あらすじ
優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設へールシャムの親友トミーやルースも「提供者」だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度……。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく。解説:柴田元幸
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
端正な語りから伝えられる人間の繊細さや心理描写の表現が素晴らしく、世界の異質さが明るみになってくる様も緻密で丁寧で、すべてが直接こころに語り掛けられているようだった。
この感情の渦を抱え切れそうになく、今すでに考えることをやめてしまいそうです。
僕なんかにはこの気持ちを始め言語化できなかったので解説文を利用させていただきました。
Posted by ブクログ
終始静謐な世界観の文章。
薄曇りの空の下で浅く酩酊するように物語に没頭した。
読後にはヘールシャムが思い出のように心の中に浮かび上がり、鋭くて重い痛みが残った。
何度も読み返したいような、それも怖いような気持ちになる。
訳も素晴らしかった。
予備知識をあまり入れないで読んだほうが良い本だと思うのでネタバレにチェックをしておく。
Posted by ブクログ
クローン人間として生まれた人間が、どのような気持ちでどのように生涯を終えていくのか描かれた小説。
SFで今の世界では考えられない世界ですが、主人公の淡々とした語りと登場人物の人間関係がとてもリアルで、いつか本当にこんな時代が来てしまうのではないかと不安になりました。時間って有限だなと改めて自分の生き方についても考えさせられるお話です。
それと、言葉が綺麗です。
大好きで定期的に読み返したくなる1冊です。
Posted by ブクログ
こんな小説を読むのは初めてだ。
意表をつく状況設定で、読むほどに薄気味悪さが募り想像をこえる世界観に脳の感応も戸惑う。
よくある学園共同生活の描写から始まる。
年少の頃から主人公キャシーは好意をもつトミーが皆に無視されたり虐められるのが気になる。
年長になり友だちのルースがトミーと親しくなり、
その後結ばれる。
そこでは絵や工作や詩などの優秀作が選ばれて別の場所に飾られる。
・・・・
ひたひたと小出しの断片的な事象が積み重なる。
日常のエピソードが全体構成のピースを形作る。
徐々に彼らの学園生活と別次元の全貌が像を結ぶ。「彼らの人生」が人類生存の手段になることが決められた社会だ。嫌悪に響いた「提供人、介護人、保護官、健康診断、ポッシブル‥」などの用語は移植システムの呼称であり、無機質なセックスが繰り広げられるのも違和感だった。読むうちに、知るほどに、からくりの悍ましさが脳を満たす。
クローン技術と臓器移植が制度化された架空社会の一面である。生きる限り臓器を提供し続けるクローンの「人生」だ。提供は4回くらいが限度で、あとは役割を終えて消えるだけ。
滑らかな文章と丁寧で抑制の効いた表現で翻訳も手伝い極限の残酷が淡々と描かれる。
いつの間にか読者を「架空現実」に誘い、一時も気を逸らさせず、心を捉えて根底から揺さぶる。
カズオ・イシグロは一作毎に新境地を切り拓くことを心がけているそうだ。繊細な気配りと奥行のある文体で紡ぐ文章はますます磨きがかかる。これを薦めてくれた人に感謝である。他の作品も読むことにする。
Posted by ブクログ
ページをめくる手が止まらなかった。
介護士として提供者の世話をするキャシーが、ヘールシャムで過ごした青春時代を回想するところから始まる。最初はどこにでもあるような学校生活に見えるのに、保護官との微妙な距離感や、子どもたちに何かを隠しているような雰囲気に、少しずつ違和感を覚えていく。
その違和感の正体が明らかになったとき、それまでの何気ない日常の風景がまったく違って見えた。自分の人生を選ぶこと、誰かを愛すること、生きることについて、静かに考えさせられる作品だった。
Posted by ブクログ
「わたしを離さないで」の中でも特に印象的に感じたのは主人公を含め登場人物達のあまりにもリアリティのある会話や思考、行動であり、今までに読んだ本の中でも登場人物がここまではっきりと輪郭を持っていることは珍しかったように思う。
そして、どうしてここまで「人間らしく」描かれているのか自体が物語の主題に深く連関していたように感じた。
