カズオ・イシグロのレビュー一覧

  • 浮世の画家〔新版〕

    Posted by ブクログ

    時代の流れの中で、持て囃されたり、批判されたりするものは一変する。戦前戦後は特に激変する中、迎合したり、反省して死すら選ぶ人も描かれている中、自分の信念を貫いたと信じ切ることの悲哀が、回りくどい会話や微妙な人との邂逅によってぼんやりと浮かび上がってくる。変化し続けることが重要、という無意識に根ざされた価値観を揺さぶられる体験となった。

    0
    2024年10月13日
  • 夜想曲集

    Posted by ブクログ

    カズオ・イシグロ初の短編集。面白かった。
    作者らしい上品な文章と雰囲気は、ドタバタな場面でも損なわれていなくて妙に感心した。
    整形したサックス奏者の彼が、うまくいっているといいなと思う。
    そして、訳者あとがきで印象に残ったのは、カズオイシグロが、自作を様々な言葉に翻訳されることに不安やプレッシャーを感じているということ。
    「インタビュー症候群」と命名されていたけど、新作を書いて最長2年をかけて世界各国をまわり、膨大なインタビューを受ける。そのときに、翻訳された言葉について不安を感じる場面があったのだろうか。
    それにしても1、2年もかけて世界中をプロモーションするなんてすごすぎる。村上春樹さんは

    0
    2024年09月03日
  • 浮世の画家〔新版〕

    Posted by ブクログ

    戦後を舞台に、戦前、戦中に画家として活躍した小野が自身の過去を語る回顧録形式の小説。
    日本を破滅へと導いた軍国主義を是とし、その信念をもって数々の絵画を発表。
    当時大いに受け入れられ賞賛された価値観は、敗戦後には唾棄すべきものとして扱われる。

    新しい価値観を理解し、それを認め、受容すること。
    それが戦後で生きていくためには必要なのだが、価値観を変容し、新たなアイデンティティを形成するのは並大抵のことではない。
    軍国主義を積極的に支持していたことに対する罪悪感、後ろめたさを拭い去ろうとする心の葛藤。
    小野自身とて、もともと軍国主義など信奉していなかったのだというエクスキューズや、今や自身と袂を

    0
    2024年04月14日
  • わたしたちが孤児だったころ

    Posted by ブクログ

    主人公は探偵。飛ぶ鳥を落とす勢いで難事件を解決していく若い探偵。
    なのだが、この小説は探偵小説ではない。
    ハードボイルドではある。でも、探偵小説ではない。

    主人公が、探偵になったきっかけになった事件を解決しに上海へ向かう。
    でもそこで繰り広げられる彼の探偵然とした行動はすべて、読者からすると「え・・・この人本当に探偵?」という行動でしかなく、すごく不安な気持ちにさせてくる。この読者の感情の導き方は、すごい。

    ただ一応、すべての謎は明らかになる。
    明らかになった内容も、まあ、わりとすごい。
    このあたりは、読んで「ああ」って思って欲しい。

    物語自体には賛否あると思う。
    私もこの本のストーリー

    0
    2024年02月20日
  • 浮世の画家〔新版〕

    Posted by ブクログ

    あなたのやったことは間違いだ、と言われるのは腹が立ちます。間違いか間違いではないかの前に、自分以外の誰かに言われることに、まず腹が立つだろうと思います。なぜなら、間違いかどうかを決めるには「これが正解」という基準が必要ですが、その正解はどこから来るのかが人によって違うはずだからです。私が行った「何か」は、私の基準によれば正解だったのです。なのに、「あなたは間違いだ」と言われる「正解」はどこから? この本の「小野」が、娘2人から、義理の息子から、弟子から、次女の婚約相手から「間違いを犯した」と判断されたのは、小野が活躍したのが戦争中で、その後「戦後」ではなく「敗戦後」になり、「正解」が正反対にな

