■親心には社会的に望ましい方向に心を鍛える厳しさを持った心と、優しく包み込む受容的で保護的な心という、対照的かつ補い合うような二つの側面がある。どちらが強いにしても、親心には両側面が不可欠。
厳しいことを言わない親というのは、この二つの側面のうち、社会的に望ましい方向に心を鍛える厳しさを持った親心が弱く、子供の社会適応を促す力が乏しいということになる。そのような親のことを頼りなく思う者は自分の中に向上心や厳しい心があり、親が鍛えてくれない分、自分自身に厳しくすることで、忍耐力やモチベーションを高め、理想とする自分像に向かっていくことができる。
■レジリエンスが高い人は逆境にあっても心が折れる...続きを読む ということはなく、何とか克服しようと頑張り続けることができる。
レジリエンスが高い人の生い立ちに関する研究では、育ちのプロセスで厳しい状況を経験した方がレジリエンスが高いという結果が得られている。厳しい状況を乗り越えてきた人の方が、甘い環境の中をのほほんと生きてきた人よりも、厳しい状況に潰されることがないのは納得のいくところ。
■フランスの親にとっては、しつけが厳しいことが自慢であり、親は子供に対して絶対的な権力者でなければならないと考えている。そして衝動コントロールができる子に育てようとしていることが、次の記述からうかがえる。「フランス人は赤ちゃんが途方もない苦痛に耐えるべきだとは思っていない。だけど、多少のフラストレーションで子供が潰れるとも思っていない。むしろ子供がより安定すると信じている。」
■褒められるばかりで厳しいことを言われずに育つと、元々向上心が強く、意志が強く、自分自身に厳しくできる場合は問題ないかもしれないが、元来やる気が乏しく、意志が弱く、自分に甘い場合は、誘惑に負けてしまうなど、どうしても楽な方に流されやすくなってしまいがち。
それでは、社会に出てから困るはず。元々自分に厳しいタイプなら、褒めて育てられることの弊害はあまりないが、元々意思が弱く自分に甘いタイプの場合、褒めて育てられることによって、自分を律する厳しさを獲得できないままとなり、誘惑に負けるなど楽な方に流されやすくなってしまう。
■少し前までは就職した会社がブラック過ぎて耐えられず離職するという早期離職が目立っていたが、最近では就職した会社がホワイト過ぎて不安になり離職するという早期離職も目立つようになってきた。
■注意してもらえないとメタ認知がうまく機能しない
ゆるい職場の最大の問題点は、例えば顧客対応に未熟な点があっても、書類作成の仕方にまずい点があっても、プレゼンのやり方にもっと工夫すべき点があっても、そうした難点をはっきり指摘されないことにある。そのため自分の仕事のやり方のどこに問題があり、どのように改善すべきなのかが分からないままになる。つまり、メタ認知がうまく機能しにくくなってしまう。
メタ認知というのは、認知活動についての認知である。仕事をするのも認知活動になるので、自分の仕事のやり方について、「これでいいのか」「どこかまずい点はないか」「改善すべき点はないか」などと振り返るのが、まさにメタ認知の働きである。
ゆるい職場では、厳しい指摘をしてもらえないため、自分の実力の現状がわからず、できないのにできたつもりでいたり、足りない点・もっと鍛えないといけない点があってもそのことに気づけなかったりして、いわゆる勘違い人間のまま成長できないといったことになりがちである。
ミスをするたびに、それをはっきり指摘されれば、どういうところに注意すればいいかが分かる。それでもまた似たようなミスを繰り返してしまい、厳しく注意されれば「これはまずい」と思うため、注意すべき点が心に強く刻まれる。それによってメタ認知がうまく機能するようになる。
厳しく注意されないゆるさは、決して優しい環境とは言い難い。自分のやり方のまずい点、改善すべき点に気づかないままになってしまうのである。それは優しい環境というよりも、むしろ冷たい環境というべき。
■富家美那子と宮前淳子は、小中学校の教員を対象として中1ギャップの認識についての調査研究を行った結果、小学校の教員も中学校の教員も、中1ギャップの要因が友人関係における困難にあるという共通認識があることが分かった。
■褒めて育てるということが奨励されるようになることで、なぜそこまでレジリエンスが低くなってしまうのか。それは元々日本の親は甘すぎるため、、甘やかすと子供をだめにすると世間で言われていることから、無理して厳しくしていたという日本の文化的な特徴があるからと言える。比較文化的観点からは、父性原理が機能している欧米に対して、日本では母性原理が機能しているとされる。父性原理とは「子供を厳しく鍛える機能」、母性原理とは「子供を優しく包み守る機能」。