Posted by ブクログ
もっと早く読んでおけばよかった。こんな世界が、パラレルワールドとしてどこかに存在しているのではないかと思うような素朴さとリアルさ。ルースとキャシーの関係は、私には奇妙に見えた。自分の感情の根っこを見つけるのがキャシーは上手。ルースは不器用。トニーもいい奴。「使命」という、少し誇りを孕んでいるよう言葉を使わないと、彼らも読者も、その宿命を受け止めるのは困難だと思った。余白も絶妙で、読後の満足度も高い。少し厚めの本だけど、読みやすすぎて一気読み。
昔ドラマをやってて、それが良かったのでその後原作を買い、そこから積んでいたので……相当眠っていたな。
すごく美味しい食べ物を食べた後って、お腹が満たされるけど、いいものを食べた後の感覚に似ている。
余韻、かな。
Posted by ブクログ
臓器提供のために生まれたクローン人間の主人公が過去に過ごした施設での出来事や、同じ境遇の友人達との思い出を振り返っていくストーリー。
はじめは謎が多かったが、少しずつ真実が明らかになっていき、しかもその謎が割とサラッと明かされる。一瞬理解が追いつかず、一拍おいてから驚きが来るのが面白い感覚だった。
メインの登場人物(キャシー、ルース、トミー)についても単なる仲良し3人組ではなく、嫉妬や憐れみなど負の感情を何度もぶつけ合っていたので、途中読むのがしんどくなる時があった。でも彼らの置かれた立場や状況を鑑みるとそういった行動になってしまうのは仕方がないと感じた。自分が同じ境遇だったらきっと彼らのようには受け入れることは出来ないと思う。
キャシーとトミーが雑貨屋でレコードを一緒に探す際に、先に見つけたキャシーがトミーとの楽しい時間を終わらせないため、見なかったふりをしようかと迷ったシーンがクローン人間なのにとても人間臭くて印象に残った。
こんなにも人間らしい感情を持ち合わせている彼らがクローンだとしたら、人間を人間たらしめるものって一体何なのだろう?
Posted by ブクログ
ヘールシャム出身でない提供者は、キャシーがそこの出身と聞くと、その話を聞きたがるという。
それは提供者が自身の記憶として、ヘールシャムを思い出すことができるかもしれないから。
それ以外の提供者にはつらい記憶しかないから…。
キャシーは介護人としての12年間、多くの提供者に話して聞かせてきたのでしょう。
ヘールシャムは幸福な時代だったのかもしれません。
介護人を終えたキャシーは提供者としての運命をたどるはず。
キャシーはヘールシャムの記憶を持つ最後の提供者となるのでしょうね。
そして、その後も提供者たちは生まれ続ける…。
残酷な世界を淡々と語るこの小説を読み終え、何とも言えない感覚になりました。
Posted by ブクログ
chatGPTと話してると、よくオススメされるのと、SF好きなので一度は読んでみたかった本作。
展開が遅いのと、徐々に徐々に設定が明らかにされていく構成で、あと一歩で積読になりそうだったんですが、奥歯にものが挟まったかのような書き方が逆に、これどうやって風呂敷畳むの?作者はこの作品で何を描きたいの?という疑問を増幅させ、無理やり60%くらい読み進めたところ、やっと没入できてそこからラストまでは速かったです。
で、読後感が異常なほど切ないのと、結局作者が何を描きたかったのかはバシッとわかりませんでした。
ただ、ヘールシャム〜介護人になるまでが、リアル人生でいうところの学生〜社会人 介護人〜提供者になるまでが社会人〜老後の特に終盤あたり になんとなく思えて(期間が全く違いますが)考えさせられました。
私たちも終わりが決まってるという意味では同じ。また、主人公が1人、また1人とかつての学友を見送る姿と老後の(想像ですが)自分が重なって見えてきます。
30代半ばを過ぎた今では人生の重要な分岐点が一通り終わり、キャシーが介護人として提供者を見送りながら自分の終わりにも近づいていく時間の流れと、どこか重なるものを感じました。
再読すると、もっと理解を深められそうですが、思ったよりヘビーな作品だったので当面の間はできなさそうです。
(追記)
余韻がすごくてずっと考え続けた結果、これはクローン人間という設定を使った、人生のメタファーでは?という結論に至りました。人生という大きなテーマに触れたことで、今抱えている問題への執着が少し薄れました。
でも、話自体のスケールが大きいわけじゃなくて、なんなら主人公の半径数メートル以内の話で終わる、なのに頭の中にずーっと残ってジワジワと考えさせる感じ、さすがノーベル賞受賞作家・・
