山本周五郎のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
読み終わった第一声の感想は、静かな男性はかっこいい。
主役の原田甲斐は、悪人として有名らしいが、私はそういった演目を知らずに読んだ。
この本では、悪人どころか、どこまでも自分を耐え忍び伊達家に尽くす忠臣。
伊達家の内部崩壊を狙う、幕府から延びる魔の手。
盟友2人と約束をし、原田は敵の懐に入って、切り崩す役を演じ尽くす。
そのあまりの飄々ぶりに、盟友からも疑念を抱かれることもあり、また仲良かった面々にも背かれ、その仲間が犠牲となって死ぬのを黙って見過ごしたり、盟友に先立たれたりとすごく辛い役柄である。
感情はあまり表情に出ず、冷静でありすぎるため、彼に恋愛感情を持つと辛い男性だと思った。
また、すごく人間関係が複雑。名前を覚えておかないと、誰がスパイだとか、この話はわざと相手方に筒抜けになる様にこの人を伴ったのではないかなどが分からなくなる。私は相関図を書いた。
そして、敵方の主従が探り出したことを話し合う場面が折に触れ出てくるが、誰が話しているかを明記していないので、最初はドキドキする。推理小説のようにどうなるの?という楽しみがあった。
伊達政宗の話を読んでからすぐだと、その頃からの存命の方が出てくるのでわかりやすい。また、3代目の家光までは政宗を厚遇していたのに、その変わりように、やはりというか徳川幕府の怖さを感じた。同時に、仙台はそれ以降は特に目立った藩主もなく、政宗の人間的魅力で保たれていた藩で、それも目をつけられる要因ではないかとも思い、いかに政宗の魅力が輝いていたかも感じた。 -
Posted by ブクログ
数ある山本周五郎作品の中でもとびきりの異色作
裏表紙のあらすじを読むと、「抱腹絶倒の異色作」なんて書いてあったので滑稽ものなのだろうなと思って読み始めました。有名な長編作では人の生きる姿勢を問いかけるような真面目な作品が多い山本周五郎ですが、短中編の中には風刺の効いた作品や笑えるような作品もかなり多いです。ただ、そんな中でもとびきりの異色作でした。
解説にも指摘がありました。
たぶん『彦左衛門外記』に接した多くの山本周五郎ファンは、おやっとはじめ思われたに違いない。これは自分が愛読し、なれ親しんで来た、いつもの山本周五郎とは違うと。
まさにその通り。周五郎作品を読んでる人ほど感じる違和感。ファンや世間のイメージを完全にぶち壊しにいく姿勢が見て取れます。
こういう挑戦的とも言えるような作品を書く小説家はたまにいらしゃいますが、ファンの間でも評価が分かれたりしますよね。個人的には好きなことが多い。この作品も違和感ありつつも楽しすぎて一気に読んでしまいました。
異色たる要素はいくつかあるのですが、大きな仕掛けは2つ。
■歴史の虚構性の指摘
タイトルの彦左衛門とは大久保彦左衛門のこと。
「天下のご意見番」というフレーズを聞いたことのある方もいらっしゃるかと思いますが、大久保彦左衛門がその元ネタです。
徳川家康の直臣として仕えた旗本。戦国の徳川の歴戦で奮戦、勲功を上げた武将であり、一介の旗本武士にすぎないながら、家康からの信頼も篤く、生まれながらの将軍・3代家光にもしばしば意見をした、という伝説的な人物です。
話の主人公は彦左衛門の甥の数馬。一目惚れをした大名の娘・ちづか姫につりあう身分を目指すため立身出世を試みることにした彼は、戦国武士の生き残りであった伯父の彦左衛門に目をつけ、彼の歴戦獅子奮迅の戦記を捏造し、「天下のご意見番」としての家康のお墨付きを偽造するという手段を実行します。
ちづか姫との結婚のためのみに実行した方策だったが、いつのまにか周囲を巻き込んだ大事になり、、、というのが大筋。
大筋というか、もう本当にそれだけの作品です。
天下のご意見番という伝説的なエピソードを持つ人物は、どのようにして作り上げられたのかということを、相当に無茶苦茶なばかばかしいエピソードで暴露しにかかるのです。伝説的な人物は真実つまらない人間であったし、つまらない思いつきから簡単にできあがってしまうものであると。
何が真実かではなく、真実だと思いたいものに傾いてしまう
これは世の常人の常なのであって、当時の社会に対しての皮肉としての意味もあったのでしょうし、同時に、人生いかに生きるべきかというような重厚なテーマを扱う作家としてのイメージで見られがちになっていた当時の周五郎イメージに対する皮肉という意味もあったのでしょう。
■物語への侵入
歴史エピソードのトリックをあばく、という大胆なテーマを持つ本作品ですが、もう一つの仕掛けがあります。