    0
    2024年02月01日
  • わたしたちが孤児だったころ

    Posted by ブクログ

    カズオ・イシグロの本を読むのは、これで7冊目になる。流石に少し、信頼できない語手にも飽きてきた。文庫本末尾の解説を読むに、おそらく初読の方であれば、この本に没入することもできたのだろうが、読み慣れてしまった人間にはそれができない。カズオ・イシグロという、書き手そのものの存在がノイズとなってしまっているのだ。

    だが、それだけが彼の作品の魅力ではない。たとえ、初読者の感動を得ることができなくとも、彼の作品の中には等身大の人間がいる。それは、主人を亡くした執事や、敗戦国の画家という形で現れるが、彼らに共通している無常感こそが、私が真に求めるものなのだ。

    信頼できない語手というのは、客観的現実を受

    0
    2023年12月17日
  • わたしたちが孤児だったころ

    Posted by ブクログ

    何でもない生活の描写や子供の頃の思い出話で惹きつける流石の筆力。でも回想が幾重にも重なり時系列が迷路のようで読みにくい。流れに身を任せて読み進めると段々と情景が浮かび上がる。長くも感じるが、最後の怒涛の展開は止まらない面白さなので耐えて読み切りたい。

    0
    2023年09月28日
  • 夜想曲集

    Posted by ブクログ

    4冊目のカズオ・イシグロの作品である。
    カメレオンのように作風を変えられる、“ひとり映画配給会社”と私は彼を呼んでいる。
    そのイシグロは、実は音楽にも精通していて、シンガーソングライターを目指していたこともあったとか。そんなところから生まれているのがこの短編集で、5篇をひとつとして味わうように求められており、すべてミュージシャン(もしくは音楽愛好家)を題材としている。
    今まで読んだ中で、最も読みやすい、ムード漂う作品集である。ドラマ性や落ちはなく、人生の一瞬を描く趣向となっている。長編小説とは全く異なる素顔のイシグロの感性が垣間見られた。
    主人公は皆、才能はあるが認められておらず、たゆたゆと人

    0
    2023年08月20日
  • 忘れられた巨人

    Posted by ブクログ

    記憶がなくなる、ということは、嬉しいことや悲しいこと、怒り、憎しみなどの全ての感情を忘れていくこなのだ、と感じた。
    忘れるということは、ある意味幸せなことなんだろうな。

    0
    2023年07月14日
  • 充たされざる者

    Posted by ブクログ

    カズオ・イシグロの4作目。ハヤカワ文庫で948P(厚いし重い。物理的に読みづらくて手こずった)。

    不条理ゆえか、焦燥から喪失、郷愁‥‥いろいろな感情がよぎった。今までにない不思議な読後感。

    0
    2023年06月04日
  • わたしたちが孤児だったころ

    Posted by ブクログ

    『クララとお日さま』読んだ後、カズオ・イシグロの積読あったよなと取り出して読んだ一冊。イシグロの祖父が上海で働いていて、その縁もあって上海を舞台の小説を書いているよって教えられて買ったもの。
    ホントは、純粋にミステリー小説としても読めるんだろうけど、話に出てくる上海の租界の様子を想像しながら読み進めた。そうなんだよね。日中戦争の時、上海の市街も戦場になったんだよね。
    途中で出てくるキャセイホテルは今の和平飯店。ここも聖地巡礼しておかないと。
    最後、親子愛が隠れたテーマなんだなと気づき、ちょっとほろっとした。

    0
    2023年03月16日
  • 浮世の画家〔新版〕

    Posted by ブクログ

    戦争前後の人間関係を回想を交えて語る一人称小説です。これまで築き上げた自分と時代や価値観の変化にどう折り合いをつけていくか苦悩する様子が本人目線で綴られています。

    主人公の記憶や印象に基づいた真実が事実であるとは限らない曖昧さに翻弄されました。過去の出来事が徐々に明らかになるにつれて、「自分が捉える自分」と「他人から見た自分」の乖離も露わになり、痛みを感じました。

    0
    2023年03月06日
  • 浮世の画家〔新版〕

    Posted by ブクログ

    以前「記憶というものは思い出すたびに書き換えられている」と読んだ。終戦により今まで是とされてきたことが悉く覆される中、様々な記憶があやふやになり、自分のアイデンティティもあやふやになりかける主人公。
    戦時中にいわゆる大人であった人は自分自身の崩壊とその再構築に苦労しただろうと想像した。