「日の名残り」も気になりますが、連チャンは重そうなので何冊か挟んでからにする予定です。
Posted by ブクログ
キャシーの回想から始まるこの小説。序盤から強く引き込まれる。介護人、提供者、どれも聞き慣れない言葉。
彼女達が幼い頃を過ごした学園。幼き頃の思い出はとても鮮やかなもの。些細なことで友人と喧嘩したり、仲良しグループで固まったり、実は気があることを悟られぬようようこっそり異性の友達と落ち合ったり、どこにでもある、私たちにでもあるような子供時代。だけどとこか私たちとは違う。
少しずつ浮き彫りになっていく学園と自分たちの未来の真実。
学園で過ごした側の立場と、運営側の立場の違い、それ故の残酷さが、なんとも言えなかった。人間らしく扱うことに意味があると思っている側と、だうせ提供されるのなら教育も道徳も無意味だったと思う側。でもその教育らがなければ家畜のように扱われることと同等になってしまう。
キャシーとトミーは再会するのだが、結ばれるのがもっと早ければ、というシーンはすごく切ない。2人にはとにかく時間がない。
ラストの先生方との再会。家族をおらず、仲間だけを頼りに生きてきたキャシー達。自分たちが生きてきた学園の意味。全てが切ない。
読みながら、思わず、何度も自分の娘を抱きしめてしまった。
そういう気持ちにさせられる作品。名作だと思う。
Posted by ブクログ
個人的にはトミーに共感することが多く、深く感情移入した。感情の爆発を抱えながらも不器用にしか生きられない彼が、どこか他人事に思えなかった。
トミーが介護人を変えてから亡くなるまでの日々が、穏やかであったらいいなと願う。キャシーのことを、静かに思い出しながら逝ったのだろうと思う。
「わたしを離さないで」について
ノーベル賞作家のカズオ・イシグロが端正な筆致で綴る、ある女性の人生の物語。
提供者を慰める介護人の職に長くついていた女性。彼女が職を辞めるにあたり、自分のこれまでの人生、特に生まれ育ったヘールシャムで仲間と過ごした日々を回顧する。
提供者、介護人など説明なく出てくる言葉の意味が、女性の回想から次第に明らかになってくるにつれ、世界の残酷な姿が浮かび上がってくる。
この世界の真実は、SF小説のファンならばすぐに見当がついてしまうだろう。
読みどころは、むしろ小説としての巧さ、人間描写の厚みの部分だ。大きな状況に翻弄される主人公たちが、小さな人間関係にすがる姿がなんとも哀しく映るのだ。
淡々とした中にあるインパクト
特殊な暮らしにおける日常の描写、心情が淡々と書かれているものの、ミステリーがちりばめられているよう不思議な小説でした。
人生の尊厳
一部ご紹介します。
・「あなた方は教わっているようで、実は教わっていません。
形ばかり教わっていても、誰一人、本当に理解しているとは思えません」
「あなた方の人生はもう決まっています。これから大人になっていきますが、あなた方に老年はありません。
あなた方は一つの目的のためにこの世に産み出されていて、将来は決定済みです。ですから、無益な空想はもうやめなければなりません」
「みっともない人生にしないため、自分が何者で、先に何が待っているかを知っておいてください」
・「絵も、詩も、そういうものは全て、作った人の内部をさらけ出す。作った人の魂を見せる」
・すぐにも行動を起こさないと、機会は永遠に失われるかもしれない
・「あなた方はいい人生を送ってきました。教育も受けました。もちろん、もっとしてあげられなかったことに心残りはありますけれど」
「生徒たちを人道的で文化的な環境で育てれば、普通の人間と同じように、感受性豊かで理知的な人間に育ちうること、それを世界に示した」
「あなた方は、駒だとしても幸運な駒ですよ。追い風が吹くかに見えた時期もありましたが、それは去りました。
世の中とは、ときにそうしたものです。受け入れなければね。
人の考えや感情はあちらに行き、こちらに戻り、変わります。
あなた方は、変化する流れの中のいまに生まれたということです」
・「新しい世界が足早にやってくる。科学が発達して、効率もいい。
古い病気に新しい治療法が見つかる。すばらしい。でも、無慈悲で、残酷な世界でもある。
そこにこの少女がいた。目を固く閉じて、胸に古い世界をしっかり抱えている。
心の中では消えつつある世界だと分かっているのに、それを抱きしめて、離さないで、離さないでと懇願している」
・「俺はな、よく川の中の二人を考える。
どこかにある川で、凄く流れが速いんだ。で、その水の中に二人がいる。