河合隼雄は、母性原理は「包含する」機能によって示され、父性原理は「切断する」機能によって示されるとする。そして、母性原理はすべてのものを良きにつけ悪しきにつけ包み込み、すべての子供を平等に扱うのに対して、父性原理はすべてのものを切断し分割し、主体と客体、善と悪、上と下などに分類し、子供をその能力や個性に応じて類別するとする。母性原理に従えば、子供の個性や能力に関係なく、我が子である限り、すべて平等に可愛いのである。そのような母性原理はその肯定的な面においては、生み育てるものであるが、呑み込みしがみつきして死に至らしめる否定的な面ももっている。一方、父性原理に従えば義務を果たしたり、能力を発揮したりするものだけを認めるのであって、義務を果たさなかったり、能力を発揮できないものは切り捨てざるを得ない。そのような父性原理は、強いものをつくり上げてゆく建設的な面を持つと同時に、切断の力が強すぎて破壊に至る面ももっている。河合は分かりやすいように単純化して、「我が子はすべてよい子」というのが母性原理で「よい子だけが我が子」というのが父性原理だとしている。
■ネガティブな心理の持つメリット
①ネガティブ気分は記憶をよくする
②ネガティブ気分は対人認知の正確さをもたらす
③ネガティブ気分は対人関係をよくする
④ネガティブ気分は説得力を高める
■ネガティブ気分は慎重になり、その慎重さが周囲に注意を払い、じっくり観察するという姿勢を促すため、目撃した出来事をよく覚えていたり、周囲の情景をよく思い出せたり、相手をしっかりと観察して正確な判断ができたりする。
■甘い環境ではレジリエンスは高まらない
レジリエンスが高い人の生い立ちに関する研究では、育ちのプロセスで厳しい状況を経験した方がレジリエンスが高いという結果が得られている。過保護な環境下で育つと、困難に直面して傷ついたり混乱したりしながらも、なんとかして打開しようと粘り抜く経験が乏しいため、いざ厳しい状況に直面すると、どうしたらいいのかわからず、立ちすくんでしまう。そうしてみると「褒め育て社会」ではレジリエンスが鍛えられにくいといってよい。
常に褒めてポジティブな気分にさせてもらっていると、ネガティブな状況に耐えることができなくなってしまう。ネガティブな気分を持ち堪える力がついていない。それは、いわばレジリエンスが鍛えられていないということになる。レジリエンスが高ければ、注意されたり叱責されたりしたとき、多少落ち込むことはあっても、自分の仕事への姿勢や仕事のやり方の改善にそれを活かすことができる。ところが、レジリエンスが低いと、注意されただけで立ち直れなくなるくらいに傷ついたりするため、パワハラを受けたなどと感じたりすることさえある。
■レジリエンスの高い人の特徴
①加点法的発想によって積極的に行動できる
失敗に目を向け、失敗を避けようとするのが減点的発想、成功に目を向け、成功を追求しようとするのが加点的発想。加点法的発想を身に着けている人は「とにかくできることをやっていこう」「とりあえずやってみよう」という感じで積極的に行動することができる。そうした試行錯誤が窮状打開の道につながる。
②認知反応で気持ちの切り替えができる
窮状に追い込まれたとき「さてどうすればいいか」「とにかく今できることをやっていくしかない」というように認知反応ができれば感情に振り回されて動揺することなく気持ちを切り替えて建設的な行動を模索することができる。
③ネガティブな出来事にもポジティブな意味を見出すことができる
客観的に見れば相当に困難な目に遭っているにも関わらず、自分の人生を肯定的に受容し、前向きに生きている人たちの共通に見られるのは、ネガティブな出来事にもポジティブな意味を読み取ろうとする心理傾向である。
④本当の自己受容ができている
自己受容というと、自分は素晴らしいというように自分を全面的に肯定することを指すと思う人が多いかもしれないが、そうではない。まだまだ至らない点が多々あることをも含めて未熟ながらも向上を目指して頑張っている自分を肯定する。それが自己受容である。
⑤失敗を恐れない
⑥結果に囚われすぎずプロセスを楽しめる
⑦負荷のかかる状況で頑張った経験がある
レジリエンスの高い人は、これまでに負荷のかかる状況でもめげずに頑張り続けた経験があることが多い。逆境でもへこたれない人は自分は頑張り抜くことができるといった感覚を身につけているものである。心理学者のバンデューラは、「こうすればうまくいく」とわかっていても、だれもが実行できるわけではないことから、期待を「こうすればうまくいく」という結果期待と、「自分はそれができる」という効力期待に分けた考えた。この後者が自己効力感に相当するが、レジリエンスの高い人は自己効力感を身に着けている。レジリエンスの低さの背景に困難に直面するとすぐに諦める心理がある。粘ることができない。頑張り続けることができない。そこにも自己効力感が関係している。
■ストレスをもたらすものをストレッサーというが、仕事生活に伴う主要なストレッサーは過重労働と職場の人間関係と言われる。