにする。ジェニファーは「わたしはおとなになって、クリストファーおじさまを助けてあげるわ」と言う。
そして1937年、クリストファーは上海に渡った。
主人公が探偵で、両親に何があったのか、この先どうなるのかという推理小説要素もあります。
上海ではクリストファーの調査がちょうど上海での日中戦争(第二次上海事変)の真っ只中、クリストファーも残酷なものを多く目撃します。上海の現地中国人の貧民窟の様子とか、その貧民窟での日本軍による砲撃などは本当に悲惨で。
子供の頃のクリストファーもアキラも、中国人を使う立場で不自由なく暮らしているけれど、やはりここが完全に自分の居場所ではないとも感じている。しかしそれぞれが自分の国(アキラは日本、クリストファーはイギリス)に戻ったときは「上海の租界こそが自分の居場所」だと感じる。大人になって上海に戻ったクリストファーは「自分はずっと租界にいたころの子供の延長だった」と感じている。
題名の『私たちが孤児だったころ』は、実際に親がいないという意味もあるし、精神的に居場所を探しているって意味もあるのかな。ラストでクリストファーは「最善を尽くすしかない」と結論に達する。題名の「だったころ」と過去形なのは、やっぱり心の平穏はないけれども、そんな状態を受け入れて自分の心のあり方が落ち着いたってことでしょうか。
<最後まで使命を遂行しようとしながら、最善をつくすより他ないのだ。そうするまで、わたしたちには心の平安は許されないのだから。(P530)>
Posted by ブクログ
とても長いとても良い作品。ちょっと時間掛かってしまったが、途中で見失なうことなくなっ。ラストのお母さんと再会する場面は 遅いホント遅いから 孤児だったマフィンの為だけに中国人に奴隷になって生きるしかないお母さんが哀れ過ぎる、孤児だったマフィンではなくなっ。戦争が悪いと言えばそれまでだけど、やっぱ叔父のイギリス人かな地獄に堕ちなきゃならないのは。マクドナルドの立ち位置がわからないのと危険な戦闘地帯をいるわけがない両親を探してアキラ似の日本人と一緒にいる所もわからないのと娘のジェニファーの存在がどこに向かうのかと1番わからないのは解説が一言も入ってこないって事 カズオイシグロの読みたいの読めたので時間があればまた読もうかな
Posted by ブクログ
勧められて!久しぶりにカズオ・イシグロ(といって他にたくさん読んでいるわけではないのだけれど)
以前『わたしを離さないで』を読んだ時にも受けた、どこか紗がかかっているような世界、全てが語られない物語感、少し邂逅してすれ違っていく個々人の人生(サラ~~)というものに、カズオ・イシグロ…ってなっていた笑。それからどうしてもクリストファー/アキラが著者本人が投影されるように感じてしまう~
どうして・何をクリストファーは解決しに上海に戻ったのかや、アキラが本当にアキラだったのか、そういったことは語られない。漠然としているだけ。
アガサ・クリスティーの小説をどこか読んでいるような、探偵ものなのは趣向が面白かった。
ぼくたち子どもは、あの木製の羽根板を留めつけている撚り糸のようなものなんだ、とアキラは言った。日本人の僧侶からかついてこう聞いたことがある、とアキラは言った。ぼくたちは気づかないことが多いけれど、家族だけではなく、全世界をしっかりとつなぎとめているのは、ぼくたち子どもなんだ、と。もしぼくたちが自分の役割をきちんと果たさなかったら、羽根板ははずれて床の上に散らばってしまう、と。(p.127-8)
到着したときからわたしが大きな衝撃を受けていたのは、ここにいる誰もが、自分たちがどれほどの非難に値する存在かを認めることを拒否しているということだった。…文明世界全体を巻き込もうとしている大混乱の中心であるここには、否認というお粗末な共同謀議が渦巻いているのだ。責任の否認、それはどんどん内向し、ひどくなっていっているのに、一種思い上がった自己保身の中で自らを誇示している人々にわたしは何度も遭遇した。(p.273)
孤児であり、探偵であるクリストファーが語ることは、単純に上からのお説教ではないように作られている。ものの、もう少し力強い感情として伝わってくるような文章・内容でもよかったのではないか、と思ってしまう。
「…あたくしにわかっているのは、あたくしが何かを探しながらここ何年も無駄にしてしまったってことだけ。もしあたくしがほんとうに、ほんとうにそれに値するだけのことをやった場合にもらえる、一種のトロフィーのようなものを探しているうちにね。でも、そんなものはもういらない。今は他のものが欲しいの。温かくてあたくしを包みこんでくれるようなもの、あたくしが何をやるとか、どんな人間になるとかに関係なく、戻っていけるものが。ただそこにあるもの、いつでもあるもの。ちょうど明日の空みたいに。そういうものが今は欲しいの。…」(p.358)
昔日に、「あたくしの愛情、エネルギー、知性ーといっても大したものじゃありませんけどーのすべてを、ゴルフかシティで再建を売ることに夢中になっているようなつまらない男性のために無駄に使いたくないの。結婚するとしたら、ほんとうに何かに貢献するような人でなくっちゃ。つまり、人類に、というか、よりよい世界に貢献するという意味でよ。すごい夢でしょ?」(p.84)と言っていたサラ…自分自身ではないのは時代設定が故か。
そうして最後に、「…今はお仕事をすべて終えられ、最近、わたくしが当たり前のことのように受け取っている幸せな生活や伴侶に、あなたも恵まれていらっしゃることを願うばかりです」(p.529)という手紙が最後になる感じは、たまらなく、好きだった。
Posted by ブクログ
主人公は探偵。飛ぶ鳥を落とす勢いで難事件を解決していく若い探偵。
なのだが、この小説は探偵小説ではない。
ハードボイルドではある。でも、探偵小説ではない。
主人公が、探偵になったきっかけになった事件を解決しに上海へ向かう。
でもそこで繰り広げられる彼の探偵然とした行動はすべて、読者からすると「え・・・この人本当に探偵?」という行動でしかなく、すごく不安な気持ちにさせてくる。この読者の感情の導き方は、すごい。
ただ一応、すべての謎は明らかになる。
明らかになった内容も、まあ、わりとすごい。
このあたりは、読んで「ああ」って思って欲しい。
物語自体には賛否あると思う。
私もこの本のストーリーが面白かったか?と聞かれると、「んー、つまらなくはないけども」という曖昧な回答になる。
ただ、すべてを読み終えて頭の中でいろいろと整理していると、この小説のテーマは「記憶」なんだろうなと。
タイトルも、そう。この小説は、主人公が過去を思い出しながら記述する形で書かれている。そしてその中の登場人物の多くも、自身を回顧しながら語るシーンが多い。
それぞれに、それぞれの記憶があり、その上でそれを語る今がある。
そういう構図になっている。
その構図から導かれる結論は・・・・みたいなのは、今はよくわからない。
でも相変わらず、カズオ・イシグロは、一筋縄ではいかないものを書くなあと。
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小説・文芸
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