互いに相手にしがみついている。必死でしがみついてるんだけど、結局、流れが強すぎて、最後は手を離して、別々に流される。
俺たちって、それと同じだろ?最後はな、永遠に一緒ってわけにはいかん」
Posted by ブクログ
淡々とした調子で主人公の口から過去のエピソードが語られるなかで、前半は主人公たちが置かれている立場や運命が少しずつ明らかにされていく。
寝る前に読んでいたら、その静かな不気味さに背中がゾクゾクしてきて、いい歳して寝つくのが怖くなった日もあった。
ヘールシャムを出てからは、特殊な環境に置かれた主人公たちが、狭い人間関係の中で葛藤する様子に焦点が当てられていて、後半は不気味さは薄れ、切なさや歯痒さを感じることが多かった。
個人的にはトミーが人として好き。1番人間らしさを感じた。
ルーシー先生の葛藤にも胸にくるものがあった。ルーシー先生が学校を去る前に、トミーを助けようとして以前伝えた言葉を訂正したのはどうしてなのか、そこのルーシー先生の真意が読み取れなかった。
原著を読んでいないけど、とても読みやすくて、本当に女性が語っているような口調で、架空の話なのにとてもリアル。翻訳もすごかったのだと思う。
Posted by ブクログ
読み終わって最初に出てきた感想は、「面白かった」とか「感動した」とかよりも、「なんだこれ、めちゃくちゃうまいな」
この小説、とにかく時間軸が行ったり来たりする。
キャシーが今のことを話していたと思ったら、突然ヘールシャム時代の話になって、そこからまた別の記憶に飛んでいく。
でも、不思議と読みにくいわけではない。
むしろ、その行ったり来たりに付き合っているうちに、こっちの頭の中に少しずつ物語ができあがっていく感じがする。
特に印象に残ったのが、「そのときはよく理解できなかったけど、なぜか頭には残っていた」みたいなことが何度も出てくるところ。
登場人物たちは、何も知らされていなかったわけじゃない。
ある程度は教えられている。
ただ、まだ本当の意味を理解できない時期に教えられている。
だから、大人になってから「あのとき言われていたのは、こういうことだったのか」と意味がつながっていく。
これが読んでいる側にも起こる。
何気なく書かれていた一言や出来事が、何十ページか後になって急に意味を持ち始める。
時間軸だけじゃなくて、「理解する順番」までめちゃくちゃにされる。
それがものすごくうまい。
登場人物もみんな好きだった。
特にトミーにはかなり愛着が湧いた。
子どものころは癇癪を起こしたり、周囲とうまく合わせられなかったりするけれど、その不器用さも含めて一番まっすぐな人に見える。
嬉しいと嬉しいし、傷つけば傷つく。
うまく取り繕えない。
だから読んでいるうちに、自然とトミーのことが気になるようになった。
一方でルースは、たぶん誰の中にもある嫌な部分を、少し大きくして描いたような人物だと思う。
自分を大きく見せたり、知らないことを知っているように振る舞ったり、人間関係の中で優位に立とうとしたりする。
正直、読んでいて嫌だなと思うところもある。
でも、完全には嫌いになれない。
「自分には価値があると思いたい」とか、「仲間外れになりたくない」とか、「自分が愛されていることを確認したい」とか。
そういうものって、程度の差はあっても多分みんな持っている。
だからルースを見ていると、人の嫌な部分を見せられているというより、自分の中にもあるものを少し拡大して見せられている感じがした。
そしてキャシー。
一番冷静で、一番まともに見えるけれど、この人もやっぱりどこか欠けている。
感情がないわけではない。
むしろかなり細かく人を見ている。
でも、大事なことに対して驚くほど強く抵抗しない。
傷ついても少し距離を取る。
好きな人がいても強く奪いにいかない。
自分の運命についても、基本的には決められた枠の中で受け入れていく。
ただ、それを弱さと言ってしまうのも違う気がする。
もしかするとキャシーは、何かを失うことに耐えるために、物事を少し離れたところから見る癖がついているのかもしれない。
だから、この小説は悲しい出来事がたくさん起きているのに、キャシー自身は「私はこんなに悲しかった」とはあまり言わない。
代わりに、「あのときルースがこう言った」とか、「そういえばこんなことがあった」と淡々と思い出していく。
その淡々とした語りの中に、ものすごく大きな感情が埋まっている。
たぶんこの小説は、登場人物だけじゃなくて、小説そのものも「何かが欠けている」ように作られているんだと思う。