それは、作品内への作者の登場、です。
司馬遼太郎作品にはよく作者が登場します。小説の舞台となっている場所を訪れた時の作者本人のエピソードを紀行文的に語る感じです。タクシーの運転手とこんな会話をした、だとか。
本作品における周五郎本人の登場はそれともまた違います。一登場人物として、物語の中に侵入し、登場人物たちと会話するのです。小説を書き進めていくための取材といった雰囲気でインタビューともつかないような会話やモノローグをします。
面白いのは、登場人物とのやりとりに腹を立て、その登場人物の存在を消してやろうか、というような物騒なメタ発言まで飛び出すところ。
つまり、この作品は先に指摘した通り大久保彦左衛門という伝説的人物の虚構性をあばく作品でありながら、そのあばきの物語自身すらも物語である以上根本的に虚構であらざるを得ないという告白をしているということです。二段構えの暴露。
■江戸初期のカオスを表すいいかげんな登場人物
仕掛けの面白い小説ですが、登場人物たちもなかなか魅力です。良い意味で雑な感じがして。雑というかいいかげんというか。だいたい立身出世の方策が偽造というあたりからしてかっこいい物語ではないし、ちづか姫との恋も、敵の陰謀もどれもまじめになりきろうとしないのです。
なんて適当な小説なんだ、と指摘することもできるでしょうが、むしろ時代背景を表すにはとてもよい方法なのではないかと考えます。
江戸時代も中後期になると文化的にも洗練されていきますが、江戸初期はまだまだ戦国の粗野で乱雑な雰囲気を引きずっているのですよね。町民の日々の暮らしもまだ落ち着いていなかったり、太平的雰囲気がなんとなく醸成され始め職業的アイデンティを失いつつあった武士階級の不安が行きどころを見失っていたり、なんとも言えないカオスがあったのだと思います。カオスだからこそ伝説的エピソードの入り込む余地もたくさんあったのだろうし、人々のカオスを表すにはこのぐらいいいかげんな登場人物たちが調度良いのだろうと思います。
■以上
といううことで、だいぶ面白い小説でした。
周五郎ファンはぜひ読むべし。
周五郎読んだことない人は、この一冊だけ読んでも面白いですが、十分に楽しむためには"真面目な周五郎"を一冊でも二冊でも読んでからこの本を手にしたほうが良いでしょう。 -
Posted by ブクログ
今回はなかなか良かったんじゃないでしょうか!! ヒロインのあの子(名前忘れた)と主人公のやりとりに正直なところ感動いたしました…。
ヽ(・ω・)/ズコー
どんなやりとりだったかは残念ながら忘れてしまったのですけれども(!)、ともかくなかなか記憶に残るシーンだったかと…忘れてしまいましたけれども(笑)
ヽ(・ω・)/ズコー
確か血の繋がっていない、けれども一緒に暮らしている子供たちとのやりとりだったかと存じますが…うーん、ま、どんな子供に対しても「躾」というのは大事、ということなのでしょう…きっと。
子供たちをうまく叱れない大人(僕を含む)が増えているような気がしてならない現代ですから…この巻は突き刺さりましたね、胸に。
おしまい…。
ヽ(・ω・)/ズコー -
Posted by ブクログ
さまざまな趣向の作品を集めた短編集。全10編のうち、以下印象に残ったものをピックアップ。
「よじょう」・・・どうしようもないヘタレ男・岩太が、乞食の真似事をしているだけなのに父親の仇を討とうとしていると周りから誤解されてしまう。それだけでも面白いのだが、仇を討つ相手はあの宮本武蔵。力の象徴である武蔵や仇討ちそれ自体へのシニカルな視点が素晴らしい。
「大炊介始末」・・・武家モノ。将来を嘱望されていた大炊介が、18歳の秋に自身に関するある秘密を知ったことから自暴自棄に陥ってしまう。この時代にこんな秘密を知ったらと思うと大炊介に同情してしまう。まったくもって悲劇としか言いようがない。
「こんち午の日」・・・豆腐屋の婿に入った塚次だったが、3日目に妻が家出してしまう。残された養父母を守るために一人奮闘する塚次だったが、家出した妻と無法者の男が家を乗っ取りに現れて…。ラスト近くの対決シーンがものものしい。
「なんの花か薫る」・・・娼妓のお新は、追われていた若侍の房之助を匿ったことをきっかけに馴染みとなる。身分の差によって結ばれることのないはずの2人だが、お新も周りも徐々にその気になっていき…。文庫版の解説にある通り、オチを含めて完璧な短編だと思う。
職人としての矜持が前面に出た作品が多いが、寄せ集め感がなきにしもあらずかな。いつもの周五郎節を味わうには不足はない。