    0
    2023年02月12日
  • 浮世の画家〔新版〕

    Posted by ブクログ

    第二次大戦前から画家として活躍してきた小野が、うまくいかない娘の縁談や周囲の態度から過去を回想していく。師匠の耽美主義を離れて精神主義に傾き、戦時のプロパガンダに加担し評価され、自信を深めるが、価値観が一変した戦後の日本社会で、そのアイデンティティをどう扱ったらいいか迷い悩む。
    語りの中で、小野が自分の記憶の曖昧さを何度も確かめるように表現している。話の筋そのものにはあまり関係しないが、読み手としてなぜかそこにひっかかりを感じてひきこまれる。
    人が過去を振り返るときの記憶の曖昧さこそが、人間らしさであり、だからこそ生きていけるのかもと思わせる。ここに焦点を当てる語りが、著者の技の一つかもしれな

    0
    2022年12月09日
  • 夜想曲集

    Posted by ブクログ

    常に音楽が流れている短編集。
    冷めきった関係を復元しようとする老歌手や、メジャーデビューのために整形手術を受けるミュージシャンとか、設定が微妙に現実離れしているところに面白さがあって、すぐ読めてしまいます。
    面白くて品のある短編集です。

    0
    2022年12月02日
  • 浮世の画家〔新版〕

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    少しばかり自意識過剰な画家が、思い出を振り返りながら、戦前戦後で浮き流れる世の中を生きる話。
    日の名残りに少し似ているかな?と思ったが、あちらの方がカタルシスを強く感じた。
    レポート書き終えたら、英訳でまた読み直そうかな。

    覚悟と信念を持って行動すれば、成否に関わらず清々しい気分になると、彼らは自らの人生の妥協点を見出した。

    0
    2022年11月05日
  • 夜想曲集

    Posted by ブクログ

    副題は「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」。

    全盛期を過ぎた歌手が再起を目指して愛する妻と別れようとする「老歌手」。

    音楽の趣味でつながった大学時代の友人夫妻との、今となっては埋めようもない価値観の溝をコミカルに描く「降っても晴れても」。

    メジャーデビューに目指し作曲にいそしむ主人公が旅回りの音楽家の夫妻とのわずかな交流の中に、人生のままならなさを感じる「モーバンヒルズ」。

    「夜想曲」は、「老歌手」で出てきたリンディが再び登場する。
    風采の上がらないサックス奏者が整形手術を受けさせられ、術後を過ごすホテルの隣室に彼女がいる。
    二人とも顔を包帯でぐるぐる巻きにされている中で、退屈しのぎに深

    0
    2022年09月23日
  • 充たされざる者

    Posted by ブクログ

    最後のなにも解決してないのに知らない下層階級の人に泣きついて朝食を食べるラストが気持ち悪すぎて変な夢を見た。
    でも読んだ本に左右されて眠れなくなるほど心に色が付いていない部分があったんだと知って嬉しくなる。ずっと子どものまま小さいものも大きく感じたい。

    0
    2022年07月27日
  • 夜想曲集

    Posted by ブクログ

    チェロの師匠の話が衝撃で面白かった。

    船と歌のシーンは、ロマンティックなムードの情景が頭に浮かび、印象に残っている。
    素敵だった。

    0
    2022年06月02日
  • わたしたちが孤児だったころ

    Posted by ブクログ

    タイトルは魅力的なのに、裏表紙のあらすじ紹介がイマイチ気に食わなくて手に取らずに来たものの、食わず嫌いもよろしくないと思い手に取った一冊。
    あらすじ紹介より面白いです。
    「冒険譚」なんて紹介されているけれど、どちらかというと主人公が不条理さに巻き込まれていきながら、最後は何とか抜け出して戻ってくる、というほうがよいかと。
    とにもかくにも、予想より面白かった一冊です。

    0
    2022年05月16日