世界について細かく説明しない。
登場人物の感情も全部は説明しない。
何が正しくて何が間違っているのかも作者は言わない。
時間もバラバラ。
重要なことも少しずつしか教えてくれない。
だから読者が、その足りない部分を自分で埋めながら読んでいくことになる。
そして気づいたころには、キャシーやトミーやルースの人生が、自分の記憶みたいに頭の中に残っている。
読み終わって、「感動した」という言葉だけでは何か違うと思った。
もちろん悲しいし、考えさせられる。
でも、それ以上に、
「こういうふうに小説って書けるのか」
という驚きが残った。
理解できないことを、理解できるようになる少し前に置いておく。
意味の分からない記憶を先に渡しておいて、あとからその意味を変える。
読者の頭の中まで使って物語を完成させていく。
読み終わった今、一番しっくりくる感想はやっぱり
「なんだこれ。うますぎる。」
Posted by ブクログ
たまたま目に触れた一冊を読んでみた。
何とも言えない感情に包まれ、心を大きく揺さぶられた。
「日の名残り」以来のカズオ・イシグロ。
冗長なフィクションとも感じる退屈な前半部から一変し、中盤以降は突如、驚きと戦慄の連続だった。
びっくりするほど重要な情報が、あっさりと告げられる。
隔絶された施設で平穏な学生生活を送っていた子どもたちは、実は臓器提供をするためだけに生きていたのだ。
子どもたちは毎月の健康診断を欠かさず、外部の大人たちによる「教育」を受け、平凡な生活を送っている。
ささいなことに悩み、喧嘩し、恋をして、未来に希望を持ちながら生きている。
やがて、その時が来ることなどつゆ知らず。
施設を卒業した子どもたちは、臓器「提供者」になる。
そして「提供者」の世話をする「介護者」もまた子どもたちから選ばれる。
「介護者」もいずれ「提供者」になり、役割が終われば、この世に別れを告げる。
何という運命であろうか。
「提供者」の臓器は医学の進歩のために使われ、新たな薬や治療法が開発される。
これまで治らなかった病気が治るようになり、人類は今までより長く生きられるようになる。
外の人間は誰も臓器提供者の存在を知らず、あるいは、知らないふりをして普通に生きている。
まるで科学と医学の進歩のためには仕方がない、人類が背負うべき合理的な犠牲とでも言うかのように。
これは、フィクションであってほしい。
でも、もしかしたら、世界のどこかでこんなことが起きているのかもしれない。
私たちは都合の悪いことにフタをして、見ないようにしているだけなのかもしれない。
人類の業の深さを思い知る。
Posted by ブクログ
鉄筋コンクリートに囲まれた部屋の中に、蝋燭が一本だけ立っているような小説だった。
冷たくて、無機質で、閉鎖的で。でも確かにそこには生活があって、あたたかな光がある。
けれどその光は、そう長くは持たない。
Posted by ブクログ
面白いよりすごいなって作品
印象に残ってるのは、最後にエミリ先生とキャシーが話すシーン。人間はどんなに正義を掲げても理念があっても、良いことをしているつもりでも1つの立場をとって発言したり行動すると、一気にエゴになるんじゃないかと思わされました。あの人たちは確かに善人で、ヘールシャムの生徒に一種の幸せを与えたと実感している。でも、求めてるのはそれじゃない。人の勝手な善意に振り回されるキャシー達を見て、絶望と虚無感と、終わりを迎えることに変わらない彼女達にとってあの人達の善意は何の意味もないと思わされるのがすごい作品だなと。
それでも思い出のヘールシャムと仲間は確かに存在はしているのに。
Posted by ブクログ
とても辛い内容でした。
ふんわりとわかるようでわからず色々想像しながら読み、最後の最後で全てが繋がる構成が、主人公達と同じ体験をしているような演出でしょうか。
読むたびに感想が変わり、新たな発見もありそうです。もう一度読みたくなりますが、心が持たないのでいつか機会があれば。
日の名残りがとても面白かったので、著者の他の作品も読もうと思います。
Posted by ブクログ
臓器提供のためのクローンたちの物語という、色々な展開をさせられそうな突飛な設定でありながら、終始抑制のきいた文章で「人生の中で選ばなかった(選べなかった)選択肢」を見つめる主人公の胸の内を描いているのが唯一無二だと感じた。
Posted by ブクログ
日記帳を覗き見している感覚になる小説でした。友人との出会いと別れ、保護官の葛藤が終始辛かったです。立場が変わると今まで仲が良かった友達と距離ができてしまうのは現代でも当てはまってしまうのかな?と切ない気持ちになりました。
