カズオ・イシグロのレビュー一覧
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「日の名残り」「わたしを離さないで」のカズオ・イシグロによる、音楽をテーマにした5作の短編集。著者の言う通り、5作は個別の作品でありながらも根底に流れているテーマのようなものは繋がっている。
それは主人公らしき人物の描写に表れている。皆一様に招かざる人か、あるいは本人が望んでないのにこの場所にいる人である。さらに独り身であり、社会的立場が不安定で自分の才能に懐疑的である。
対して彼らが出会う人々の大半は夫婦であり、野心家で社会的に成功することに価値を置いている。しかもある程度自分の才能について確信がある。しかし成功に対するアプローチはバラバラで、それが基になって人間関係が不安定になっている -
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カズオ・イシグロさんの本はこれで3冊目。どれも一回読んだだけでは真意にたどり着けた気がしない、そんな底なし感がある。
この本は少年の頃、両親と引き裂かれた主人公が探偵となり、再会を果たすべく戦火の故郷を傷だらけになりながら彷徨う話だが、結局僕はどこで入り込んで良いのか分からなかった。面白くない、という意味ではなく、隙がない、そんな感じ。
入り込みどころを探ってるうちに、急激に話がエンディングに向かって進行していく。そしてまたいつから読み返そう、そう思わせて終わっていく。前に読んだ2冊も同じように感じたことを思い出してしまった。
自分の読解力のなさ、歴史に対する知識のなさ、それが本当に腹ただしい -
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6年ぶりの新作『クララとお日さま』も話題のカズオ・イシグロ、2000年の作品。長編第5作にあたり、このあとが2005年の『わたしを離さないで』。
大戦前夜の1930年ロンドンから、おそらく20年以上前の上海、租界の少年時代を回想するところから物語が始まる。
カズオ・イシグロに慣れた身にはそれが「信頼できない語り手」であることは百も承知。彼の語る思い出が本当にあったことなのか、彼の語る印象は彼自身だけのものなのか、つねに疑いながら読んでいくことになる。
(今回はわりと親切で同級生たちの印象と自分が抱いていたイメージが違うとか「わたしはまちがえて覚えているかもしれない」など、あちこちに「信頼でき -
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ネタバレ奇妙。読みにくいことはないのだが、なにやら奇妙な話だったなあっというのが正直なところ。
アーサー王伝説あたりの知識があればもっと面白かったのかも。
大事な記憶をいつのまにかなくしてゆく。
それは悲しいことだけれど同時に救いでもあるのかもしれない。
記憶をなくす原因が竜、というのはなにかの比喩的なものなのかとおもっていたけど、ほんとにいた。
確かにファンタジー。
でもそうしたのはマーリンだったという驚き。
憎しみを忘れさせることで、平和を保つ。
そもそも憎しみが生まれるようなことをするなよ、と思うのだけれど…
メインの老夫婦は強く想いあっているようで、
決定的に分かり合えてないのでは、とも思った -
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カズオ・イシグロがファンタジーを!という点で話題になっているようだが、確かに竜や鬼や妖精などが出てくるものの、さほどファンタジー色は強くなく、やっぱり純文学の印象。
6世紀頃のイングランドが舞台で、ブリトン人とサクソン人の争い、とかあんまりピンとこないのだが、荒涼とした自然を舞台にした冒険旅行記である。
といいつつも、旅をする主人公は老夫婦であり、その他老騎士なども登場して、アクションシーンはあるものの全体としての流れはゆったりとしている。
夫が妻を「お姫様」と呼ぶ、老夫婦の純愛が全編に通底し、『日の名残り』にも通じるような気品が漂っているのだが、その一方、霧が晴れたときにあらゆることが覆され