Posted by ブクログ
純文学っぽい、文章に浸る感覚のある本だったと思う。
最初はなんのお話かわからなかったけど、読み進めていくと徐々に明らかになっていく流れが面白かった。
Posted by ブクログ
解説に「細部まで抑制が効いた」とあるけど、本当にそんな感じ
序盤のまだ何もわからない状態での一歩進んだと思ったらまた振り返ってみたいな文章が中々きつかったのですが、施設はなんなのか、そもそも彼等はなんなのかがわかってからはスラスラ読み進められた。
読み終わってみたは彼等はしっかり「人間的」であったと思うし、ヘールシャムは「特別」だったと思う。
Posted by ブクログ
昔に映画を見た作品。
ようやくいまになってというのが悲しいと言うトミーの気持ちが、とてもつらい。嬉しいのに、悲しい。
自分たちが提供者として育つことに何の疑問も持たない、当たり前となっている。受け入れている。誰も取り乱さない。
クローンの性格はポシブルを反映しているのか。
キャシーがこのまま提供者になることなく、寿命を全うするとしたらどうなるのだろう。そういった人はこれまでにいたのだろうか。
Posted by ブクログ
約ネバ
どんな本か忘れないためだけに書いた感想です。読まなくて大丈夫です。
提供されることが普通であると、内臓が悪くなったら“提供者”の内臓をもらえると当たり前に思えてしまう世界怖すぎる。
マダムや先生たちは、提供者たちが家畜ではなく価値のある人であることを世界に伝えるために、絵を描かせていたのね。
技術が進歩し始めた時くらい、内臓移植ができるようになったくらいの時代に、人間という、提供者という家畜のようなものが生まれなくて(日本だから知らないだけかもしれないけど)よかったと思う。
もし戦争中だったら、相手国の捕虜とかとっ捕まえて提供者にしてそうだな。
話題作
ドラマ化され、世界的な有名な賞をとり、
初めてですが読んで見ることにしました
最初は、なんだか話がよくわからないなあ、、なんて
思ってましたが、途中からページをめくる手が止まりませんでした
自分には程遠い世界と思いがちですが、実際に起こっている世界とだといいことを
認識していたいと思いました。一度は読んでおきたい作品だと思います
Posted by ブクログ
映像を見て言葉にしているかのように鮮明でリアリティのある一方で、題材は空想のようであり現実と地続きのような話だった。
海外文学だからなのか、主人公にとっての親友が特別気の合うひとにも大切にしたいと思えるような人物像にも思えなかった。
Posted by ブクログ
本当に本当に私のような大ガキには読みずらい文章だった。言葉も、句読点の使い方も本当に難しかった。最後30ページくらいから引き込まれたけど、読むのに3ヶ月ほどかかった、、。
伏線は後半で回収される。
衝撃的で切ない気持ちになる瞬間も多かったけど、もっともっと理解を深めたい。
タイトルの考察も、もっとしたいな
この世界線ありうるなあ、すごく思った。
人間って本当に自分たちの都合のために、正当化して文化を作ってばかりな気がするので。
いつかこんな未来もあるのかなあ、、
淡々としたノスタルジー
高評価のレビューがいっぱいの中、すいません。
ノーベル文学賞を取ったというニュースで初めて知り、読んでみました。
期待が大きすぎたのか若干がっかりしました。
何の予備知識もなく、提供、3-4度目の提供で使命を終える、とのことから主人公たちがどういう子供たちなのか検討はつきました。
不思議だった施設での授業や保護官とのやりとりが後に明らかにされますが意外性や驚きがなく終わってしまいました。
こういう目的のために生まれてきた子供たちの話は日本の漫画でかなり昔にも読んでいたので、その時の衝撃が大きかったのと、内容もはるかに壮大(漫画的)だったからかもしれません。
ちなみに清水玲子の『輝夜姫』(1993)という作品になります。
ところで主人公キャシーはこの物語を誰に向かって話しているのでしょう?私たち読者?翻訳だからなのか、それは違うような感じがしながらずっと読み進んでいました。
一度読んだだけの感想としては、意外性がなくがっかり、というところですが、再読の際にはいろいろ想像力を働かせて読んでみるといいかもしれません。
語り手キャシーの一方的な思い出話は、もしかしたらトミー側、ルース側では全く違う受け取り方が出来るかもしれません。